ダンジョン攻略『下』
隠し階段の奥へと進んだ俺達は、その先で巨大な空洞に設置された祠らしき人工物を発見する。
辺りにモンスターの姿こそなかったが、漂う淀んだ空気と地面に印された巨大な魔方陣は、この場がただならぬ場所である事を告げていた。
目立つのは巨大な魔法陣だけではない。
五体の石像も設置されており、その中でも魔法陣の中央に設置された禍々しき悪魔の石像は強く目を引いた。
「いかにもって感じだな」
「でもモンスターはいないのにゃ」
「また何か仕掛けがあんのか?」
これだけの舞台を用意しておいて、何もないってことはないはずだ。
経験的に、そして本能的にパーティーの誰もがそれを察していた。
どうすればボスが現れるのか。
その疑問の答えを求めるようにみんなの視線が一点に集まる。
「仕掛けってなるとやっぱアレだよな」
視線の先にあるのは禍々しき悪魔像だった。
像の片目が欠けており、そこにちょうど何かが入りそうな穴が開いていたのだ。
みんな思う事は同じ。
あの宝箱部屋の仕掛けの事を思い出していたようだった。
「もしかしてまたあの石が必要なのか?」
悪魔像に開いた穴のサイズはぱっと見で、あの像と同じであるようだった。
例の石は像にはめ込んだままになっているから、ここでも使うならわざわざ取りに戻る必要があった。
「イージス、石ってあの部屋に置きっぱなしだったよな?」
宝条のその問いに俺が頷くと、彼女は面倒そうな表情を浮かべた。
「ったく、いちいち手間のかかる仕掛けだな」
悪態をつく宝条に俺は言う。
「もしかしたら、取りに戻る必要はないかもよ」
「けど他に使えそうな石なんてないだろ」
周囲には悪魔像の穴に入りそうな石など見当たらない。
宝条や他のみんなはそう思っていたようだったが、この場で俺だけはある事に気が付いていた。
それは祠と宝箱部屋との共通点。
「おい、どうしたんだよ」
宝条の問い掛けに返答もせず、俺は悪魔像を囲む四体の像の一つ、頭部が破壊された石像へと近付く。
そしてその腕の部分に見えた膨らみを調べて確信する。
「やっぱり」
「なにがやっぱりなんだよ」
「悪魔像に使う石はコレだよ」
宝箱に入っていた物とは違い、色こそ像に溶け込んでて見分けづらかったが、部分的に石が取り外せるようになっていたのだ。
大きさも丁度悪魔像の片目に収まりそうなサイズである。
「よく気が付いたな」
「全然わからなかった……」
宝条とポム嬢、そして他のみんなも俺の発見に驚き感心していた。
「この像さ、あの部屋にあった像と同じ物なんだよ。同じ物っていうかモデルが一緒というか」
「んん? そうか?」
「顔は無くなってるしポーズも違うけどね。想像にすぎないけど、たぶん悪魔に敗れた四人のパーティーって感じなんだろうね」
「じゃあ頭がないのもそれ込みでデザインってわけかよ。うっわ、悪趣味だなぁ」
「まぁそれで、ひょっとしたら同じ腕輪の部分に石があるのかと思ってね」
宝箱部屋との共通点に気づいて立てた俺の推理は正しかった。
無事に石はゲットできた。
あとはこれを悪魔像にはめればこのダンジョンのボスモンスターが出現するはずだ。
「んじゃさっさとその石はめて、ボス討伐といこうぜ」
「失敗した四人に代わって、アイル達がやっつけるのにゃ!!」
「支援魔法かけときます~」
パーティーみんなの戦意は十分。
戦闘の下準備もばっちり行うのを確認してから、俺は悪魔像へと近付く。
そして手にした石を像の片目へとはめ込む。
すると……。
――ゴゴゴ。
像が不気味に光り、祠全体が大きく揺れ始めた。
魔法陣は煙を吐いて周囲の視界を奪う。
「まさか罠だったんじゃねぇだろうな!!」
「いや、ビンゴだ!!」
魔法陣から吐き出された煙の先に浮かぶ巨大な影。
おそらくは像の四人が何とかして魔法陣に封印していたのであろう怪物の姿だった。
――ウヴオォォォ!!
