10話:赤黄・青
例えば、青に青を塗ったとする――――、
国連軍航空隊とバンディッツの戦闘。
国連軍欧州方面第5航空団所属のFA-18ホーネットの10機は、”遺産”の回収に向かう地上部隊の誘導の際に6機のバンディッツと交戦に入った。
「アンカー3、遅れているぞ。反対側に回り込め。4は3のスターボードに付け」
「4了解」
「3」
アンカー1の指示でアンカー3、4が動く。バンディッツがこちらを避けて地上部隊に攻勢を仕掛けようとしている。自分たち航空隊が彼らにとっての防衛線だ。負けるわけにはいかなかった。
アンカー隊の隊長、メイヤー中尉にとって久しぶりに”遺産”という前時代、前戦争に使われていた兵器の総称を作戦で聞いた。こういう作戦にはいつも特別航空治安維持飛行隊が出向く筈だろうと飛び立つ前には首を傾げた。だがこれ以上に疑問を持ってはいけない。兵士は黙って上の言うことを聞かねばならない。それが例え自分たちに勝ち目のない相手だったとしても。
ならば少しでも勝てる戦法を立ててやるしかない。犬死はごめんだ。そう思いながら中尉は3と4が囲い込みをかけた1機のバンディッツを射程に収めた。操縦桿にあるウェポンセレクターを素早く操作して最適な装備を選択する。短距離ミサイル、RDY。
ホーネットを素早く最適な位置に動かす。ピピピとロックする間が変に長く感じられる。まだか。ロックオンの甲高いビープ音。
「アンカーリーダ―、FOX2!」
右主翼端から勢いよくミサイルが発射される。バンディッツの機体が急旋回。ダイブして振り切ろうとする。煌めくフレア。
このバンディッツとやら、本当にその機体に乗っているのか。中尉は疑問に思う。敵機の機種はF-16だ。いや、小型で軽量なそれは使い方で格闘戦闘機としてもその能力を発揮する。バンディッツの乗り方に適しているのかもしれない。
狂ったように踊り、疲れたかのようにミサイルの追いかけていたバンディッツのF-16が堕ちる。こんなものか。と中尉は簡単に思えた。
周囲を見やれば所々で火球が上がっている。それは味方のものでないことをレーダーが教えてくれていた。敵機は残り2機。あっけないものだった。
下方を通過しようとする攻撃機に目を付けた。ホーネットをダイブさせる。速度を出し過ぎないように加減をしながらその機体に照準を定める。こんなやつにミサイルなど贅沢だ。中尉はガンを選択した。
細かくバーストで撃った。曳光弾の軌跡がなびいて見える。少々撃ち過ぎたか。穴だらけの攻撃機の側を通過して引き起こす。黒煙を吐きに吐いたその機体は息耐えるのかのように推力を失っていく。あとは放っておくだけだ。
編隊を組み直すぞと号令する。彼我の損害はゼロ。それぞれから翼が中尉の元へ舞い戻る。
レーダーに反応。4機。ようやく友軍の増援か。そろそろ交代したいと思っていたところだ。敵味方識別装置の応答、マーカーが青になる。”味方”ということだ。
「増援がおいでなさったぞ。お出迎えの準備だ」中尉は僚機に言う。
「これでしばらくは休めますかね」僚機の誰かが言う。
「そうだと願いたいな。だが気を抜くんじゃないぞ、帰投というわけじゃないからな」
「了解」
そんな他愛もない会話をするうちに近づいてくる。
「隊長。こちらアンカー7、彼ら本当に友軍機なんですよね?」
「どうした。何故そんなことを言う」突拍子もないことに少々戸惑う。
「さっきから彼らのFCレーダーがこちらを向いてます。味方だったらそんなこと…くそっ、ミサイルだ!ブルー・オン・ブルー!」
ドンと何かが爆発する音。横を向けば墜落していく僚機がいた。
「アンカー7が堕ちた!くそったれ、どうなってやがる。ちくしょうミサイルだ!アンカー4ブレイクする!」
一気に無線が慌ただしくなる。狂ったように騒ぎ出す声。僚機がミサイルを避ける間もなく堕ちる。
メイヤー中尉はホーネットを加速させ上昇する。あのくそったれ共に仕返ししてやる。
