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南区の昼は活気に満ち溢れている。フロンテリアの住民だけでなく、観光客まで大量に押し寄せる。お洒落なランプがパステルカラーの石畳の左右に配列され、そこに並ぶ店もまた景観が意識された色や形で統一されている。それを見ていると、世の中は至って平和で、犯罪などという恐ろしいことは存在しないのではないかと思えてならない。
ジャンヌはいつもと同じ時間に店を開け、棚に新しいアクセサリーを並べる。その後はレジ前の椅子に腰をかけ、新しいデザインの考案をしていればいい。この店の位置は南区のメインストリートにあり、客寄せをしなくても自然に入ってくるベストポジションだ。
客が入って来やすいように開け放たれたガラスの扉から、三人の人間が入って来た。この店には珍しい男性客である。
「いらっしゃいませー……」
声を発してすぐにその音は収束した。入ってきたのは、ジャンヌの予想だにしない人物だったからだ。
一人は赤毛をワックスでスタイリングした軽そうな男。彼の右側にはボサッとした茶髪に黒縁メガネの自由人。その反対にいるのは白銀の髪に蒼海の瞳をした、整った顔立ちの少年。彼ら三人がジャンヌの方に近づいて来る。
「ジャンヌ、元気か?」
片手を上げて挨拶するのはシュタルク。ジャンヌは目を見開き三人を見つめたまま絶句している。
「セフュに……リント!?」
ようやく出た台詞はシュタルクを完全に無視するそれだった。彼はそのことに少しだけ不服そうな顔をしたが、それも仕方のないことだとすぐに諦めたようだった。
「やあジャンヌ、久しぶり」
「ジャンヌ、元気だった!?」
それぞれセフュとリントが笑顔で一言。
「げ、元気だけど……どうして二人がここに!?」
嬉しさと驚きで、どうしても興奮気味になってしまう。そんな自分の言葉に、ジャンヌはふと一つの可能性に気付いた。
もしかして三年前のあの約束のため……?
自分がフロンテリアにいる理由をリントが話し始めようとしたところでジャンヌはそれを制止させ、彼ら三人を奥へ招き入れた。話が長くなりそうだと思ったし、久々に会う友人にお茶の一つも出さずに立ち話させるのは失礼だと思ったからだ。
「店見てなくて平気なのかよ。商品盗まれるかもしんねーぞ?」
シュタルクが店でアクセサリーを見ている客を見回す。
「平気。ここ人が多いから抑止の目があるし、盗まれたら盗まれたとき考えるわ」
レジには鍵をかけたし、用がある人にはベルで知らせてもらうようにメモを立てかけてある。
レジ裏の入口から奥に入るとフローリングの廊下があり、左右に扉がある。トイレやバスルームだ。短い廊下を進むと正面にはキッチン付の部屋が一つ。全く広くない。白いラグの上に置かれたテーブル、その近くにはソファ、壁際にはベッド。あとは商品を作る道具が出しっぱなしになっている。部屋はこれだけしかない。一人暮らしなので、これだけあれば充分だ。
「適当に座って」
ソファは二人しか座れない。セフュはさっさとソファに腰掛け、シュタルクはそれを一瞥してからラグが敷かれた床に座った。リントはシュタルクに一声かけてからセフュの隣に腰を下ろす。
ジャンヌは茶葉をティースプーンで五杯掬い、ティーポットに移した。お湯を入れタイマーをセットする。
アラームが鳴るまでの間に、ジャンヌはリントとセフュの話を聞いた。リントは調印式のためフロンテリアに足を運び、三年前の約束の日が近いため今まだこの地に留まっているらしい。セフュは放浪の旅からフロンテリアに立ち寄ったらリントがいたので、こちらもまたシュタルクの家にお世話になっているようだ。
アラームが鳴り、用意したティーカップに紅茶を注いでいると、今度はシュタルクが話し始めた。彼はたまに顔を出してくれるから、監察官をやっていることもA級であることも知っている。今日のメインはセフュとリントだと思っていたのに何を話すのかと思っていると、その話を聞いた直後、ジャンヌは体を硬直させた。
「今世間は〝魔女狩り〟で沸いてんな」
ジャンヌは口を堅く引き結んだ。