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全てを断ち切る最強のジジイ 異世界に立つ  作者: Shine
冒険者の章・魔斬り
8/8

08.ゴブリン窟


「セルクル、良かったんですか?」

「あぁ?何がだよ、それともあんなジジイと報酬山分けしたかったか?」


森を歩いていると、神聖魔術師(クレリックキャスター)のニーナが不安そうに声をかけてきた。

オレたちは先程臨時で組んだ役に立たなそうなジジイとガキの2人を置いてきたところだ。

最初からあの受付がオレたちだけで行かせれば、わざわざこんな面倒な事をしなくてもすんだのに。


「そう言うわけじゃないですけど……。」


ニーナは黙った、大方ちっぽけな罪悪感をオレに押し付けたいだけなんだろうが、どうでもいい。


「実力差を見誤った受付が悪いのよ、私達が悪いわけじゃないわ。」

「そーそー、ゴブリンなんか何体倒してきたと思ってんだか。」


魔術師(キャスター)のリリの言う通りだ、白の技能無取得者(能無し)の面倒をわざわざ見なきゃならない上に、報酬まで山分けにされたんじゃ堪ったもんじゃねぇ。

こちらはもとより3人共技能持ち(スキルホルダー)と言う恵まれたパーティだ、他所の白級とは圧倒的に下地からして違う。

そんなオレ達が未だに白級と言うのは納得いかない。


「ま、サクサク終わらせて銅程度問題ないってあの受付に教えてやろうぜ。」

「そうね、私がこの程度で燻ってるなんてありえないわ。」


オレの呼びかけにリリが呼応する、先程まで善人面していたニーナもすっかりやる気だった。

神聖魔術師(クレリックキャスター)様ってのは神にお伺いを立てる必要があるみたいだから、こういう所が面倒臭い。

そうこう話をしているうちに、前方から光が見えた。

どうやらゴブリンの持っている手斧が月明かりを反射してるらしい。

マヌケなヤツだ。

リリの方を見ると、リリもこちらを見て頷いた。


「『我は呼びかける、我がマナを喰らいて猛る炎となれ』火炎弾(ファイアバースト)


リリの杖先に集まった炎が、弾丸となりゴブリンへ打ち出され、着弾した肩から燃え広がるようにゴブリンを紅蓮の炎で飲み込んだ。

さすがはリリの魔法だ。


「ヒューッ、やっぱリリの火炎弾はスゲェな。」

「今回はランクアップ確定だから、ポーションも気にせず使えるしね。アンタ達も働いてよ?」

「ええ、お任せください。」


先程のゴブリンは見張りだったのか、燃えたゴブリンが背後で大きく口を開いた洞窟の中を僅かに照らしている。

オレにはそこが、栄光を形にしたお宝の山にしか見えなかった。


「うっしゃ、行くぜ!」


オレの掛け声に頷いた二人も一緒に洞窟へ一歩を踏み出す。

夜闇に目が慣れてきたとは言え、洞窟内は月明かりも届かない更なる闇だ。

松明に火を灯し、左手に掲げて右手で剣を持つ。

恐ろしさなど微塵も無い、むしろ昂ぶって仕方ない。


「囚われてる人が居たらどうしましょう?」


そんな気分に水を差すような質問がニーナから出た。


「ゴブリン身籠ってるヤツなんか殺してやった方が本人も喜ぶだろーが。」

「ちょっとセルクル、そんな事したら私達の活躍を語ってくれるヤツがいなくなるじゃない。」


リリの意見を聞いてなるほど、とオレは納得した。

確かにオレ達が助けたヤツらが、オレ達を英雄扱いしてくれるのならその方がいい。

とは言え、そう何人も連れてはいけないだろう。


「ブスは殺していいよな?」

「人をそのように分けるのはどうかと思いますが。」

「バカ、おめぇ、神に愛されなかったから醜いんだろうが。」

「ああ、それは確かにそうですね。」


ゲラゲラと笑いながら洞窟を突き進む。

見渡す限り目ぼしい物は無い、一本道なのもゴブリンのオツムがその程度なのが理解出来る。

しかし最初の一匹を見て以来、全く出会わないと言うのも拍子抜けだ。


「全然いねーな。」

「どうせ奥でよろしくヤッてんでしょ?」

「想像したら吐きそうだ。」


少し開けた場所に出たが、構造は同じ。

洞穴をくり抜いた後が奥まで延々続くだけ。

多少曲がりくねってはいるものの、土壁はどこまでも続く。

おいおい、そろそろ何か出てこねぇか。

萎えちまうよ。


「がっ……!?」

「……あ?」


すぐ近くで空気が破裂したような音が聞こえる。

先頭を歩いていたオレの隣を何かが倒れ込んでいった。

白い布切れが松明の明かりに照らされて、それが何であるかを理解した。

ニーナだ。


「は?おい、ニーナ?」

「セルクル!!上!!」

「―――!?」


飛来する何かを手にした剣で弾いて初めてわかった、こぶし大の石ころだ。

状況から察するに、ニーナはこれを頭に食らったって事か。

飛んできた石ころの場所を確認すると、ゴブリンがこちらを見て笑っていた。

クソが!