中距離ミサイルの射程に捉える。ロックする。だが彼らが撃つ方が早かった。ダイブ。フレアを出して精一杯降下、降下。機速を絞って引き起こす。Gに呻く。だがそう意識している場合ではない。胴体下部の増槽を切り離す。身軽になったホーネットでループ。ミサイルが脇を通過して行く。自爆。ざまあみやがれ。中尉はホーネットを水平に戻す。
警告音。第二弾、第三弾。一直線に自分へ飛び込んでくるミサイル。レーダーは淡々とそれを伝え、警告音はただ避けろと言う。だが距離的にもうどうしようもない。
中尉はベイルアウトを決めた。身体が大空へと打ち出される。真下では爆散する愛機。済まない、と呟く。
パラシュートを展開して見えたのは火球だらけの空。それが僚機なのは明らかだった。
程なくして視界にも見える距離に来ていた機体、あれはイーグルか。が降下を始めた。今度は何をするつもりだ。
中尉が見たのは、”遺産”の回収作業に当たっていた地上部隊に向けて攻撃をする彼らだった。機銃掃射で、ミサイルで、爆弾で。火の海になる地上。やめろ、思わず叫んだ。
ジェット音が近づく。まさか、こっちに来るな。中尉はホルスターから拳銃を取り出そうとする。思ったように取れない。ハーネスが邪魔をしているのだ。空中では思ったように体を動かせない。
パイロットと目が合った気がした。HUDから覗くバイザーさえ透けて見えた。そのイーグルはすぐ側を通過して行く。戦闘機の発する気流でもみくちゃになる。再び中尉の側を通過した。どうにかして安定させる。しっかりしろ、と落ち着かせる。あとちょっとだ。降りれば生きている味方と合流できるかもしれない。
火球が見えた。だが小さくなく、それはどんどん膨らんでいく。バイザーを下ろしていなかったせいでその眩しさが最早どんなものかわからない。迫る空気の波。
熱風と衝撃波。それが中尉の身体を包み込む時、意識は空の彼方へと消し飛んだ。
「全滅?」
基地のステラー隊がいる区画の狭いブリーフィングルームで、静かに声が響いた。
「そうだ。全滅した」
そう答えるのは、特別航空治安維持飛行隊の司令、ストークマン中佐だ。彼はロシア軍の特殊作戦飛行隊との会談を終えた後、僕らに先導されながらグローブマスターでやってきた。
“魔術師”の大尉が言った通り、あの後の会談は概ね良い方向でケリがついた。将来的な部隊合流も含めたいくつかの内容を合意した。作戦行動地域における情報交換、お互いが、ロシア軍と国連軍が干渉する地域での事件の解決協力などまずはそんなところからなんだろうだ。
だがそれ以上にレイがもたらしたものが重要だった。”魔術師”の言うことは、これまでの疑問をさらに疑問化させるのに十分で、ストークマン中佐がやってきたのはこれが理由だ。
バンディッツに関すること、情報軍がこちらを探っていること、アルテミス隊の本性、そしてレイにとって一番はそこに母の因果関係が混じっているということだった。もしかしたらあの場で”魔術師”に自分が殺されていたかもしれないと思うと、こんな情報をよく持ち帰れたものだと安堵した。しかし、ステラー隊の立場は危ういものとなってしまったが。これは言わばステラー隊と中佐の一対一の事情聴取というわけだった。
「時刻は昨日の1730、まだ我々がニューヨークの本部に居た時に起きた出来事だ。通常部隊主導で”遺産”の回収作業が行われていた。護衛は第5航空団のホーネット10機、第5航空団と言うと海軍付きだな。その中で彼らは数機のバンディッツと交戦した」
「バンディッツにやられたのですか?」リューデル中尉が聞く。
「いいや、それがまだ分かっていない。地上部隊の方も全滅だ。陸空双方の部隊に生存者は今のところ確認されていない。これを見てくれ」
映し出されたのは航空偵察の写真だろうか、地面に軽い窪みが出来ている。
「これがその場所だ」静かに中佐が言う。
「まさか」とレイ。
「そのまさかだ。ホーネット達が撃墜され、地上では焦土。恐らくは回収目標の”遺産”が爆発した可能性がある。記録によれば墜落した爆撃機に積まれていた戦略兵器の類だとある。この仕業がバンディッツだとすると、単に妨害することをやめて、方針を変えてきたということだ」
