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今は目の前の仕事に集中しなくてはならない。これは数年前にフロンテリアを震撼させた〝神隠し事件〟の解決と、フロンテリアの行く末がかかった大切な案件だ。だが、どうしても集中できない。
シュタルクは第一研究所付近で様子を窺っていた。腕時計に目をやり、今か今かとその時を待っている。
十時半。それが立ち入り捜査開始の時間だった。あと五分ある。
本来であれば人体実験を行っている最中に乗り込むのが最も有効なのであるが、行われる実験内容が分からない以上、実際に実験が行われる前に首謀者を逮捕する必要がある。
第一研究所に移送された囚人を引き取る研究官がいた時点でそれは動かぬ証拠になるし、任意同行もできる。実験レポートなどの証拠も研究官の囚人引き取りと紐付ければ、言い逃れはできないだろうとアリアは踏んでいるのだ。
「半になった。行くよ」
アリアが先陣切って第一研究所の入口へ向かう。シュタルクもその背後に付いているのだが、漫然としていた。その原因は勿論、昨日リントが姿を消した件である。
セフュと一緒にあちこちを探したのだが、見つからなかった。夜で暗いせいもあるかもしれないと思い、一度捜索を打ち切り、今日の朝から再び探すことにしたのだ。
シュタルクは時間の許す限り彼を探したが、やはり見つからない。仕方なくセフュに捜索を託し、自分は今、第一研究所の摘発部隊にいるというわけだ。
「監察です。これから第一研究所の立ち入り捜査を行わせていただきます」
驚く守衛に監察官証を見せながらアリアが言い放つ。ぞろぞろとA級監察官が第一研究所内に入り込み、各研究室の捜査を開始する。
「シュタルク、わたしたちはエルクリフさんから教わった〝開かずの扉〟へ向かうわよ」
シュタルクは首肯し、アリアと二人、実験棟への道を足早に進み始めた。