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3話 運命かもしれない出会い

今日は、9月3日の金曜日。

今日を耐えれば、憂鬱だった学校生活に2日の休みが与えられる日である。

今日も拓哉は途中までの道のりを渚と共に歩いて学校に向かう。

「いってきまーす!」

「いってきます」

元気の良い挨拶に、覇気のない挨拶。

それらを沙織に向けて言った後、学校に行く。

そして、渚と別れるまでは、他愛もないような会話をして楽しむのだ。

「じゃ、学校がんばってね!おにいちゃん!」

「うん…渚もな」

がんばって、か。

あんなゴミの掃き溜めのような場所で頑張ることなどあるのだろうか。

こんなふうに学校を卑下するのも、拓哉の日常になってきていた。


学校に着いた拓哉はせっせと教室まで歩き、教室のドアを開く。

当然、教室に入っても、誰かが拓哉に声をかけるわけでもない。クラスメイトは拓哉なんていないかのように振る舞うし、拓哉もクラスに誰もいないかのようにする。

要するに、なにもなければ無関心なのだ。

こうして、拓哉の退屈な日常は、始まるのである。


(終わった……)

6限目のチャイムが鳴り、拓哉はそそくさと学校を出て行く。

まあ、言うまでもなく拓哉は帰宅部なので、すぐに帰ることができる。

元々、運動はできないほうであり、やりたいとも思わない。休日が潰れるなんてもってのほかだ。ゲームの時間が減るだろう。

そそくさと校門を抜け、学校を出ていく。

今日は理科のテストで100点を取ったのだ。

そのことに対し拓哉は、晃正に言ったところで、当たり前みたいな顔をするだけという事をわかっていた。

だが、渚と沙織は自分を褒めてくれる。拓哉はそれだけでいいのだ。そうして自分を肯定してくれる人が欲しいのだ。

だから、拓哉は早く帰ってこのことを渚と沙織に話したかった。


早く帰る、そう思って足取りを早めていたら、道で女の人を見つけた。

黒髪でセーラー服を着ている。服を見る限り、どうやら、拓哉の学校の人ではないらしい。

いつもの拓哉なら、こんな人は知らないフリをして通り過ぎるだろう。だが、一瞥しただけでも、女の人の様子がおかしいのは丸わかりだった。

その人は電柱に手をつき、座り込んでいるのだ。

一瞬、熱中症が頭をよぎったが、今日の天気は晴れ、それでも気温は特に高くない。だから、熱中症という事は無いはずだ。

だからといって放っておいて、大事になるのも寝覚めが悪いだろうし、近所に救急車が来ると、渚が怖がってしまうだろう。

拓哉は散々悩んだ末に、思い切って声をかけてみることにした。

「あ、あの…大丈夫ですか?」

このとき、拓哉はすごくオドオドしていた。知らない人に声をかける、というのはこんなに難しいことなのだと、改めて実感する。

拓哉の声が届いたのか、女の人はこちらを振り返った。受けた印象は、綺麗なお姉さん、というところだろうか。

綺麗な顔立ちで、ポニーテールがよく似合っている、いかにもモデルをやってそうな女性だった。

今思えば、こんな人に自分なんかが話しかけるなど、さぞ恐れ多いことだろう。

「ええ、大丈夫よ」

そう言っている女の人の顔は全然そうは見えないが、返事は返してくれたのだった。

「え、えと…なんか座り込んでたから……」

「ああ、そのこと。…うん、大丈夫」

お姉さんは、少し悲しい顔をして、そう言ったのだ。こういう時は、なにがあったの?なんて、ゲームの主人公なら言うのだろう。

だが、生憎拓哉はそんな勇気ある人間ではない。

拓哉自身は、大丈夫って言うんだから、これ以上踏み込まないほうが良いんじゃないか、と思った。もしそうならば、拓哉が気を遣って帰ったほうがお姉さんも、気が楽だろう。

そのように、どうやって帰ろうか模索していると、お姉さんの方から、

「あ、ごめんね。私が何か言わないと帰りづらいよね…。私も早く帰ってゲーム"やらないと"だし、もう行っていいんだよ?」

と、言ったのだ。

拓哉はこの言葉を聞いて、驚愕した。

こんなに綺麗な人が、ゲームを"やらないと"なんて、言うだろうか?

そんなセリフを言うのは、重度のゲーマーぐらいだ。

もしかすると…もしかしたらだけど、本当にもしかするとだが…この人も…、

「あ、あの!ちょっと待ってくださ…ゴホッゴホッ…」

拓哉は走るお姉さんを、必死に呼び止めようとして、むせかえってしまった。

普段から運動もしていない拓哉がこんな大きな声を出したらこうなるのも当然なのか。

さっきお姉さんが言った言葉は、もしかしたら拓哉の聞き間違いかもしれないだろう。でももし、本当に聞き間違いでなければ、もっと話しをしてみたい。この人をもっと知ってみたい。

恐れ多くも、そう思ってしまったのだ。

幸いなことに、声を出した甲斐あってか、お姉さんは止まってくれた。

そして、声を出した拓哉を不思議そうに見ている。

(…あ、なんて言うか考えてなかった…。…えと、こういう時は…)

「えっと、その…げ、ゲームって何やってるんですか?いや、あの全然変な意味は無いんですけど…あの、本当にただきになっただけで…」

恐縮ながらにそう言うと、お姉さんは少し笑っていた。

もしや、何かおかしなことを言っていたのだろうか?そんな不安が頭をよぎる。

すると、お姉さんが、

「ふふふ、変な人。学生なんだから、もっと自分に自信持って良いんだよ?」

なんて、言ってくれたのだ。

この時、拓哉は内心ドキッとしていた。こんな綺麗な人と関わる機会が無いというのもあるが、こうやって自分に何か言ってくれる人を快く思ってしまったのだ。

「えと、何のゲームか?だったよね。…う〜ん、知らないと思うけど、良いの?」

拓哉はコクンと頷く。

すると、お姉さんは意を決したように、口を開いた。

「…PKLSって、知ってる?」

この時、拓哉はお姉さんに運命的な何かを感じたのだ。


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