ダンジョン攻略『中』
ホーンデビルを殲滅した俺達は探索を再開する。
そうして出会う次なる敵は、浮遊する一つ目のモンスター『オキュルス』の群れだった。
「オキュルスが十近くはいるぜ」
ケイゾウからの報告に緊張感が高まる中、ファルタとラグザが言う。
「オキュルス十体か。MPの少ない前衛が相手するにはキツイ数だな」
「マイクラ集中されたら魔術師でもヤバイ数だよ」
オキュルスにはホーンデビルほどの攻撃力や機動力はないが、HPや防御力では大きく上回っている。
そして何より奴らには単眼の瞳から放つ厄介な攻撃、『マインドクラッシュ』がある。
マインドクラッシュは標的のMPを削り、MPが0未満になると『朦朧』や『気絶』『混乱』などの状態異常をランダムで引き起こすという凶悪な魔法だった。
前衛役となる戦士系のPCは基本MPは低く魔法攻撃には弱い。
一体相手するだけでも危険だが、二、三体からマインドクラッシュくらえば一瞬でMPは削りきられてオワリだ。
「下手に集団戦しかけても混乱で同士討ち始める確率があがるだけだぜ、どうするよ?」
ケイゾウの言葉にシラハさんはレティリアさんの方を見た。
それだけでいったい何を求められているのかを、彼女は察する。
「私の出番ね」
レティリアさんは魔法の詠唱を始め、ゴーレム部隊を召喚した。
召喚された石人形の兵士達をみてアイル、ファルタ、シズク姉さんの三人が言う。
「ゴーレムならマイクラは食らわないにゃ!!」
「これだけいれば、通常攻撃も受けきれるな」
「一人ですごい数を召喚するのね」
「それじゃいくわよ」
そしてレティリアさんはそのまま己のゴーレム隊をオキュルス達へと突っ込ませた。
ゴーレムとオキュルス。
その戦い方は対照的といえた。
黙々と目の前の標的を殴り飛ばすゴーレムに対して、オキュルスは得意技であるマインドクラッシュを連発する。
だが精神を持たない石人形に対してマインドクラッシュは効果がない。
やがて効果のないマインドクラッシュ連発したオキュルス達はMPを浪費し空にしてしまう。
当然これ以上のマインドクラッシュは発動できない。
その様子を確認してシラハさんは言った。
「よし、そろそろいいだろう」
「狩りの時間だにゃ!!」
「お~し、タコ殴りだ!!」
マインドクラッシュを使えなくなったオキュルスなどもう怖くはない。
俺達は数で押し切るように、通常攻撃しかしなくなったモンスター達に襲い掛かった。
「チームワークの勝利だにゃ!!」
ゴーレム隊と共にオキュルスを討伐して満足気な猫娘にハセが言う。
「ゴーレム様様なだけな気がするけどな」
オキュルスの群れとの戦闘の結果は反撃ダメージこそ受けたものの、死者はナシ。
完勝といえる結果だった。
「この調子でどんどん進んでいくのにゃ!!」
ホーンデビル戦、オキュルス戦と自分達が行き詰っていたエリアでの完勝劇に気を良くするアイル。
彼女だけでなくこの連勝でパーティーメンバーの間には若干の楽観ムードが漂っていたことはたしかだった。
俺自身。
――やっぱシラハさんやレティリアさんみたいな戦力がいると全然違うなぁ。
と思ったりもしていた。
だが……。
「きゃっ!!」
「なんだにゃ!!」
さらに奥へとダンジョンを進んだ、その道中で俺達は奇襲を受けてしまう。
「ちっ、キラードールか!!」
「囲まれてんな」
「悪い、完全に見落とした」
仕掛けてきたのは『キラードール』。
ダンジョンを守る土偶のモンスターだった。
キラードールは潜伏のスキルを持っており、ケイゾウの索敵に引っ掛かる事なく待ち受けていたらしい。
いつ間にか十を越える数のキラードールに俺達は取り囲まれていた。
そんな状況下でもシラハさんは冷静に判断を下し、迅速に指示を飛ばす。
「前の敵は俺が引き受ける。レティリアは後ろの奴らを頼む!!」
「わかったわ」
「他の前衛は守りに専念!! 下手に敵を追わない事!! 陣形を崩したらそこを突かれて一気に崩壊するぞ!!」
キラードールは素早い動きと『死針』という強力な投擲攻撃を持っている。
翻弄するように動き回り、遠距離攻撃でガンガンHPを削ってくる相手にひたすら耐えるってのは、相当の忍耐を要求されるものだ。
どうしても前衛陣としては距離を詰めて接近戦に持ち込みたくなる。
だがその誘惑に負けて相手を深追いして陣形を崩せば、奴らはその隙を突いて防御力のない魔術師を狙ってくるだろう。
自分達の陣に入り込まれてキラードールに暴れられたら、一瞬で後衛陣が壊滅する可能性だって十分にあった。
俺達は消耗戦、長期戦覚悟でキラードール達と慎重に戦わなければならなかった。
「くっそ痛ぇ!!」
「回復のタイミングミスったらオワリだなこれ」
後衛を守るように前衛役が円形の陣を組んで壁となる。
その壁役達にキラードールは容赦なく死針攻撃を加えてくる。
それを回避し、時にはわざと受けてなんとか後衛陣を守ろうとする俺達。
だがこの戦闘は、そうやって遠距離からの攻撃だけに注意しておけばいいというわけでもない。
「突っ込んできたぞ!!」
奴らは隙をうかがっては、一気に距離を詰めて接近戦を仕掛けてくるのだ。
――させるか!!