「リリ!アイツ焼き払え!」

「言われ無くても!『我は呼びかける、我がマナを……きゃっ!ちょっとセルクル、石ころさばいてよ!!」

「バカ!こっちも飛んできてんだよ!」


オレの身長の2人分はあろうかと言う高さの穴、リリを狙っている穴とは別の穴からもオレに向かって石ころは飛来していた。

たかが石ころ、だと言うのに上から投擲される威力はバカにならない。


「クッソがぁ!!降りてこいゴブリン共!!」


飛んできた石ころを拾い、ゴブリンに向かって投げつける。

だが投擲される穴は一つではなく、一つの穴に向かって投げた所で別箇所からも飛んできた。

松明の明かり一つだけでは全ての穴が照らせない、どうやったって影が生まれる。

幾つあるんだあの穴!!


「おいリリ、戻って岩陰から狙い撃て!」

「わかったわ!」


飛来する石ころを回避しながら、リリが岩陰まで戻ったのを確認してニーナの方を見た。

そこには2体のゴブリンがニーナの足を掴んで奥へ引き込もうとしている。

どっから湧きやがった!


「離せコラ!!」


剣を構えて突っ込んでいく、突き出した剣先が一体の肩口に食い込み抉るように突き刺さる。

やはりゴブリン、皮が分厚いためか刃が通りづらい。

短い悲鳴を上げたゴブリンに、蹴りをぶち込んで剣を引き抜くと同時に詠み上げを開始。


「『宿り、宿らせ、風を纏い、風と成る!』風車(ウィンドミル)!」


剣から放つ緑光を受けて、わずかに目を細めたゴブリンに戦技(アーツ)を叩き込む。

ゴブリンの手斧をぶった切り、首に真横から半分ほどまで食い込ませて尚、オレの回転は止まらない。

回転の勢いで首から剣先を引き抜き、胴体の半分ほどまで剣を食い込ませ、再び引き抜き、下半身に剣を叩き込んだ所で剣先は停止した。

両断とまではいかずとも、ずたずたになったゴブリンは倒れ込み、後ろから、もう一体のゴブリンが飛び出てくる。

やる事は変わらない、ただもう一度ぶち込むだけだ。

直後、後頭部から何かが弾ける音と衝撃。

遅れてやってくる痛みに視界が光った。


「ぐがぁっ!?」


何が起こったのか、それを確認する前にオレの手足が動かない。

どういうことだ!?

視界に迫る地面、脳内で巻き起こる疑問。

顔面がぶつかる前に必死で動かした右手を地面に叩きつけて踏ん張った。


「な、なんだってんだ!?」


視界が揺れる上に気分まで悪くなってきた、最悪だ。

引き返そうと背後を一瞥した時、頭部に起こった衝撃の正体がわかる。

ゴブリンがそこに立っていた。

野郎、上から飛び降りてきやがった。


「て……てめぇ……!!」


次の瞬間、取り込んだ酸素を全て吐き出されるかのような衝撃が胸で弾けた。

もう一匹のゴブリンに蹴られたのだ。

それを理解した頃には、あっさりと地べたに仰向けにされ、視界に入る歪な笑み二つ。

振りかぶった手斧が狙うのは、オレの……


「や、やめろ……やめろぉ!!ぎゃあああああああ!!!」


剣を持った手首に斧が振り落とされる。


「リリ!!た、助けろ!!助けて!!!あああああああ!!!」


二度、三度と振り落とされた。

いやだ、死にたくない!やめて!!

