表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/73

継承戦

 イリメルさんの依頼を承諾してから数日後、継承戦が行われる前日。

 俺は移転派陣営の人が開いてくれたゲートを利用して、コソカナの街からエスラの街にある『ナイトウォーカー』のギルドハウスへと一気に移動する。

 そしてそこからさらに継承戦の戦場となる場所まで移動し、イリメルさん達と共にその下見を行った。


 事前に設定された戦場全体を把握するのは単純に大事なことではあるが、俺にはこの下見をどうしても行っておかなければならない別の理由がある。

 メルフォーネの効果が及ぶのは自分が歩いて見てまわった範囲だけだ。

 だから敵本陣の場所を事前に把握し、メルフォーネの書に記録しておく必要があったのだ。


「これでよしと。いつでもここには飛べます」

「明日のイージスくん期待しているわね」

「できるだけの事はやるつもりです」

「お願いね。私達が勝てるかどうかは君の活躍に懸かっているもの」


 イリメルさんのその言葉が誇張でも世辞でもない事は重々に承知している。

 明日の継承戦の勝敗の鍵は俺が握っている。

 だからこそ彼女は10万もの大金を払ってまで他ギルドのNPCを己の陣営に助っ人として引き入れたのだ。


 その自覚とプレッシャーを、俺はひしひしと感じていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 翌日。

 俺はイリメルさん移転派陣営のみんなと共に『ナイトウォーカー』のギルドハウス前にいた。

 何のためか。

 それは今から継承戦を始める前に、敵味方関係なしに最後の確認と顔合わせしておくためだ。


 当然、ここには俺達だけでなく抗戦派陣営の人達の姿もあった。


「イリメル、素直に降参しちまった方がいいんじゃねぇのか?」


 強面のディモニアの男が言った。


 強力なレアアイテムに身を包む彼こそが、抗戦派陣営のリーダー『獣鬼ライオネル』である。

 今回の継承戦で抗戦派が勝てば、彼が次のギルドマスターとなり、ギルド『ナイトウォーカー』は泥沼のゲリラ戦をやり始めなくてはならなくなる。

 そうなるのを阻止する為にも、俺達移転派陣営は負けるわけにはいかなかった。


「あら、どうして? もしかして私達と戦うのが急に怖くなったの?」

「やる前から結果は見えてるだろ。お前が必死でかき集めた助っ人とやらも、たいしたことなさそうだしな。無駄に痛い目みるだけだぞ」


 互いの陣営の顔ぶれを見比べてそう言い切るライオネル。


 イリメルさんが集めた継承戦の助っ人は俺以外にも何人かいたのだが、戦力として抜きん出るような実力を持つプレイヤーは一人もいなかった。

 実力のある有名人は顔も広くて相手陣営の誰かしらと付き合いのある人間が多く、どちらか一方に肩入れするような事はしたくないと断られてしまったらしい。


 もとから移転派チームと抗戦派チームとでは、装備やプレイヤースキルの面で差があるのだ。

 こちらが数だけ集めてみたところで、ライオネルが勝利を確信するのは無理もない事だった。


 だが俺達には勝つための秘策がある。


 イリメルさんは不敵な笑みを浮かべながら言う。


「たいしたことなさそうな私達に負けて痛い目を見るのはあなたでしょ、ライオネル。石像の守りに気を抜かない事ね。壊されちゃったらあなたがどれだけ前線で暴れまわろうと、負けになっちゃうわよ」


