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リントはエルクリフの部屋で蹲っていた。
頭痛が治まらない。脳の奥で木霊する鳴き声は、徐々に大きくなっていく。それに加え、脳内に不思議な映像が流れてくる。
どこか見たこともない島で、見たこともない生物とともに暮らしている。だが穏やかな日々は失われ、仲間が殺されていく。白い生物の上に乗って上空を翔けながら、空に浮かぶ光のゲートに手を伸ばすが届かなかった。
断片的な映像が流れくる。頭痛と相まって、リントはそれが何かを考えることができない。
だが確かなことが一つあった。それはその白い生物がシルファという名前だということだ。
続けて違う映像が流れてくる。
今度は随分と高くから街を見下ろしている。シュタルクたちは自分を心配そうに見つめているが、他の人たちは自分に攻撃を放ってきている。最終的に自らその攻撃を受けに行っている。
そこで映像は途切れた。併せて頭痛も瞬時に消え失せる。
「なんだったんだ今の……」
起き上がったリント。その直後。
背後から鳴り響いたバリンという騒音と、突風に身を屈めた。
次いで鳴り響く咆哮。
それを聞いたリントは、俯いていた頭を上げて振り返った。
涙が出るほど懐かしいと感じる。
「シルファ……?」
白銀のドラゴンは、肯定するようにギヤアーと鳴いた。SGF本部の天井と窓ガラスを突き破り、リントの眼前に大人しく佇む。
リントは近づき、シルファの顔に抱きついた。するとシルファに触れた瞬間、リントは血液が沸騰するような感覚に襲われた。
さっきまでの映像はオレの記憶だ。オレはシルドラ族で、シルファと一緒に暮らしていたんだ。
そう確信すると同時に、シルファと意思疎通ができるようになった。言葉では言い表せないが、なんとなくシルファの思っていることが分かるのだ。
「リントくん!」
ドアが乱暴に開けられ、エルクリフが慌ただしく入って来る。
「無事だったかい!?」
「はい!」
エルクリフはシルファをじっと見つめていた。それからリントに近づく。
「リントくん、君は〝時空移動〟という言葉の意味を知っているかい?」
勿論知っている。
リントは首肯する。
「やはりそうか。ドラゴンと一緒にいてこそシルドラ族だ」
更にエルクリフがリントに近づく。そして彼はリントの両手を取った。
「お願いがあるんだ。〝時空移動〟のゲートを開いて、私を前回と同じ時空へ転送してくれないかい?」
リントは息を呑んだ。とても冗談を言っているようには見えない。
「〝時空移動〟は膨大な魔力を使います。オレだけの力で開けるかどうか……。それに、転送先は選べないし、失敗したら時空の狭間に閉じ込められるリスクだってあります。あと、これは世界改編が行われるので、そう簡単にやっていいことじゃありません」
「それは百も承知だ。だが、どうしても開いてほしんだよ」
リントは黙ってシルファを見つめる。