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全てを断ち切る最強のジジイ 異世界に立つ  作者: Shine
始まりの章・神斬り
4/8

04.ドリスへ

少し短いですが。


森をようやく抜け、所々石畳のある街道らしきものに出れた頃。

ラインハルトは源十郎のこの後の事について提案をしていた。


「しかし、先生、それほどの腕前があれば冒険者としても大成功するでしょうし、修練場でも開業すれば来る人は数多だと思いますが……。」

「いやいや、別に大成功して暮らしたいわけでもないですし、まだまだ修行中の身ですよ。」

「先生を持ってしても修行中と仰る……達人は驕らない物なのですね……。」

「うーん、私なんか達人と呼べるかどうかですが、そうですねぇ。言うなれば心の修練がまだまだ足りないのでねぇ。ここに来る事になった理由も私が一本取られてしまったからですし。」


ラインハルトは驚きに目を丸くした。

源十郎が一本取られた、と言う言葉を聞いてもまるでその姿が想像出来なかったからである。

レイチェルも同意見だったようで、思わず相手の事を聞きたくなってしまったようだ。


「ゲンジュウロウさまから一本取る相手とは、どんなお方なのですか?」

「んー、アリエス……だったかねぇ。神様の使いだとかで、私をここに送った方ですよ。」

「アリエス!!?」


既にこれ以上無い程に驚いていたはずのラインハルトでさえ、更に金槌で頭をぶっ叩かれる程の衝撃だった。

もし彼が源十郎の強さを目の当たりにしていなければ、ここまで聞いた異世界からの来訪者だと言う話を信じていなければ、妄言だと吐き捨てていたであろう。


「……あれ、知ってる名前でした?」

「知ってるも何も……この世界を創造したと言われている神の一人ですよ……!?」

「ははぁ……あのお嬢さんが創ったんですか、それはなんとも……凄いお話ですねぇ。」

「先生、軽すぎます!」


思わずラインハルトは頭を抱えた。


「あの……ゲンジュウロウさま、そのお話は外ではされない方がよろしいかと……。」

「ああ、ボケてると思われちゃいますかねぇ。」

「いえ、そうではなく。アリエス様の名はこの世界に広く浸透しており、アリエス様を祀られた教会もあるのです。」

「あー……ハイハイ。そりゃ自分達の神様相手に斬りかかったジジイなんて聞いたら、頭沸騰してしまいますか。」

「斬りかかったんですか!!!!?」


どんどん出てくる衝撃の事実にラインハルトは自分でも興奮しているのか驚愕しているのかわからない様子だった。

そして源十郎は、なるほどこうなるんですねぇ。と一人納得していた。


「流石に泣かしちゃったんで動揺してしまいまして、流石に私も斬りはしませんでしたよ。これまでも人を斬った事はありませんからね?」

「で、出鱈目過ぎます……先生。」


語られる内容の大きさも然ることながら、それらが全て事実なのだとわかってしまう事が尚の事ラインハルトを混乱させた。

何せ、源十郎の語り口ではどれも然程大した事ではないように聞こえるのだ。


「……しかし、強制的にこちらに来ることになってしまったので、結局どうして私をこの世界に送りたかったのかがわからないんですよ。」


そう、肝心な所、この世界で何をしろというのかが源十郎からはスッポリ抜けていた。

源十郎が思い返す限り、死んでしまったと言う事なのだから、元の世界に帰るのは不可能だろう。

だが、源十郎はあれから一つだけ引っかかる事があった。

今、こうしてここに立っている自身は生身である。

では、あの神の領域と呼んでいた場にいた自身もまた生身だったのではないか?と言う事だった。

そう、源十郎はアリエスの告げた"死"を疑っていたのだ。

もしその考えが正しければ、源十郎は死んだのではなく、自宅から神の領域に"生身のまま呼び出され"この場所に流れ着いたということになる。


「なので、私に何をさせたかったのか。それを達成させたら"元の場所に帰れるのか"それを知りたいですかねぇ。」

「……そうなると、ゲンジュウロウさまは各地を旅されるのですか?」

「……結局そうなってしまいますかねぇ、やだなぁ。徘徊老人と間違われたら……。」

「ふふ、大丈夫ですよ、冒険者となれば身分証も作れますし。後で紹介状を作らせて頂きますので、登録もスムーズかと。」

「ふーむ、申し訳ないですねぇ。頼る形になってしまって。」


レイチェルとラインハルトは顔を見合わせると、思わず笑みが溢れる。

サーペンタイガーを一撃で両断出来る者など、この大陸にどれだけいるか。

そんな凄い事をあっさり出来てしまう人が、レイチェルのお礼に対してとても申し訳なさそうに謝ってる姿のギャップについ笑ってしまう。

感謝より先に謝罪が出る、源十郎も典型的な日本人であった。


「いいえ、冒険者の登録と言うのは誰でも出来る事でして、登録を多少スムーズにする程度です。私がさせて頂きたいからするだけですわ。」

「そうですか……とは言っても、お礼は大事な事ですね。ありがとうございます。」


そうこうしているうちに、ラインハルトが前方を指差し源十郎に向かって声を上げた。


「街が見えて参りました、あちらがドリスの街です。」

「んー……何か門のようなものが見えますねぇ。」

「関所と言いますか、外敵防止の詰め所と言いますか。」

「ああ、なるほど。」


源十郎が納得した後、門へ近づいて行くと、門の方からも兵士らしき人物が歩いてきた。

ラインハルトが手を上げるとあちらも気づいたようで手を上げているのがわかる。


「レイチェル様とラインハルト様でしたか…………馬車と他の者は?」

「ここに来る途中で野盗に襲われてな、我々以外は全滅。そしてレイチェル様も危うい所をこちらのお方に助けて頂いた。」


ラインハルトがそう説明すると、兵士は飛び上がるように驚いた。


「なんと!レイチェル様、ご無事で何よりです。それから……」

「ゲンジュウロウ様だ、マスタークラスだぞ。」

「どうも、えー……源十郎です。大した事はしてませんよ。」


ラインハルトの紹介の後に、名前だけ告げる源十郎。

マスタークラスと言う言葉について詳しい事を聞いていないまでも、何となく理解出来てしまうが故にやや苦笑いを浮かべている。

毎度その説明は恥ずかしい、と思っているようだ。


「なんとなんと……マスタークラスの御仁が……あ、失礼致しました。私は門を任されておりますピエールです。この度はレイチェル様、そしてラインハルト様をお救い頂き誠にありがとうございました!」

「うーん、毎度誰かに感謝頂くのは少し恥ずかしいものもありますんで、気にしないでくださいな。」


ピエールからの感謝もそこそこに、源十郎達は門をくぐり街へと入った。

活気ある賑わいの声が耳に届き、改めて源十郎は違う世界にきたのだと実感する。

レンガ造りの街並みに見惚れていた源十郎へ、馬から降りたレイチェルがスカートを翻して微笑んだ。


「ゲンジュウロウさま、ようこそドリスへ。」

「……ええ、お邪魔しますよ。」


そう笑み返した源十郎の瞳は、年甲斐もなく少年のように光っていた。

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