再び手斧が振り上げられた時、オレの意識は闇に向かって飛んだ。




-----




「いや……申し訳ないですねぇ。」

「いいって、何回謝るんだよ爺ちゃん。」


シルフィの後について歩いてく源十郎は、シルフィの性別を勘違いしていた事に何度も謝っていた。

本人はあっけらかんとした性格故か然程気にしていないようだったが。


「さてと、目的地が近づいてきたっぽいよ。」

「嫌に鼻につく匂いが漂ってますね。」

「ゴブリンの焼ける匂いかな、一人魔術師(キャスター)っぽい人いたし。」


シルフィの指差した先には洞穴の入り口があった、そこはセルクル達が通過した証であろうゴブリンの焼死体が残っている。

鼻を摘んで渋い顔を浮かべたシルフィ、源十郎はと言うと細い目で嫌そうに溜息をついた。


「無事だといいんですがねぇ。」

「置いてかれといて安否気にするなんて変わった人だなぁ。」

「まあ、幸いこちらは何とも無かったですから。」


洞窟内へ入ると同時、シルフィはローブの中から何かを取り出し、空中へ浮かべて見せた。

それに続いてシルフィが一言小さく呟くと、眩い明かりが周囲を照らし出す。


「マジックライト、込めた魔力の分だけ光ってくれるんだけど。ちょっと多すぎたかも。」

「お嬢さんは魔法使いだったんですか?」

「おおう、ゾワッと来た。普通に名前で呼んでくんねー?そんな由緒正しき家柄ってわけでもないからさ。」

「ああ、ではシルフィさんと。」

「で、俺は別に魔術師(キャスター)じゃないよ、これマジックアイテム。魔力さえ与えられれば誰でも使えるし。」


源十郎は首を傾げる、魔力を使えるなら魔法使いではないのかと。

シルフィも源十郎の反応を見て説明しようかと思ったようだが、今わざわざ講義を始めるのも大変だと止めた。


「まあ、便利な道具が使えるだけだよ。」

「おかげで私の頭も光そうですねぇ。」


ケラケラと笑う二人。

そこに洞窟の奥から二人に向けて走ってくる音が聞こえた。

シルフィはその音に警戒し、ローブの中で何かを掴む。

源十郎の視界に入ったのは、赤髪の少年に付き添っていた女性の一人だった。

息も絶え絶えなその風体の後方には、複数体のゴブリンが彼女に迫りくる。


「んー……?ああ、魔術師(キャスター)っぽい方の人だ。」

「……っ!!た、助けて!!」

「現金だなぁ。」


必死の形相で助けを求めるリリにシルフィは苦笑いした。

勝手に置き去りにしておいて、自分の身が危ないとなったら助けを求めるなんてどれだけ恥知らずなのかと。

そんなシルフィの心境を他所に、源十郎は前へ踏み込んだ。

未だ距離は離れているものの、明らかに源十郎はこのまま切り込むようにシルフィには見えたのだ。


「え、ちょ、爺ちゃん?」


リリも驚愕と共に絶望の表情を浮かべている。

自分達の起こした行動を今思い出したのか、迫りゆく源十郎を見てリリの足が縺れた。

転ぶリリ、飛びかかるゴブリン達。

そしてリリの上には大量のゴブリンが覆いかぶさった。


「い、いやあああああ!!」


リリから上がる悲鳴、少しでもゴブリンの手から逃れようと這いずるリリだったが、どれだけ這いずってもゴブリン達から伸びてくる手は無かった。

不思議に思っていると、自分の前に立つ源十郎に気づく。

ぬらりと伸びた源十郎の手、マジックライトの逆光に照らされた源十郎の表情が見えず、リリは怯えた。


「ああ、ごめんなさいね。勢いは殺しきれませんでしたよ。」

「……え?」


ポカンとしているのはリリだけではなかった、シルフィもまた源十郎を見て目が点になっていた。

シルフィは思う、今何をしたのかと。

状況を見ていなかったリリからすれば、そもそも今何がどうなっているのかすらわからない。


「あ、ゴブリンは全部死んでますよ。」

「え、は?」

「お召し物を汚してしまったのは申し訳ないですが。」


そんな素っ頓狂な事を述べる源十郎に、リリの理解が追いつかなかった。

源十郎の手に捕まり立ち上がらされた時、ようやくリリは理解する。

首が飛んでいた、自分を追いかけていたゴブリン全てが。


「え……あ、貴方何をしたの!!?」

「何って、斬っただけですが。」

「いやいやいやいや、爺ちゃん、デタラメ過ぎるよ。一回しか振ってなかったよね?」


リリに迫られ、素直に答えた源十郎だったが、シルフィからも声が上がった。

二人の女性に挟み撃ちで迫られ、初めての経験におっかなびっくりの源十郎。

おっかないのはアンタだ。

そして、暫し考えていた源十郎だったが、改めて、口を開いた。



「えーと……ですから、ゴブリン7体の首を一刀で斬りました。」



さも当たり前のようにそう告げた源十郎に、二人は口をあんぐりと開いた。

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