――イリメルさん、わざわざそんな挑発をしなくても……、警戒されて奇襲が失敗しやすくなるだけのような……。


 と、俺は心配するがそれは杞憂なようで。


「おいおい、お前達の狙いは端から時間切れでの勝利一択だろ。わかりきってんだよ、そんな事」

「そうかしら? そんな事にはならないと思うけどなぁ」

「そうやって少しでもこっちの前線の戦力を削ろうってか。無駄無駄。まっ、亀のように引き篭もって頑張りな」


 イリメルさんの言葉をライオネルは単なる挑発としか受け取らない。

 これでムキになって攻撃に人手をより多く割いてくれれば儲けものだ。


――さすが古くからのギルド仲間とあってか性格もお見通しというわけだな。


 しばらくして、継承戦に参加するメンバー全員に、チームごとに敵見方のわかりやすい目印となる色違いの腕章が配られた。

 それを身につけ終えると、俺達はそれぞれのゲートを通りギルドハウス前から自分達の本陣へと移動する。


 そうして両陣営のメンバーが揃ったら、あとは開始時間、継承戦のスタートを待つだけである。

 作戦の最終確認をしながら待つこと数分。


――開戦の時間になりました。戦闘を開始してください。戦闘を開始してください。


 継承戦参加者達の脳内にシステムからのメッセージが響き渡る。


「……時間よ。みんな作戦通りにお願いね」

「はい」


 我がチームの作戦は基本防衛重視である。

 だが最初から全員で本陣に引き篭もるような事はしない。


「いくぜ!!」

「うおおお!!」

「やってやる!!」


 継承戦の開始と同時に、本陣である小さな砦からイリメルさんを含め多くのプレイヤーが勢いよく出撃していく。

 砦には俺を除けば、装備もプレイヤースキルも未熟な戦力がいくらか残るだけで、チームの三分の二以上の戦力が指定された各前線予定地点へと向かっていた。


 むろん飛び出していった戦力ではまともにライオネルのチームとぶつかっても勝ち目はない。

 彼女らの役目はあくまで時間稼ぎ。


 戦力は集中させず分散させ、視野を遮る木々が多くある屋外で奇襲を仕掛けてすぐに逃げる。その繰り返し。

 回復や回避を優先しながら各所で散発的な戦闘を繰り返し、徐々に前線を後退させていく戦術で、砦での防衛戦に入る前にできるだけ時間を稼ごうという作戦だったのだ。


「やっぱライオネルさん達強えぇわ。ヒサトなんか一撃でHP半分もってかれてたし……」

「ゴードさんもかたすぎだわ。こっちの集中攻撃食らっても突っ込んでくるんだもん」


 戦闘を繰り返し、アイテム切れを起こして補給の為に砦へと帰ってくるPC達から聞こえてくるのは、どれもこちらの苦戦を伝える声ばかりだった。


 基本的に相手チームのPC達はこっちよりも強い人揃いなのだが、その中でもギルドの幹部格である『獣鬼ライオネル』と『鉄鬼ゴード』はやはり別格らしい。

 こちらが時間稼ぎ重視の無理をしない戦いをしているにも関わらず、すでに何人ものプレイヤーが二人に討ち取られてしまっているとの事。


 戦闘の過酷さが増すのは砦に篭もり始めてからだ。

 それまではできるだけ戦力を削られたくはないのだが……。


「イリメルさん頼みだなぁ」

「やっぱあの人ぐらいだよな互角以上にやれてるの」

「いや、イリメルさんが呼んでくれた助っ人の人達も結構すごいよ。倒すまではいかないけどすげぇ粘って戦えてたもん」


 こちらもイリメルさんを始め何人かの腕の立つ戦力が奮戦しているようだったが、やはり全体の戦況としては芳しくない。

 時間が経つにつれて前線はどんどんと下がっていき、開始から一時間を過ぎる頃には本陣である砦へと俺達は押し込まれてしまっていた。


 ここまできたらもう後はない。

 アイテムや魔法で限界まで強化して、待機組みも投入にしての総力戦だ。


「ここからが本番よ」

「あと一時間かぁ。くうう、きっついなぁ」

「泣き言はなし。大丈夫、私が上手く立ち回ってカバーするから、みんなも頑張って」


 砦での決戦を前にチームのみんなに言葉をかけるイリメルさん。

 彼女がまだ健在であるから、かなり不利な戦況であってもなんとかこちらの士気は保てている状態だ。


 それでも時間切れまでの一時間をもたせるのは難しいだろう。


「イリメルさん。イージスさんをこっちの班にまわしてもらえませんか? 正直今の人手じゃ自分の持ち場守りきるの厳しいっす」

「駄目よ。イージスくんにはとっても大切な役目があるの。彼は安全な場所で待機。これは決定事項です」


