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全てを断ち切る最強のジジイ 異世界に立つ  作者: Shine
始まりの章・神斬り
3/8

03.街へ

ブクマありがとうございます。

ちまちま投稿していきます。



「れ、レイチェル様……私は大丈夫です……!」

「だめ……です」


護衛騎士に刺さった矢は深く、先端に"かえし"がついている為引き抜くと同時に傷口が大きく開いた。

額から脂汗を吹き出しながらも、叫び声一つ上げなかった護衛は、立派な騎士なのだろう。

その護衛騎士の姿に、泣きそうな顔を浮かべ、すぐに切り替えて近づいていくレイチェル。

源十郎は自分の生きてきた世界では見ることのなかった、強さ、を目の当たりにしていた。


「ケホッ……『風よ、大気を満たしし風よ、我が手に集いて癒やしとならん』……キュア」


レイチェルが口から絞り出すように声を上げると、彼女の両手が淡く光りだす。

その光が護衛の傷口に当たると、次第に傷口へと吸い込まれていった。


「……けほっ……私、では……傷跡が……残ってしまうと、思います……」

「勿体無い、私のような者に寛大な処置、誠に痛み入ります。」

「そんな事を言わないで、ください……。貴方がいてくれた、から、私も無事なのですから……。」


何度も咳き込みながら、感謝の言葉を上げるレイチェルに、護衛は涙を流した。

頃合いだろうと、後ろで控えていた源十郎はレイチェルへ革袋を手渡す。


「ならず者が持っていた水です、お二人が話してる間に探しておきました。今の貴方には必要でしょう。」

「……あ、ありがとうございます。」

「構いませんよ、まずは身体を休めましょう。無理してまで喋る必要はありません。」


革袋の蓋を開けたレイチェルは、わずかに迷ったように見えたが、口をつけて飲んでいった。

自分を襲おうとしていた連中の持ち物と言う事に、どこか抵抗を感じたのかもしれない。

源十郎は、一息ついて改めて辺りを見渡す。

すると、護衛騎士が思い出したかのように、源十郎の前へ(こうべ)をたれた。


「先生、この度はレイチェル様、並びに私、ラインハルトをお助け頂いたこと感謝いたします。」

「先生は止めて頂きたいんですがね……ハハ。私は桂木源十郎、ただの老人ですよ。」

「いえ、助けて頂いた方、更にマスタークラスに敬意を払うのは当然の事です。……無礼を承知で伺いたいのですが……あの、先生はファミリーネームをお持ちで?」

「ん……あー……私の名は源十郎、名字……が桂木となりますねぇ。」


水を飲み、多少落ち着いたであろうレイチェルがそのやり取りを聞き、振り返る。


「……カツラギ様は、貴族の方なのですか?」

「……いえ?はて、名字がある者は貴族なのでしょうか。」


レイチェルに首を傾げ、そう問われると源十郎もまた不思議そうに返答する。


「必ずしもそう、というわけではありませんが……基本的にファミリーネームを持っている者は爵位と一緒に与えられるので。

没落した元貴族、現平民もたまにファミリーネームを持っている者はいます。」

「……ああ、なるほど……。名字は与えられる物でしたか。」


源十郎は納得と共に少し悩む。

何せこの世界の常識と言う物を一切知らない。

貨幣に文字、そして食に関して。

どれも必要な物である。


「……そうですねぇ。言っても信じて頂けないかもしれませんが、と言うより私自身未だ実感がありませんが。どうも私はこことは違う世界、とやらから来たようでして。」

「……こことは、違う世界?ですか?」


レイチェルの復活により、一歩下がっていたラインハルトは思わず声を上げる。

それに頷き、続きを話す源十郎。


「ええ、今着ている物も、お嬢さんがかけている羽織も、この刀も、私の世界の私の国の物ですね。」


ラインハルトは驚愕する、この世界とは違う場所があると言う事も然ることながら、源十郎の話が本当なら、その国はサーペントタイガーを一撃で屠る事が出来る武器はさして珍しい物では無いのではないかと。


