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ワールド・フラグメント  作者:
第九章 事件終結
83/111

083

 リントは夢を見ていた。


 遠い昔の出来事。シルドラ族がこの世界から消えてしまった過去。


 ああ、思い出した。オレはあの時、お母さんの手を掴むことができなかったんだ。


 涙が頬を流れる。記憶が蘇ると、手に伝わったゲートの冷たい感覚も同時に蘇った。


 ちゃんと〝時空移動〟できたのかな……? みんな今も無事に生きてるかな……?


 会いたい。


 涙が止め処なく零れる。


 お母さんにも、お父さんにも、村のみんなにも、どこに飛ばされたかも分からないシープドッグのバウンにも、牧草地に置いて来てしまった羊たちにも。


 会いたいよ……!


 涙で歪んだ視界。そこに映った色の大半は、赤と黒だった。


 リントは涙を拭う。


 ここはどこ? どうしてこんな高い位置にいるんだろう?


 随分と上から街を見下ろしている。しかもその街は赤々と燃え、黒い煙が幾つも立ち上り、人々の視線が自分に向いていた。彼らの表情には恐怖の色が浮かんでいる。


 訳が分からないリントは、一歩踏み出してみる。するとドシンッと大きな音が響き、地面が揺れた気がした。


 リントは不思議に思い、体に異変が起きているのかと自分の両手を目の前に持ってきた。


 ――――――――っ!?


 息が詰まり、瞳孔が大きすぎるほど拡張する。


 視界に映ったのは、長く鋭い爪を持つ、骨ばった白銀の手。確実に自分のものではない。これは――


 ドラゴンの前足……!


 リントは混乱し、狼狽える。


 シルファ! ねえシルファ! どこにいるの!?


 リントは必死に叫んだ。だが鼓膜に響いたのは、リントの声ではなかった。


「キーッ キーッ キャーッ」


 今の……何?


 リントは更に混乱する。心臓が壊れるのではないかと思うほど速く脈打っている。


 シルファ! 出て来てよ! 今はかくれんぼなんてしてる場合じゃないんだ!


「キーッ キャーッ ギャーッ」


 リントの瞳からは再び涙が溢れていた。


 何が起こっているのか、どうすればいいのか、全てが分からない。苛立ちと虚無感と悲しみがリントを苛む。


 瞳をきつく閉じる。


 こんなことは初めてだった。


 みんながフロンテリアに旅立ってしまうとき、五人を繋ぎ留めたい一心で約束を交わした。フロンテリアに行けるかもしれないと分かったとき、勝ったことのないカードゲームでも怯まず挑戦した。自分が思い描く未来のために、自分に出来る最大限の努力をしてきたつもりだった。


 だけど今、どうしていいのかさえ分からない。

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