ダンジョン攻略『上』
ダンジョンの中は大人数で移動してても狭苦しさを感じぬほどの広さがあった。
とはいえ開けた場所というわけではない。
入り組んだ通路や視線を妨げるような地形、障害物もあって移動には警戒を要した。
俺達は突発的な戦闘を回避する為にも『夜目』や『遠目』『潜伏』などのスキルを持つケイゾウを先行させて、ダンジョン内を進む。
しばらくすると先頭のケイゾウが立ち止まった。
彼は先の様子をうかがうと俺達の方へと戻ってきて言う。
「オークやゴブリン、それにハイオーク。数はぱっと見だけでも三十近くはいるな」
チームの斥候役が行く手を阻む魔物達の存在を告げると、チームの最強戦力であるシラハさんが口を開く。
「俺が行こう」
「行こうって、まさかあんた一人でか?」
「オーク程度が相手なら、その方がかえって消耗を抑えられるはずだ。ただ、討ち漏らしたモンスターの処理はみんなに任せるよ」
シラハさんの言葉にレティリアさんが頷く。
「OK、任せて」
「マリー、いちおう支援魔法を頼む」
「はい~、『モーマ』かけておきますね~」
マリーさんが一時的に防御力を上昇させる魔法『モーマ』をかけると、シラハさんは一人でオーク軍団に向かっていった。
「グガッー!!」
「グゴォー!!」
「ウガーッ!!」
侵入者を発見するなりいっせいに襲い掛かるオーク達。
その数十もの敵をシラハさんは一歩も退かずに、手にした巨大な槍で屠り、大きな盾で弾き飛ばす。
まるで人間要塞かというような鉄壁ぷりであった。
「雑魚モンスターが相手といえど、こりゃすげぇ。あの数を一人で相手してらぁ」
「オグさんやファルタも頼りになる壁役だけどさ、次元が一つ二つ違うつーか……、さすがレベル17」
「俺の出番ないかも……」
無双する仲間の姿にケイゾウ、ハセ、ファルタの三人がそんな事を言っていると、大量のオーク達の中からこちらの存在に気づく者がでてくる。
そしてターゲットを俺達の方へと変更するオーク達も。
処理し切れず自分の横を素通りするオーク達を見て、シラハさんが叫ぶ。
「そっちにいったっぞ!!」
「おっ、出番が来たかも!!」
向かってくるモンスターに嬉しいそうに武器を構えるファルタだったが……。
「任せて」
レティリアがそう言ってみんなの前に立つと『霊樹の弓』で遠距離からオーク達を仕留めていく。
もとからオークのほとんどはシラハさんが相手している状態だ。
こちらに向かってくる数はそこまで多くなく、彼女一人でも処理できる数だった。
結局そのまま残り十五人は戦闘らしい戦闘をしないまま、行く手を塞いでいたオーク達は全滅する。
回復アイテムの消費もいらない圧勝であった。
「わらわらと湧いてきやがって、結局六十くらいはいたのか?」
「そのほとんどを一人でやっちまうなんて、同じ助っ人でも俺達とはえらい違いだ」
「これ僕達いらないんじゃないかな?」
「彼ひとりでダンジョン攻略できちゃいそうね」
戦闘終了後ケイゾウ、ファルタ、ラグザ、シズクの四人は驚きと自嘲を伴ってシラハさんの活躍を称えていた。
そんな彼らにシラハさんが言う。
「さすがに奥に進んでモンスターのランクあがってきたら一人じゃ無理だよ。その時はみんなにもしっかり働いてもらわないと」
「そうは言うけど、ホーンデビルやオキュルスが相手でも案外一人で何とかできたりするんじゃねぇのか? あんたならさ」
「はは」
ケイゾウの言葉を笑うシラハさん。
――笑いはするけど否定はしないのね……。
それからも俺達は浅層の雑魚モンスターの集団を何度か蹴散らしながら、ダンジョンを奥へと進んでいった。
そして事前の探索でハセ達が攻略に行き詰ったエリアへとやってくる。
「いるいる。ホーンデビルが七、八匹はいるぜ」
先の広間の様子をさぐってケイゾウが俺達に報告する。
