099
違和感はあった。記憶が欠落していたり、妙に齟齬が生じていたり。
リントはシュタルクと過去の話をしているとき、そのことが気になっていた。
最初は偶然だと思っていたが、あまりにも多すぎる。
自分は捨てられていて、バレッジという小さな村でシュタルクたちと一緒に遊んで育った。だが、シュタルク以外のメンバーがうまく思い出せない。顔はぼんやりと分かる気がするが、声などは全く思い出せないのだ。
五年前にあったというドラゴンクライシスについても、知っているようで知らない。そもそもドラゴンなんていう生物がどうして突如現れたのか、街を破壊していたドラゴンは悪い奴だから殺されたはずなのに、なぜシュタルクはドラゴンのことを庇うのか。
徐々に蓄積された疑問から、リントは、もしかして、と一つの可能性を考えていた。それを肯定すると辻褄が合ってしまう。
「やあリントくん」
アリスペルの訓練が終わって屋外訓練場から室内に戻ってきたところ、正面からやって来たのはエルクリフだった。
「あ、エルクリフさん、お疲れ様です」
「訓練の方はどうだったかな?」
「まだまだです。イメージとコントロールが難しくて……。他の人と違って威力の調整ができなくて、薪に火をつけるはずが、火柱をあげてしまいました。もうずっと訓練してるのに、周りに迷惑かけっぱなしで……向いてないのかな……」
リントは苦笑する。
正直焦っていた。周りと確実に大きく開いていく差に。
どうして自分だけできないのか。理由が全く分からない。正確にイメージしているはずなのに、実際に放出されるものは遥かに威力が強く巨大なのだ。
「そうか……。でも気にすることはない。それは他の人には備わっていない、君だけの才能だ」
「オレだけの才能……」
「そうだ。今日はそんな君にお願いがあって来たんだよ」
「お願い?」
にっこりと微笑むエルクリフに、リントは不思議そうに首を傾げる。
その直後だった。
「うっ……」
リントは頭を抱え、その場で態勢を崩し、膝を着いた。そんなリントをエルクリフが支える。
「リントくん、大丈夫かね!?」
突如としてリントを襲う頭痛。エルクリフの声も今のリントには届かない。
頭が割れるように痛くて、脳の奥から何かの音が木霊する。それは音というより、何かの生物の声である気がする。聞いたこともないのに、懐かしいと感じる。その声はなぜだろう、自分を求めているような、自分に対して何かを訴えているような、そんな気がしてしまう。言葉など通じるはずもないのに。
「一先ず、こちらへ移動しよう」
エルクリフに支えられて移動させられたのは、医務室とは違う方向だった。