085
「――放て!」
背後から突如聞こえてきた叫び声。
リントが不思議に思って振り返ろうとしたところで、背中に強い痛みが走った。衝撃で前面に倒れる。
弱々しく立ち上がり、振り返って衝撃の正体を確かめる。
「次、放て!」
シュタルクと同じ制服を着ているところを見ると監察官だろう。その人たちが主導して、一般人も武器を携えたり、指輪の嵌った手の平をこちらに向けたりしている。傍には大きな大砲も何門か用意されている。
彼らは敵意をその瞳に宿し、リントを真っ直ぐに見据えている。
どうしてオレが標的になってるんだ?
そう思ったところで気づいた。
崩壊した街。炎が燃え盛り、黒煙が今も立ち上っている。遠くでは建物の下敷きになった母親を助け出そうと、子供が必死になって腕を引っ張っている姿も映った。
もう涙なんか出ないんじゃないかと思っていたが、まだ出てくる。苦しくて、悲しくて、止まらない。
オレがやったの……?
胸が張り裂けそうだった。
平和だったフロンテリアの街。それを自分が壊してしまったのか。昔、シルドラ族を攻めてきた鋼鉄の鳥たちと同じように……。
「リント!」
ジャンヌたちが悲鳴を上げる。
「アリア、監察の奴ら止めねぇと!」
「そんなの解ってる! あたし命令してないのに、勝手に指揮してるの誰! ……シュタルク、行くよ!」
シュタルクはリントの体をセフュに任せ、アリアとともに一目散に攻撃を仕掛けている人たちの元へ向かって行った。
「ジャンヌ! 僕はルカとここにいるから、得意のアリスペルでリントを守ってやって!」
セフュはルカの肩を支えながら、ジャンヌに言い放つ。
「解ったわ。キルス、行くわよ!」
「了解!」
さすが〝神速の魔女〟だ。アリスペルを駆使し、物凄いスピードで空中を駆けている。
「守護×七重×永遠」
ジャンヌとキルスがアリスペルを唱え、リントは十四重の守護に守られた。いくら砲弾が飛んで来ようとも、これで傷を負うことはない。
アリアとシュタルクも監察官たちの元へ辿り着いたようだが、そちらは口論になっているようだった。監察官はトップであるアリアの命令で攻撃を中止したが、一般市民たちの怒りが収まらない。勝手に攻撃を続けている。
「今すぐ攻撃を中止しろって言ってんの! この分からず屋!」
再三攻撃を止めるように言っても聞く耳を持たない市民に、アリアがキレる。
「監察官長がそんな暴言、市民に吐いてもいいと思ってんのか!」
「だったら言わせんな! 一刻も早く攻撃を止めた方が賢明だと思うよ。でないとあんたらの身は保障できないから」
アリアが指輪をちらつかせる。
「市民を脅そうって言うのか!? お前ら、あの化け物の仲間なんだろ! 俺らはあいつに家族を殺されたんだ! 俺たちが一体何したって言うんだ! 仇討は当然だろうが!」
「そうだそうだ!」
収集がつかず、今となっては監察の信頼を落とす行為になってしまっている。