Prologue:僕と空のあいだ
僕が空を飛ぶようになってどのくらい経つだろう。
どれだけ経とうと相変わらずこの空は青いまま、僕を照らす。
風を切って、空を飛ぶ。翼と言うにはあまりにも硬すぎるそれを抱いて。
翼を振って、ロール。上に跳ねて、降下。ロケットのように急上昇。何気ない機動を空に描く。意味のあることを意味ないようには使えない。本来自由に舞うために使っても良い筈のそれ。問いかけたところで、答える人はいない。
同じことを繰り返す。
操縦桿を強く握る、トリガーを引く、ミサイルリリースボタンを押す。空を飛ぶためにはこの動作も必要だ。
自分もまた、生き残るための手順を踏む。
母は言った。
空はあるべきものの為に開かれるべき空間であると。
だから、自分はその空を取り戻すために飛び続けるのだと。
母はエースだった。
でも僕は世界を変えられる能力があるわけでもでなければ、褒め称えられるエースでも英雄でもない。
だけど、同じ気持ちを持つことはできる。
僕は飛ぶ。
いつの日か、真っ直ぐに伸びる一筋の飛行機雲を見た。
無垢な青空に描く線。突き抜けるように、どこまでも行くように。
僕がそれを描けるようになるまでは、どれだけあるだろうか。
一層のこと、飛びぬけてその上を行った方が良いのだろうか。
僕と空の間には、ただ熱い風が吹く。
僕と空の間には、薄いガラスで仕切られる