「撃墜された機のフライトデータは残っていますか?」とエミリア大尉。
「ない。特別航空治安維持飛行隊隷下の地上部隊が現地へ向かう準備をしているが、おそらく見つからないだろう」
隷下の地上部隊。正式名を特別治安維持陸上支援隊。そのままで捻りもないが、分かりやすさはあった。短くSSGなんて呼ばれている。僕らのように4文字じゃないのは、混同を避けるためだ。僕らとセットだが、彼らが赴くのは強行手段で以て”遺産”を破壊するとき、航空戦力では遂行できないような作戦に出向く。
「それで、俺たちはどうするんです」リューデル中尉が落ち着かないようにして尋ねる。
「しばらくは、待機だ」ゆっくりと中佐が答えた。
「はっきり言うと、情報が錯そうしている。”遺産”絡みというと我々の管轄だが、今回はそうじゃない。作戦指令書には我々が参加するとも書いてない。だが何を見たのか、上はSFSDの関与を疑っている。まだ本気ではないだろうが」
「なぜなのです?何か疑う証拠でも」クーパー大尉が語気を強めて言った。
「あの時、ステラー隊、アルテミス隊、北米支隊のレイダー隊の3部隊が空に上がっていた。君たちステラー隊は私と一緒だったからまだ釈明の余地はある。他の2部隊も報告書を見れば分かるが、それぞれの地域で空中哨戒任務に当たっていたとある。レイダー隊に至ってはステラー隊がホームにいない間そっちに行っていたな。私の命令通りにこちらが大西洋を越える時にすれ違った。君たちも見たな?」
全員が頷く。あの時はIFFで青いマーカー、すなわち味方だということをレーダーでも確認した。機体はF-22A、ラプター。ステルスが意味のない空でも機体は優秀だ。正直相手にしたくない。
だがすれ違う以前に何をしてきたのかは分からない。報告によれば他と同じ対バンディッツの空中哨戒任務だが、ここにきて部隊の性格が裏目に出ている。
基本的にSFSDの部隊は任務行動について口外しない。伝えるのは司令官のストークマン中佐や部隊管理の人間であって、同じ所属部隊間での情報共有はしない。これはバンディッツや”遺産”をつけ狙う勢力に漏れるのを極力防ぐためだ。こういうことだから通常部隊ではこなせないというわけだ。
「私としては全員を信じたい。ハンター中尉があの”魔術師”から持ち帰った話は、この部隊群の崩壊を意味しかねない。それでいて今回の事件だ。これが仮に本当で我々より先にその事実が明らかにされれば、解体され我々はバラバラになる。それは避けたい。だから君たちに直接私から頼まれて欲しい」
こういった事は滅多になく、そして深刻な物言いにレイを含め全員が中佐の言葉を待った。
「”偵察”だ」
「ステラー4、クリアード・フォー・テイクオフ」
「グッドラック」
天候は晴れ、雲がまばらにある青空。青いキャンパスに散りばめた白い絵の具。そこに飛び込む灰色の塊。
レイはイーグルを緩やかに上昇させて僚機と合流する。高度は10000フィート、だいたい8000メートルの上空だ。
重い空だった。この数週間、数日間で起きたことを考えると自分に大きなバラストが乗っかっているようだ。もちろん身体的に異常があるわけではない。バンディッツのこと、アルテミス隊のこと、どうやら影で何か企んでいるらしい情報軍、そして母のこと。
まるで真っ白な紙に赤や黄色などの蛍光色をありったけぶちまけて混ぜたような感じだ。まとまりが無く、ぐちゃぐちゃで、先が見えない。レイにとって今の空はまさにそのような印象で映っていた。
「レイ、レイ?」
「えっ?」間抜けな声が出てしまった。ぼうっとしていたのだろう。
「大丈夫か?具合でも悪いか?」そう呼びかけるのはリューデル中尉だ。
「いやなんでもないよ」
「本当か?さっきから呼んでたのにお前何も答えなかったんだぞ」
「そうなのか、済まない」
「冗談だ。今呼んだんだ」はっはっはと軽く笑っていた。
「お前ってやつは・・・」翼を傾けて、小刻みに機体を振った。
