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あの頃俺達は

 アイル達が開催する『団長セイガ引退記念送別会』には俺も同席する事になった。

 今の俺は単なる余所者のNPCにすぎないが、ハセ達曰くひとりでも人数が多い方が盛り上がるから気軽に参加してくれとの事だった。

 そう言われて断る理由もない。

 むしろ前世の俺の為に開いてくれた送別会なのだから、参加できるなら俺としても参加しておきたいところだ。


 もちろん参加するからにはその準備も手伝うわけで、俺はハセやツカオと一緒に部屋の飾りつけを担当することになった。

 しかし我々三人に一般的な部屋の飾りつけのセンスなどあろうはずもない。

 それでも己の直感を信じて、俺達は謎のセンスが光るてきとうな飾りつけを部屋中に施す事に成功する。


 そんな異空間に運び込まれてくる料理の数々。

 それはアイルとオグさん、そしてプロージアさんがギルドハウスにある食材をあれもこれもと引っ張り出して作ったものと、街のお店まで注文に走らされたギントが買って来たものだった。


 そうして準備万端に、いざ始まった送別会の方はというと……。


「団長にも俺の彼女が可愛すぎる問題について、聞いて欲しかったなぁ」

「いや、もうそういうのいいから……」

「にゃあああああ、そのチキンはアイルが食べるつもりだったのにゃあああ」

「こういうのは早い者勝ちだろ」


 好き勝手に飲んで食って、騒ぐ。

 笑い、歌い、くだらない話に花を咲かせる。

 送別会だなんて言ったって、結局俺がセイガであった頃の日常、その光景とそう変わらなかった。


 それでも……、いや、何も変わらないからこそ俺は思い知る。


「どうした? しょぼくれた顔をして」


 場の騒がしさに似つかわしくない表情を浮かべる俺を見てプロージアさんが言った。

 そんな彼女の問いに俺はおもむろに口をひらいて答える。


「別に特別なことをやろうとしてたわけじゃないんです。ただ面白いゲームに夢中になって、なんとなくギルド作って、それでメンバー集めて……。リアルの話なんてほとんどしなかったし、あいつらの本名なんて知りもしないし、……それでも俺、思うんですよね」


 しみじみと実感するシンプルな真実。


「あの頃俺は、最高の仲間達に恵まれていたんだなぁって」


 俺の言葉にプロージアさんは優しく頷いてくれた。


「そうだな。そしてそんな奴らにこうして送られるんだ。お前はあいつらにとって最高の団長だったってことだ」


 そう思ってくれるだけのモノを本当に残せていたのなら、セイガって男の人生もまったくの無駄ではなかったのだと思える。

 そして、他人様が聞いたら呆れ笑うようなあのイロモサーガ漬けの生活も、俺にとっては間違いなく、かけがえのない日々だったのだ。


「プロージアさん、あいつらの事よろしくお願いします。アホばっかですけど、なんだかんだいい奴らですから」

「ああ、もう知ってる」


 プロージアさんとそんな会話をしながら、懐かしき日々を思わせる眼前の光景に俺は少しばかり感傷に浸っていた。

 すると、ハセ、ツカオ、ギントの三人の話し声が横からなんとなしに聞こえてくる。


「これでオグさんも失恋か」

「ああ、そうか」

「団長にぶいからなぁ。あれ結局最後まで気づかずじまいだったでしょ」


――ん? なんかおかしくないか、彼らの会話。


 ハセ達の会話を不思議に思っていると、アイルが言う。


「にゃんだ、みんな気づいていたのかにゃ」


 猫娘のその言葉に三人は言う。


「まぁさすがになぁ」

「あれだけわかりやすかったら、いくら俺らでも気づくよ」

「彼女持ちの俺としては、ひっそり応援してたんだけどね」


――気づくって何を? オグさんの失恋? 応援って何だ?


