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OVER THE CONTRAIL  作者: 三毛
MISSION 2:クライイング・イーグル
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15話:異邦の空

 寒い。


 基地に降り立って一番、そんなことを思った。日本の季節も欧州と同じで冬に差し掛かろうとしている。海に囲まれた分、こちらの方が幾分か肌寒く感じる。汗ばんだパイロットスーツが外気に触れ、何倍もの冷たさを伴って身体を撫でた。


 厚木基地は米海軍と日本の海上自衛隊が共同で使用する航空基地だ。2000m級の滑走路が一本ピンと伸びている。空母艦載機が乗り入れており、今は国連軍に参加している空母部隊の本拠地だ。実質的にはもう国連軍の基地と言っても良い。


 “JFK”と書かれた尾翼があるFA-18(ホーネット)F-35(ライトニングII)がずらりと並ぶエプロン区画から少し離れた地点に駐機して、僕らは案内されるまま、施設に行く途中だ。


 特に僕らは会話することもなく、静かに司令官部屋に着く。敬礼。


「楽にしてくれ」敬礼を解く。


「こちらは極東方面軍司令官、ジョンソン中将だ。君たちが航空軍・第51飛行隊だね。ストークマン中佐から聞いている。立派な特殊戦飛行隊だ」


 一呼吸おいて、ではとジョンソン中将が言う。


「諸君らの任務は、アドバイザーだ」


 僕らの部隊とはまるで縁のない言葉がぶつけられた。空戦技術のアドバイザーだろうか、だがそんなことが必要なところだとはあまり思えない。空戦技術と言えど、僕らは主にバンディッツに対するもので、どこの誰かと明確に分かる相手に使うものではない。


 今はアグレッサー部隊が赴くより、航空機を専門に扱う民間軍事請負会社(PMF)などが受け持っていることが多い。経験豊富な元戦闘機パイロットなどを抱える彼らなら上手くやれる。機体だって国籍に縛られない。溢れた中古機体を東西関係なく買っているのだ。


「アドバイザー、でありますか」


 クーパー大尉が尋ねる。そうだ。と言うように中将が頷いた。そして場所を変えて話そう、と会議室へ案内される。そこにはパリッとした制服を着た男がいる。短髪で四角い顔、瞼の部分はやや奥まって凄みがある。日本人だ。絵にもなりそうな敬礼。僕らも倣う。


 遠山真樹、階級は二佐。こちらで言う中佐相当らしい。まだ若く現役で飛んでいるという。中将らが遠山二佐と一緒に座り、僕らはその向かいに座る。簡単な自己紹介を僕らもした。


「今回国連軍の、その中でも特殊なあなた方をお招きしたのは他でもありません。これは早期に力を借りなければならないと我が国が判断したのです」


 目つきが戦士のそれに変わる。これはただ事ではないと誰もが構えた。


「わが国でも、10数年前の大戦からその後の今日に至るまで、様々なものに対して対処してきました。大戦期の防衛出動、そして有事関連法の適用…今はどれも解除し通常任務に戻ってはいますが事はそれだけでは収まらない。4か月前、日本海である飛行体が目撃されるようになりました」


 こちらを。と遠山二佐は分厚い報告書を机に置いて、ページをめくる。そこにはいくつか写真があって、どれもカラー。比較的綺麗に撮られている。


「これはスクランブルした要撃機からカメラで撮影したものです。色やマーキング、それに機種。機体はともかく、このおよそ夜間以外に向かない色を施している空軍はどこにもいない。そして我が国の自衛隊も同じです」


「まさか」クーパー大尉が目を見開いて言った。


 バンディッツだった。これ以外にパッと思いつかない。


「あなた方はもうお分かりの筈です。そう、これは国連軍内で『バンディッツ』と呼ばれているものであると…そして本題ですが、我々はこれに対抗できる(・・・・・)措置を有していない(・・・・・・・・・)