「カタナ……ですか?」

「ええ、このような物ですね。」


レイチェルの問いに、源十郎は鞘から刀を抜き、刀身を見せた。

レイチェルとラインハルトはそのカタナを見て、息を呑む。

これまでにも幾度となく刀剣を見たことはあれど、このように美しい光を放つ物は見たことがなかったのだ。

確かにこれなら、とラインハルトは納得してしまった。


「美しい……さぞかし名のある物なのでしょう。」

「ん……いえ?確かに手に馴染んだ物ですが、別に銘は無かったかなぁ……。」


事も無げにそう告げる源十郎。

ラインハルトは自身の耳を疑いそうになった。

源十郎の言葉からすると、これは別に特別な物ではないのだと言う。

どんな動乱や恐ろしい魔物の住まう世界なのだろうかと、ラインハルトは身震いした。


「……ゲンジュウロウ様、この度は危ない所をお救い頂き誠にありがとうございました。このレイチェル・ラ・アインシュ、一個人としてお礼申し上げます。」

「よく出来たお嬢さんだ、なぁに、大した事はしてませんよ。」

「ゲンジュウロウ様にとってはそうであっても、私としてはこれ以上無い危機を救っていただいたのです。私に出来る事であれば、なんでもさせて頂きたいと思います。」

「……うーん、そんなつもりでは無かったんですがねぇ……。」


源十郎から見て、歳の頃は12程。

その容姿からはとても想像出来なかった知的な受け答えに戸惑う。

お礼と言われても、なんと返して良いのかわからないのも確かだった。


「……ああ、そうですね。お礼してくださると言うのであれば。」

「なんでも申し上げてください。」

「靴が欲しいですかね。」

「………………くつ……ですか?」


これまでキリッと整っていたレイチェルの表情が年相応に変わる。

目をまんまるにして源十郎を覗き込むその姿は、近所の子供のようだ。

思わずラインハルトも口を出してしまう。


「あの、先生。靴などさしたる礼にはなりません、なんなら私でもお返し出来てしまいます。」

「ああ、なら、らいんはるとさん?にお願いしましょうかね、どうにも幼子から頂く、というのは心苦しくて。」

「え、ええ、勿論構いませんが……本当によろしいので?」


戸惑う二人を前に、源十郎は本気そのものだ。

むしろここまで歩いてくる中、靴以外の目標がなかったのだから他に思いつく事もないのだろう。


「うーん……なら、お嬢さんにはこの世界の事を教えて頂きたいですかねぇ。先程言ったように、私は別の場所から来た身だ。何も知らないんですよ。」

「…………わかりました、ゲンジュウロウさまが仰るなら、私も精一杯この世界、リルフェリアについてお話させて頂きますね。」



それから、レイチェル達と共に街のある方へ向かいながら、源十郎はこの世界についての事を軽く聞いた。

馬車から逃げていなかった1頭の馬にレイチェルを乗せ、その隣を手綱を握ったラインハルト、そして源十郎と並んで歩く。

ここがリルフェリアと言う世界のサウストブルグと言う地方だと言うこと。

貨幣は銅貨・銀貨・金貨で、それぞれ1000単位ごとに硬貨が変わっていく事。

金銭の呼び名が『リルカ』であることなどなど。


「……頭がパンクしそうですよ。」

「わからないことがあれば、その都度聞いて頂ければ私がお教えします。」

「それはありがたいんですが……お金持ち運ぶの大変そうだなぁ。」

「あ、それならばこんな物もあります。」


レイチェルが取り出したのは青紫色の水晶のような物だった。

透けている中身は淡い光を放っている。


「んー……?なんです、これは。」

「リンクストーンと言う物なのですが、冒険者や大体のお店にはこれを読み取り、書き込みできる石がありまして、所持しているお金を記録して売り買いするんです。」

「…………あー……プリペイドカードみたいな物ですか、なるほど。」

「ぷりぺ……?」

「ああ、失礼、私の世界にあった同じような物ですね。」


源十郎はそうやって、自分の国にあったものと磨り合わせて記憶していく。

売ってる物の価値から、何から何まで自分の持っている常識が通用しないのだから、聞けば聞くほど頭が痛くなる思いのようだ。


「なるほど、とりあえずそれがあればなんとかなりそうですねぇ……。」

「ゲンジュウロウさま、本当に我が家で滞在して頂いてもよろしいのですよ?」

「いえ、お気持ちはありがたいんですが、何すればいいのか、何をしたいのか自分で決め兼ねてましてねぇ。」