 わけがわからず、オグさんの方を見ると顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしていらっしゃる。


――オーケイ、オーケイ。ちょっと待てよ。話の流れを整理しよう。


 今は団長セイガの引退送別会中だ。

 それがどうやらオグさんの失恋に繋がるらしい。

 つまりオグさんの意中の相手とは……。


――……あれれ。


「オグさんって、オグさんの事だよね。ムキムキジャイクの彼だよね……?」

「当たり前だろ。他にどんなオグさんがいるんだよ」


 お前は何を言ってるんだと、言いたげなハセ。


「えっ、でもそれって……。団長さんって男の人でしょ」

「ああ」

「オグさんも男の人じゃん……」

「うん」

「……そういう事なの?」

「そういう事だよ」


 青天の霹靂である。


「そんなまさか、そんなことが……」


 いつも無口なオグさん。

 みんなに優しいオグさん。

 お宝分配も他人を優先する謙虚なオグさん。

 筋肉ムキムキ、マッチョマンのオグさん。


 あなたは……、ハートが乙女なお方だったのね。


 ということは……。


――オグさん!! あなたって人は!! 実は俺の背中を守るどころか、お尻を狙うハンターだったの!? 俺達、最高の相棒どころか、狙う者と狙われる者の関係だったの!?


 愕然とする俺を見てハセ達は言う。


「すさまじいショックの受けようだな」

「同性愛に対する偏見があるのだろう、NPCと言えど嘆かわしい事だ」

「彼女持ちの俺としては、駄目だと思うなそういうの。オグさんが傷つくだろ」


――俺だって同性愛差別は反対だよ……。同性婚も認めてやったらいいじゃんって思ってるよ……。でもさ、でもさ。自分のお尻を狙うハンターの存在に気がついてどうして冷静でいられようか!!


 オグさん、あなたとは友情は育めても、愛情までは育めないよ……。


 まさかの展開に俺が動揺していると、猫娘が言う。


「お前らも団長のことを言えない、にぶちんだにゃあ」


 彼女の言葉はハセ達に向けられていた。


「は?」

「なに言ってんだよ」

「彼女持ちの俺としては、親友の為にもここは怒るべきところだと思うよ、アイル」


「まぁイージスの態度は感心しないけどにゃ。それはそれ、今アイルが言いたい事は別だにゃ」


 アイルが言いたいこと、その内容はさっぱし予想がつかない。

 オグさんがさっきからあわあわしてらっしゃるのが気になるが……。


 そんなものは無視して、猫娘は衝撃の事実を言い放つ。


「オグちゃんは女の子だにゃ」


「えっ!?」

――え!?


 一瞬、アイルの言っている事が俺達には理解できなかった。

 そんな俺達を代表してハセが言う。


「……いや、どっからどう見ても男でしょ」

「キャラクターはそうだにゃ。でもプレイヤーもそうだとは限らないにゃ」


 たしかにイロモではキャラ作成時にひとりにつき一キャラという制限こそあれど、性別に関する決まりはない。

 別にプレイヤー自身の性別と異なるキャラクターを作成し遊んだって構わないのだ。


 その事はみんな承知しているが、ひとり一キャラという制限上、同性で作るプレイヤーのが圧倒的に多い。

 その先入観があるにしも、これだけ長く付き合ってきた俺達がオグさんの正体に全く気づかないなんて……。


「……really?」

「reallyだにゃ」


 一同視線をオグさんの方へと向けると、彼というべきか、彼女というべきか、そのムキムキの者は恥ずかしいそうに一度だけコクリと頷いてらっしゃる。


「ええええええええ!?」

「うおっしゃあああ!!」


 明かされた真実に驚き100%のハセ達と、驚きと共に歓喜する俺。


「他人の話なのに、なんかすごい喜びようだな」

「そこまで同性愛が嫌いだったのか」

「彼女持ちの俺としては、そういう態度はどうかと思うな」


――さっきから枕言葉に『彼女の持ちの俺』を付け足すギントのウザさも今は気にならないよ……。


 よかった。

 本当によかった。

 オグさんが狙っていたのは俺のお尻じゃなくて、チン(以下自粛)だったんだ。


――ふふふ。


 オグさんあなたの気持ちは嬉しいよ。

 でもごめん。

 俺には心に決めた人がいるんだ。

 姫岸里利奈という心に決め……。


「しかも美少女だにゃ」


――アイルさん、その話、詳しく聞こうじゃないか。


 もとよりこの男クズである。

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