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シラハST

 イロモの世界にはいくつかの大陸があり、それら大陸の一つ一つに大小様々な国家が存在している。

 オキナ大陸の西に広大な支配圏を築く千年王国『イーゴス』もそんなイロモ世界に存在する内の一国である。



 俺はイーゴス国の第三都市『コソカナ』の街に来ていた。

 この街はギルド『ナナム』の拠点地であるギルドハウスから最寄りの場所にあり、イーゴス内でも有数の都市とあってか食、工、商と充実していて、多くのプレイヤーが利用している街であった。

 イーゴスの他の都市と同様に石造りを基調とした街にはプレイヤーのみならず住人『役』のNPCも大勢存在しており、とにもかくにも人、人、人。

 どこを見渡しも人が溢れ、様々な営みを目にする事が出来る。

 くだらない談笑を続けるプレイヤーに、行商人のNPC、冒険の戦果を売りつけようとする者もいれば、大道芸人のような者まで……、そしてそれを眺めるだけのPCにNPC。

 これだけ活気に満ちて賑やかな街が第三都市に過ぎないというのだから驚きだ。


「おお、すげぇ人だ」


 コソカナの街のでかさや、人の多さに驚く俺。

 それを馬鹿にするようにして宝条が言う。


「なんだお前、コソカナにくるのは初めてか? この程度普通だろ、普通。王都の方はもっとすげぇんだから。田舎者なんだなお前」

「ライナったら、そんな言い方。ごめんなさいイージスさん」


 嫌みったらしくどこか自慢げに都会人を気取る宝条を注意する姫岸さん。


「いやぁ別に、マスターが謝るような事じゃ。それに実際田舎から出てきた人間だしなぁ」


 マスター。

 ギルドマスターであるリリナをそう呼ぶ俺。

 これは『リリナと、お前が呼び捨てするのは気持ち悪い』という宝条の抗議によって強制的に呼び捨て禁止令が出されてしまった為である。

 リリナ呼びが出来なくなるのは大変もったいないが、クビを免れる為の致し方ない。我慢だ、我慢。


「田舎者、きょろきょろしてないでちゃんとついてこいよ。あたしらからはぐれて迷子なんかになったら面倒くせぇからな」


 そう言ってさっさと歩を進める宝条とますます彼女の振る舞いを申し訳なさそうにする姫岸さん。


 大丈夫ですよ姫岸さん。彼女の言う事なんか本当に気にしてないんです。

 だって俺は知っている。

 現実の彼女はまさしく田舎街に暮らす田舎者に過ぎない事を……。


 ふふふ、人間って悲しい生き物だね。


「そういえばイージスさんはどこの出身の方なんですか?」


 むむむ、姫岸さんからのこの質問。その辺の設定は細かく考えてなかったが、まぁ前世で使ってたキャラクターの設定そのまま流用すればいいか。


「カナイだよ」

「カナイ???」


 どうやらカナイを知らないご様子の姫岸さん。顔にハテナマークが見えてきそうなほどの困惑顔。

 まぁレベル2の初心者じゃイロモ世界の地理に疎くても仕方がない。


「カナイ王国、イーゴスの北西、山を越えた先にある小国……」


 そんな彼女に助け舟をだしたのは眼鏡娘のポム嬢だった。


「おお、さすがポム嬢。眼鏡をしているだけあって物知り!!」


 なんて事を俺が言うと、彼女はムッとした表情で。


「眼鏡は関係ない……。そういう事言う人、嫌い……」


 どうやら地雷を踏んでしまったらしい。

 彼女に嫌われるイコール、俺を味方する人が姫岸さんだけイコール、クビに近付く……。

 これはいかんですよ。


「……すいません。以後気をつけますんでどうかお許しをポム嬢」

「別に……。悪いと思ってるならそれでいい……」


 あっさり許してくれるポム嬢。性悪女の宝条と違って優しいわ。


