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「〝神速の魔女〟逮捕されたらしいですよ」
クラジーバ研究室にパースが報告する声が響く。
「さすが監察。得体も知れぬ魔女を捕まえるのに数日しか要しないとは。これで晴れて〝神隠し〟の容疑から我が第一研究所が解放されたわけだ」
くつくつとクラジーバが嗤う。だが、その横で眉間に皺を寄せたのはビビだ。
「でもなんでなんの証拠もないのに〝神速の魔女〟が逮捕されたわけ? パース、あんた監察官なんだから何か知ってんじゃないの?」
腕を組みながら横目で自分を見やるビビに引きつった笑みを浮かべながら、パースは一息ついて口を開く。
「正直、正確なことは分かりません。通常、監察は証拠が揃わないと逮捕に動かないんですが、今回は俺たちが雇った張り紙貼りの人間が『実は〝神隠し〟が実行されるところを見たことがある』という、こちらが用意した回答をきちんと述べてくれたから逮捕に踏み切ったのかもしれません。今まで謎に包まれていた事件を目撃した人物が現れたとなれば、過去最も有力な証拠と成り得ます。しかも張り紙を貼ったのはグループ。五、六人が同時に〝神速の魔女〟がホームレスを拉致している姿を見た、と言っているわけですから、さすがに物的証拠が無くても動かざるを得なかったんじゃないですか?」
ふぅん、と顎に手を当てながら更にビビが質問を重ねる。
「ねえ、物的証拠も無いのに逮捕するって決定したのって誰?」
「そんなの監察官長に決まってるじゃないですか」
パースが呆れながら言う。
「一監察官はそんな決定できませんよ」
その言い草にビビは片眉を吊り上げ、不満そうにパースを睨みつける。
「あんた、あたしより一つ年下よね? 先輩に対してバカにしたような物言いするなんて、随分偉くなったもんね」
「お褒めに預かり光栄です」
皮肉を言ったにも拘らず、それを物ともしない返答にビビの苛立ちは募る。奥歯を強く噛んで、涼しい顔をするパースから視線を逸らす。
「それにしても、監察官長ってフリフリしたカッコしてるあの生意気そうなガキでしょ? あんな女の決定で監察が動くなんて、世も末ね」
あんたが言うか、と思いつつ、パースは言葉を呑み込んだ。
今回の出来事で異例だったのは、物的証拠が無いにも拘らず逮捕に踏み切ったこと。
だが実はもう一つある。監察トップであるアリアが直々に〝神速の魔女〟の元へ出向いたということだ。天才と呼ばれる彼女だ。事件のスピード解決を図り、功績を得たかったのかもしれない。
そのことは特に報告すべき内容ではないと思ったパースは、他に何も言わなかった。