過去へ
「わたしは…誰?ここは…?」
真っ暗な闇が私を包んでいる。
手を握ったり開いたりすれば、きちんと動く。
アリス、…アリス。
「アリ…ス…?」
それは私の事?
アリス…アリス、
「誰?…私を呼ぶのは」
「アリス!」
「うわッ!」
肩を揺さぶられた衝撃で私は飛び起きた。
「こんなとこで寝ていたら、風邪引くよ」
顔を上げて声の主を見つめれば、そこには知らない少年が笑顔で立っていた。いや、もやがかかって顔が良く見えないから本当に微笑んでいるのかはわからない。
「アナタはだぁれ?」
そう聞けば、その少年は「なに寝ぼけてんだー」と言ってケラケラと笑った。
「俺は――だよ。…全くおまぬけなアリス。」
「ひどい!」
ぷぅと頬を膨らませて、言えば少年は私の頬をつついた。
少年の声が聞き取れなかったのは残念だが、私の本能がこの少年を覚えていた。
「冗談、可愛い可愛い俺のアリス」
少年は、私の肩を抱き寄せた。私の頭が少年の肩の上に乗る、髪からふわりと優しい香りが漂った。
「アリス、良い匂いー…」
彼はごろごろと喉を鳴らした
「うん…」
平和だなぁとほのぼのと考えていると
パンッ
銃声が後ろで聞こえた。
横からは深いため息が聞こえる。
「え?」
後ろを振り返れば、銃を構えた白い少年が目を三角に尖らせて隣の少年を睨みつけていた。
「――!!何してるんですか、僕がちょっと目を話したときに…」
「うわー、――が邪魔する」
私の隣にいた少年は、白い少年と向き合いケンカを始めた。
この風景…どこかで…。
私はどこかぼやける頭を必死に働かせ考えた。しかし、どうした事か全くわからない。
考えれば考えるほど頭になにか、もやがかかり私の感覚が麻痺していくようだった。
「…気持ち…悪い」
思い出せない、何か大切な事を…。
私はアリス。彼らは誰?
私は頭を抱え、とにかくがむしゃらに走った。
後ろから私を呼ぶ声がする
いつのまにか森に入ったのか走るたび、木の枝が手や足を傷つけていく。
でも、そんなことに構って入られなかった。
何もかもが、不安だった。
「あッ…」
滑ったかと思えば世界は反転。私は木に叩きつけられた。痛くて涙がにじむ。
上体を起こそうとすると、私の足が宙をさ迷った。…地面がない。
恐る恐る振り返れば、後少しでも後ろへ下がれば谷底に真っ逆さまだった。
涙は乾いたが冷や汗が背中を伝った。
視線を前に戻すと、見たくないものがいた。
「グルルルッ」
落ちてるほうがマシかも…。
そこには威嚇する狼に似た魔物がいた。
少しでも動けば襲って来そうで…でも、そろそろ起き上がらないと腕が辛いわけで…。
そう思いながら、私は意を決し這い上がった。そしてやはり飛び掛ってきた狼を視界に捕らえた。
その瞬間、光が私を包んだ。それと同時に、狼は吹き飛ばされ私も後ろへと吹き飛ばされた。
私の体を浮遊感が襲う。あ、がんばって這い上がったのに意味ないや。
なんてのんきに考えながらゆっくりと目を閉じた。
「なーに、諦めてんの」
耳元でそんな声が聞こえたかと思えば、私の腰と足を何か温かいものが支えている。
知ってる、私は知ってる。この人を。
「バーカ、来るのが遅いのよ…シェル」
そういって微笑めば、さっきの少年…いやシェルはニヤッと笑い「わがままなお姫様だね」と呟き、頬にキスをした。そして目にも止まらぬ速さで地面へと着地した。モンスターと戦っているのはさっきの白い少年。…というよりもう終わっているが。
「シェル!!今すぐにアリスから離れてください!…アリス!ここは立ち入り禁止区域です!!魔物がたくさん出るんですから…、多少魔法が使えるからってそれをコントロールできないのにやっても意味ありませんよ!…大体アリスはですね、何処まで僕に「魔法…?」
シェルが下ろしてくれて、白い少年の言葉を遮るように私が呟けば、白い少年は深いため息をついた。
この独特な雰囲気…何となく知っているが何故か名前が思いだせない。
白い少年はツカツカと私に歩み寄りびしっと指差した。
「貴方のお母様は、大魔女様でしょう!魔法が使えて当たり前です、まあ残念ながら貴方はセンスは全くありませんがね」
大魔女!?初めて聞きました…!なんて口が裂けても言えなかった。
白い少年はふっと表情を緩めて私の頭を撫でた。
「貴方が無事で…よかった」
彼が私に触れた瞬間、頭のもやが一つとれた
「ありがとう…アルヴァ…」
少し照れくさくなって、声が小さくなった。けどちゃんと伝わったようでアルヴァは微笑んだ。