「けど、その呼び方はやめて……」


 愛と親しみを込めての嬢呼びが気に食わないご様子のポムっち。


「でも、呼び捨て禁止令だされてますし」

「他にいくらでもあるはず……」

「ポム様!! ポムちゃん!! ポム君!!」

「馬鹿にしてる?」

「いえ、滅相もありません」

「呼び捨てでいい……」

「えっ、でも」

「私は気にしない……」


 ポム嬢の私の事は名前で呼んで宣言。

 男イージス、乙女の期待に応えぬわけにはいくまい。


「ゴホン。では失礼して……ポム」


 ダンディさマックスでお送りした名前呼び捨て。


 この女、堕ちたな……。


「気持ち悪い……。今までのでいい……」


 ああん、ひどい。



 そんな馬鹿なやり取りをしている内に俺達はある建物の前へと到着する。

『赤い宝石亭』。

 そこは冒険者の憩いの場であると同時に仕事を与える場でもある。

 いわゆる酒場と呼ばれる場所。


 俺達がここに来た理由はただ一つ。



 簡単なモンスター討伐クエストをこなしてキャラクターを成長させながら、小遣い稼ぎをしよう!!


 RPGの基本だね。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「う~ん、どれにするよ」


 酒場の店内に置かれた掲示板、そこに貼り出されたクエストの数々に目を通しながら宝条が言った。


 難易度別に分けられているが、一番レベルの高いライナですらレベル4のこの初心者パーティー。眺めているのは当然、相応なお手軽簡単クエスト。

 報酬もしょぼいが、無理なクエストを受けたところで失敗するだけだ。


「どれでもいい……、報酬も似たようなものだし……」

「そうだな、いつものこれでいいか」


 貼り出された羊皮紙の内の一つを手に取りながら、宝条が俺の方を見て言う。


「あ~あ、どっかの誰かさんがレベル1の雑魚じゃなかったら、もう少し実入りのいいクエストも受けられたんだろうけどなぁ、どっかの誰かさんがレベル1じゃなぁ」


 嫌みな女め、今に見てろよ。

 そんじょそこらのレベル1とは違う働きを見せてやろうじゃないの。

 何せ、前世じゃ貴様のレベル4戦士とは段違いのキャラクターを操っていたんだ。


 僕が一番戦士キャラを上手く使えるんだ!!


 なんて事を内心思っていたその時。


「お~い!!」


 聞きなれぬ声が後方からした。それも男の声。

 声のした方へと振り返ると、そこには見覚えのない人物の姿があり、手を振りながらこちらに近付いてくるではないか。

 外見は二十代半ばのナイスガイ。


――誰??


 俺の記憶の中には合致するような人物はいないぞ。

 と言う事は、まぁ三人娘の知り合いかな。


「あっ……、お兄ちゃん……」


 ポム嬢が近付いてくるさわやかイケメンを見るなりそう言った。


 あらあら、ポム嬢のお兄様でらっしゃいましたか。

 そういえばどことなく似ているような気がしないでもないですね。

 彼もギルドナナムのメンバーなのかな。


――ステータスチェック!!


 あれれ。

 名前しか見れないな。


 表示された名はシラハ。


 同じギルドメンバーならレベルやHPくらいは表示されるし……、ナナムのメンバーじゃないって事になる。

 兄妹別々のギルドで遊んでる奴なんていくらでもいるし、驚くような事ではないんだけど……。


――ん? シラハ?


 どっかで聞いた事あるような……。

 でもこんなキャラの知り合いはいないし、だいたい前世での活動は主にカナイ王国でしてたわけでイーゴスに来た回数など知れてる。

 そしてイーゴスのプレイヤーの知り合いも数えるほどしかいない。

 まぁ気のせいか。


 それより、気になるのは。


 お兄様の装備品!!


