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メルフォーネ

「レベル5の地図のお宝ならそれなりにレア度の高いアイテムのはずだけど、こんな表紙の本は初めて見るなぁ」

「私もちょっと覚えがないわね」


 前世で廃人プレイしてた俺やトップギルドに所属して数々のレアアイテムをその目で見てきたであろうレティリアさんがそう言うのだ。

 記憶に残らないような単なるゴミアイテムか、もしくはその逆……。


「アイルも初めて見るタイプの本だにゃ。これはひょっとすると新アイテム発見かにゃ!?」

「とにかく鑑定してみないと、ポムちゃんお願い」

「わかった……」


 レティリアさんに促がされポム嬢が魔法を唱える。

 彼女が使う魔法はルベラ。

 この魔法はアイテムの鑑定にも使えるのだ。


「母なる海の力を以て万物の原像を映せ、ルベラ!!」


 本が青い光に包まれる。

 その反応が収まるのを待って宝条は問う。


「どうだ? 何かわかったか?」


 ポム嬢はこくりと頷き、己の魔法で得られた情報をみんなに説明する。


「『メルフォーネの書』、契約に成功することで本に眠る力を使えるようになる……、だって……」


 そのアイテム名に俺はやはり覚えがない。


「メルフォーネの書……、やっぱり聞いたことないアイテムだな」

「私もよ。まず間違いなく、これまで未発見だった新アイテムでしょうね」

「にゃははは、すごいにゃ。アイル達は大当たりを引いたのにゃ!!」

「よくわかんねぇけど効果を聞くかぎり秘伝書みたいなアイテムってことか、これ」


 宝条の言葉に俺は頷く。


「うん、たぶんね」

「にゃはは、きっと超絶すごいスキルが使えるようになるのにゃ!!」


 大興奮の猫娘。

 そりゃそうだ、この新アイテムの優先獲得権は福引で地図を引き当てたアイルにある。

 事前の話し合いでは見つけたお宝は山分けという話だったが、見つかったアイテムが一個だけというのならどうしようもない。

 他のプレイヤーに売り払って金に換えて山分けってこともできない事もないが、いくらなんでも無粋すぎる。

 この場にいる人間にそこまでがめつい奴はいないだろう。


「すごいスキルねぇ。けどお前に合うスキルが覚えられるのかどうかわからんだろ、ポムの説明じゃさ」

「アイルは戦う僧侶にゃ!! 近接攻撃スキルでも便利な魔法スキルでも何でも大歓迎だにゃ!!」


 宝条の懸念に得意気に語るアイル。

 まぁ彼女の言う通り、この場にいるメンバー中では遠近どちらのスキルを覚えることになろうとも役立たせられそうなのは、アイルかレティリアさんのどちらかだろう。

 そういった合理性から考えても、アイルがこの新アイテムを受け取るのに相応しい人物だといえる。


 俺はそんな自分の考えを口にする。


「たしかに新スキルの効果はわからないから、どんなスキルがこようとそれなりに扱えそうな人がこの本を使うのがいいかも。となるとアイルかレティリアさんのどちらかだろうけど……」


