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ワールド・フラグメント  作者:
第十章 複製
87/111

087

 中央区の外れに建てられた五階建ての建物。各省のエリートたちで固められた特殊部隊〝SGF〟の本部。


「ねえシュタルク」


 後ろから声をかけられ、歩きながら書類に目を通していたシュタルクは立ち止まって振り返った。


「なんだリントか、どうした?」


「いつも思うんだけど、どうして世の中には争いが絶えないんだろう?」


「またその話か」


 シュタルクは溜息をついて歩き始める。リントが横にくっついてくる。


「いつも言ってっけど、人間っていうのはみんな考え方が違うんだ。掏り合わせることができるときもあるけど、いつもそうとは限らない。どうしても自分が信じているものが正しいと証明しなくちゃならねぇときがあんだよ」


「今がその時なの?」


「そうだ。絶対に引けねぇ。それが今だ」


「そっか……。オレはみんな仲良くしてほしいし、世の中が平和になってほしいって思ってるんだけどな」


「……いずれきっとその時が来るさ」


「そうだね!」


 リントがにっこりと微笑む。それを見て、シュタルクは表情を引き締めた。






 巨大な飛龍と化したリントが亡くなってから五年。世の中は大きく変わった。


 一つ目は、暴走した龍に破壊された街の復興。建物はほぼ新しく建てられ、新しい時代の幕開けが視覚化されたように慣れ親しんだ街の面影は消失してしまった。


 二つ目は、第一研究所が行っていた人体実験の表面化。フロンテリアを震撼させた〝神隠し事件〟の真相だ。主動していたのは、クラジーバ研究所のクラジーバとビビ、それに片棒を担いでいたB級監察官のパースということになっている。


 犯罪者収容所を管轄している法務省は監督不行届きということで罰則は下されたが、決して重いものではなかった。第一研究所を管轄している研究省は、研究官長の交代を余儀なくされた。


 第一研究所と犯罪者収容所を繋いでいた隠し通路は取り壊され、囚人の行き来はできないようになった。元々、囚人の受け渡しの命を受けていたエルクリフはお役御免となり、法務省に戻っていて、今ではSGFのメンバーでもある。


 三つ目は、クローン生成の成功。更には、生まれたばかりのクローンを加速成長させられる培養器の開発の成功だ。それが公表され、改めてクローンの人権について活発な議論が交わされたが、発表から四年経った今でも結論が出ていない。


 今世界が二分している原因は、このクローン技術だ。


〝ドラゴンクライシス〟と呼ばれる五年前の崩壊で、家族を亡くした者が大勢出た。彼らが自身の心の穴を埋めるのに、クローンを思い浮かべるのは想像に難くなかった。


 だが問題は、遺伝情報は同一とはいえ、全く同じ人物ではないし、クローンにも人権があるということだった。クローンにオリジナルの代わりとしての役割を与えることは、果たして許されるのかどうか。


 この問題は、シュタルクたち四人にも襲いかかった。

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