表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワールド・フラグメント  作者:
第十章 複製
108/111

108

「リント!」


 ドタドタと階段を上る音が近づいてきていると思ったら、姿を現したのはシュタルクとジャンヌだった。


「シュタルク、それにジャンヌ!」


 ジャンヌはなぜだかリントを見て口元に手を当てている。今にも泣きそうだ。


 二人を一瞥したエルクリフはリントを握る手に力を込める。


「もうこの世界では生きていくことはできない。私はそれだけのことをしたのだよ」


「エルクリフさん……」


 事情はよく分からなかったが、彼が相当追い詰められているのだということは分かった。だがそれでも。


「すみませんが、〝時空移動〟はできません。やっぱりこれはそう簡単にしてはいけないことだと思うんです」


「そうか……」


 するとエルクリフはリントを抱え、どこから用意したのか右手に携えたナイフをリントの首元に当てた。


「リント!」


 シュタルクとジャンヌが同時に叫ぶ。


「君たち二人だけじゃない。ドラゴン、お前も動いたら主人の命はないぞ」


 シルファも身動き一つ取れない。


「リント!?」


 階段を上って部屋に入って来たのは、今度はセフュとルカ。二人とも目を瞠り、状況把握に努める。


「エルクリフさん、どうしてこんなこと……」


 ルカが問い掛けるが、彼は嘲笑気味に吐き捨てる。


「君は知っているだろう。私は五年間このために生きてきた。それが叶いそうだというのに簡単に諦めることなどできない。そのためだったらなんだってする」


 そう言ったところで、相当な人数が階段を上る音が聞こえてきた。随分と騒々しい。


「エルクリフ、僕は絶対にあなたのことを許さない」


 ノエルを筆頭に、ここへ到着したSGFメンバーがアリスペルリングを構えた。


「解っているだろうな。動いたらリントくんの命はないぞ」


 必死に叫ぶエルクリフの声がリントの近くで響く。


 本当は彼も解っているのだろう。これだけの人数に囲まれて、エルクリフに勝ち目などないのだ。だがSGFメンバーがそれでも動けないのは、リントという人質の存在があるから。エルクリフだってアリスペルは六重(セクスタプル)くらいまでは唱えられたはずだ。他に犠牲者が出ないとも限らない。リントにイエスと言わせるためなら、きっとエルクリフはなんでもする。彼は今それくらい本気だ。


「エルクリフさん」


 リントは口を開く。


「オレ、エルクリフさんも助けてあげたい。だけど、一人のために世界を変えてまでゲートを開くのは違うと思うんです。世界改編はどこまで影響が出るか分からない。そういった大きな賭けができるほど、オレには勇気がありません。だから、」


 リントはエルクリフの顔を見つめた。


「オレを殺して気が済むなら、そうして下さい」


 シュタルクもジャンヌもセフュもルカも目を見開く。


「お前勝手なこと言ってんじゃねぇよ!」


「そうよリント! リントが死ぬことないわ!」


「君はどうしていつも自分を犠牲しようとするんだよ!」


「リントは絶対死んじゃだめ!」


 みんなの気持ちは嬉しい。だけどそう言うことで、リントが最も危惧していることが起きてしまった。


「ここにいる全員、一歩でも動いたらリントくんを殺す。リントくん、君が〝時空移動〟に承諾してくれなかったら、シュタルク君を殺す」


 リントの弱点。それは自分自身の命ではなく、大好きな友達の命。


「さてリントくん、どうするかね?」


 リントは唇を噛んだ。


「〝氷の精霊(フェンリル)〟」


 背後から鋭い声が響いたかと思うと、リントを抱えていたエルクリフの首から上以外が全て凍っていた。リントの体に触れていた部分は凍っていないという抜群のコントロール力。


リントはそこからするりと抜け出し、振り返る。


「アリアさん!」


 シルファが突き破った窓から、アリスペルを使って部屋に入り込んだのだろう。


 彼女はいつもと同じ堂々とした調子でエルクリフに近づいた。しかしまだ目は腫れている。


「監察です」


 エルクリフが奥歯を噛み締め、俯いた。


「エルクリフ=サラスタ、あなたを逮捕します」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