浮遊する一角の小悪魔達『ホーンデビル』は外見は結構可愛らしいが、その強さはなかなかの凶悪っぷり。
HPと防御力こそ低いものの、高い攻撃力と機動力でプレイヤーを苦しめる手強いモンスターだった。
アイルとハセが言う。
「ここからが本番にゃ!!」
「一、二匹相手ならともかく七、八匹ってなると後衛狙われたらヤバいかもなぁ」
オークやゴブリンを相手するのとはわけが違う。
油断すれば死者を出してもおかしくない敵だ。慎重に戦う必要があった。
「機動力のあるホーンデビル相手に広い場所で戦うのはまずい。通路に引き込んで戦おう」
シラハさんの言葉に俺は頷く。
「定石ですね」
「ああ、それと確実に奴らを仕留めきる為に、もう一手打っておこう」
そう言って彼はホーンデビル達を殲滅する戦術についてを語った。
「よし、それじゃあ始めよう」
「はい」
シラハさんからの指示を聞き終えた俺達は、すぐに行く手を阻む小悪魔達の殲滅にとりかかった。
まずは広間で飛び回る一匹のホーンデビルに、レティリアさんが弓で遠方から攻撃を加える。
すると……。
「ギイィィッ!!」
「キィィッ!!」
「ギイィッ!!」
釣られて他のホーンデビル達も反応し、いっせいに襲い掛かってくる。
それを見て彼女は俺達が待つ通路へと急いで戻る。
「来るわよ!!」
高速で宙を飛びながら襲い掛かってくるホーンデビル達。
その群れが通路に入りきったのを見てシラハさんが叫ぶ。
「今だ!!」
彼の合図に通路脇に隠れていたポム嬢やマリーさん、シズク姉さんと我らがパーティーの魔術師隊が魔法を発動させる。
その魔法の名は『トイトイ』。
粘着性の糸を放つ初歩的な青魔法であった。
「ギイィギイィ!!」
「ギィィ!!」
ホーンデビル達は突如通路に張り巡らされた魔法の糸に面白いように絡まっていく。
そして絡まった糸を破ろうと暴れる小悪魔達だったが、そこから逃れられる気配はない。
こうなってしまえば、厄介なモンスター『ホーンデビル』も良い的だった。
「うおりゃっ!!」
「そいっ!!」
「ギィィィッ!!」
パーティーの前衛陣で身動きの取れなくなった小悪魔達を狩っていく。
そうして魔法の糸に絡まった全てのホーンデビルを倒しきる俺達。
「楽勝だな」
「呆気なくてびっくりにゃ」
「役に立ってよかった……」
「まさかトイトイがこんなに効くとはな」
完璧な戦術での圧勝にパーティーには余裕の笑みが浮かんでいた。
そんな彼らに作戦の考案者は言う。
「ホーンデビルは攻撃力の高いモンスターだけど、実のところ奴らは非力なモンスターだからね」
「そうなんですか?」
俺の言葉にシラハさんは頷く。
「攻撃力のほとんどを手にした武器に依存してるのさ。だから奴らにはトイトイの魔法が効果的なんだ。ホーンデビルは魔法を打ち消すディスペルも使えないし、絡まった糸を破る力もない。一度魔法の糸に捕まったらそれまでってわけさ」
「う~ん、トイトイってある程度強いモンスターが相手になってくると使えない魔法って印象だったけど、改めないといけないなぁ」
「攻撃力のあるモンスターの多くは力のステも高いからね。魔法の糸で足止めしようにも引き千切られてしまうのがほとんどだ。だからどうしてもそっちのイメージに引っ張られてしまいがちになってしまう。でも、相手を選び、使い所をおさえていればトイトイはランクの高いモンスターにも十分に通用する魔法さ」
トップランクのギルドでは対モンスター用の戦法がどんどん研究され成果が蓄積されていっている。
ホーンデビルに完勝した今回の戦法も『ルル・ルクルス』のような大手ギルドでは当たり前に行われているものなのだろう。
シラハさんは単純な高レベル高ステータスのPCというだけでなく、そうした戦術知識も豊富に会得している人なのだ。
――心強い味方だわ。




