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エルクリフがその場を離れて暫く。
「シルファ……!?」
白銀のドラゴンが動いた。
懐かしい。ドラゴンの見た目の違いなど分からなかったが、目の前にいるのは間違いなくシルファだとルカは確信した。
ドラゴンの瞳は先ほどより光を増し、ゆっくりと開かれた口からは鋭い牙が除く。背中の羽を徐に伸ばし、フロンテリア中に轟くと思われるほど大きな鳴き声を上げ、上空に飛び上がった。羽が一振りするだけで、風圧で目も開けていられない。
「どこ行くの!?」
その場を離れようとするドラゴンに問い掛けるが、意味がない。
ドラゴンは迷うことなく中央区方面へ羽ばたいていく。腕で風を遮り切りながら、ルカは頑張ってその姿を追いかける。
「待って!」
エルクリフの言う通り、やはり持って生まれた魂という名の遺伝子には抗えないのかもしれない。
それにしてもすごい風だ。東区にあるボロい建物などは吹き飛ばされてしまいそうな勢いだ。事実、ルカが通り過ぎた宿屋のうちの何軒かは、屋根が剥がれてしまっていた。
「おばちゃん、宿代は払わないからよろしくね!」
聞き覚えのある声が遠く聞こえる。
ルカは一瞥だけしてすぐ前を向いたが、思わず二度見した。
「セフュ……」
「ん、あれ? ルカ? 久しぶりー」
屋根の一部が飛ばされた宿屋から出てきたのは、およそ四年ぶりに会うセフュ。
「この突風なんなのさ。今は落ち着いてるけど、さっきなんて突然屋根が消えたかと思ったら、空から違う屋根の破片が降って来てさ。あと数ミリずれてたら、僕の足にグサッといってたよ」
だから宿代は支払わないと言っていたのか。だがそれは宿屋のせいではないので、おばさんが少し理不尽であるような気もするが、ルカは特に何も言わなかった。
「さっきの突風はドラゴンが通って行った跡」
セフュはさして驚いていなかった。
「そのドラゴンってどこに向かってんの?」
「分からない」
セフュは一度ふーんと鼻を鳴らしてから、口角を上げてルカを一瞥した。
「僕も行くよ」