「悪かったよ。けどここ最近レイに起きたことを考えれば心配なのさ。みんな不器用だから、口に出さないだけでな」
「お前はストレートすぎるよ、ギル」
「ストレートぐらいが戦闘機乗りにしちゃ丁度いいのさ。その、あまり考えすぎるなよ。何かあったら言え。俺たちがいる」
そうだろ、と言うように拳を突き上げる。
「ああ、そうだな」レイも合わせて拳を挙げた。
「よし良いか。まもなく偵察ポイントだ。気取られるなよ。俺たちはあくまで友軍だ、その前提を忘れるな」クーパー大尉が言う。
了解。と各々が返事。
偵察。そう中佐から放たれた言葉は、その短い言葉と単純明快な意味を通り越したもっと重いものがそこにはあった。具体的にかつ簡潔に言えば、”友軍の偵察”だ。普段ならそんなことは行わない。非常事態というのがこういった任務内容で静かに伝えてくる。
偵察ポイントなどと言っているが、実際には友軍の基地近くを飛んでいる。ここはあのアルテミス隊が駐留する基地だ。
国連欧州方面軍・南欧方面航空軍第11番基地。南欧から中東にかけて国連軍を支援する航空機が主におかれている。所在地はセルビア。ここも紛争が絶えない地域で、国連軍が治安維持を名目に介入してからは、一定の収まりを見せているが結局のところ解決には至っていない。
8000mの上空からでもはっきりと分かる残骸。歴史的にもずっと争いが絶えない地。空はこんなにも青くても、地上は黒く濁っている。
「全機、TARPS起動」
「TARPS起動」マスターアームオン。全搭載武装の安全装置解除。同時にTARPSのカメラもオンラインになる。ヘルメット一体型HMDのバイザーを下ろす、バイザー上のカメラ画面とのリンクをチェック。異常なし。
少し降下すれば雲が多い。速度を落として緩降下。スッと雲の壁を抜ければ、眼下の地獄とは隣り合わせのようなものだ。低すぎず高すぎない。けれどヘリには少し高いかもしれない。戦車が見えた。装甲車も。一列になって進んでいる。空に面したところにUNの文字。国連軍のものだ。平和維持軍と違って国連軍になってからは従来の真っ白なカラーリングは施していない。視覚的なものは戦術的に不利であることに他ならないからであるのだろう。文字は上空から識別しやすいよう意図されたものだ。
そんな風景もカメラに入れてしまいながら、前方に目標の基地が見えた。滑走路が二本。離陸用と着陸用、それぞれ分けられている。Lの字に施設され建物は右側にある。自分たちは大きく左に避けて滑走路と建物が一度に良く見えるコースを取った。
基地の上空はもちろん通るわけにはいかない。降りることが目的じゃないから、こうする。基地側には連絡を入れてある。任務都合で基地の脇を通過する、飛行ルートと時間を送るので把握して欲しい。と。
チャンスは一回だ。引き返すわけにはいかない。向こうとて空に上がる機もあれば降りる機もある。トラフィックの発生は重大なインシデントにつながりかねない。言い訳もできるわけがない。
「接近中の機影に告ぐ。そちらの所属と飛行目的を言え」管制塔が告げる。
「こちら特別航空治安維持飛行隊のステラー隊、事前通告した飛行ルート、時間に則って飛行している。確認してくれ」クーパー大尉。
「了解。確認した。さっさと通り過ぎてくれよ、誘導が狂うんでね」
イーグルのレーダーディスプレイ上が賑やかだ。丸の点がずらりと映し出される。意味するものは味方だ。HMD上で直接地面を見れば青でハイライトしてくれる。コックピット上の情報を補足してくれるこれはなんとも便利だ。ちなみに、不明は黄色、敵は赤といった具合だ。
様々な機体が並ぶ。基地の規模として中くらいだ。物資搬入中のグローブマスター、ユーロファイター、トーネード、ストライクイーグル等々が見える。何度か降りたことのあるレイは馴染みのある風景だ。頭と目を幾方向に動かしてカメラに捉えられるだけ捉える。
数十秒で通過しきったあとはそのまま直進、加速する。
「彼らが見当たりませんでしたね」エミリア大尉が言った。