 俺の役目は情報漏れを警戒してチームの一部の人間しか知らされていない。

 メルフォーネの力を知らないプレイヤー達には砦内で待機し続ける変な助っ人NPCに見えてることだろう。


――自分の役目があるとはいえ、みんなが必死に戦う中で待機しておくだけとは……、なんか悪い気がするなぁ。


「さぁみんな、そろそろ相手も仕掛けてくるわ。急いで持ち場について」

「ラジャー!!」


「あの、俺は本当に待機のままでいいんですか? 少しくらいなら戦えると思いますけど……」


 チームのみんなが砦の守備に向かう中、俺はイリメルさんに声をかけてあらためて確認する。


「イージスくんに何かあったらその時点で私達の負け。ここは我慢してね。相手の集まりを見る限り守りにはまだ七、八人は残ってるはずだから。ここでもう一粘りしてその人達を引きずりだしたらイージスくん、きみの出番だから」

「わかりました。頑張ってください」

「ええ」


 砦での防衛戦は屋外と違い危なくなる前に無制限に逃げ回るなんてことはできない。

 安全重視で戦うにしても、どこかしらからで相手の攻撃を受けて、耐え切る必要がある。


 だが耐えるばかりに意識がいっては駄目だ。

 攻撃の面でもこちらが脅威を与えられなければ、相手からの圧力は高まるばかりで防衛線はいつか瓦解してしまう。

 相手が迂闊に飛び込めなくなるようにダメージをこちらから与えていかねばならない。


 そしてそんな働きができるプレイヤーは限られている。


「私が前にでるから援護をお願い!!」

「はい!!」


 魔法や矢が飛び交う中、イリメルさんがひとり飛び出す。

 そして黒魔術師という決して被弾に強いとはいえないキャラで彼女は恐れることなく相手へと接近し、黒魔法『シャドウストライク』の巨大な影の爪で大ダメージを与えていく。


「くそ!! やられた!! 悪い、いったん退く!!」

「逃がさない!!」

「ぐわあ!!」


 自分でダメージを与えた敵、味方の集中攻撃を受けた敵。

 HPを大きく削られて逃げようとする敵には、射程範囲の広大な魔法『ダークテンタクル』を撃ち込み、的確に仕留めていく。


――すげぇな一人で何人倒してんだ、イリメルさん。


 あっかんの活躍を見せるイリメルさんだが、彼女ひとりで全ての敵をやっつけられるわけではない。

 相手のチームにも互角に近い力を持つPCは存在する。


「そいつの相手は俺にまかせろ!!」


 イリメルさんを止めようと、獣鬼ライオネルが襲い掛かってくる。

 高いレベルとプレイヤースキル。そして高性能のレア装備、一騎当千の敵戦力を止めるには戦い方にさらなる工夫が必要だ。


「今よ!!」


 自分に食いついてきたのを見て合図を送るイリメルさん。

 釣られて突っ込んできたライオネルの足元で魔法陣が発動する。


「があああ!! くそ!! 『サンダートラップ』か!!」


 設置型の魔法は威力が高い代わりに準備時間がかかり、効果範囲も狭い。

 扱いが難しい魔法だが、砦という限られたスペースで使うならばこれほど効果的なものもないだろう。


「こざかしい!!」


 稲妻の罠にかかりダメージを受けて、さらに状態異常で動きが鈍るライオネル。

 そこへすかさずイリメルさん達はとどめの集中攻撃を浴びせる。


「一気に仕留めて!!」

「はい!!」


 魔法に矢と、様々な攻撃がライオネルに向かって飛んでいく。

 だが……。


「迂闊に突っ込みすぎだライオネル……」


 その攻撃は鉄鬼ゴードが射線上に立ちはだかり防いでしまう。

 ライオネルをかばい集中攻撃を受けたというのに、彼は平然と落ち着き払った口調で言う。


「焦るな。慎重に戦えば負ける要素はない相手だ」

「ちっ、わかったよ。お前ら!! 一度退いて立て直すぞ!!」


 リーダーであるライオネルの命令で抗戦派チームが後退する。

 なんとか敵の攻勢を耐え切った俺達だったが安堵するも束の間、再び彼らは攻め入ってくる。


「撃ち合い上等だ!!」


 今度は無理な強行突破はしてこず、遠距離からじわりじわりと攻撃を加えてくる展開。

 そんな地味な削り合いでも戦力の差がそのまま戦況にあらわれてしまう。

 それに、こちらの戦い方に慣れたライオネルチームにイリメルさんも大活躍とはいかず、戦況は悪くなるばかりであった。


 とてもじゃないが時間切れまで防衛が持ちそうにはない。


――くそっ、ここはもう俺が動いて仕掛けるべきか?