咆哮と共に煙が消し飛ばされて、明確となるダンジョンボスの正体。
それは片目を潰された巨大な悪魔モンスター『ブラックデーモン』だった。
「でけぇな、おい」
「大きい……」
「強そうですね……」
宝条、ポム嬢、姫岸さんと、ギルド『ナナム』の三人娘は初めて目にする巨大ボスモンスターの姿に圧倒されていた。
無理もない。
彼女達よりもイロモ歴が長く、ある程度巨大なモンスターには慣れていたはずの俺や他のメンバー達すら驚いていたのだから。
「普通のデーモンの倍以上はあるんじゃねぇのか」
ケイゾウの言葉に苦笑いを浮かべながらラグザが言う。
「強さも倍以上だったりして」
「ブラックデーモンが倍の強さになったらヤバイだろ」
通常のブラックデーモンですら高HP、高攻撃力、魔法も使えて耐性もある強敵と認識されているのに……、それがダンジョンボスともなればどれほどの強さになるのか。
嫌な予感をひしひしと感じる俺達だったが……、いまさらやっぱり帰りますとはいかない。
「こっちには巨人殺しがいるのにゃ!! ちょっとでかいデーモンぐらいなんとかなるのにゃ!!」
俺達は覚悟を決めなおして、戦闘態勢をとる。
――ウヴオォォォ!!
こちらが動くより先に、ブラックデーモンは空間を歪めて次々と雑魚モンスターを召喚する。
召喚されたモンスターは『ミニデーモン』と『ゾンビ』。
一体一体はそれほど強くはないモンスターであったが数は多く、油断はできない。
「ヤツの攻撃は俺が引きつけるから、みんなは魔法での援護を頼む。他の前衛は後衛の守りを固めて」
ブラックデーモンを睨みながら指示を飛ばすシラハさん。
キラードール戦と似た戦い方ではあるが、今回は相手のレベルが格段に違う。
「ひとりであのデカブツを相手にするってか? 大丈夫かよ」
その点についてケイゾウが危惧して問うと彼は言った。
「逆さ。あれだけ巨大なブラックデーモンだ。並の前衛が前に出たところで攻撃を受けきれない。だけど俺の装備とステータスならまだなんとかなるはずだ」
「まぁそれもそうか……。んじゃ頼んだぜエース様よ、あんたがしくじったら俺達全員お陀仏だ」
「全力を尽くすよ」
その言葉を残して、シラハさんは単独でブラックデーモンへと向かっていく。
もちろん敵もそれを黙って見てはいない。
召喚されたミニデーモンやゾンビの群れがパーティー全員に襲い掛かってくる。
「来たぞ!!」
「迎撃するのにゃ!!」
襲い掛かってくる大量の雑魚モンスター。
俺達が連携してそれに応戦する間にも、シラハさんはひとり巨大なボスモンスターを相手していた。
「すげぇな、一人でマジでやりあっちゃってるよ」
巨槍を振るい、重装備にも関わらず機敏に動いてダークデーモンの一撃を回避する。
合間合間に襲い掛かってくるミニデーモン達への対応も完璧。
隙がない見事な戦いっぷりだった。
「感心してる暇はねぇぞ、こいつら次から次へと湧いてきやがる」
「無限召喚かよ」
俺達前衛陣はダークデーモンが召喚してくるモンスターの相手をするだけでも手一杯。
もしこの状況でシラハさんに助けを頼まれたって向かえる状況ではなかった。
「これ以上さがったら魔法が届かなくなる。みんなねばって!!」
それでも魔法を使えるメンバーにはできるだけシラハさんへの援護射撃をさせようと戦線を後退させず必死に戦う。
その介あって、何発か魔法攻撃をダークデーモンに撃てていたのだが……。
――ウヴオォォォ!!
散発的な援護魔法が気にさわったらしく、巨大な悪魔は狙いをシラハさんからこちらへと変更する。
ダークデーモンの頭部に生えた角がバリバリと音を立てて黒く光りだしたのを見て、俺達は自分達に迫った危険を察知した。
「あれヤバくないか?」
「くるぞ!!」
角に集まった魔力の塊が黒い雷撃に姿を変えて放たれる。
雷撃はハセのもとに落ちて、小さな爆発を起こした。
「大丈夫か!? ハセ!!」
ツカオが慌てて吹っ飛ばされて倒れこむハセの無事を確認するが、返事はない。
彼のステータスを確認する。
「げっ、死んでる。魔法でも一発貰っただけでアウトかよ!!」
ダークデーモンの魔法攻撃を避けられなかったハセは即死していた。
前衛ともあってハセのステータスや装備では高い魔法耐性があったわけではなかったが、俺や他のメンバー達の多くと比べても著しく劣ってるなんてことはない。
にも関わらず、召喚されたミニデーモンやゾンビとの戦闘で多少はHPを削られていたとはいえ、まさかボスの魔法を一発食らっただけで死亡するとは……。
そうなってくると、受けるダメージにはある程度の幅があるとはいえ、ダークデーモンから距離をとって応戦しシラハさんの援護もするって戦法は簡単には続けられそうになかった。
そしてその懸念が当たっている事を、俺達はすぐに知る事になる。
――ウヴオォォォ!!