陣を割って入ってこちらの魔術師達を狙おうとするキラードール。
その侵入を俺はギリギリのところで阻む。
「ナイス、イージス!!」
「イージス、グッジョブ……」
宝条やポム嬢からお褒めの言葉を頂くが、俺が出来たのはあくまでキラードールの侵入を防ぐ事だけ。
一撃、二撃ダメージを与えるのが精一杯で、撃破するまでには至らない。
そして突入に失敗したとみるや、キラードール達は再び距離をとって死針での遠距離攻撃を始めてしまう。
絶対に必要以上には食いついてこない。
むしろこちらが食いついて陣形を崩すのを狙うかのような嫌らしい戦い方に敵は徹していた。
「イファラ!!」
「イアスラ!!」
「ドラーラ!!」
動き回るキラードール達を深追いできないなら、こちらの攻撃源は魔術師隊に任せるしかない。
俺達壁役が守る間に彼女達は詠唱を成功させ炎、氷、土の攻撃魔法を敵へと放っていく。
素早い敵を相手に全弾命中とはいかないが、何発かはヒットしてダメージを与えていた。
この攻撃を続けていくしかない。
死針と魔法の撃ち合い。
削り削られの長期戦。
そういった戦いの中でこちらの回復アイテムはどんどんと消費されていく。
だが回復手段を持たないキラードール達を相手にこの戦法は確実に結果を出して、敵の数は次第に減っていった。
そして奇襲に動じず消耗覚悟で粘り強く戦った結果、俺達は死者を出す事なくキラードール達をやっつける事に成功する。
「ふう、やばかったな」
「囲まれた時点で駄目かと思ったけど、なんとかなるもんだね」
「一瞬HP1になって死ぬかと思った」
無事生き残ることが出来てみんなが安堵の会話を交わす中、俺は今回の冒険で要となっている二人に礼を言う。
「シラハさん、レティリアさん、ありがとうございました」
今回の戦闘では二人が前方や後方の敵を引きつけて相手してくれた働きは大きかった。
もしそれらの敵の火力までもが俺達の方へと向けられていたら、とてもじゃないが耐えきれはしなかっただろう。
「前と後ろの敵を引き受けてくれたおかげで、俺達もなんとか耐えきれました」
「いや、みんなが混乱せずに指示通り動いてくれたおかげだよ」
「そうね。焦らず対処してくれたおかげで死者を出さずに済んだわ」
自分達の働きの大きさを誇示しようとしない二人のエース戦力。
そんな彼らの言葉に合わせてお調子者の猫娘が言う。
「そうにゃ、これはチームの勝利だにゃ!! アイル達のチームワークに不可能はないのにゃ!!」
アイルの言うチームワークの勝利とやらで、キラードールの奇襲を退けた俺達は気を引き締めなおして先へと進んだ。
それからも襲ってくるモンスターの手強さは増し、何度も危ない場面があったがシラハさんにレティリアさん、そしてみんなの力を最大限に発揮して死者を出さずに切り抜けていった。
そして奥へ奥へと進み、十分に準備してきたはずの回復アイテムも残り少なくなってきた頃……。
――そろそろ引き上げも視野に入れないとなぁ。
時間を考えれば今日中に二度目のアタックをかけるのは無理だろう。
一日でのダンジョン攻略は諦めた方がいいかもしれない。
残り少ないアイテムと時間にそんな事を俺が考えていると、パーティーに先行するケイゾウが何かを発見したらしい。
「お~い、なんか意味ありげな扉があったぞ」
彼は俺達をその扉の前まで案内する。
「きっとゴールに違いないにゃ!! お宝ざくざくだにゃ!!」
「ああ、なんかそれっぽい扉かも」
そこにあったのは装飾の施された大きな扉で、一目してその先が何か重要な場所である事を示していた。
これまで潜ってきたダンジョンの深さを思えば、アイルの言うようにここがゴール。財宝のありかであっても不思議ではない。
ハズレダンジョン覚悟で攻略に当たっていた俺達だったが、こうなってくると自然と期待も高まってくる。