 砦の窓から戦況を見守ることしかできない状況にやきもきしていると、遠くにこちらへと向かってくる何人かのPC達の姿が見えた。


――きた!! 敵の増援だ!!


 相手はこの増援で一気に勝負を決めてしまうつもりなのだろうが、この状況こそが俺達が望んでいた展開。


「イリメルさん!!」


 俺の叫び声に振り返り、イリメルさんが頷く。


「イージスくん行って!!」

「はい!!」


 すかさず本を取り出して俺はメルフォーネの力を発動させる。

 その瞬間、俺の体は本の光と同調して自陣の砦から敵本陣の砦へと空間移動した。


――よし!! 二人だけか!! これならいける!!


 破壊目標である相手の石像の近くにはPCが二人いるだけ。

 彼らは急に出現した俺の姿に途惑っているようだった。


 その隙に、俺は石像へと駆けて近づき、剣を思いっきり振り下ろす。

 たしかな手応えがあった。だがまだ石像は壊れない。


――あと四発!!


 事前のシミュレートで俺の攻撃力では石像を破壊するのに計五回の攻撃が必要だとわかっていた。

 休む間もなく俺は次の攻撃を繰り出す。


――あと三発!! あと……。


「させるか!!」


 三回目の攻撃よりも先に敵の男剣士が妨害に入る。

 さすがにこのまま呆然と眺めたままとはいかないらしい。


――くっ!!


 その一撃こそなんとか剣で受けて防いだものの、当然邪魔してくるのは彼だけではない。

 防衛役に残っていたもう一人、魔術師の男が魔法攻撃を俺に向かって放ってくる。


「これでも食らえ!!」


 剣士の攻撃に意識が向いていた俺に魔術師の杖先から放たれた炎を避ける余裕はなかった。


「ぐっ!!」


 魔法攻撃は直撃。

 ダメージ量も決して軽くはない。


 すぐにアイテムで回復したいところだが、剣士の方も攻撃の手を緩めはしない。


「急に現れやがって!! やばかったぜ!! けど残念だったな、俺達がいてよ!! 奇襲は失敗だぜ!!」


 剣を振るうその男の後ろでは魔術師が二発目の魔法を唱えている。

 このまま二人同時に相手するのは分が悪い。隙をついて石像を攻撃するなんてもっと無理がある。


――ここは……。


 迷っている暇はない。

 戦闘の継続は不可能と判断し、俺は二人のもとから逃げ出す。


「おい!! くそっ待て!!」


 すると慌てて剣士が追ってきた。


「ユウジロウ!! あいつは俺一人で十分だ。お前はここで待ってろ、他にも潜んでる野郎がいるかもしれねぇ!!」

「ああ、わかった!!」


 石像の守りに魔術師だけを残して、追いかけてくる剣士の男。


――ひとり残したか。けど問題ない!!


 それで十分。

 俺はどんどんと石像のもとから離れていき、ある程度の距離を確保した段階でメルフォーネの力を発動する。

 行き先はもちろん、再び石像の前だ。


 手にする本の光に同調して俺の肉体は再び空間を越える。


「なっ!! なんで!!」


 閃光を放ち消え、閃光を放ち現れた敵の存在に、石像を守る魔術師は驚愕の表情を浮かべていた。


 無理もない。

 発動までのロスをほとんど必要とせず空間移動するという強力な激レアスキルを、一介のギルドガーディアンが持っているなんて誰が予想できようか。


 驚く男を無視して俺は石像に攻撃をおみまいする。


――あと二発、あと一発!!


「ちくしょう!! やめろ!!」


 妨害したくとも詠唱時間を必要とする魔術師ひとりでは石像の破壊を止められはしない。

 肉弾戦なんてできるはずもない。


 近接役である剣士の男が釣り出された時点で勝負は決まっていたのだ。


「やめろ!!」

「これで終わりだあああ!!」


――ドゴオオン!!