再びダークデーモンの角が黒く光る。
ターゲットは完全にこちらに向いたままだ。
「おいっ、二発目がくるぞ!!」
「やばいよ!!」
ハセの即死の件もあって動揺する仲間達の姿を見て、レティリアさんが指示を飛ばす。
「一度下がりましょう!!」
後方にさがる俺達を守ろうとゴーレム隊が間に立つ。
ダークデーモンが放った二撃目の魔法はそのゴーレム達に命中した。
一撃粉砕。
直撃を受けたゴーレムはばらばらに砕け、爆発の範囲内の入っていた他のゴーレム達も大ダメージを受けていた。
そんな状態でミニデーモンやゾンビの足止めまでしようってんだから、長くは持たないのは明らかだった。
ゴーレム隊は完全な捨て駒。囮役。
哀れな石人形達の奮戦を目にしながらアイルと宝条が言う。
「なんだかかわいそうだにゃ……」
「んなこと言ってる場合かよ」
ゴーレム達が時間を稼ぐ間に、俺達はシラハさんを残して戦線を離脱。
態勢の立て直しをはかる。
受けたダメージの回復や残ってる消費アイテムの確認。
それになにより、死亡したハセを蘇生しなくては……。
「ハセさ~ん、こっちにきてくださ~い」
死んだ人間に呼びかけるマリーさん。
すると彼女のもとに人魂がやってくる。
ハセの魂だ。
肉体は無いし、しゃべれもしないけどこの魂を操っているのは彼自身だ。
「それじゃ蘇生します~」
そう言ってマリーさんは青い鉱石を取り出す。
彼女が手にしていたのは貴重な蘇生アイテム『レム石』であった。
死者を復活させるには蘇生魔法を使うという手もあるが。
蘇生魔法の習得は難しく使い手は限られており、また蘇生魔法を覚えていたとしても詠唱時間が長く、戦闘中の使用にはむかない。
それに比べてレム石は使用者に制限はなく、魔法よりずっと短い時間で蘇生できる強力なアイテムであった。
だが、石は使用時にランダムな確率で壊れてしまうという制限があって、運が悪いと一回の使用で壊れてしまう事もある。そして、最低でも一つ数十万ゴールドの価値はあり、とてもじゃないが一般的なプレイヤーではおいそれとは使えないレアアイテムだった。
手強いボス戦の最中とはいえ、そんな物をハセの蘇生の為に渋る事もなく取り出すのだからマリーさんもいい人だなぁ……。
と俺は変な感心をしていた。
そんな変な感心をする俺をよそに、マリーさんがレム石を使用する。
石が青い光を放ち、その石の光に同調するようにハセの人魂も光り始める。
そしてみんなが見守る中、その光は人の姿を形作っていき、それは新たな肉体となってハセが復活した。
「いやぁ、さすがボスデーモン。強すぎ。マリーさんありがとね。わざわざレム石まで使ってもらっちゃって」
「いえいえ~、これが私の役目ですから~」
「しかし復活させてもらったのはいいけど、何も出来ないよ俺、コレだし」
己の身なりをみんなにアピールするハセ。
復活したばかりの彼は裸ではないものの、ボロっちいローブを装備してるだけの状態であった。
死亡前に装備、所持していたアイテムは当然、死体に置いてきたままだった。
そんな状態の仲間を見て、ツカオが言う。
「とりあえずアイテムの回収を急がないとな」
放置された死体に残ったアイテムはシステム上、ある程度時間が経つと一緒に消滅するようになっている。
消滅までの時間的余裕は結構あるのだが、問題は……。
「盗まれてないといいけどなぁ」
時々モンスターが死体のアイテムをあさって盗んでいく事にあった。
