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少し長めの淡い金髪をハーフアップに纏め、耳には銀のピアスを身に付ける。チャラチャラしていそうな派手な見た目。そんな彼がクククッと可笑しそうに腹を抱えて、薄らと目尻に涙を溜める。
「ジャンヌ、指名手配犯だって」
「ちょっとキルス、そんなに笑うことないじゃない!」
艶のある長い金髪に桜色の薄い唇。僅かに頬を染めながら口を膨らませるジャンヌは、二つ年上の同業者、キルスを睨むような目つきを見せる。
「賞金百万コルトって、俺今からジャンヌを監察に、『ハイ』って突き出したら即金で貰えるのかな」
「身内を売るな!」
ジャンヌはなおも笑い続けるキルスを横目に嘆息する。
どうしてこんなことになってるの?
ジャンヌには意味が解らない。濡れ衣にもほどがある。迷惑極まりない。
「けどさ、おかしいよな。このタイミングで〝神隠し〟の話が出てくるなんて」
キルスの言葉にジャンヌは眉を顰め、視線を逸らす。彼の言っていることは本当で、気味が悪いほどのタイミングの良さにジャンヌも訝しんでいた。
事は約二週間前に遡る。ジャンヌたちが所属する組織〝エターナル・シークレット・オーガニゼーション〟、略して〝ESO〟に、ある依頼が来た。
ESOは、表向きは普通の民間調査会社で、西区にオフィスを構えている。しかし、裏の顔は独自の権限と権力を持つ超特殊組織。前身はフロンテリア政府内にあった調査機関だが、政府から切り離されたことによって、今では手広く調査をしており、その対象には勿論政府も含まれている。フロンテリアという大都市を守るために、その益を害する行為をしている組織の摘発、壊滅を主な仕事としている。
ESOの中でも裏の仕事によく駆り出されるメンバーは、昼の通常業務は基本的に行っていない。顔を知られるのがマズいからだ。昼の人間は接客や金勘定など、危ない仕事はしない。情報収集をしたり、実際に敵陣に乗り込んだりするのは夜のメンバーだ。
〝ある依頼〟とは、犯罪者収容所に収監されている囚人の消息を調べてほしい、という内容だった。その囚人の母親が昼間、ESOにそんな依頼をしてきたことが、今ジャンヌとキルスが担当している仕事の始まりである。
ESOは通常、怪しいと思われる機関を独自に調査することが多いが、夜行うような危険な仕事がたまに昼に紛れ込んでくる。今回はまさにその類だった。
刑期がそろそろ終わると思っていた頃、囚人の家族の元に一通の手紙が届いたそうだ。白く薄い紙に映える黒い文字。そこに書かれていた内容は、囚人が病死したというものだった。受刑中に病死するのは、有り得ない話ではない。
だが、調査依頼に来たその母親は、彼は絶対に病死なんてしていない、と言い張った。
囚人はその手紙が届く直前まで家族に手紙を送っていたらしい。届いていた手紙には、自分の犯した罪を悔い改め、これからは全うに生きていきたいという前向きな内容が書かれていたようだ。それに家族にも会いたい、会うのが楽しみだという文も。そんな手紙を書く人間が病死するはずがない、病気だと分かった段階で彼はきっと家族に手紙を出す、そう言うのだ。
本当に病死であれば何も問題はない。しかし、もし病死でなかったら? 犯罪者収容所はフロンテリア政府の手中にある。政府機関が何らかの隠蔽工作をしているとしたら?
そういった疑念から、ESOの夜部隊であるジャンヌ含む特殊班が動き始めたのだ。といっても最初は、そのクライアントの話の真偽を確かめる必要がある。
そこで、裏世界で名の通った〝情報屋のセフュ〟に調査を依頼した。値は張るが、彼の提供する情報は上質でハズレがない。自分たちで骨を折りながら調査するより、情報収集に関しては彼に一任した方が安全で時間も有効に使える。
これはジャンヌの提案だった。こんな機関に所属しているせいか、情報屋の情報は幾つか耳に入ってくる。セフュが今フロンテリアにいると聞いて、彼に依頼しようと思ったのだ。
だが、ジャンヌが行くわけにはいかない。変に勘ぐられるのが嫌だったからだ。そこでキルスにセフュの元へ行ってもらった。