 俺の視線に気づいてレティリアさんは首を横に振る。


「私はいいわよ。もともと手伝いだけで、宝箱のアイテムはみんなで分けるって話だったでしょ。みんなが納得するのならアイルちゃんが貰うってことでいいんじゃないかしら」


 彼女の言葉にオグさんが頷き賛同の意を示す。

 むろん姫岸さんやポム嬢も反対するわけもなく。


「私はそれでいいと思いますよ」

「同じく……」


 そしてこの場で唯一抗議する可能性があるといえる宝条すらも。


「いいんじゃねぇの。お宝は山分けって話だったけどこれじゃあ分けようもねぇし、もともとお前が当てた地図だしな」


 この反応だ。


――さすがエンジョイプレイヤーの集まりだなぁ。


 超レアアイテムの権利だというのに、俺の予想通りごねだす人間は一人もいなかった。


 もしこれが最強厨、効率厨系の廃人プレイヤーの集まりだったらこうはいくまい。

 まだ誰も手にした事がない新アイテム、新スキルとなりゃあその獲得権利をめぐって一触即発の事態になりかねないだろう。


――平和なものだよ、よきかなよきかな。


 みんなの同意が無事得られたということで、アイルがメルフォーネの書を使うことになる。

 まぁ俺も前世で廃プレイしてた身だからね、猫娘のことが羨ましくないと言ったら嘘になるがNPCの分際でしゃしゃりでるわけにもいかない。

 ここは大人しく見守るとしよう。


「みんな……、ありがとだにゃ。アイルは皆の期待に応えて必ずやスーパースキルを身につけてみせるにゃ!!」


 秘伝書系のアイテムは使用すれば必ずしも新たなスキルを覚えられるわけではない。

 失敗することもあり、覚えようとするスキルが強力なスキルであればあるほど習得難度は高くなる。

 むろん成功しようが失敗しようが一度使用してしまえばそこでアイテムは消費されてしまう。


 実際ポム嬢の説明では『メルフォーネの書』は『契約に成功することで本に眠る力を使えるようになる』とのことだった。

 つまりは失敗することもあるってことだ。


「それじゃいくのにゃ……」


 皆に見守られながら手にした本をアイルは使用する。

 するとその本は彼女の手からふわりと独りでに動き、離れ始めた。


「うおっ、動きだしたぞこいつ。まさか生きてんのか?」

「しかも浮いてるにゃ……」


 そして思いがけない光景にみんなが目を丸くする中、メルフォーネの書は宙に浮くばかりでなく言葉までも発する。


「我開く者よ。汝、何を求め旅する者か?」

「にゃああ本が喋ったにゃああ。さすがレアアイテムだにゃ……」

「すごい……」

「レア度の高い秘伝書なら私も幾度と見てきたけど喋る本なんて初めて見たわ」


「リビングデッドならぬリビングブック……、ん? リビングブックじゃリビングにある本って感じでダサいか……」


 予想外の出来事にみんなが驚き騒ぎ、俺がしょうもない発言する中、本は再び問う。


「我開く者よ。汝、何を求め旅する者か?」


 誰に問いかけているのか。それはもちろん使用者であるアイルにだ。


 秘伝書でのスキル習得に成功するかどうかは完全な運任せだったが、これはどうも違うらしい。

 問いかけに上手く答えることで力が得られるシステムのようだが……。


「アイルが答えるにゃか?」


 不安げに尋ねる猫娘に宝条が言う。 


「そりゃそうだろ。お前以外に誰がいるってんだよ」

「わ、わかったにゃ……。アイルがびしっと言ってやるのにゃ!!」


 決意を抱き、アイルはメルフォーネの書の前に立つ。


――失敗は許されないぞ。なんと答えるのだ、猫娘アイルよ!!


「我開く者よ。汝、何を求め旅する者か?」


 みんなの注目を集める中、猫娘は堂々と返答する。


「そんなこと急に聞かれてもわからないにゃ!!」


――意外!! 非常に素直な返答!!