「罠はなし。鍵もかかってないみたいだし、押せば開くみたいだな」
扉の状態をケイゾウがチェックして言う。
さらに彼は閉められた扉の隙間をのぞき、耳を当てて、部屋の中の気配も探る。
「モンスターの気配もしないな」
「ボスモンスターはいないのかにゃ?」
「さぁな。扉開けたらドーンってオチかも。まっ、いちおうの用心はしておいた方がいいだろ」
何が出てもいいように心の準備だけはしておいて、俺達は目の前の重い石の扉を何人かで協力して押し開ける事にする。
「それじゃ開けるのにゃ!!」
「うおお……、結構重いなコレ」
「一人で潜ったら、奇跡的にここまでこれたとしても詰むな」
そうして開いた扉の先、部屋の中には四体の石像が配置されていた。
そして……。
――アレは!!
その石像に囲まれた中央部には、宝石で装飾された大きな宝箱が置かれていた。
「おお、マジで宝箱あんじゃん」
「当たりだな」
「よかったよかった。これだけ苦労して空振りはきついもんな」
「いざ開けてみたら中身がしょぼいなんて事もあったりして」
「不吉なこと言うなよ」
ちょっぴり浮かれながらと宝箱の方へと近付いた俺達はある事に気がつく。
「何か書いてあるぞ」
宝箱の蓋の部分に意味ありげな言葉が彫られていたのだ。
ケイゾウがそれを読み上げる。
「『欲深き者よ、ここより去れ。力ある者よ、驕ることなかれ。智ある者よ、災いを目覚めさせる事なかれ。我らは勇者こそを歓迎する』、だってよ」
「どういう意味だにゃ?」
「警告かしら」
「はやい話、宝箱開けたらボスが出るってことじゃねぇの?」
「そんな感じね」
宝箱の文字をボスモンスター出現の警告と捉える俺達。
だからといって箱の中身を諦めて帰るわけにはいかない。
「勇者を歓迎するっていってんだし、歓迎してもらおうじゃないの」
ハセのその言葉に異論を唱える者はいない。
全会一致で俺達は宝箱の開錠に取りかかった。
「罠なし。鍵も……余裕だな」
そして難なく宝箱の開錠に成功するケイゾウ。
「んじゃ開けるぞ」
覚悟を決めて宝箱をオープンする。
「くるならいつでも来いなのにゃ!!」
と、一同戦闘態勢ばっちりに構えていたのだが……。
――あれ?
宝箱は開けど、とくに何も起きはしなかった。
仰々しい警告めいたあの言葉は何だったのか。
アイルと宝条、ラグザの三人が口を開く。
「何も起きないにゃ」
「なんだよ、ただのハッタリか?」
「石像が動いて襲ってくるのかと思ってたのに……」
肩透かしを食らって何とも言えない空気が俺達の間に漂った。
そんな中、レティリアさんが言う。
「もしかしたら勇者として歓迎してくれたってことじゃないかしら」
「なるほどなのにゃ!!」
たしかにそう考えればこの事態の辻褄も合ってるような気がする。
何を基準に勇者として認めて貰えたのかが謎だが……。
「まぁ何にせよ、ボスが出ないなら出ないでいいんじゃねぇの。さっさとお宝チェックといこうぜ」
「だな」
「賛成~」
ケイゾウの言葉にみんな同意して、宝箱の周囲に集まる。
部屋の安全は確保されている。
気兼ねなく俺達のダンジョン攻略の成果を確認するとしよう。
「とりあえずはこっちの袋だな」
宝箱に収められていた目立つ大きな袋を取り出すケイゾウ。
中をのぞきみて彼は言う。
「おお、百万ゴールドは入ってるぞ」
「等分でも一人当たり六万弱かぁ。これだけでも稼ぎとしては上々だな」
「アイテムの消費は激しかったけど十分黒字になる額だね」
帰りの安全は別として現状死人ゼロ。装備ロストなし。
かかった費用は主にポーション代ぐらい。
それで六万近い収入が得られるのだから一日の稼ぎとしては上々どころか、特上だろう。
「こっちの小箱はポーション入れか? おお、こりゃすげ。全部ステータスアップのポーションじゃんこれ」
「にゃああ!! 本当かにゃ!!」
ケイゾウの報告に大喜びするアイル。