「引っ込んでいたか、或いは飛んでいるか。中佐からの管理表だとこの時間は飛んでいない筈だ」
「分からないですね」
「準備はしておけ」この言葉に緊張が走る。
セルビアを抜けて、アドリア海に出る。そこに出てからは真っ直ぐ北上すれば良い。それで任務は完了だ。
静かだった。アドリア海は綺麗なマリンブルーだ。空とは違う青色。雲という模様がないだけ、この青色はいつも鮮明だ。他の色にも邪魔される心配はない。
警告音。背後から接近中の機影がある。レーダー表示は四角。敵機は塗りつぶした四角だ。そうではないのでこれは不明機だろう。
「不明機来ます。1、2、いや4機です」エミリア大尉が告げる。
「あいつらが来たってのか」リューデル中尉。
「落ち着けステラー3。ステラー2、もっと機体が接近しているぞ。6機はいる」
「すみませんリーダー。どうしますか」
「上昇する。高度が低すぎる」
「了解」
アフターバーナーに点火して上昇。抱いた増槽はまだ切り離さない。
「不明機接近、接触まで30秒!」
「IFFの応答はありません。指示を」レイが言う。
「リターンファイアだ。照準された時点で攻撃したと見て反撃してよし」
かなりの勢いで接近する。これでもうミサイルを撃たれたら避ける間もなく堕ちるだろう。
「来るぞ、ブレイク!」機体を捻って降下。
数機の戦闘機がオーバーシュートしていく。同時にクーパー大尉などを追いかけ始めた。
「くそったれ!」リューデル中尉が叫ぶ。
翼の増槽をドロップ。レイも2機に追われている。イーグルの大推力を活かして加速しつつ降下を続ける。相手の位置が若干高かったためにあちらの方が速い。ついてくる。
速度にものを言わせて急上昇、ループ。操縦桿を思いっきり引いて背面のまま水平に。180度回転させる。頭が空を向く。間髪入れずに左旋回。ぴたりと張り付いた1機がミスをしてレイをトレースできない。機体はミラージュか。ミラージュ2000E
エアブレーキを展開させない範囲で減速して上に捻ってバレルロール。下方を通り過ぎたもう1機のミラージュの後ろに付く。追跡だけならこれくらいは造作もない。
曳光弾の軌跡が見えた。発砲したのだ。相手もムキになったのだろうか。
「曳光弾が見えました。誰か発砲は?」ミラージュを追いかけつつ尋ねる。
「していない。こちらも発砲された!回避する」
「リーダーより各機。反撃する。各自の判断で撃て、エンゲージ」
こいつらはもう敵機だ。レーダー表示が不明から敵へ。
ガンを選択する。RDY GUN。
「ステラー4エンゲージ!ファイア!」
追跡していたミラージュに機銃を撃つ。翼の破片と単発のエンジンノズルから黒煙が出る。こいつはもう良いだろう。
仕掛けてきたもう1機をやり過ごす。敵機が旋回。数秒の見越し射撃。右翼に命中して動きが鈍くなる。それでも諦めない敵機にさらにエンジン部に撃った。火炎が勢いよくノズルから吹いて急降下していく。
レイはイーグルを加速させて誰かを追いかけている敵機がいないか確認した。クーパー大尉が追撃しながらもう1機に追撃されている。短距離ミサイルを選択、ロック。
「ステラー4、FOX2!」
ミサイルが真っ直ぐ吸い込まれて行く。命中に数十秒とかからない。火球となって空に散る。
「助かったぞステラー4」そう言ってクーパー大尉のファントムからミサイルが放たれる。
爆散する敵機を見届けて、レイと大尉は編隊を組んで上昇する。
黒煙から突き抜けて2機がやってくる。エミリア大尉とリューデル中尉。グリペンとファルクラムの小型機どうしだ。
レーダーを見ると敵機がまだ残っているが彼らも残り少ない。撤退を始めたようだ。
「ステラーリーダーより各機、このまま全速で帰投する。途中で無人給油機を中佐経由で手配してもらっている。そこまで行くぞ」
各自了解の応答。アフターバーナーに点火。文字通りの全速力。
レイは最後にちらりとレーダーディスプレイを見た。そこには敵機に混じる、複数の"四角"の表示があった。