 正直は美徳であるし、これが御伽話ならいい結果に転ぶこともあるだろうけど。

 もちろんそうなるわけもなく……。


「汝、我が力を得る者にあらず」


 と言うなり、メルフォーネの書はポトリと落下して地面に転がった。

 そうしてうんともすんとも言わなくなった本を見て猫娘は叫ぶ。


「にゃああああ、失敗だにゃ!!」

「当たり前だ、バカ!!」


 宝条のもっともなつっこみ。


「なんで馬鹿正直に答えてんだよ。もっとまともな返答しろよ」

「じゃあ何て言えばよかったのにゃ!!」

「ぐっ、それはだな……」

「ほら、ライナだって答えられないのにゃ」


 アイルと宝条が言い合う中、レティリアさんが地面に転がったままのメルフォーネの書を拾い上げて言う。


「こうしてアイテム自体は消えてないってことは、まだ使えるんじゃないかしら」


「だったら次はライナが挑戦するといいにゃ!!」

「おいおい、いいのかよ。せっかくのレアスキルをあたしに取られることになるぜ」

「どうせライナも失敗するから別にいいにゃ」

「くっ、こいつ……、やってやろうじゃねぇか」


 第二の挑戦者として今度は宝条がメルフォーネの書を使うことになる。


「よぉし、いくぞ……」


 宝条が使用すると、再びメルフォーネの書は宙に浮き、言葉を発する。


「我開く者よ。汝、何を求め旅する者か?」


 アイルの時と同じ問いかけに彼女は何と答えるのか……。


「それはもちろんスリルってやつだ。スリルのない旅なんてつまんねぇからな」


 宝条らしい回答だ。

 その結果は……。


「汝、我が力を得る者にあらず」


 当然のごとく上手くいくはずもなく失敗に終わる。

 まぁわかりきってたことだけどね……。


「くっそぉ、駄目だったか」

「何がスリルだにゃ!! そんな回答で成功するわけないのにゃ!!」

「何だと。てめぇのよりは百倍マシだろ!!」


 この後もポム嬢、姫岸さんと続いて挑戦するものの二人とも失敗。

 オグさんは棄権するし、レティリアさんは最初から挑戦する気はなし。

 結局この場にいるPCは誰もメルフォーネの書との契約に成功することができなかった。


「てかヒントもなしにいきなり聞かれても、答えなんてわかるわけないっつうの」

「だからアイルは最初っからそう言ってるにゃ。こんなのわかりっこないのにゃ」


 悪態をつく宝条とアイル。


「ヒントになるような事を何か見落としてるいるのかも……」


 ポム嬢の言葉に一同首を傾げて考えるものの、やはり質問の答えなどわかりはしない。

 そしていい加減ラチがあかないこの状況に嫌気がさしたらしい宝条が言う。


「もうとっとと売り払っちまうか。使えないもん持っててもしょうがねぇだろ」

「たしかにそれも一つの手かもしれないにゃあ……。お金に換えたら約束通り山分けにもできるにゃ」


 停滞感漂う中、ロマンより現実的な利得が頭にちらつきはじめているらしい。


――まぁ無理もないことだけど、せっかくの激レアアイテム、俺なら手元においておきたいけどなぁ……。


 しかし悲しいかな俺は雇われNPCの立場。

 彼女達の決定に口出しできはしない。


 そんな俺のそわそわ感が伝わったのか、姫岸さんが言う。


「せっかくですしイージスさんも挑戦してみませんか?」

「えっ、俺が?」

「はい。イージスさんなら本との契約、上手くいくかもしれませんよ」


 そう言って微笑む姫岸さんを見て俺は思ったね。


――あっ、ここにエンジェルがいるな。


 っと。


「けどいいのかな……」


 内心すでにノリノリですが、その気持ちを押し殺してチラチラと他のみんなの様子をうかがう俺。

 肝心の他のメンバーの反応はというと……。


「えぇ、NPCに使わせるのはなんかもったいなくないか?」


 宝条はあまり乗り気ではない様子。


「そんなことないよ」

「イージスは道中すごく頑張ってた……、像の謎解きだって……」


 姫岸さんとポム嬢はこっちの味方だ。

 オグさんも二人に同意して頷いてくれている。


「たしかにイージスもアイル財宝探索隊の一員として役立っていたにゃ。メルフォーネの書を使う権利はあるにゃ」


 他のメンバーが賛同しているのなら、宝条ひとり強硬に反対する理由もない。


「う~んまぁみんながいいならそれでいいけどさ」


 雇われNPCの立場でありながら、俺はレア新スキルを習得できるチャンスを得ることに成功する。

 そしてメルフォーネの書を俺が使用しようとするその前に宝条が言う。


「んじゃイージスの結果見たら、時間も時間だしいったんギルドハウスに帰るってことで」


 冒険から帰還してしまえば、残すにしろ売り払うにしろ俺がこの書を使う機会はもうないだろう。

 俺がメルフォーネの書との契約を成功させるチャンスはこの一度っきりだった。


――よし、いくぞ。


 質問に対する答えはもう決めてある。

 こういうのは下手に考えすぎないでいいのだ。

 男らしく、力を得る者に相応しく、シンプルに答えればいい。


 愛と平和のため。

 ラブ&ピースだよ。


 なんて非の打ち所がない回答なんだ。

 メルフォーネの書さんサイドも大満足の一発回答ですよ、これは。


 うん。いやまぁ、そんなわけないと内心わかってますけど……。


 でも仕方ないじゃん!!

