お久し
驚きの事実をいろいろと知る事になった『無明に宿る赤き黄金の月団』団長セイガの引退送別会。
それを終えた俺は『ナナム』のギルドハウスへと帰還した。
――やっぱり便利だなぁ、このスキル。
宝探しでゲットしたレアスキル『メルフォーネ』の素晴らしさをあらためて俺は実感する。
ラーベンからコソカナまでの距離をも一瞬で行き来する事ができるこのスキルがあれば、これからの行動範囲をずいぶんと広げる事ができるだろう。
本来ならギルドガーディアンとしての役目がある為に、そうそう『ナナム』のメンバーやギルドハウスから離れられはしないのだが、暇のある時間に遠出する事も十分可能となったわけだ。
『ナナム』をトップギルドにするという目的を果たすなら、そういう行動も今後視野に入れていかねばならない。
とはいえ、雇われNPCの身である俺が無許可でそんな事をするわけにもいかない。
――まずは姫岸さん達にも話をしないとな……。
そんな感じでギルドハウスで待機しながらみんながログインするのを待っていると……。
「順調ですかあああああああ!?」
ギルドメンバーの誰かではなく、天使ミカエルが俺の前に姿を現した。
――なんか久しぶりに見た気がするな、この天使。
「順調ですよ、天使様」
「へぇ、どれどれ……」
天使は手もとの資料に目を落とす。
そこに俺の活動記録でも書かれているのだろうか。
「うんうん、たしかに順調そうね」
「はい」
「これもひとえに私の日頃のサポートのおかげというものね」
俺の充実したNPC生活に満足気な天使ミカエル。
あんまり何かしてもらってる気はしないが、彼女がそう思うのなら、そう思わせておこう。
天使の自己満足は置いておいて、俺には彼女に確認しておきたいことがある。
「ところで、ちょっと教えてもらいたい事があるんですけど」
「真面目にNPC生活頑張ってるご褒美に、なんでも教えてあげるわよ」
「じゃあ『アストビア』や『メルフォーネ』みたいな力が他にもあるのかどうかだけ教えてくれませんか?」
イロモ内で現在確認されているであろう他のレアスキルと比べても、この二つの力は明らかに異質なものである。
そしてその効果の強力さや便利さは他のレアスキルと比べものにはならない。
安易な言葉で言い表してしまえば、チート能力といえるぐらい抜けてる力だ。
本気で『ナナム』をトップギルドにするというのなら、こういった力は大きな武器になる。
他のプレイヤー達がゲットするよりも先に集めておきたいところだった。
「前にその辺の事は企業秘密だって言わなかった?」
「それはそうなんですけど……、別に入手方法まで教えてくれとは言わないんで、存在するかどうかだけでも……」
「う~ん、まぁそれぐらいならいいか」
少しばかり悩んだようだが今日は機嫌がいいのか、天使は俺の質問に答えてくれるらしい。
「……あるわよ、他にも似たようなのはね」
――やっぱり。
直感的に俺はそう思った。
別にはっきりとした根拠があったわけじゃない。
ただ、『アストビア』や『メルフォーネ』に出会ったあの時に思い出したおぼろげな記憶、その残響が俺の内で告げているのだ。
俺はまだ何かを忘れたままなのだと。
そして俺が忘れているのはあの二人だけの事ではないのだと。
駄目もとで天使ミカエルにこんな質問をしたのは、ただ強力な力が欲しかっただけじゃない。
忘れてしまったモノを取り戻そうという感覚、焦燥感が俺の内に存在していたからだ。
あの力は、あの存在は。
他の誰かに渡したくはない。渡すわけにはいかない。
「それで、その力は他にあとどれぐらい残ってるんですか?」
「それは……、う~ん、まぁそう多くはないとだけ言っておくわ」
天使ミカエル曰く『そう多くはない』。
そのうちの二つの力が俺のもとにある事になる。
世界中で大勢の人間が遊んでいるゲームでそんな事が起きて、単なる偶然で済むのだろうか?
いろいろと思考しながら難しい顔を俺がしていると、天使ミカエルが言う。
「そう心配する事はないと思うけどねぇ、どうせ……」
「どうせ?」
「……いえ、何でもないわ。まぁとにかく一NPCとしてこれからも励んでいきなさいよ」
そう言って天使ミカエルはまたどっかへフワフワと飛んでいってしまった。
――う~ん、何かごまかそうとしていたのが気にはなるが……。
俺が無理矢理問いただそうとしたところで彼女が答えるとも思えない。
結局わからぬものはわからずじまいという事なのだろう。
――いや、ちょっと待てよ。
考えてみれば天使以外にも事情を知ってそうなのがいるじゃないか、俺のすぐ近くに。
物は試しだ。
彼女に聞いてみよう。
「メルフォーネさん、メルフォーネさん、聞こえてますかぁ? 聞こえてたら返事してください」
あぐらをかきながら、メルフォーネの書を目の前に置いて語りかけてみる。
傍から見れば完全に危ない人だが、もともと宝箱から発見した時は喋ってた本なんだ。
俺の問いかけに反応してくれたっておかしくないはず……。
「お~いメルフォーネさん聞こえてますかぁ? いたら返事してくださ~い」
だが何度話しかけてみても何も起きはしなかった。
――うん。まぁわかってた事だけどね。
スキル欄にも記載がなく、例の事件の時に一回だけ力が使えただけの『アストビア』はともかく、スキル欄に記載されて自由自在に使えてるメルフォーネがこれじゃあ、二人から直接情報を集める手段はやっぱ無理そうだ。
――結局入手できるかどうかは運任せになっちゃうのかねぇ……。
情報収集を断念して、俺はあぐらをといて寝転ぶ。
すると頭の方に何やら気配が……。
「あっ……」
寝転んだ俺が上目で見たもの。
それはいつまにかログインしてきていた宝条の姿だった。
「や、やぁ……」
「お、おう……」
本に向かってひたすら話かけようとする俺の姿を見て。
いつもなら真っ先にからかってくるであろう性悪女の宝条が……、ドンびきしてらっしゃる。
「ライナ、どうしたの?」
そんな宝条の後ろから姫岸さんが顔をのぞかせる。
二人同じような時間にログインしてきたみたいだ。
「ああ、実は……」
俺の目の前でごにょごにょと耳打ちする宝条。
すると姫岸さんの瞳が哀れみに満ちたものへと変わっていく。
そしてそれは宝条も同じ。
――やめて二人とも!! かわいそうな人を見るような目で俺を見ないで!!
「いや、ほら、あれだよ。ゲットする時にこの本喋ってたじゃん!! だから、また話したりできないかなぁって!!」
必死で言い訳する俺に姫岸さんは優しく言う。
「イージスさん、私も小さい時はぬいぐるみによく話しかけてたりしてましたから、全然大丈夫ですよ」
彼女のちょっぴりずれた優しい気遣いが痛く感じられるわ。
――うう……。
だがそんな恥ずかし体験も、怪我の功名とでも言うのだろうか。
一人寂しくギルドハウスの留守をし続けるのは精神衛生上よくないだろうって事で、暇な時に自由に冒険してもいいとの許可が二人から無事おりることになった。
――嬉しいような、悲しいような。
ある程度の自由行動の許可を得られたとはいえ、ギルドガーディアンの本分はみんなの冒険のお手伝いをする事だ。
今日も今日とてクエストチェックに俺達は酒場『赤い宝石亭』へと移動する。