 前世で10越えの英雄レベルに到達した俺でも見た事がないような品がちらほらと。

 イロモ自体、莫大な数のアイテムがあり上級プレイヤーであってもその全てを把握する事は困難、第一、イロモの世界には未発見のアイテムが大量にあると考えられている。

 何故ならプレイヤーが到達していない地域も存在しており、毎日、いや毎分、毎秒。世界のどこかで新発見が起きているゲームなのだ。


 質も規模も桁違いのゲーム、イロモ。


 だって神様達が運営してるゲームだもんね。そりゃね。


 しかしまぁ、それでも初心者や中級レベルの凡人が入手出来るようなアイテムには限りがある。

 ぱっと見だけでシラハ氏の装備品がそれらとは一線を画す物だという事は明らか。


――さてはお主……、このゲームやり込んどるな!!


 同志の登場ににやりとしている俺を見て、シラハさんが言う。


「あれ、そっちの子。新入り?」


 彼の言葉を宝条が否定する。


「違いますよ。NPCですよ、NPC」

「ああ、ほんとだ」


 ステータスチェックでPCかNPCかは判断出来る。


「アップで入ったギルドガーディアン、さっそく雇ってみたんですけど……、はぁ、まじで大失敗。レベル1の超雑魚っすよ、こいつ」

「はは、うちも導入したけどこっちのはかなり強いよ」

「ええ!? いいなぁ、あたしらも早くこいつクビにして、新しいの雇わないと」


 きゃああ、お兄様、宝条に変な誘惑するのはやめてぇぇ。


「う~ん、でもどんなギルドガーディアンが雇えるかはギルドポイントやギルドの規模が関係してるみたいだから、今のままじゃ新しいの雇っても一緒だと思うよ」


 ですよね、お兄様、私もそう思います。


「う~、初心者三人だけのメンバーじゃギルドポイントなんて全然だしなぁ……。そうだシラハさん、メンバー何人か貸してくださいよ。それでポイントちゃちゃっと稼いで、ついでに人数も水増しして、新しいの雇っちゃえば……」


 なんと邪悪な考え!! 宝条よ、そこまでして俺をクビにしたいのか。


「おいおい、自分達の力だけでやりたいって新しいギルド立ち上げたのに、もうこっちの力を当てにするつもり?」

「うっ、それは……」

「いいじゃないか、レベル1のNPCでも。これから一緒に成長していけば良いんだよ。ライナだってまだレベル4でうちの妹やリリナちゃんはそれ以下なんだし。ずるして急に強いNPC雇うのなら直接うちのギルドメンバーに助けてもらうのと変わらないしね」


 ええ事言う。ええ事言うでこのお兄さん。

 外見だけでなく中身までナイスですねぇ。


 シラハ様の一言により、宝条の邪悪なる野望は見事に打ち砕かれた。その事に感動している俺を見て、姫岸さんが言う。


「イージスさん、こちらポムのお兄さんのシラハさん。私達が今のギルドを作る前にお世話になってた方でもあるんですよ」


 そんな事は今までの話を聞いてりゃわかる事なのだが、姫岸さんがくれた自己紹介の機会。活かさないわけにはいかないでしょう。

 何せ相手はポム嬢のお兄様、しっかりと頼れる男アピールをして、兄妹のポイントを稼いでおきましょう。

 これからも宝条のような悪魔の暴走と止めていただく為にもね。


「初めまして、ギルド『ナナム』に雇われたギルドガーディアンのイージスと申します。不肖の身ではありますが、マスターのみならず、妹さんの身、我が命に代えても必ず守って見せますので、ご安心ください」


 ちゃっかり姫岸さんも守るアピールを入れておく事を忘れない俺。


「おお、気合入ってるねぇ。頼もしいNPCだ。よろしくね、イージス君」


 にこやかに応じるシラハさんと違いなにやら不満気な女が一人こちらを見ている。


「おい、なんで姫とポムだけなんだ。あたしはどうしたあたしは」


 聞こえない、聞こえない。


「ってか、お前少しは驚けよな」


 驚く? いったい何を言ってるんだこの女は。

 宝条が何を指してそんな事を言い出してるのか、俺には理解できない。


「あのシラハさんだぞ」


 あの?

 どの?