 そりゃアイルの言う通りだよ、こんなもんわかんねぇよ。


 ちょっと投げやりな気持ちになりながら俺はメルフォーネの書を使用する。

 そして本は今日数度目の宙浮きを開始する。


――毎度毎度大変ですね、メルフォーネの書さんも。


「我開く者よ。汝、何を求め旅する者か?」


 本の問いに俺は当たって砕けろの精神で答えようとする。

 が……、それが出来ない。


 どうしてか躊躇い、何かにつっかえて言葉が口から出てこないのだ。


――あれ?


 そんな自分自身に戸惑っていると、ふと誰かの声がしたような気がした。

 姫岸さん達のものではない、どこか覚えのある声が。


 それは誰であったか。それは何処であったか。

 一瞬、頭の中に浮かぶ見知らぬ景色の中、その娘は俺を見ていた。


 静かに見つめて少女は問う。


『あなたは何を求め、そんな旅を続けているの?』


 そして俺は無意識のうちにその言葉を口にする。


「断罪を……」


 それは小さな呟きだった。

 周囲で俺の様子を見守る姫岸さん達には聞こえないような無意識に出た呟き。


 だがそんな俺の声にメルフォーネの書は確かに反応する。


「長き間、この時を待ち続けてきた……」


 宙浮く書が独りでに開き、強い光を発する。


――うおっ、眩し!!


 そしてその光はいくつもの曲線を描いて俺の方へと集まり突き刺さった。


「イージス!!」

「イージスさん!!」

「イージスくん!!」


 意識が遠ざかる。俺の名をみんなが叫ぶ声が聞こえる……。


 そうして気づけば俺は、見知らぬ花畑の中に立っていた。


――ここは……。


 どうしてこんな場所に、そんな思いとともに思い出す一つの出来事。


――まるでこれは、あの時同じだ。


 あの時。

 剣に宿っていた彼女、『アストビア』と会った時と同じような異空間ではないのか?

 見える景色こそ違えど、そうとしか思えない。


――だとするならここには……。


 その予感は正しかった。

 この不思議な花畑に立っていたのは、俺一人だけではなかった。


「やっと会えた」


 背後から聞こえるすんだ声に振り返ると、そこには覚えのある少女が立っていた。

 本の問いかけに答える時、頭の中に自然と思い浮かんだあの子に違いない。


「君が俺を呼んだのか?」


 問いかけに答えるより早く、少女は駆けて俺の胸へと飛び込み、抱きついてくる。


――ごほぉっ!!


 なかなか強烈なタックルだ。

 危うく後ろに倒れるとこだった。


「えっと、あのう……」


 困惑しながら少女の様子をうかがうと、彼女は胸にすがりついたまま震える声で言う。


「私はただ待っていただけ。そうすることしかできなかったから……」


 不思議な子だ。

 アストビアがそうであったように一目見ただけで人とは違う何かを感じさせるオーラを帯びているのだが、ただ彼女とは違いそこに圧されるような力強さは感じられない。

 美しいというよりは可愛らしい。


「俺を待っていた?」

「ずっと待っていた。いつかこの日がくると、あなたは私に約束してくれたから……」


 そう言って微笑む少女の目から一筋の涙がきらりと見えた。。


「お願い、私をもう一人にしないで……」


 その震える声を聞きながら俺はようやく記憶の一欠けらを思い出す。


――ああ、そうか。君は……。


 俺はこの子の名を知っている。

 もとからそんな予感はしてたけど、まさに今それは確信へと変わった。


 そしてたしかにこの子とはとても大切な約束をしていた気がする。

 それを完全に思い出し、全てを理解したわけではないけれど……。


 今、彼女にかけるべき言葉だけははっきりとわかる。


「ごめん、メルフォーネ。もう一人にはしないよ……」


 しくしくと泣く少女の頭をなでながら俺は出来るだけ優しい声で彼女を慰める。


「もう大丈夫だから。待っていてくれてありがとう」


 少しは効果があったのだろうか。

 少女は小さな笑みを浮かべて言ってくれた。


「うん。また一緒に旅ができるね」


――うっ、可愛い。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「メルちゃん可愛いすぎやろぉぉぉ!! ……ってあれ?」


