4話 いざ、ゲームスタート
お姉さんと話し終えた拓也は家に帰り、部屋にいた。
拓也の手には、PKLSの中身が入っているであろう箱が握られている。箱に手をかけた拓也は唾を飲む。
『…PKLSって、知ってる?』
その言葉が、何度も拓也の中でこだまする。
…結局あの後、拓也はお姉さんにPKLSとは何なのか、と聞いたのだった。
それに対しお姉さんは、箱の中の説明書と、チュートリアルでゲームのだいたいが分かる、と答えたのだ。
拓哉としては、他にもたくさん話をしたかったのだが、お姉さんの都合もあり、30分後の5時にゲーム内で落ち合おう、ということになったのだ。
PKLS…、どんなものかは拓哉自身もいまだによく分かっていない。だが、この中身を開けば少しは何か分かるかもしれない。
そんな期待を胸に秘め、拓哉は箱を開いた。
そこにあったのは……、
ヘルメットとガムだった。
「へ?」
予想外すぎる中身に、思わず間の抜けた声を発してしまう。
中身は分かっていなかったけど、多分、カセットかディスクなどではないかと思っていた拓也は自分の甘さを痛感した。
やはり、このゲームは自分に刺激を与えてくれる。
…良い意味でも悪い意味でも。
ヘルメットを手に取ると、その下には説明書がある。
お姉さんが言っていたのはきっとこれだろう。
手にとったその紙に書かれていたのは、
【ガムを飲み込んで、ヘルメットを被ってください】
それだけだった。
…いや、簡単過ぎませんかね、これ。
そんなツッコミを入れている間にも時計の針は5時を指しかけている。
いけない。ニューゲームなのだから、初期設定などで時間を有するはず。それでは、お姉さんを待たせてしまう。
とにかく急がなくては。
拓哉は説明書に書かれているがまま、ガムを飲み込んで、ヘルメットを被った。
ガムを飲み込むのに多少の抵抗があったが、今はそんなこと気にしてられない。
ゲームの付属品(?)なのだから、きっと体にも良いやつだろう。そう願いたい。
やっと、ガムを飲み込んだという時、拓哉の頭に無機質な声が響いた。
《ゲームを始めます、よろしいですか?》
その声は人間のものではない。ゲームを大方やり慣れている拓哉はすぐにPKLSのものだと認識し、迷いなく答える。
「ああ」
《それでは、目を閉じて、ゲームスタート、と言ってください》
さあ、PKLSよ、刺激を…頼んだぞ!
「げ、ゲームスタート…」
そう言った瞬間、拓哉の意識は別世界へ飛ばされた………。
目を開けると、そこは電脳世界といえるべき場所だった。
何かがあるわけでもなく、ただ、立方体やらなんやらがうごめいている。
どこかが痛んだり、苦しいということもなく、今の拓哉に残っているのは不思議な浮遊感だけだった。
そう、PKLSとはVRMMO。つまり、仮想現実の世界を体験させるためのものだったのだ。
まだ詳しい内容はまだわからないが、それだけは理解できる。
そこで、突然拓哉の前にパネルが現れた。
パネルには、利用規約やら何やらが延々と書かれている。
いや、読んでちゃまずい。待たせるわけにはいかないからな。
その思いがあってか、詳しい内容を読まずにチェックをいれて、同意する、を押した。(本当は内容をしっかり読まないと駄目なのだが…)
すると、パネルには次の項目が現れた。
このゲームのルールについて、らしかった。
よくよく見てみると、後から確認することもできるため、迷わずそれを選択した。
今はお姉さんと会うことが先決と思っていたからだ。
…だが、この選択こそが拓哉の犯した、最初の間違いだったのだ。
後で後悔してしまうとも知らず、拓哉はパネルを操作していく。
次の項目は名前だった。
こればかりは、あああああ、なんてのには出来ないだろう。もしNPCやヒロインがいる王道系ならば、僕を呼ぶときに不便きわまりないだろうし、ヒロインが可愛そうすぎる。いくらイケメンであっても、あああああじゃなぁ…。
(うーん…)
拓哉は、少し考えたのち、JINYAと入力した。
なぜジンヤなのか、と言われれば、拓哉がよくゲームで使う名前だから、だろう。
仁野拓哉でジンヤ、これは拓哉がもっともよく使う名前であり、因縁のある名前であった。
《それではジンヤさん、はじまりの町へ転送します。あなたの目的は魔王を倒すことです。では、ご武運を》
そうして、拓哉はまばゆい光に包まれた。身体中を暖かな光が覆っていく。
ここから、拓哉の新たな冒険が始まるのだ。
…そういえば、魔王を倒せ、なんて言っていたけど、それを達成するのは長くなりそうな気がした。
だって、よほどのショートゲームでもない限り、受験勉強で忙しくなりそうだから。