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アリアはレジスタンスの人質として、SGF本部の前にいた。向こう側にはシュタルクを筆頭にSGFのメンバーが集結。こちら側にはジャンヌを筆頭にレジスタンスのメンバーが控えていた。
数時間前、監察官長室にエルクリフが訪ねて来た。
「今回はアリア官長にお願いがあって参りました」
「お願い?」
「はい。時間がないので単刀直入に申し上げます。レジスタンスの人質となっていただけませんか?」
「人質!? それはどういうことですか?」
「実は私、オリジナルの複製であるクローンというものに抵抗を持っております。人の手で生き物を造るという行為が、どうにも神に反する行為としか思えないのです。クローン抗争が始まってからもう二年半。これ以上クローンが増える前に、この抗争を終わらせたいと思っております。そのための策を思いついたのです」
「それが私を人質としてレジスタンスへ送り込むこと?」
「その通りです。政府側の上席者がレジスタンスの人質となれば、SGFは容易に手を出せない。SGFとレジスタンスに冷静に話し合っていただくことができると思っております」
「私をダシにするってことね」
「ダシにするなんて滅相もございません。ただ、アリア官長はシュタルクくんもジャンヌ様も見知っておりますので、適任だと思った次第です」
「冷静に話し合うって言ったって、そう簡単に結論が出るかしら? 私はそうは思っていないわ」
「そこは私にお任せ下さい。必ずやこの抗争を終結させて御覧に入れましょう」
自信に満ちた物言いに、アリアはそれ以上質問を重ねることはしなかった。既にジャンヌには話を通してあるということだったので、アリアはレジスタンスのアジトへと向かうことにしたのだ。
だが今、もっと詳しくエルクリフの言う策とやらを聞いておけばよかったと少し後悔していた。現状の終着点が全く見えないのだ。
「アリア、お前なんでレジスタンスに捕まってんだよ!」
「口の利き方!」
「今は謝ってる暇なんてねーぞ! で、なんで捕まってんだよ!」
「上司に対する言葉遣いとは思えない!」
「そういうのいいから、早く答えろよ!」
「なんでって……捕まっちゃったから?」
「なんで疑問形なんだよ!」
これ以上アリアと話しても埒が明かないと思ったのか、シュタルクは嘆息してジャンヌに目を向ける。
「ジャンヌ、お前こういうことする奴になっちまったんだな」
「わたしだって人質なんて取りたくなかったわ。だけど、この抗争を一刻も早く終わらせるため、犠牲者をこれ以上増やさないために、わたしは自分の信じるものを貫くと決めたの」
「そうか。つーことは、レジスタンス側はクローンを認めることはないってことだな?」
「ないわ。シュタルクこそ、クローンの製造を停止させるつもりはないの?」
「ねえな」
「そう……。話し合ったところで平行線のようね」
ほらやっぱり。
一応縄で拘束されているアリアは、予想通りの結果に溜息も出ない。
エルクリフは何をしようとしていたのだろうか。この場にいないため、訊ねることさえできない。