055
クリスタルリングを見ていると、なぜか懐かしさや物悲しさが胸中を渦巻く。だが、それでもこの空間はリントにとって居心地のいい場所だった。透き通る淡い青に吸い込まれるようについここへ来てしまう。
クリスタルリングについてはシュタルクに教えてもらった。東区の名所はこれくらいしかない、と言って一番に案内してくれたのだ。それからリントにはお気に入りの場所である。
「そろそろ行くか」
茜色に空が染まり出し、リントは服の胸ポケットから顔を出すシルファにそう話し掛ける。シルファは同意するように、キャッキャッと鳴いた。
シュタルクは仕事だし、セフュも外出が多い。折角フロンテリアで彼らに会えたのに、リントには一人の時間が多かった。
しかし、それも仕方のないことだと思っていた。ここで暮らしている以上、彼らには彼らの生活があるのだ。少し寂しいが、それは理解しなくてはいけない。ただし、セフュがよく外出している理由は分からないが。
シュタルクが帰って来てからすぐに食事になるように、夕食の買い物をしてから寮に戻った。タダで泊めてもらうわけにもいかないので、せめて料理くらいしようと思い、今では三食の食事は全てリントの手作りである。
スーパーの袋を両手に携え、誰もいない寮の部屋に戻る。今日はキャベツが安いというチラシが入っていたので、夕食はロールキャベツにしようと決めていた。意気込んで作り始める。
みじん切りにしたタマネギ、豆腐、すりおろしたニンジンなどを挽肉に混ぜ、捏ね始めたときだった。インターホンが鳴った。
リントは音に反応して手を止め、後ろの壁にかかっていた時計に目をやった。シュタルクがいつも帰って来るより少しばかり早い。
仕事が早く終わったのかな?
リントは扉の鍵を開けようとして一時停止した。
インターホンが鳴っても、すぐに鍵を開けないこと。
これはシュタルクから再三言われていることだった。勧誘の人とか不審者とかかもしれないから、必ずドア窓から覗いて確認するように、と。
今回もリントは素直に小さなドア窓から外を覗き、相手を確認する。そして目を疑った。フロンテリアに来てから唯一会えていない仲間。
リントは躊躇わずに鍵を開け、ドアを外側へ押して開いた。
「ルカ!?」
興奮気味にそう言うと、彼女は表情を変えずに口だけ動かした。
「久しぶり、リント」