ボスドロップ
「なんとか生き残った……」
「何度も死にかけたぜ」
「俺はばっちり死んだぞ」
「めちゃくちゃ強かったなぁ」
安堵に充実感。
激闘の後で感じることはいろいろあるけれど……。
「にゃああ!! あれほどのダンジョンボスが何を落とすのか、楽しみだにゃ!!」
「だよな」
「そうです~。きっとすごく貴重なアイテムを落としてくれるはずです~」
あれだけ強かったボスモンスターがいったい何を落とすのか、
ドロップアイテムにみんな興味しんしんだった。
そんな空気の中でダークデーモンの死体が消えて、一つのアイテムがドロップする。
それは……。
「ポーションにゃ」
「もしかしてまたステータスアップポーションか?」
不思議な色をしたポーションだった。
宝箱にあったポーションの事を連想する者達が多い中、シラハさんはそれを拾い上げると驚くべき言葉を口にする。
「いや、これは……、『レベルアップポーション』だな」
「レベルアップポーション!!」
彼の言葉に一同驚く。
『レベルアップポーション』はその名の通り、レベルを1だけ上昇させる消費アイテム。
もちろん簡単に手に入るものではない。
「うん。しかもこれはランク2のものだね。レベル15まで上げられるやつだよ。さすがあれだけのダンジョンボスともなると、落とすレアアイテムも格が違うなぁ」
シラハさんの口調はえらく呑気そうなものだったが、これはとんでもないお宝だ。
なにせレベル15まで有効なレベルアップポーション。
これ一つ使用するだけで多くの人間が足踏み状態で困っているレベル10から、英雄レベルと呼ばれるレベル11へと上がれるわけだ。
格段の差。
その一歩を上がる事ができるようになるシロモノ。
金に糸目を付けず欲しがる連中はごまんといるだろう。
「にゃああ!! すごいのにゃ!!」
「まじかよ!!」
「大当たりだな」
もちろん、今回のダンジョン攻略に参加したメンバーのみんなだって欲しがるアイテムである。
とはいえ、ダークデーモンが落としたレベルアップポーションは一つだけ。
この一つだけのお宝をいったい誰がゲットする事になるのか、それが問題だった。
「で、どうすんだ、そのお宝」
ケイゾウの言葉にみんなの視線が自然とシラハさんへと集まる。
「誰が貰うべきかって言うならやっぱり、彼が相応しいんじゃないかな」
「そうね」
「まぁ、そうなるよなぁ」
ダンジョンボスであるダークデーモンに与えた多くのダメージも、止め一撃もシラハさんによるものだ。
それに、みんなが戦闘から一時離脱している間もひとりで巨大ボスと群がる雑魚敵を相手し続けてもいた。
彼の活躍にケチをつけられる人間などこの場にはいない。
そもそもボス相手だけでなく、道中に次々と湧いた雑魚モンスター達すら彼がいればこそ切り抜けられたのである。
「んじゃこの貴重な戦利品は我らがエース様の物ってことで……」
内心の欲求を抑えて『レベルアップポーション』をシラハさんに譲ろうとする一同だったが……。
彼はあっさりとその権利を辞退する。
「いや、俺はいいよ。すでにレベル17だから貰ったところで使えないからね。それにみんなの援護がなかったらあのボスは倒せなかった。俺なんかよりみんなの方がこのポーション受け取るに相応しいよ」
シラハさんの言葉にレティリアさんも頷く。
「たしかに物が物だけにちゃんと使える人が貰った方がいいわね。私もレベル15だから、ちょうど対象外になるわ」
今回のダンジョン攻略で最も活躍した二人がボスの落とした戦利品を受け取らない。
そうなると、ダンジョン攻略の貢献に多少の差はあれど他の誰が貰ってもおかしくはない状況となる。
そんな中で真っ先に動いたのはアイルだった。
「にゃにゃ!! そういうことにゃら!! ダンジョン発見者であるアイル達こそが、このお宝を受け取るに相応しいのにゃ!!」
お宝の分配は『無明に宿る赤き黄金の月団』を優先とする。
その事前の取り決めを訴えて権利を主張する猫娘に、ラグザとケイゾウが言う。
「ここぞとばかりに貪欲にいくね」
「でもまぁそうなるか。もとから戦利品に関してはお前らに優先するって約束だしな」
アイルの主張に納得する者達は多かったが、全員ではない。
異を唱える者もいた。
「いや、ちょっと待った」
それはアイルとは何かと意地を張り合う事も多い宝条だった。
彼女は堂々たる態度で一同に訴える。
「みんな忘れてるかもしれないけどさ、この祠にこれたのはそもそもうちのイージスのおかげだろ? 謎解きだけじゃなくてさ、ここに入る石もあいつが分け前として貰った物だったわけじゃん。なら二人がいらないんってんなら、イージスにこそ貰う権利があるはずっしょ」
当然の権利とばかりに主張する宝条。
いつもなら図々しく野蛮に映る彼女の態度も、今回ばかりは頼もしくみえる。
――宝条はん……、よう言うた。よう言うてくれた!!
