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ワールド・フラグメント  作者:
第十章 複製
97/111

097

 白銀に光り輝く大きな破片。ここから巨大生物の遺伝情報を取り出す。


 ゴルゴンゾーラは隣で一緒に研究を続ける女性を一瞥した。それに気づき、彼女は眉を顰める。


「ゴルゴンゾーラ、何をにやにやしている」


「いやあ……、ベルーナさんとこうして研究できるなんて、俺は幸せだなーと思って」


「くだらんことを。あともう少しでこの生物を復活させられるのだ。さっさと仕上げるぞ」


「了解です!」


 この人はまさにベルーナさんだ。口調は雄々しく凛としていて、勇敢で自信に満ち溢れた姿。


 ゴルゴンゾーラは彼女に言われた通り、目の前の遺伝情報摘出に集中した。




 五年前、ゴルゴンゾーラはベルーナが亡くなったと知り、ショックのあまりフロンテリアを徘徊していた。


 何日も飲まず食わずで、しかもその日は豪雨で寒く、体の感覚も麻痺していた。そろそろ死ぬかもしれないと思っていた頃、ゴルゴンゾーラは出逢ったのだ。


「ベルーナ研究室のゴルゴンゾーラくんだね?」


 虚ろな瞳で見上げると、上品な紳士がそこにいた。ゴルゴンゾーラに傘を差し、笑顔を向けている。


「私は法務官を務めるエルクリフだ。実は君に頼みたいことがあって探していたんだ」


 エルクリフという名は知っていた。人体実験のために囚人を連れて来る人物の名だ。


「……俺にできることなんて何もない」


 無気力だったゴルゴンゾーラは傘から出る。ベルーナの嫌っていた人体実験に協力していた人物の言うことなど聞きたくもない。


 だが。


「もし協力してくれたら、君の願いをなんでも叶えてあげよう」


 この一言で足が止まった。


 なんでも?


 ゴルゴンゾーラは嘲笑い振り返る。


「あなたに俺の願いなんて叶えられない」


「そうかな?」


 エルクリフはゴルゴンゾーラの心を透視しているかのように、にやりと口角を吊り上げた。


「ベルーナ=オランドともう一度会いたくはないかい?」


 ゴルゴンゾーラの目の色が変わる。走ってエルクリフの両肩に掴みかかる。彼が持っていた傘が飛んだ。


「本当なんだろうな!?」


「本当だとも。ただ、全くの同一人物とは言えないな。クローンだよ」


「クローン……」


 だがそんな破格な金額は払えない。


 そんなゴルゴンゾーラの表情を読み取ってか否か、エルクリフは穏やかに笑う。


「君が心配することはない。私の方で全額出そう。その代わりと言ってはなんだが」


 エルクリフは落ちた傘を拾い、それをゴルゴンゾーラに傾けた。


「ドラゴン復活に協力してくれないかね?」




 ゴルゴンゾーラはベルーナのクローン製造とドラゴンのクローン製造という交換条件を受け入れた。そして北区の外れにある使用されていない研究室で、彼女とともにドラゴンの鱗からの遺伝情報摘出を試みているのである。


 鱗はかなり硬く、中に針を刺すことさえ難しい。だがそれも二年前にアリスペルを上手く使用してクリアした。今はそこから遺伝情報を正確に抽出するという更なる難題に挑んでいる。


「ゴル……ゴンゾーラさん、ベルーナさん、お疲れ様です」


 白いビニール袋を持って入って来たのはルカだ。彼女には、レノ研究室で得たクローン開発の知識を伝授してもらっている。遺伝情報さえ抽出できれば、ドラゴンの復活が叶う。


「お疲れ様。それ差し入れ?」


「そう」


「ありがとね。どう? そっちの方は」


「人間のクローンは問題ない。だけど、動物のクローンはほとんど造ったことないから、なんとも言えない。しかも普通の動物とドラゴンが同じ要領でいいのかどうかも分からない」


「大丈夫だよ。ドラゴンも動物だ。人間のクローンだって作れたんだ。きっと同じように作れるさ」


 そう言ってゴルゴンゾーラがルカの肩に手を乗せたときだった。


「ゴルゴンゾーラ、これを見てくれ」


 ベルーナの台詞に、ゴルゴンゾーラもルカも彼女の隣に行く。そして顕微鏡のレンズに目を通して瞠目した。


「これは……」


 ルカも覗いて息を呑む。


「ゴルゴンゾーラさん、これ……」


「そうだねルカちゃん……」


 二人は暫し見つめ合うように顔を見合わせ、そしてゴルゴンゾーラが口を開いた。


「成功だよ」

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