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リントからの確認が取れたところで、魔法円は完成した。
「おし。じゃあ時間もないし、行くか!」
シュタルクが両腕で頭上に丸を作ると、反対側で魔法円を作ってくれていたセフュたちも集まってくる。
「それにしても、僕まで巻き込まれるなんてね。追うのは好きだけど、追われるのは御免なんだよね」
「セフュ、ごめんね、オレのせいで……」
「リントのせいじゃないよ。あいつらの頭がおかしいだけだから」
「そうだよ。あたし頭悪い人嫌いなんだよね」
「アリアはもう少しソフトな言い方した方が意中の人に振り向いてもらえると思うよ」
「ちょっとお兄ちゃん!」
「え、アリアさん好きな人いるの? 誰誰!?」
「ちょっとジャンヌさん! 顔近いです!」
「アリア、好きな奴なんていたのか」
「シュタルク鈍感」
「ルカ、鈍感とか言うな!」
「鈍感」
「…………」
その後、みんなで笑った。でもこの笑いは、成功するか不確かな〝時空移動〟に対する不安を吹き飛ばしたかったからだろう。
「じゃあいくよ」
リントはまずシルファに触れる。
「白き神の使いよ、汝我に力を与えよ」
リントとシルファが赤い光に包まれる。これでリントとシルファの魔力が共有された。光が徐々に消えていく。
次にリントは跪き、魔法円に両手を突いた。
「森羅万象を司りし神々よ、時を越え、空間を拓く力を我に与えよ!」
するとリントが手を着いているところから青い光が迸り、それは魔法円をなぞるように全体に広がった。その光は一層強く輝き、柱のように天を突く。
「あれがゲート……」
柱の中間ほどの位置に青い光のゲートが現れた。その入口がゆっくりと開かれる。向こう側は紺色で、それ以外何もない。
「この世界ともこれでお別れか」
感慨深げに吐かれたシュタルクの台詞に、他のみんなもゲートをじっと見つめる。
「そうだね。でも大丈夫!」
リントは元気にそう断言する。
「きっと次の世界は、みんなで一緒に楽しく暮らせるよ!」
この一言でみんなの硬かった表情が柔らかくなった。お互い顔を見合わせ、そうだね、と頷き合う。
「それじゃあみんな、行こう!」
この島に来たときと同じようにシルファとともに七人はゲートへ向かった。
ゆっくりと扉が閉まる。そして七人と一匹の姿はゲートの向こう側へ消えていった。
ゲートが閉じた直後、目を開けていられないほど強い青の光が迸り、世界を覆うように駆け巡った。
存在したはずの一族の末裔が姿を消し、彼らの仲間も同時に姿を消した。世界はそれが当然の世界へと改編される。人々の記憶は一瞬のうちにすり替わり、今自分がその場にいる理由や行動さえ都合のいいように作り変えられ、脳に偽の情報が伝送された。そして誰も伝送された偽りを疑わない。
世界は再びその在り様を永遠に、変えた。
*
フロンテリアから遠く離れた小さな町で、ひっそりと暮らす青年。
「オレにはクローン研究しかないんだよ」
なんとかフロンテリアから逃げ出し、命からがら辿り着いたのが、まだクローン製造のことを知らないくらいの田舎町。だが、いつここにも政府の人間が来るか分からない。
「機器と研究書類がなくたって、データはオレの頭ん中に入ってんだよ!」
青年は棒キャンディーを銜えながら、自分の脳内の情報を紙に書き写す。
「見てろよ。オレを大罪人に仕立て上げたこと、絶対後悔させてやる」
青年は薄暗い部屋で一心不乱にペンを走らせた。
ここまでお付き合いくださり、まことにありがとうございました!
読んでわかった方もいらっしゃると思いますが、このストーリーには明確な主人公がいません。
1つのストーリーに様々なキャラクターが関わっている話を書きたい。
1つのストーリーを軸に様々なキャラクターを描きたい。
1つのストーリーを様々なキャラクターの視点で追っていきたい。
そう思って書き始めました。
くるくると変わる視点に、わかりづらい部分もあったかもしれません。
それでも、彼らの目を通して、このストーリーを様々な角度から見ていただけたら幸いです。
時空移動で旅立った彼ら。みんなで楽しく暮らせる世界に行けたらいいなと思います。もしかしたら、今この世界のどこかにいるかも……と思わないでもありません笑
彼らが旅立った世界。そこで残った人々がどのような未来を描いていくのか。再改編された世界が今後どのように動いていくのか。そこにも思いを馳せます。
長くなりましたが、この作品を読んでくださった皆様の時間が少しでも楽しいものになっていましたら、とても嬉しく思います。
お読みいただき、本当にありがとうございました!!