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レジスタンスは東区の外れにアジトを構えていた。
民間調査会社ESOの仕事は、たまに依頼を受ける程度で、今はクローン抗争に時間を取られている。
「ジャンヌ、俺は次でこの抗争を終わらせたいと思ってる」
「わたしもよ」
小さいテーブルを挟んで対面に座るキルスに、ジャンヌは力強く首肯する。
そもそもレジスタンスを発足させたのは、リントを守るためだった。
リントはシルドラ族だ。この世にはもう存在しない、神の寵愛を受けた伝説の種族。
その遺伝子を持つ個体が生成されてしまっては、誰かが何か良からぬことを企みそうな、リントのクローンが巻き込まれそうな、ジャンヌはそんな気がしていた。
リントのクローンが出来てしまったことは、随分前にジャンヌの耳にも届いていた。だからこそ、彼が苦しまないように、クローン開発自体をこの世から消し去った方がいい。そのために組織したのが、現レジスタンスだ。
だがそれはジャンヌ個人と、その思いを知っているキルスだけが知る事実であり、他のレジスタンスのメンバーは各々クローン反対派の思いを抱いて、政府側と戦っている。
「そのために、今日は協力を頼んでいるんじゃない。……あ、いらっしゃったわ」
ドアの向こうから入って来たのは、ロマンスグレーの品の良い男性。今日はいつもと違い、法務官のバッジも制服も身につけていない。
「エルクリフさん、こちらへどうぞ」
丸椅子を用意し、そこへ座ってもらう。
「政府側の人間に見つからないようにアジトへ来るの、大変じゃありませんでした?」
「いやはや、気が気でありませんでした」
軽く笑うエルクリフに、ジャンヌも微笑を返す。
「それにしても驚きました。わたしたちに協力して下さるとは」
「随分前からジャンヌさんたちにご協力申し上げているつもりでしたが?」
「いえ、それはそうなんですがその……、本格的にと言いますか、今までは電話などのやり取りでしたので、実際に来ていただけたことにエルクリフさんの本気を感じたんです」
「いえ、こちらこそ申し訳ありませんでした。ご協力しているつもりではいたのですが、結果的にまだ政府はクローン開発を行っている。それだけを見ると、私の力などあって無きが如しですね」
「そんなこと……」
エルクリフはレジスタンス発足当時から協力してくれていた人物である。SGFの内情や攻撃パターンなど、様々な情報を提供してくれた。しかし幾度かの襲撃は、SGF本部にすら入ること叶わず、周辺を固めている数えきれないほどの守衛官に押し負けてしまった。
「今度は確実な方法を取ります。これで最後にしましょう」
エルクリフの自信に満ち溢れる言葉に、ジャンヌとキルスは顔を見合わせた。
「君たちのよく知るクローンを人質に取りましょう」