 心の中で思っていただけのはずなのに何故か俺は絶叫していた。

 しかもここはさっきまで俺がいた花畑世界ではなくて……。


「イージスさん大丈夫ですか?」

「お、お前、ついに頭が……」

「きっと混乱状態なのにゃ」


 いつのまにやら姫岸さん達のいる世界に戻ってきていた。


 突然の絶叫という俺の奇行にみなさんびっくり、ドンびき状態。

 まずはその誤解を解かねば……。


「いや大丈夫。正常だから。ステータス異常とかじゃないから!!」

「ステータス異常はないって、それじゃイージスやっぱお前、本当に頭がおかしくなっちまったんだな……」

「いやそうじゃなくて……、そう!! さっきのは寝言みたいなもんで!!」

「とんでもない寝言だにゃ」

「完全に危ない人……」


 ああん、ポム嬢までひどい!!


 みんなの冷たい視線にショックを受けていると、レティリアさんが質問してくる。


「それで契約の方は成功したってことでいいのかしら、イージスくん」


 俺の腕の中にはメルフォーネの書がいつのまにか抱えられている。

 一連の出来事からいっても、契約に成功したと判断していいだろう。


「ええ、たぶん」

「たぶんって何だよ、新しいスキル覚えたかどうかなんて自分のステータスチェックしたらわかるだろ」

「ああ、そうか」

「そうかって、大丈夫かよ。まだ寝ぼけてんじゃねぇだろうな」


 宝条に言葉に従って俺は自分のステータスをチェックする。


 ちょっと特異な力っぽいからなぁ。普通のスキルとかとは別枠かもなぁと思ったりもしたが……。


――『メルフォーネ』。


 スキル欄にはしっかりと新スキルが記入されていた。

 そのまんまのスキル名。効果はずばりメルフォーネの力を操る、とのこと。


 わかりやすいようでわかりにくい。


――メルフォーネの力ってなんだろ、結局俺は何ができるようになったんだ?