そんな彼女を他のメンバー達は祝福する。
「大当たりだな」
「おめでとう」
どんなゲームでも永続的にステータスを上昇させるアイテムはかなり貴重だ。
イロモでもそれは同じ。
上昇値、上限値の低い最低ランクのステータスアップアイテムですら数十万ゴールドの値はくだらない。
小箱にはそんな物が六本も収められていた。
「他には……」
それからもどんどんと宝箱に入ってるアイテムをあらためていくが、いちばん価値がありそうなのはやはり小箱に収められているポーション達だった。
当然、分配の話になった時、アイル達はその獲得権利を主張する。
「これはアイル達が貰うのにゃ!!」
事前の取り決めで宝の優先権は、ダンジョンの発見者である『無明に宿る赤き黄金の月団』にあるとなっていたのだから他のメンバーはそれには反対できない。
宝箱に入ってる他のアイテムで我慢するしかない。
「俺はコレで」
「私はこれでいいわ」
「僕はこれかなぁ」
そうしてお宝アイテム達の分配がどんどん決まっていく中、俺はあるアイテムに目をつけてその獲得権利を主張する。
「じゃあ俺はこの石を貰っとくよ」
それは色の付いた石だった。
大きさは結構あるが鑑定しても特に効果はないらしく、金銭的な価値もそれほどないと判断されていた残り物。
それを俺はわざわざ選び、欲したのだ。
「そんな物でいいんですか~?」
「おいおいイージス、いつから石集めが趣味になったんだ?」
不思議がるマリーさんや宝条に俺は言う。
「いや、ちょっと考えがあってね」
「考えって何だよ」
「他はそれなりに価値のあるアイテムばかりなのに、わざわざコレだけ極端に価値の低いアイテムが混じってるってのは変だと思ってさ」
「宝箱に価値のないアイテムが混ざってる事なんてよくある事ですよ~」
「まぁそうなんだけど……。だけど、もしかしたらあの宝箱の警告と関係あるのかもって」
「あの勇者がどうたらってやつか?」
「やっぱりあれだけのこと書いておいて何も起こらないってのは不自然に思えてさ。それで、もしかしたらこの石に秘密があるのかと」
「石にですか~?」
「ほらこの像。この剣を握ってる人の像の腕輪の部分」
宝箱を囲む四体の石像。
そのうちの一体に俺は近付いて自論を説明する。
「よく見たら何かはまりそうな穴が開いてるでしょ」
剣を持って戦う男の像に開いた穴は俺が選んだ石の大きさと似ている。
これは単なる偶然なのだろうか。
「まさかその石が!?」
「まぁただの勘だけど、ためしてみる価値はあるでしょ」
何かが起こるかもしれないし、何も起こらないかもしれない。
いちおうのボス出現に備えてから、みんなの注目が集まる中で俺は石を像へとはめ込んでみる。
――やっぱり、ぴったり入るな。
石は予想通り、綺麗に像の穴へと収まった。
――あれ? 何も起きない?
一瞬の無反応に空振りかとも思ったが、ワンテンポ遅れて石に反応があった。
像にはめた石が光り始めたのだ。
そして……。
ゴゴゴと音を立てて部屋の一角の地面が開き、隠し階段が出現する。
「階段にゃ!!」
「宝は目くらましだったのか」
「えらく豪華な目くらましだったけど」
「当然この先にはさらに豪華なお宝があるってことじゃない?」
「それとたぶんボスモンスターもね」
俺の言葉にみんなの顔付きが変わる。
高難易度ダンジョンのボスモンスターを相手するとなれば、シラハさんやレティリアさんがいるとしてもこちらが全滅しかねない戦いとなるだろう。
その危険は誰もが承知している。
「どうする? 一度帰って日をあらためてって手もあるけど」
そんな安全策を提案する俺にアイルは言う。
「冒険はロマンだにゃ!! 勢いそのままに突撃だにゃ!!」
他のメンバーも猫娘の判断に反対はしないらしい。
安全よりも勢い重視。
死んでも生き返られるゲーム世界だからこその判断だね。