あまり死体を放置していると、せっかく回収に向かっても、アイテム盗んだモンスターを探し回る事になり二度手間になるのだ。
「ハセの装備もだけどさぁ、俺達のエース様はほんとに大丈夫なのかね?」
ハセのアイテムと共にシラハさんの事を気にするケイゾウ。
俺達が態勢をととのえている間にも、彼はダークデーモンや召喚モンスターとの大群を相手にひとりで戦っているのだ。
「心配です~」
「そうね。シラハの事だから簡単にやられたりはしないでしょうけど、あまり長く待たせるわけにもいかないわ」
シラハさんの実力をよく知るマリーさんやレティリアさんの二人も、事態を楽観視はしていない。
「けど援護するに戻るにしてもどうすんだ? 同じような戦い方したってまた反撃食らって終わりだぞ」
「ボスには手をださず、雑魚相手に徹するしかないわね」
ケイゾウとシズク姉さんの言葉にレティリアさんは頷く。
「ええ、みんなはダークデーモンには手は出さず、ミニデーモン達の数を減らすのに専念して。それだけでもシラハの負担は軽くなるはずだから。ダークデーモンを直接叩く援護は私がするわ」
圧倒的な力を有するボスモンスターとイロモ界屈指のトッププレイヤーとの戦い。
それに直接ついていけるのは、どうやらレティリアさんぐらいらしい。
俺達は戦法を決めなおすと、再び激戦必至の戦場へと向かった。
「相変わらず、すごい数だな」
「なんかさっきより増えてる気がする」
「とにかく前進だにゃ!!」
ハセの死体からアイテムを回収する為に、俺達は大量の召喚モンスターの中へと切り込んでいった。
ゾンビを斬り倒し、ミニデーモンを魔法で撃ち落して進む俺達。
そうして必死で戦う仲間達の傍らで当人たるハセのやつは……。
「みんな頑張れ~、オグさんナイスゥ~、アイルちゃんいいよぉ、ツカオくんもその調子でじゃんじゃん魔法撃っていこう!!」
やる事もなくて暇らしく、非常にてきとうな声援を飛ばしていた。
「鬱陶しいやつだにゃ」
「あいつからエール送られても戦意高揚どころか、やる気なくなってくるな」
うざい声援に一部メンバーのやる気が削がれたりもしたが……。
「おお、あったあったマイ死体!!」
俺達はなんとかハセの死亡地点へと舞い戻る事ができた。
己の死体を発見できて喜ぶハセにツカオが言う。
「さっさと回収して、チェック済ませろよ」
「わかってるって」
仲間に急かされながら死体へと触れるハセ。
すると死体が消滅し、そのあとにはいくらかのアイテムが残されていた。
その残されたアイテムはハセの所持容量に入り切らなかった物である。
「ええと……」
己のステータス内のアイテム欄と外に残されたアイテム。
それらを確認、整理して欠けた物がないかを確認していくハセ。
「げっ、やっぱりぼちぼち盗られてんなぁ」
「装備もか? ぱっと見じゃだいじょぶそうに見えたけどな」
「アクセがやられてる。あとはポーションと金だなぁ」
「そいつはお気の毒さま。けど盗んだ雑魚もまだその辺うろついてるだろうし、そのうち回収できるだろ」
「だな」
「装備があんまやられてないんなら、戦えるよな?」
「当然」
一部回収しきれてないアイテムもあるようだったが、ハセが戦線に復帰する。
そして……。
「それじゃシラハの援護に向かいましょう」
ハセのアイテム回収を終えた俺達はシラハさんの助けに向かうことにする。
助けに向かうといっても直接援護するのはレティリアさんの役目。
俺達は召喚されてくるモンスターを相手にした間接的援護にすぎないが……。
――ギィィ、ギィィッ!!