「どうだ? スキル覚えてたか?」

「うん、まぁ……覚えてたよ」


 いまいち冴えない返事に宝条はいぶかしむ。


「で、効果は?」

「それが……、『メルフォーネの力を操る』ってことらしいんだけど……」

「なんだそりゃ」

「俺にもよくわかってなくてさ……」


 俺の言葉を聞いてレティリアさんが言う。


「メルフォーネの力ってことはその本の力をってことじゃないかしら? 普通の秘伝書なら使用した時点でアイテムは消えるのに、これは成功してもまだ手もとに残っている」

「たしかに……」


 俺は手にしたメルフォーネの書を開いてみる、その瞬間。


――ああ、そういうことか。


 アストビアの時がそうであったように、新たに得た力、その使い方を唐突に理解する。


「わかりましたよ……、レティリアさん」

「わかった??」


 俺が何を言いたいのか彼女には理解しきれていない様子。

 そりゃそうだ。さっきまでよくわかってないと言ってた人間が本を開いた途端に言う事が180度変わってるんだから。


「はい、新しいスキルの使い方が。……このスキル、かなりすごいかも」


 口であれこれ説明するよりも実演してみせた方がはやい。

 近場の像の一つを指差して俺は言う。


「ちょっとあの像見ててください」

「像を?」


 レティリアさんをはじめ皆の視線が像へと向く。

 それを見て俺はメルフォーネの書を開いたまま、スキルを発動する。


「じゃいきます」


 手にした本が光り、同時に俺の体もその光に同調する。

 この間、わずか一秒ほど。

 そして次の瞬間には、俺の体は空間を越えて像の頭上へと移動していた。


 一目瞭然。

 俺が獲得したメルフォーネの力ってのはつまり、『瞬間移動』ってやつだった。


「おおっ、まじかよ!!」

「すごいです!! イージスさん!!」

「にゃああああ!! ワープしたにゃあああ!!」


 喚声をあげるみんなを像の頭上から見下ろして俺は笑みを浮かべる。


――ふふふ、羨望の眼差しが気持ちいい……。


 彼女達の反応を満喫して俺は再び本を手に、もといた場所へとワープした。


「信じられない……、詠唱時間もなしに……」


 超上級プレイヤーだからこそ驚きもなおさらなのだろう、目にした光景に唖然とするレティリアさん。

 そんな彼女に俺はこのスキルの素晴らしい点をさらに伝えてあげることにした。


「それどころかMPもSPも消費なしですよ。ただ一日当たりの回数制限はあるっぽいですけど」

「なるほど……。あくまでイージスくんが得たのはこの本を使う力。移動自体は本の力であり、マジックアイテムを使う時と同じようなものなのかも……」

「ですね」


 そんな感じでレティリアさんと話しているとポム嬢が質問してくる。


「移動範囲はどれぐらい先まで有効なのか気になる……」

「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました。このメルフォーネの書をご覧ください」

「地図……?」

「これは今いる巨顔像の遺跡の地図だよ。どうやら自動で今いる場所が描き加えられていくみたい」


 本を広げ語る俺に宝条が言う。


「つまりこいつにはマッピング機能もついてるってことか」

「そう。それで地図になってる場所ならどこにでも飛べる」

「マジか。ゲートみたいに遠くまでも飛べるのか」

「みたいに、どころかずっと遠くまでいけるよ。ゲートは一度に飛べる範囲は制限あるからね」


「ほんとに便利なスキルね。空間移動のスキルは『ゲート』以外にもあると考えられていてはいたけど、まさかそれをイージスくんが最初に身に付けるだなんて、……大発見ね」

「噂の有名人になること間違いなしにゃ」

「NPCには過ぎたるものだな」


 移動魔法のゲートは習得難度が高いうえ、発動時間がかなりかかる大わざだ。

 ゲートよりも手軽で便利な移動魔法はないかと探してまわっている上級プレイヤーも少なくない。

 そんな中で今回発見されたこのスキルは詠唱なしの発動時間も一秒ほどと驚きの便利さだ。

 注目を集めるなという方が無理がある。


――注目を集めて優越感に浸るのも悪くはないが、下手な嫉妬やら面倒ごとにまき込まれたくないのなら、なるべく秘密にしておいてもらった方がいいかもなぁ……。


 まぁこれだけ便利なスキルだと使う機会も多いだろし、隠しとおせるわけもないだろうけどね。


「アイル達もいっしょにワープできるのかにゃ?」

「いや、さすがにそれは無理っぽい」


 そこまでいくと殆ど完全にゲートの上位能力になるのだが……。

 俺の返答にアイルは残念そうな顔をする。


「残念だにゃあ、ゲート代わりになるなら皆と遊びやすくなるのににゃあ」

「アイルちゃん達はカナイ出身だっけ? 『コスジャの街』までなら私がゲートだしてあげられるけど?」

「にゃああ、それは助かるにゃ!!」


 コスジャから彼女達の拠点であるラーベンまではそれなりの距離がある。

 それでも俺達の拠点コソカナの街まで徒歩で移動するのに比べたら全然らくちんだ。


「じゃあ必要な時は事前に連絡ちょうだいね」


 優しいレティリアさんの申し出にアイルも大喜びだった。


「よかったですね、アイルさん」

「これからもよろしくだにゃ、リリナ嬢」

「はい。私もまたアイルさん達と一緒に冒険できたら嬉しいです」

「にゃはは、アイルもにゃ!! 今度遊ぶ時は他のメンバーも誘ってくるにゃ!!」


 どうやら今後も『ナナム』と『無明に宿る赤き黄金の月団』の交流は続くことになりそうだ。

 前世で仲間であったアイル達とこれからも一緒に冒険する機会があるというのは俺も嬉しいのだが、問題は交流が続くとなると、いつかセイガが同一人物だとバレることになるかもしれない。

 心配のしすぎだろうか。

 リアル関係の発言は控えてたからなぁ、大丈夫な気がしないでもないが……。


――まぁ、バレたらバレたまでの事だな……。


「そんじゃお宝も無事回収できたことだし、帰るとするか」


 宝条の言葉に一同頷き、移動を開始する。

 その途中、宝条が俺に問う。


「ああ、そういやさ。結局答えは何だったんだよ」

「答え?」

「質問の答えだよ。あたし聞き取れなかったんだよ」

「ああ、あれね……。『愛と平和』かな」

「うわ、だっさ」


 レアスキルをゲット出来た喜びと、アストビアやメルフォーネの謎、そしてこれからの事。

 喜び悩み、少々複雑な気持ちを抱いて俺は巨顔像の遺跡を後にした。

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