012
シュタルクの家は監察棟のある中央区の隣、東区にある。隣といっても、中央区はそれぞれ北区、東区、南区、西区に隣接しているから、どこでも隣ということになってしまうのだが。
各区は高さ十メートルほどの薄いベージュの石壁で区切られている。隣区と行き来する場合は、漆黒に金の外枠が映える長方形の門を通る。形式上、そこには門番が二人ほど常駐しているが、門が閉じられたことはないし、隣区へ行くために身分証明書を提示する必要もない。
中央区は行政機関が多いため、面白みに欠ける場所である。お堅い雰囲気が漂う、決して居心地がいいとは言えない区だ。
中央区に対して華やかなのは、ジャンヌのアクセサリーショップがある南区である。南区は若者が多く集まる活気ある区で、お洒落なお店も沢山ある。テーマパークや人工的に作られた美景などもあり、観光客が訪れるのは大抵南区である。
西区はオフィス街になっていて、様々な優良企業が軒を連ねている。
ルカのいる第一研究所は北区に存在する。北区は三つの研究施設が集約されている他、犯罪者収容所も設置されている、フロンテリアの中で最も治安の悪い区だ。
シュタルクたちは一番近い地下鉄の入口に入り、階段を下りて券売機にて切符を購入した。
フロンテリアには地下鉄が走っていて、最も一般的な交通機関である。
「リント、悪いけどおれは仕事で家まで案内することはできねぇ。駅から徒歩三分の所にある監察官の寮なんだけど、分からなければ誰かに訊けばすぐに教えてくれると思う。一応地図も書いとくわ」
シュタルクはメモ帳に軽く書いてリントに手渡した。
「おっと、それと……」
シュタルクは制服の内ポケットから鍵を取り出し、それもリントに差し出す。
「なくすんじゃねーぞ? それないと野宿だからな」
真顔で語るシュタルクに、リントは笑顔で、分かった! と返事をした。
改札を通って振り返り手を振るリントに、シュタルクも手を振り返す。彼の背中が見えなくなってから、シュタルクは踵を返した。
これからアリアから頼まれている調査をしなくてはならない。
「調査って言ってもなあ……」
シュタルクは髪を軽く掻きながら嘆息する。
どこから手をつけていいものか。せめてどこからの情報なのか分かれば、それを頼りに探っていくことができるかもしれない。
「……仕事ってめんどくせー」
昼過ぎのこの時間、地下鉄に向かう人間は少ない。シュタルクは床に放られていた空き缶を空中に蹴り上げ、それを右側へ蹴り飛ばした。空き缶は弧を描き、カランという音を立てて壁際に設置されていたゴミ箱の隣へ落ちた。
「…………」
シュタルクは仕方なくそれを拾い、きちんとゴミ箱へ捨ててから地上出口へ向かった。