三話 スライムフォレス隊
起きた。
一瞬ここがどこかわからなくて困惑したが、体にまとわりつくスライムを見て、すべてを理解する。
「夢じゃなかったんだなぁ」
当たり前のことだけど、それが当然と思えないほどに昨日は衝撃的なことが続きすぎた。
「さて、今日も頑張りますか」
今日もと言っても、まだ異世界ライフは二日目なのだが。そんなツッコミを入れる者がいるはずもない。
僕は、壁の一部の石化を解く。粘体の壁を通り抜けると、海面が朝日を反射してキラキラと輝いていた。
「さて、スライムマリン隊は今日も順調に捕食を続けてくれているみたいだし、そろそろこの島の探索に移ろうか」
例の画面……いちいち例とかつけるのは面倒だからこれからはスラパネルといおうか。スラパネルを操作してスライムフォレス隊の様子をうかがう。相も変わらずぐうたらしているようだ。
画面をスクロールしながらしばらく見ていると、林の中央当たりにスライムが集まっていることに気付く。よく見ると、そこには大穴が開いていて、大量のスライムがぎゅうぎゅうにすし詰め状態となっていた。
なんか怪しいなぁ、よし、スライムフォレス隊!そこまでの進路を開くんだ!
大雑把な要求だが、これで通じるからすごい。画面の中のスライムフォレス隊が一本線上を沿うように木々を吸収し始めた。
そして、三分後にはここからその穴までの直通の道ができていた。
「土木関係者が見たら怒りそうだなぁ」
重機も使わずにこれだけのことができてしまうのだから。
まあ、気を取り直して観察しますか。先ほどまでスライムでいっぱいだった穴。その奥になにやら取っ手のようなものがあることに気付く。
スライムを底に満たしてから穴の中に飛び込む。警戒心がないと思われるかもしれないが、外から見ていても仕方がないからな。
穴の底に立つと、穴の側面に扉があった。見間違いではなかったらしい。しかし、
「いかにもな感じだな」
あまりにも露骨すぎるその存在に僕は顔を引きつらせる。誰もいない無人島に扉があるはずないじゃないか。
でも好奇心はそそられる。そこで、僕は安全マージンをしっかりと取ったうえで、扉を開けることにする。
スラパネルを開く。スライム設定場面に移る。
眠っている間にレベルが上がって魔力が1180まで増えていた。
今回は奮発して、現段階で最強のスライムを作ろうと思う。
レベルを100まで上げる。消費魔力は100。レベルを200まで上げる。消費魔力は300。レベルを300まで上げる。消費魔力は700。
「へ?」
もう一度確認するが見間違いじゃない。1レベルにつき魔力消費1というわけではないみたいだ。
試しに、レベルを400まで上げる。魔力消費は1500にもなって、召還不可能の赤文字が画面を躍った。
「レベル100までは1レベルごと1の魔力消費で済むけど、200から300までは1レベルごとに2、300レベルからは4の魔力消費が必要、ってことかな」
こんな島に来て数学が役に立つとは思わなかった。
なんだか釈然としない思いを抱えながら、僕はレベルを300に設定してスキル設定画面に向かう。すると、いつもは2つしかないスキル枠が7個に増えていた。
「うん。なんだかよくわからないけど、ありがたい」
思考放棄。もう理屈なんてどうでもいい。最強のスライムを作れるのなら。
次に、スキル群に目を通していく。画面をスクロールしながら文字を追っていると、1つ、興味をそそるスキルが目に入った。
『衝撃吸収 小 cost5』
さらに詳しい説明を見るため文字をタップする。
『衝撃吸収 小 cost5 衝撃を吸収し、2分の1に減衰する From:ダンゴムシ』
これだ!
心の中でそう快哉を叫ぶと、スキル欄をこのスキルだけで埋め尽くす。結果出来上がったスライムは、
『Lv.300 スライム 衝撃吸収 衝撃吸収…… cost735 』
だ!
……どこが最強だというんだ!というツッコミは控えてほしい。僕は安全志向なのだから仕方ないだろう。痛いの嫌だし。
いつものようにスライムを召還する。見た目は普通と変わらないが、叩こうが蹴ろうが微動だにしない豪傑のはずだ。
僕は、スライムを体にまとって取っ手に手をかける。念のため言っておくが、スライムが服だと考えれば、今の僕は裸じゃないからな。
……何の言い訳だ
緊張感をもってその重厚な金属の扉に手をかける。ゆっくりと押すと、金属のこすれる音が穴の中に響く。
扉の中は……
「……誰?」
誰かいたぁ⁉