 五回目の攻撃を受け、予定通りに石像は粉々に砕け散る。

 そしてその瞬間……。


――継承戦の決着がつきました。戦闘を停止してください。戦闘を停止してください。


 継承戦の参加者全員の脳内で響くシステムメッセージ。

 それを聞いて獣鬼ライオネルや多くの参加者達は何が起こったのか理解できず、唖然とした表情を浮かべている事だろう。


――チーム・ライオネルのコアが破壊されました。チーム・イリメルの勝利です。


「ふぅ……」


 勝利のメッセージが流れる中、俺の内にあったのは勝てたことの高揚よりも、大役を果たせたという安心感だった。


――イリメルさん。不肖イージス、あなたの期待に無事応えましたよ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「どうなってやがる!!」

「なんで俺達の負けなの!?」

「コアが破壊されたって……」


「あれ? 俺達の勝ちなの?」

「いつのまに」

「イリメルさんどういうことですか? いったい誰が?」


 まさかの結果に騒ぐ継承戦参加者達。

 そんな彼らのもとに俺は堂々とメルフォーネの力で帰還する。


「すげぇ!!」

「なんだあれ!!」

「急に現れたぞ!?」


 閃光を発し出現した存在に注目が集まる中、ライオネルはハッとした表情を浮かべ、イリメルさんに詰め寄っていた。


「イリメル!! 卑怯だぞ!! 『ゲート』の魔法は禁止しておいて、こんな技を隠してやがったとは!!」


 今回の継承戦においては『ゲート』の魔法の使用が禁止されていた。

 使用が認められていたらライオネル達も本陣への奇襲を警戒して、最後までもう少し守備に人を割いていたかもしれない。

 そうなれば俺の奇襲は失敗していたことだろう。


 空間を越えてくることはない。そう錯覚させる為の決め事。

 これもイリメルさんの策略の一つだった。


 納得いかないと声を荒げる相手チームのリーダーに我らが将は悠々たる態度で言う。


「でもルールを破ったわけじゃない。ケチをつけても結果は覆らないわよ」

「なんだと!!」


「よせライオネル。俺達の負けだ」


 ライオネルとは対照的にゴードは冷静に自分達の敗北を受け入れているようだった。


「何言ってやがるゴード、こんな卑怯な手、認められるか!!」

「ピエロの奴らとやりあった時もそんな泣き言を言っていたな」

「てめぇ!!」

「奴らの汚さはお前もよくわかっているはずだ。そんな連中ともう一度やりあおうっていうのなら、俺達はこの継承戦で、イリメルの策ごと有無を言わさずねじ伏せてみせるだけの力量をみせなければならなかった」


 ゴードの言葉に同調してイリメルさんが言う。


「そういうことよね。私の策略も見抜けず負けた人間がギルドのトップに立って、みんなを先も見えない戦いに引きずりこむつもり?」


 彼女の言い分にライオネルは反論できなかった。


「ぐぬぬ……、くそっ!! わかったよ!! 俺達の負けだ!!」

「ライオネル、約束は覚えているわよね? 継承戦でどっちが勝っても、負けた方は勝った方の方針に従って協力し合うって話」

「わかってる。どこの街だろうが俺達もついていってやるよ!!」

「頼もしいわ。しっかり働いてちょうだいね」

「くうう……」


 二人の言い争いが一段落した後、イリメルさんが俺に言う。


「ありがとうね、イージスくん。この継承戦で勝てたのも君の協力があればこそ。イリメル個人としても、『ナイトウォーカー』の二代目ギルドマスターとしても、お礼を言わせてもらうわ」


