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小さかったドラゴンのクローンをクリスタルリング自然公園に用意した巨大な加速成長培養器に入れ、容器の中に納まる最大サイズまで成長させた。
そうしてできた目の前の巨大生物を見て、エルクリフは感嘆した。やっとシルドラ族が世界に復活する。
艶のある白銀の鱗、美しい紅い瞳。だが、まだどこか覚醒していない様子。
「シルファ……」
そんなドラゴンの姿を見て、ルカの表情には懐古と物悲しさが混じる。
「エルクリフさん、これで約束は果たしましたよ」
ゴルゴンゾーラがエルクリフの横でドラゴンを眺める。
「最後に聞かせて下さい。なぜシルドラ族の復活を望んでいたんですか?」
どうせいずれ分かることだ。
エルクリフは口を開いた。
「君たちはよく頑張ってくれたよ」
彼は溜息交じりに微笑を零すと、海の向こうに視線を移した。
「だから教えよう。ドラゴンクライシス以降、人によってはシルドラ族の〝時空移動〟より前の記憶が戻ったのは、君たちも知っているだろう。私もそのうちの一人でね、思い出してしまったのだよ。嘗てシルドラ族の恋人がいたことを」
「シルドラ族の恋人……。南の外れにある小島に行ったんですか」
ルカの発言に首肯するエルクリフ。
「私は元は研究官だったらしくてね。シルドラ族について研究していた。何度も島に通ううちに私にはシルドラ族の恋人ができたんだ」
今でも鮮明に思い出せる彼女の姿。白銀の美しく長い髪に、海のように透き通る蒼い瞳。まだ生まれて間もないドラゴンを観察していたときに、突如吹かれた火に焼かれそうになった。そのとき助けてくれたのが、彼女だった。
「私たちは互いに愛し合っていたが、所謂魔導士であるシルドラ族と我々普通の人間が一緒になることなど許されなかった。であれば、どこか遠く、誰もいないところへ二人で逃げようと話していた矢先、世界がシルドラ族殲滅に動き出した」
到底会うことなどできなかった。だがそれでも彼女に会いに行こうと、通常と違うルートを船で辿り、向かった。
「島に着いて彼女の家へ向かったとき、彼女は私の身を心配した。他の人に見つかっては私が殺されてしまうと。一緒に逃げようと言ったが、彼女は〝時空移動〟で違う世界へ行くと言った」
本当は付いて行きたかった。でもシルドラ族に見つかれば殺される。不可能だった。
であれば、彼女に自分と一緒に逃げる選択をしてほしかった。だが、それもできなかった。戦争が激化し、数多くのドラゴンが上空を飛ぶようになってからは、島から出たら見つかってしまうだろう。そうしたら、彼女の身も危険に晒されてしまう。
「結局、私は島を出ることすらできず、彼女に世話になり隠してもらい、あの〝時空移動〟の日に彼女を見送ったんだ。だがどうしても諦めきれなくてね。私は走ったよ。上空で圧倒的な存在感を持つ青い光のゲートに向かって」
必死に駆けった。しかし結局は間に合わず、今こうしてここにいる。
正直、エルクリフ自身も驚いていた。ドラゴンクライシスでシルドラ族の存在を知り、それが封印されていた記憶の鍵が開いた。そこから出てきた記憶は、長い凍結期間を終えたように鮮明で、感情も体の底から何かが湧き立つような、当時の想いそのままだったからだ。