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「〝時空移動〟しよう」
そう提案したのは、他でもないリントだった。
「でもリント、一人のために〝時空移動〟することはできないって言ってなかった? 今回は一人じゃないにしても、シルドラ族のときと比べて明らかに人数が少ないわ」
人に見つからないように五人で逃げている最中、ジャンヌが問うた。
「今でもそれは変わらないよ。だけど理由に依るんだ。ルカ、エルクリフさんは自分の恋人に会いたいから〝時空移動〟したいって言ったんだよね?」
「そう」
「それってすごく個人的な理由だと思うんだ。彼がどれだけその人に会いたかったか、どれだけ強い思いを抱えていたかなんて分からない。だけど、ここで思いの強さは重要じゃない。重要なのは世界がどうしようとしているかだ」
「なるほどね。僕たちは大罪を犯したわけでもないのに大罪人に仕立て上げられて、理不尽な理由で世界から排除されようとしている。これは個人的理由とかそういうんじゃなくて、この世界のそういうシナリオって考えられるわけだね」
「セフュの言う通り。オレたちはオレたちを排除しようとしてるこの世界で、自分たちが生き残る策を考えなきゃならない。だけど世界の動きを捻じ伏せるのは簡単じゃない。だったら確実な方法は、この世界を捨てて他の世界に行くことだよ」
「世界を捨てる……か……」
シュタルクがぽつりと呟く。
リント以外の五人はバレッジに家族がいる。〝時空移動〟すれば家族には二度と会えない。寂しい気持ちもあるが、この世界にいても家族に迷惑がかかる。大罪人の家族として、虐げられる人生を送らされないとも限らないのだ。であれば、〝時空移動〟して自分たちのことをきれいさっぱり忘れて生きていってもらった方が、きっと幸せだ。
「そうだな……、〝時空移動〟しよう」
シュタルクが決め、ジャンヌもセフュもルカも頷く。彼らも解っているのだ。家族に迷惑をかけず、自分たちが生き残る方法はそれしかないと。
「そうと決まれば、まずアリアとノエルさんを探さないとな!」
「あとレノも」
ルカの一言に、彼と直接会ったことのないシュタルクは、忘れてた、と返した。
アリアとノエルを探し、彼らに事情を説明すると、二人は付いて来ると言った。
「僕はまだいい。だけどこのままだとアリアまで殺されかねない。逃げるにも限界がありそうだし、どうしようかと思っていたんだ。だから君たちの提案はものすごく嬉しいよ」
「うん。あたしもお兄ちゃんとかシュタルクとか、みんなが捕まって死刑判決なんて出たら耐えられないって思ってた。是非あたしたちも連れて行って」
「おし! じゃあみんなで行こうぜ、異世界!」
アリアは嬉しそうに、うん! と頷いた。
フロンテリアでは魔法円を作れない。魔法円を作成するのに適した場所、それを考えたらシルドラ族が住んでいた孤島ということになった。
残念ながらレノは見つからなかった。既にフロンテリアを出た後だったのかもしれない。本当は探したかったが、時間もないため彼については断念した。
シルファの背にリント、ジャンヌ、ルカ、アリア、ノエルが乗り、シュタルクとセフュはシルファの両手に掴まれての移動。
途中、船に見つかって、砲弾を撃たれる場面もあった。
「空中ブランコみたいで楽しいねこれ」
「これのどこが空中ブランコなんだよ! 安全性が確保されてる遊園地のアトラクションとは違うんだよ! シルファが何かの拍子に手広げたら、おれたちは海の藻屑と化すんだからな!?」
セフュはご満悦のようだったが、島に着いたときのシュタルクは顔色が優れなかった。