 継承戦に勝利した時点で自動的に彼女が『ナイトウォーカー』の新しいギルドマスターになっている。

 その事実に、周囲の人たちもあらためて気づいたようで。


「そうか、イリメルさんがギルドマスターになったんだよな」

「おお、ほんとだ」

「イリメルさんばんざーい」


 移転派として共に戦った仲間達が新しいギルドマスターの就任を祝っていた。


「みんなの期待を裏切らないよう精一杯頑張るわ。だけど、私一人の力でできることなんてたかが知れています。今日の結果もイージスくん、そしてみんなが頑張ってくれたおかげです。これから先、新しい街で『ナイトウォーカー』が活動していくうえではもっと多くの人たちの協力が必要になってくるでしょう。今日一緒に戦った人たちだけでなく、継承戦に参加しなかった人、そして移転に反対していた人たちも、みんなで力を合わせてギルド『ナイトウォーカー』を盛り立てていきましょう」


 イリメルさんの言葉に抗戦派の人たちの中には負けたばかりとあってか複雑そうな顔色を浮かべていた人もいたが、それでも彼女のことだ。

 そういう人たちともきっと上手くやっていけるのではないだろうか。


 もともとはみんなで仲良く遊んでいたギルドなんだしね。


「それで二代目さんよ。こうして継承戦は移転派の勝ちだったわけだが、肝心の移転先はもう決まってるのか? いろいろ候補はあったみたいだけどよ」


 ライオネルの問いにイリメルさんは言う。


「ええ、決めたわ。みんなの意見を聞いて反対が少なければそこに決定ね」

「っで、どこの街に決めたんだよ」


 ちらりと俺の方を見たあと彼女はギルド『ナイトウォーカー』の新しい活動拠点となる街を発表する。

 それは……。


「コソカナの街よ」


「コソカナか。まぁエスラからも比較的近いし無難だな」

「悪くないな。あそこには『ルル・ルクルス』がある。本部機能をほとんど王都に移したといってもまだまだ影響が強い街だ。『ピエロ』みたいな連中も好き勝手できないだろう」

「揉め事はもう嫌だしねぇ」


 いろいろと候補地がある中からイリメルさんが決めたコソカナへの移転。

 継承戦参加者達の反応は上々らしい。


 どうやら『ナイトウォーカー』のみなさんは我が街までお引越ししてくることになりそうだった。


「そういうわけで、イージスくん、コソカナに移ることが正式に決まったらその時はよろしくね」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」


「おいイリメル。よろしくって何だよ。こいつと俺達の移転先が何か関係あるのかよ」


 ライオネルの問いにイリメルさんは笑顔で答える。


「何を隠そう今回の継承戦で大活躍してくれたこのイージスくん。普段はコソカナの街で活動してるのよ。コソカナは私達にとって慣れない新天地、街のこととか美味しいクエストとか、いろいろ教えてくれると助かるわ」

「いやぁ別に俺も特別詳しいわけでもないんで……。コソカナは大きな街だし訪れた事ある人も多いだろうから俺なんかよりよっぽど詳しい人が『ナイトウォーカー』内にいるんじゃないですかね。でもまぁ、俺なんかに協力できることがあったら喜んで協力させてもらいます」

「仲良くしましょうね」


 こちらとしても『ナイトウォーカー』のような大所帯のギルドと友好関係を結べるのは心強い。

 日頃少人数で活動している俺達ギルド『ナナム』は人手が足りなくなる事がよくあるから、そんな時にメンバーの誰かしらに手伝ってもらったりすれば、受けるクエスト難度を無理にさげなくてもいいようになるかもしれない。

 友人は多いに越したことはないのだ。


 まぁ友人であるがゆえの厄介ごとに巻き込まれる可能性はゼロではないが……。


「そういやイリメル。一つ聞いておきたいんだが転移するNPCなんて、どういう伝手で連れてきたんだよ? コソカナなんてお前ほとんど行かないだろ?」

「ふふ、実はね。巨人殺しのシラハに助っ人を頼もうと思ってコソカナの街に寄ったの」

「シラハ!? お前はそんな奴にも声かけてたのか……、ほとんど付き合いねぇだろ。無茶苦茶だな」


 驚き呆れるライオネルにイリメルさんは言う。


「当然のごとく断られちゃったけどね。でもその後、街の外へちょっと寄り道した時に、モンスターと戦うイージスくん達と出会ったの」

「つまりなんだ。こいつに助っ人頼めたのは完全な偶然ってことか?」

「まぁ、そうね」

「なんだそれ。そんなラッキーのせいで俺達は負けたのかよ」

「運も実力のうちってやつです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