源十郎はレイチェルからの誘いを断っていた。

別段、彼女を信用できない、等と言った理由ではなく、単純に年下の子の厄介になるのは気が引けたと言った理由だった。

では当面の活動資金はどうするのか、と言えば。

先程倒したサーペントタイガーから大きな宝石が取れたのだ。

ラインハルトはそれを魔石だと言ったのだが、当初源十郎はそれを何に使うのか理解できず「自分には必要無い」と述べた。

それを聞いたラインハルトが大慌てで、サーペントタイガーは全身余すこと無く素材に出来るのだと教えた。

中でも魔石は売れば相当な額になる為、冒険者はこれを売って生計を立てている者がほとんどなのだという。

それを聞いても源十郎は、これだけ大きなものを運ぶ手段も無ければ、売り買いする伝手も無いため、自分には必要無いと言うと、レイチェルがその伝手となった為、暫くサウストブルグで暮らす資金に困らなくなった。


「……ああ、そうだ、先程言っていたあーつ?とやらと、お嬢さんがラインハルトさんを治したアレですが、聞いてもいいですかね。」

「では私からお話しましょう。」


隣を歩いていたラインハルトがアーツについて源十郎に語った。


「まずは戦技(アーツ)についてなのですが、これは元々、昔存在したマスタークラスの使っていた技なのです。」

「……技、ですか。」

「はい、流派や一子相伝。様々ありますが、かつて存在していたマスタークラスの使っていた技を模倣し、他者が習得出来るように形式化した物。これが戦技(アーツ)です。」

「ああ、なるほど。」


開祖が指導しやすいように名前をつけて一つの技にした。その姿を想像して頷いた源十郎。


「しかし、そうなるとあのならず者が言っていた"詠み上げた"と言うのが気になりますねぇ。」

「詠み上げとは戦技(アーツ)の力を引き出す為に唱える詠唱の事で、骨格や体型が違う者でも同じ威力の技が使えるようになるのです。同じ威力、とは言っても同じ戦技(アーツ)も段階によって成長し、私達はこれを戦技習得値(アーツレベル)と呼んでいます。」

「ふむ……便利なような、不便なような。」

「ふふ、先生にとってみればそうかもしれませんね。」


ラインハルトは源十郎の言葉を聞いて柔らかな笑みを浮かべた。


「私も"斬鉄"と言うアーツを習得していますが、アーツレベルは9まであって、私は5です。分厚い鉄板を中頃まで叩き切れるのが私で、レベル9が全て切れる。と言えば伝わりますでしょうか?」

「なるほど、それでラインハルトさんは私をマスタークラスと言っていたんですねぇ。」

「先生なら余裕で切れるのではないかと。」

「まあ、それしか出来ませんので、否定はしませんよ。」


源十郎は苦笑いしながら頭をペチンと叩いた。

どんな人生を歩めばここまで頭皮が磨き上がるのか……ではなく、鉄なんてサラッと切れるようになるのか。

ラインハルトには想像もつかなかった。


「そして、先程レイチェル様が私に使ってくださったのが"神聖魔法(クレリックキャスト)"のキュア。治療魔法です。」

「私はキュアしか使えませんから……。」


レイチェルはどこか申し訳なさそうにそう告げた。

今度は源十郎が考える。

一体どんな人生を歩めば、齢12程の少女にこんな表情をさせる事が出来るのだろうか。

己の住んできた世界との差異をまた一つ感じていた。


「お嬢さんは十分立派ですよ、私が貴女くらいの歳の頃といえば、鼻水垂らしながら女学生の尻を追っかけてましたからねぇ。」

「ええ?ゲンジュウロウさまがですか?」

「そうですよ、その時散々女性たちから張り手を頭に貰ったせいで、今ではこんなコトになってしまいましたよ。」


ピシャン、と自分の頭を(はた)いた源十郎に、レイチェルは思わず吹き出してしまう。

つられてラインハルトも吹き出した。


「んふふ……し、失礼、先生……。」

「いやいや、これは私の鉄板ネタですので、笑って貰えてホッとしてますよ。」

「ふふ、ゲンジュウロウさまは思っていたよりユーモラスな方ですのね。」

「女性の前くらいは紳士でいたいものですからねぇ。」


緊張が解れたのか、自然な笑みを浮かべたレイチェルを見て源十郎もまた笑った。

馬にまたがった少女と、鎧を着た男に、場に似つかわしくない老人が共に歩いて行く。

しかしその姿はどこか微笑ましく、穏やかな風が3人に吹き抜けていった。

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