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リアルオグさん

 実はプレイヤーが女の子だったオグさんについて、親友のアイルが言うには彼女はいいとこのお嬢様らしい。

 使用人がいるようなお屋敷に住んでいて、彼女の部屋もそれはもう大きな個室が与えられているとの事。

 性格はイロモでのオグさんそのまま、大人しく優しくて謙虚。

 さらに外見に関してはムキムキどころかまぎゃくで、可憐な美少女だそうだ。


 本人の前でオグさんのリアル情報をぺらぺらと喋る猫娘。

 そんな彼女に、一つの疑問をツカオがぶつける。


「二人が仲いいのは知ってるけどさ、なんでアイルがそんな細かい事まで知ってんだ」


 別にやろうと思えばネット上でも情報のやりとりなんていくらでもできるものだが……、アイルの答えは違った。


「そりゃリアルでも散々会ってるからにゃ」

「はっ!? いや……、初耳だぞ、それ」

「初めて言ったから、そりゃそうにゃ」

「マジなの? オグさん」


 ツカオの問いにオグさんは申し訳なさそうに頷いている。


 何故アイルと会っていた事に対して、彼女が申し訳なさそうにするのか。

 それは『無明に宿る赤き黄金の月団』には暗黙の掟があったからだ。


『リアル持ち込まずの掟』。

 イロモにどっぷり浸かる廃人プレイヤー達が背負う不遇なリアル事情の悲しみに踏みこまぬ為、そして安易なリアル接触によるトラブル、ごたごたを防止する為。

 俺達はイロモ世界の事はイロモ世界で完結するよう徹してきたのだ。

 

 だがアイルとオグさんは皆に黙ってリアルで接触し交流していたらしい。


「『リアル持ち込まずの掟』を破るとは……」

「そうは言ってもにゃ、ハセやツカオは団長とよくアニメや漫画の話をしてたし、ギントは彼女自慢してるにゃ」

「だけどリアルの話題出すのと実際に会うとでは違ってくるからなぁ。順調にいってるうちはいいけど、なんだかんだとトラブルのもとだし」

「でもどうせみんなオグちゃんが美少女と聞いて、ちょっと会ってみたいとか思ってるに違いないにゃ」


――うっ……。


「そんな奴らに純粋に友情を育んでるアイル達に文句をつけてもらいたくないのにゃ」


 図星をつかれた俺達に返す言葉は見つけられなかった。


 それに掟と言ってもゆるゆるギルドが暗黙のうちにつくりあげたなんちゃって掟だ。

 特別拘束力のあるものではない。

 実際のところ、二人の交流にこれ以上ケチをつける権利など俺達にありはしなかった。


 ハセ、ギント、ツカオの三人は話題をオグさんの事にもどして言う。


「しかしオグさんが実は女だったとは……」

「執拗に無言を貫いてたのは、それを隠す為?」

「いやそこはキャラ作成の時に男のボイスに設定すればいいだけだろ。まぁボイス設定ミスったらそうするしかないのか?」


 三人が抱く疑問。

 それはオグさんの無言っぷりについて。

 いくらリアルでも大人しい性格だからってオグさんの無言は徹底しすぎている。

 女バレを防ぐ為にやってたとしたのならたいしたものだが、アイルの反応をうかがうに、どうも少し違うらしい。


「それはだにゃ……」


 歯切れの悪い口調でオグさんの方を見る猫娘。

 そんな彼女に対してオグさんはゆっくりと頷く。


「実はオグちゃんは病気のせいで声が出せないのにゃ」

「えっ……」


 全く予想もしてなかった返答に俺達はどう反応したらいいのか、わからなかった。


 アイルの口調はひどく真面目で冗談には聞こえない。

 というか冗談を言うような状況にはない。


 病気のせいで声が出せない。

 まさかそんな深刻な事情がオグさんにあったとは……。


「あ、ああ……、そうなんだ」

「なるほどね……」

「でもイロモ内ならそれでも声はだせるはずじゃ?」


 プレイヤーの脳に直接働きかける装置『ゲート』を利用しているこのゲームにおいては、プレイヤーの声帯に問題があろうとゲーム内に限れば発声は可能なはずだった。

 その事は当然アイルも承知済みである。


「それはそうなんだけどにゃ、やっぱオグちゃん普段喋れない分、それが癖になってるというか、一言話すだけでもすごく勇気がいるのにゃ」

「たしかにそういうものかもなぁ」


 普通に話せる人間から見れば、奇妙に見えるオグさんの無言っぷり。

 だが彼女にとってはその無言こそが『日常』であり『普通』なのだ。


 そんな彼女にしてみれば、それがたとえゲーム内の話であったとしても、声を出す事の方がよっぽど奇妙で勇気がいる事だった。


 そうして無言で過ごし、時間が経つにつれて俺達の勘違いはそのままに、どんどんと本当の事を言い出し辛くなっていく。

 男だと思って付き合ってくれるみんなが、もし自分が女だと知ってしまったら、今の心地良い関係性が壊れてしまうのではないか。


 そんな恐れを抱いて、彼女は事実を告げる事ができなかったのだという。


「でもアイルとは普通にやれてるわけだし、俺らだってオグさんが女だとわかったからって極端に対応が変わるような事はないと思うぞ」

「だよな。変な心配しすぎ」

「彼女持ちの俺としても、そう思うよ」


「アイルもそう言ったにゃ。それにオグちゃんもそのくらいの事はわかってたのにゃ。けど、団長の事があったからにゃあ……」


 団長の事とは前世の俺にオグさんが思いを寄せていた事だろう。


 せっかく信頼ある相棒としての関係を築けているのに、それが壊れるてしまうかもしれない。

 それならいっそ今のままでいい。


 頭では考えすぎだとわかっていても好きな人相手となると余計に臆病になるその心理、わからないでもない。


「でもそうなると、団長もつくづく縁のない男だなぁ」

「たしかにオグさんというお嬢様をみすみす逃す事になるとは」


――ぐぬぬ。


 思えば姫岸さんの事もそうだった。

 モテないモテないと嘆く前世であったが、チャンスはたしかに存在していたのだ。


 人生にはモテ期なるものが必ずあるというが、俺のそれは知らぬ間にやってきて知らぬ間に通り過ぎてしまっていたらしい。


――ちくしょうううううう!!


 と、内心俺が悔しがってるいるとハセがある事に気がつく。


「そういや、二人がリアルでも会ってるって事はオグさんもリアルのアイル知ってるって事だよな」

「たしかに」

「どんな奴なのオグさん、リアルでもにゃあにゃあ喋ってるの?」


――リアルのアイルか……。ちょっと想像つかないな。


「にゃあああ!! オグちゃん、それは秘密だにゃ!! 『リアル持ち込まずの掟』だにゃ!!」


 他人の事はあれだけぺらぺらと喋っておいて、自分の事になるとこの慌てよう。

 そんな猫娘に俺は呆れていたが、オグさんの方はというと彼女を見て優しくにっこりと笑うだけ。


――男だろうが女だろうが、オグさん。あんた、やっぱりでっけぇ器の持ち主だよ……。

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