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ワールド・フラグメント  作者:
第七章 計画実行
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062

 ガザリーの指示で〝開かずの扉〟へ向かうレノ。アドラ=ドラスキーが来たら、第一研究所の研究官たちも知らないガザリー研究室の地下室へ閉じ込めておくように言われている。


 レノ以外の研究室メンバーが多忙なため、彼がその役に抜擢された。といっても、決してレノが暇というわけではない。一番下っ端なので、誰にでもできる仕事を押しつけられたのだ。


 まだアドラをどうするか、研究室内では結論が出ていない。しかし犯罪者収容所側から、いつまで彼を置いておけばいいのかと問われ、一旦研究所へ戻してもらうことになったのだ。


 いちごミルク味の棒キャンディーを口に銜え、レノは早めに研究室を出た。アドラが予定時刻よりも早く研究所に到着した場合に、誰かに見られるのを避けるために。レノはそういう機転は利く男だ。


 実験棟一階、第一実験室前。そこで壁に寄り掛かり、腕を組みながらアドラの到着を待つ。


 十分間はそうしていただろうか。遠くで僅かに扉が開く音が耳に届いた。レノは壁に預けていた体重を自分の軸へ移す。


 複数の足音が近づいて来る。その音は二階の廊下を移動し、階段を下り、実験棟一階へ辿り着いた。


「レノ!?」


 現れたのはツインテールの同期であるビビ、そして彼女の研究室長であるクラジーバだった。手には実験レポートや資料が握られている。


 レノは怪訝そうにビビを見やった。


 まさか犯罪者収容所のエルクリフは、アドラと同時にクラジーバ研究室用に囚人を運んで来るわけじゃないだろうな。


 飴を奥歯でガリッと砕くレノを見ながら、ビビも眉を顰める。


「なんであんたがここにいんの?」


 彼女の言い様に、レノはふいっと顔を逸らす。


「お前に答える義理はないな」


「何よ、その言い方!」


 沈黙が大人な対応だということは解っている。だが、何も言わないとどうしても負けた気になってしまう。何も言えないのだと相手に勘違いされるのが癪だからだ。


 ビビを言い負かすことなど造作もない。しかし、レノはこのときばかりは沈黙を貫いた。〝開かずの扉〟が震え、向こう側から音が漏れ、人の気配を感じたからだ。


 だがそれとほぼ同時に、先ほどビビたちが来たときと同じように、二階の渡り廊下の扉が開く音がした。やはり複数の足音がこちらに近づいて来る。


 今日に限って、これ以上誰が来るんだよ!?


 苛立ちと怒りと焦りが入り混じり、自分でもよく解らない感情が渦巻く。


 目の前の扉は鍵穴に鍵が差し込まれたようで、カチャカチャッと鳴る。


 足音は二階の廊下を移動し、階段を下り始める。


 カチャッと開錠の音を響かせた扉はこちら側へ円弧を描きながら開く。


 足音は階段を下り終え、実験棟一階に着地する。


 扉から姿を現した人物と足音の人物がレノたちの前に晒される。


 そして一同は息を呑んだ。


「監察!? それにアドラ=ドラスキー!?」


 扉から姿を現したのは、エルクリフ、そして目隠しと手錠をされたアドラ=ドラスキー。対して足音の人物は、斧をその背に携えた少女と若い男。制服から見て監察官。


 事態が呑み込めないのはレノだけではない。ビビもクラジーバも目を白黒させ、明らかに動揺しきっている。


 監察の二人が颯爽とこちらに近づいて来る。エルクリフはアドラの目隠し、ヘッドフォン、猿ぐつわを外してやった。


 アドラは眩しそうに目を細め、そして徐々に慣れた目で不思議そうに辺りを見回した。その顔には困惑や戦慄が張り付いている。手錠をされた両手は胸部分で固まり、小刻みに震える痩躯はとても小さく見えた。


「監察官長アリア=リズリードです。アリスペル開発研究担当のクラジーバさんですね? お話お伺いできますか」


「……監察がなんの用ですか? 私にはあなた方にお話しすることは何もありませんが」


 平静を装うクラジーバに、アリアの顔が僅かに歪む。


 目の前で繰り広げられる光景は、レノでも粗方理解できた。だからこそ解る。


 物的証拠がないこの状況で、クラジーバは一見優位そうに映る。だが、いくら白を切り通そうとしたところで、あと一つの要素さえあればクラジーバは限りなく黒に近くなるということが。

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