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ワールド・フラグメント  作者:
第二章 シュタルク
7/111

007

 コツコツとヒールの音が石造りの建物に反響する。


 目の前を歩く少女の背中には、彼女の背丈を越えるほど大きな青銀の斧。鎌のように少し曲がっているが、きちんと幅のある立派なものだ。


 少女はチョコレートのように甘そうな長い髪を揺らして振り返り、ローズ色の瞳を不機嫌そうに向けてきた。


「シュタルク、あたしの話聞いてた?」

「ああ」


 返答内容に不満なのか、少女は眉根を寄せてシュタルクの顔を凝視する。


「聞いてたんだったら答えてよ。どう思った? 今の話」

「〝神隠し〟にフロンテリア政府が関わってる……ねえ」


 シュタルクはそこで一度区切り、なんにも考えていなさそうに軽く笑う。


「あんじゃねーの?」

「口の利き方!」

「……サーセン。だって今まで、犯人は透明人間だとか、瞬間移動できる異世界の人間の仕業だとか言われてたんですよ。政府といえども、犯人がまっとうな人間で良かったじゃん……良かったじゃないですか」

「どこがまっとうだ!」


 少女はそうツッコんでから、額に手を当てる。おれ、そんな頭抱えるようなこと言ったか? と首を捻るシュタルク。


「まあいいや……。俄かに信じられる話でもないし、確定情報でもないしね。でもこの話、早く真相を突き止めないとあたしたち監察官の沽券に関わるんだからね! あたしも動いてみるけど、シュタルクも何か分かったら必ず連絡するんだよ。報連相は大切なんだから」

「りょーかーい」


 シュタルクは形だけ敬礼し、少女と別れて出口へと向かった。


 右には若草色の人工芝が敷き詰められた中庭、その中央には白い天使の彫刻が施され、その下からはまるで幸せを撒き散らすように水を湧かせている。


 少女の名はアリア。まだ十二という年齢にして、シュタルクの所属する監察省の最高責任者、つまり監察のトップに任命された天才児である。

 舌を巻くほどの〝演算魔法(アリスペル)〟の実力が買われ、しかも飛び級でドクターまでの勉学を全て終えるほど頭脳明晰だと聞く。


 その天才児はなぜだかシュタルクを気に入っている。


 シュタルクは今やアリアの世話役までこなすA級監察官として猛威を振るっている……と言いたいところだが、実際は雑用を任されているだけだったりする。アリアの近くにいるから誰もシュタルクに意見しないし、近寄ろうともしない。彼女のせいで孤独に身を置く、可哀相な最高位のA級監察官だ。


 監察棟内を逆戻りしながら、シュタルクは先ほどアリアに相談された話を反芻していた。


 五年ほど前からフロンテリア内で問題となっている〝神隠し事件〟。何人もの人間が忽然と姿を消し、戻って来ない。目撃証言もなく死体も見つからないことから、フロンテリアではそんな風に言われている。死体が海に捨てられている可能性もあるが、捜索しても未だ発見には至っていない。


 その〝神隠し〟が、フロンテリア政府に関係しているかもしれない、というのがアリアの話だった。最近では〝神隠し〟自体が起こっていないため、さほど話に出ることもなかったが、なぜ今更この話が浮上してきたのかと、シュタルクは頭を捻る。


 政府が犯人であれば、今まで何人もの人が姿を消しているのに、犯人を特定できなかった訳が判明する。首謀者が政府であれば、その事実を隠蔽することなど容易い。


 しかし、〝神隠し〟をすることによってフロンテリア政府が得をするとは思えない。むしろ、政府でも突き止められない事件があるのだという汚名を着せられているくらいなのだ。


 シュタルクは威厳ある監察棟から外に出て、太陽の眩しさに目を細めた。すぐにその明るさにも慣れ、シュタルクはパステルカラーの石畳が広がる街を歩き始める。


 ここは官庁などの政府機関が集中するフロンテリア中央区。こんな所を歩いているのは、政府関係者くらいのものだ。


 アリアは何か分かったら報告するように言っていたが、お蔵入りしている事件の真相をそんな簡単に突き止められるわけがない。


 働きたくないのに面倒臭いなと思っていると、近くで小さな爆発音が聞こえた。次いで悲鳴が上がる。


「こんな昼間から一体なんの騒ぎだよ……」

 シュタルクは溜息を漏らしてから、音のする方に駆けて行く。


 こんな官公庁以外何もないような所で問題を起こすなんて、テロか何かだろうか。


「退いた退いた!」


 大声を上げながら走っていると、皆シュタルクの道を空けてくれる。


 それもそのはず。シュタルクが今身に着けているのは監察官の黒の制服。腕には監察官のエンブレムが金の刺繍で施され、胸元にはA級を示すバッジが青白く輝いている。


 この角を右に曲がれば灰色の煙が立ち上る爆発現場だ。

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