――ウバァァ。
どんどんと湧いてくるミニデーンモンとゾンビ。
俺達は協力してそれを蹴散らし進み、ダークデーモンへと近く。
巨大なボスモンスターとある程度接近をしたところで、レティリアさんが言う。
「ここまででいいわ。これ以上近付いたらまたターゲットを変えてくるかもしれないし」
「わかりました」
「レティリアさん、頑張ってくださ~い」
「ええ、みんなもね」
戦力として大きな存在である彼女が抜けるのは痛い。
だがダンジョンボスであるダークデーモンを討伐をしないかぎり、このまま戦い続けたところでやがてジリ貧になるであろう事もまた事実である。
「ここが踏ん張りどころだにゃ!!」
レティリアさん抜きで俺達は大量のミニデーンモンとゾンビを相手に戦い続けた。
剣を振るい、魔法を放ち、仲間の盾となり、傷を癒す。
それぞれがそれぞれの全力を尽くす戦い。
「そっちいったぞ!!」
「回復ちょうだい」
「やべぇポーションもうほとんどないぞ。誰か余ってない?」
「こっちも余裕ねぇよ」
「私少し余ってますよ~」
そうやって戦う成果か、アイテムも切れかけたころにはミニデーモンやゾンビ達の数が減り始めていた。
「ついに打ち止めか?」
「二人が頑張って、それだけボスを消耗させてるってことか」
俺達が視線を向ける先には遠目ではあるが、巨大デーモンと激闘を繰り広げるシラハさんとレティリアさんの姿があった。
そしてその時、激闘にある変化が起こる。
――ウヴオォォォ!!
一際大きくダークデーモンが咆哮すると、そのまま空中へと飛び立ってしまったのだ。
それを見てケイゾウとハセが言う。
「上に逃げやがった」
「おいおい、これってちょっとまずくないか?」
地下といえど空間は広く天井は高い。
宙に逃げられてしまっては近接攻撃は届かない。
つまり主戦力であるシラハさんの火力が活かしきれないって事だ。
それに問題はそれだけでなく……。
「げっ、こっちくるぞ!!」
ダークデーモンには強力な魔法攻撃がある。
奴は空中から、見境なく一方的に魔法を乱発し始めたのだ。
ドッカン、ドッカンと撃ち放題。
その一発一発の威力はハセの死亡が証明済み。
「うわっ!!」
「にゃああ、むちゃくちゃだにゃ!!」
逃げ惑う俺達を嘲笑うようにダークデーモンは攻撃を加えながら空中を旋回する。
「またくるぞっ!!」
「散開しろ!! このまま固まっててもいい的だ!!」
ファルタの言葉に従って俺達はバラけるように逃げ出す。
そこへシラハさん達が戻ってきた。
「大丈夫か!?」
彼の問いに俺はうなずき返答する。
「なんとか死人はでてないっぽいですけど……」
――ドカーン。
会話している間にもダークデーモンは容赦なく破壊力抜群の雷撃を落としていく。
その爆音を耳にしながら俺はシラハさんとの話を続ける。
「でも、このままじゃ一方的にヤラれますよ」
「ダークデーモンが飛ぶのは知っていたけど、まさかこんな戦い方をしてくるとは……」
シラハさんは困惑した表情を浮かべていた。
通常のダークデーモンは飛行する事があっても、それは移動や戦闘中にちょっとした変化をもたらす程度で、基本は接近戦に徹するのが決まったパターンであった。
だが、ダンジョンボスである今回の巨大ダークデーモンはピンチになると空中からの魔法攻撃に徹底していて、いっこうに降りてくる気配がない。
どうみてもわざとシラハさんとの接近戦から逃げている。
格の高いモンスターとしてはプライドを捨て勝ちにこだわった戦法だった。
「どうするんですか? ああなると魔法で対抗するしかないでしょうけど……」
一緒に逃げていたマリーさんやシズク姉さんに俺が視線を向けると彼女達は言った。
「もうほとんどMPも残ってないです~」
「私もよ、たぶん他のみんなだって……。いくら相手も弱ってるとはいえ残りのMPで倒しきれるかどうか……」
ダークデーモン相手に残り少ないMPで魔法合戦を挑んでも勝ち目は薄い。
それはシラハさんとて承知の事。
「ああ、たぶん魔法だけじゃ奴は仕留めきれない。なんとかしてあそこから落とさないと」
「魔法でですか~?」
「いや……、イージスくん」
「はい?」
「ちょっと大変かもしれないけど、頼みたい事があるんだ。君にしかできない事でもある」
「俺にしか?」
「うん。ちょっと大変な役割だけど、やってもらえると助かる」
そう言ってシラハさんはダークデーモンに止めを刺す為の作戦を説明する。