「説明してくれますね…?」


「我々は明確に分かる目標に対して、その防衛力を誇示できた。具体的な名称は避けさせてもらいますが。だが、テロリズムなどの脅威にはどうあるべきかは記されていない。米軍のように対テロ戦争と銘打って攻撃できる理由もなければ、立場も無い。ましてやそれは専守防衛の観点からズレてしまう。しかし現実はどうか。こうして彼らはやってきた。これまでに交戦には至っていませんが、警告射撃、ロックオンされるなどの一触即発の状況が毎回続いている。彼らの目的がなんであれ、現状で私たち航空自衛隊だけも対応できる部隊を作りそれに当たらせようと考えました」


 数ページめくった先にそれらしい文字が見えた。Special Provision Independent Flight Team…、独立特殊対策飛行隊とも言うべきだろうか。


「バンディッツを”特殊事例”、つまり国籍機として扱うのでは無くテロ(・・)勢力として扱い、個別的自衛権に則って行使できる最低限の範囲で迎撃できることが目的です。将来的には少数精鋭というよりは、10機程度からなる一個飛行隊(ビッグスコードロン)のようなものにしたいと考えています。名前は特殊対策飛行班、特飛とも我々は呼んでいます」


 この部隊が僕らにとっての特別航空治安維持飛行隊の代わりになるわけか。とレイは思った。バンディッツの行動範囲が日本にも広がり、ここを標的とするならば、自然な反応と言えるだろう。アメリカなどは危機感もなく、在日米軍を国連軍として置き換えてからそれが顕著に出始めている。海の向こうは至って楽観的だ。


「メンバーは全国から選抜したパイロットを、その機体ごと編入します。これはあなた方の部隊を参考にさせていただきました。いずれバンディッツが空だけではなく、海上戦力を有するようになった時に備えてのものなどの場合に備えてです。いずれは2機種程度に絞ることを目標にするつもりですが、現在は4機種程度揃えています。試験運用なので1機種につき二人ずつの構成です」


 ページをめくっていく。僕らは質問する事柄を考えながら話を聞く。今はただ聞くことに集中する。


「次に基地ですが、首都圏に最も近い百里基地という基地を選定しました。ここの厚木基地からも、横田基地からも近いです。基地も大きく多用途な運用に耐えるでしょう。過去に米軍と演習を行っている実績もありますので問題はありません。一先ずは以上ですが、何かありますか」


 良いですか。とレイも手を挙げる。ここからはパイロットとして、軍人として、仕事をする番だ。


「ではまた後日。百里基地で会いましょう。ありがとうございました」


 最初の硬い表情とは変わって爽やかな笑みを浮かべて、今日のところは帰って行った。僕らが向こうへ赴く日程も極東方面司令部のジョンソン中将とも話し合い、滞りなく進んだ。


「どんな奴が来るんだろうなあ」


 頬杖をついたリューデル中尉が話しかける。


「国中から腕利きを集めるっていうんだから、猛者揃いだろ」


 レイは両腕を組んでそこに顔を置きながら答える。長い拘束時間で正直疲れていた。油断していると机に突っ伏して寝てしまう。というか眠い。


「なんせ日本のパイロットは化け物揃いって聞くよな。レイも負けてられないな。イーグルドライバーとしてさ」


「負けないっていうか、イーグル乗りとして恥の無いように努めるだけだよ。僕らは実戦部隊なんだから」


「そうだよな。ここんとこおかしな出来事ばっかりで、こんな任務どうすれば良いのか正直分からないね」


「色々あり過ぎたよ。僕らは…無理もない」


「特にレイ、お前は良く大丈夫だよな。全く俺要らないんじゃないかって思うくらいだ」


「はは。ギルは向こうでそんなに活躍してなかったもんな?」


「おいちょっとどういう冗談だそれ。立派に飛んでただろうが」


「かもね」


 にやにやしながら窓から空を見る。鳥たちが飛んでいく。どんな翼たちがやってくるのだろうか。近いものは感じても曲者が揃うだろう。腕利き集団というのはそういうものだ。


 新しい地で新しい任務、そして新しい部隊との出会い。アドバイザーの仕事がなんであれ、僕はこれまで通り飛べば良いだけの話だ。


突っかかる僕の相棒を無視して、気が付いたら眠りについた。



 

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