心の内で宝条に感謝する俺。
実は最初から思っていたのだ。
『これ、俺が貰ってもよくなくなくなくない?』と。
でも言いだせなかった。
ユナイテッドステイツの人々のように己の権利を強く主張できなかった。
――だってオイラは『和を尊ぶ』日本人だから……、京都の舞妓さんに『えらいがめつい人どすなぁ~』と思われたくはなかったから……。
あっ、転生したんだからもう地球人ですらないんだった。
とにかく宝条の発言で場の流れは変わった。
「あ~、そういやそうだったな」
「ボス戦も活躍してたしね」
「ワープしてすごかったです~」
「にゃああ、たしかにそうなのにゃ……」
「だろ? ってことでこいつはイージスが貰うってことでいいよな?」
彼女の主張に異論を唱える者はなく、『レベルアップポーション』は無事俺の戦利品となることに。
「はい、それじゃあイージスくん、これ」
「ありがとうございます」
シラハさんから手渡された『レベルアップポーション』を俺は大切にしまいこんだ。
その様子を見ながら、宝条がからかうように言う。
「イージス、まだレベル10になってないんだから慌てて使っちゃったりなんかするなよ」
「わかってるよ」
現在の俺のレベルはダンジョン攻略開始時と同じレベル8のまま。
戦闘に関してはかなりの比重でシラハさんレティリアさんの二人頼みだったので、それも仕方ない。
レベル10に達するまでは、この戦利品を寝かせておく必要があった。
「新たな英雄誕生はお預けかぁ」
「残念にゃ」
「レベル10になって使えるようになるまで、失くさないよう注意しないとね。コソカナの銀行に預けておくのがいいと思うわ」
レティリアさんのアドバイスに俺は頷く。
「はい、そのつもりです。預け賃はちょっと高いですけど、今回はゴールドも結構稼げましたから」
コソカナの街には銀行がある。
お金の出し入れだけじゃなく、アイテムを預かってもくれるのだが、利用料として一アイテム一万ゴールドもの大金を必要とするので、日頃から気軽に利用できるものではなかった。
それでも銀行とだけあって保管品に対する警備は厳重であり、その安全性の高さは確かだ。
今回のダンジョン攻略ではゴールドの分け前だけでも六万弱の稼ぎがあり、そこから一万ゴールド払う事になってもなお十分な黒字が残る。
そして預ける物が物だけに、大金を払うだけの価値はある。
「銀行か。都会は便利でいいな」
「ラーベンにはそんなものないからな。コスジャまでいかないと」
田舎国家の田舎街で活動するハセとツカオの愚痴にマリーさんが言う。
「ラーベンで活動する人はきっといい人ばっかりだから必要ないんですよ~」
悪事を働く人間がいなければ盗まれる心配もいらない。
そのお世辞に二人は喜ぶ。
「おお、なるほど」
「さすが、いいことを言う!!」
だがそんな彼らに、現実では田舎街暮らしの女、宝条が容赦なく言い放つ。
「いや、ただ不便な田舎ってだけだろ……」
――それを言っちゃおしまいよ!!
「それじゃ帰還用のゲートを出すわよ」
一部の者達が田舎街の悲哀を感じていると、レティリアさんが詠唱を開始する。
そして彼女が出してくれたゲートで、俺達全員は移動。
ダンジョン奥深くから『無明に宿る赤き黄金の月団』のギルドハウスへと帰還した。
今回の新ダンジョン攻略。
死者も出るほどの大変さではあったが、それに見合うだけのゴールドとさらなる戦利品『レベルアップポーション』までゲットできた。
これ以上とない大成功だったといえるだろう。
――最近のイロモ生活、順調すぎるな。