たしかにそれは、俺の協力がなければ成り立たないものだった。
「どうかな、やってもらえるかい?」
俺の意思を確認するシラハさん。
彼の立てた作戦に不安がないわけではなかったが、渋ったところで他に打つ手が思いつくわけでもない。
迷っている時間はなかった。
「わかりました。やりましょう」
俺の返事を聞くと、シラハさんはバラバラに逃げ散らばっていた仲間達に各自がこれからやるべき事を伝えていった。
強力なボスモンスターとの戦闘中ともあって、全員に作戦の一から百までを説明している時間はなかった。
それでも彼の指示にみんな異議は唱えず、了承する。
シラハさんは単なるレベルやステータスだけでなく、これまでの戦いでの活躍を以って、みんなからの信頼を勝ち取っていたのだ。
作戦の全体像を理解しなくとも、彼の指示に従えば強力なボスモンスターを討伐できると。
信頼できるリーダーの指示のもと、俺達はダークデーモンに対する反撃を開始する。
「イファラ!!」
「イアスラ!!」
「ドラーラ!!」
それまで宙からほとんど一方的に蹂躙していた相手に対して、魔術師組は果敢に反撃の魔法を撃ち込む。
「おーい。こっちだ」
「いや、こっちだこっち」
前衛組は効果があるかわからない挑発を飛ばして少しでもダークデーモンの注意を引く。
そうして奴の狙いがみんなの方へと向いてる間に、俺とシラハさんは別の行動を取っていた。
「はあっ!!」
巨槍の一撃で足もとの岩盤を砕くシラハさん。
そして砕けた岩盤から人が乗れるほどのサイズがある物を選ぶと、彼はそれを持ち上げて己の頭上に放り投げた。
もちろんそれだけでは投げた岩盤はダークデーモンの高さまで届かない。
だから彼は落下してくる岩盤の下で大盾を構えて、スキル『シールドバッシュ』を発動させる。
このスキルは本来、対面の敵を弾き飛ばす為に使われる技なのだが、シラハさんはそれを応用して重い岩盤をダークデーモンのもとまで飛ばしてしまうつもりだった。
そしてその狙い通り、盾の一撃を受けた岩盤は勢いを増してはるか高くへと打ち上がった。
向かう先はもちろん、飛行する巨大デーモン。
「今だ、イージスくん!!」
「はい!!」
ダークデーモンに向かって飛ぶ岩盤の軌道を確認しながら、俺はメルフォーネの書に宿る力を発動させた。
瞬時にして肉体は空飛ぶ岩盤へと転移する。
目の前には標的であるダークデーモンの姿。
俺がやるべきことはただ一つ。
迷いなく岩盤を蹴って飛び、ダークデーモンの巨体へと斬りかかった。
「うおりゃっ!!」
手応えは確かだった。
――ウヴオォォォ!!
だが巨大デーモンは悲鳴こそあげるが、そこどまり。墜落はしない。
俺の方はというと一撃こそは浴びせたものの、そのまま相手の巨体に弾かれて宙に飛ばされてしまう。
もちろんこれで終わりというわけじゃない。
――まだだ。
再びメルフォーネの書を取り出して俺はその力を発動させる。
向かう先はシラハさんが飛ばしていた第二波の岩盤。
やる事も同じだ。
――落ちろっ!!
これで駄目ならメルフォーネの力が尽きるまで繰り返すまでのこと。
その覚悟で繰り出した二度目の攻撃はダークデーモンの潰れた片目に深々と突き刺さった。
――ウヴオォォォ!!
飛行する悪魔の巨体がぐらつく。
そしてそのまま体勢を崩したダークデーモンは真っ逆様に落下し始めた。
――よしっ!!
自分に与えられた役目はここまで。
俺は墜落に巻き込まれないよう突き刺した剣から手を離し、メルフォーネの力で転移する。
そうして楽々と着地した後は、ボス殺しの作戦、その仕上げの瞬間を見守った。
――ドーン!!
墜落し轟音を立てるダークデーモン。
その落ちた悪魔の巨体へと駆け寄る一人の男。
シラハさんだ。
彼は落ちた悪魔に対して容赦のない巨槍の一撃をお見舞いする。
――ウヴオォォォ!!
ダークデーモンがあげる絶命の叫び声だった。
「やったか!?」
「さすがに死んだだろ!!」
身動きしなくなった悪魔の様子にもまだ勝利を確信できない者達もいたが……。
そんな彼らに向かって、シラハさんは悪魔の体から巨槍を引き抜くと、それを高々と持ちあげてみせた。
そのしぐさが意味するものを場にいるみんなが理解している。
「うおおおお!!」
「やったのにゃ!! アイル達の勝ちなのにゃ!!」
歓喜するパーティーメンバー達。
激闘の末に俺達はついにダンジョンボスであるダークデーモンの討伐に成功したのだ。