 不良の世界の『○○さんだぜ、すげぇ!!』みたいなノリで言われても困るんですけど。


「……お前、まさかまじで知らないのか?」

「えっ、知らないかって言われても、今日会ったとこだし……」

「……はぁ、いくらNPCだっても……、まじかこの田舎者」


 信じられないというような態度の宝条。

 ぽかんとする俺、シラハさん本人や姫岸さんはにが笑いを浮かべている。


 えっ、なに、なんなの、この空気。

 今日あったばかりのプレイヤーを知らないだけで何でこんな空気になるのよ。

 おかしくなくなくなくなくない?


「コソカナの街で、いや、イーゴスでシラハって言ったらもう、一人しかいないだろ」


 んん??


 まだピンとこない俺についにはキレ気味になって宝条が言う。


「聖騎士、巨人殺しの聖騎士シラハだよ!!」


 聖騎士……、巨人殺し……、巨人殺しの聖騎士シラハ。


――あああああああああああああ!!


 シラハ。

 どうりで聞いた覚えがあるはずだ。

 イーゴスで十指には入るであろうトップランクギルド『ルル・ルクルス』に所属する聖騎士シラハの名はイーゴス国内のみならず、このゲームをやり込んでる人間なら一度は耳にする機会があるだろうというほどのモノなのだから。


 シラハの名を一躍イロモ世界に広めたのは『ドモールの大巨人討伐』の功績である。


 ある日、イーゴス国内の街ドモールが巨人の魔物によって破壊、占拠されてしまう。

 そして、この魔物を討とうと集まった手だれの冒険者達の多くがほとんど何も出来ずに倒れていく中、ギルドの仲間と協力し彼は奮闘した。

 見事ドモールの大巨人と呼ばれた魔物を討ち取ったシラハには、イーゴス国から『巨人殺し』の称号が与えられ、それまでのギルドの貢献もあってか、ついには『ルル・ルクルス』ごと、イーゴス国の正式な騎士団として迎え入れられる事になる。

 自分の所属するギルドが一国の騎士団に……、そのきっかけとなった男の名声はイーゴス国内のみならず、国境を越えてプレイヤー達の間に広まっていったのだ。


 レベル17。

 まさしく上級者を越える、超上級者。

 ネット上の最強PCは誰かという話題でも名が出てくるほどの男である。


 そんな人物が、目の前にいる彼なのだと、宝条は言っていたのだ。


「ええ!! シラハって、あの、シラハ!?」

「なんだよ、急に。やっぱ知ってんのかよ」


 一気にテンションの上がった俺に宝条はちょっと引いてる様子だが、気にしない。


「いやそりゃもちろん。超がつくほどの有名人でしょ」

「さっきまでの薄い反応は何だったんだよ」

「カナイの田舎出だから、名前が頭の片隅にいっちゃてて……」


 いくら国を越えるほどの有名人だとは言っても、活動国が違えばシラハもギルド『ルル・ルクルス』も直接的な関わり持つような事はそうそうない。

 カナイ王国で活動していた俺に、ネット上で幾度か目にしていた程度の名をすぐに思い出せと言うのはさすがに無茶ってものだろう。


「はは、カナイ出身のNPCなんだ。いいとこだよねカナイ。俺も何度か行ったけど景色が綺麗なとこだったし、面白い人達もたくさんいたなぁ」


 ええ人や。

 田舎だなんだと人を馬鹿にするだけの誰かさんとは大違いだわ。


 それから俺はこの超有名人との会話を楽しんだ。

 敵対ギルドとの戦いで一度の戦闘で百人斬っただ、傷一つ負わずに敵の拠点を陥落させただ、ゲーム内外で噂になっていた事の真偽から、あのドモールの大巨人討伐の話まで。


 俺としては時間がいくらあっても足りないぐらいだったのだが……。


「おい、いい加減にしろよ。もういいだろ、それぐらいで」


 選んだ討伐クエストをはやく済ませてしまいたい宝条に強制的に中断させられてしまう。


 まぁ、彼女らにとって俺はただのNPC。よく出来た人工知能にこれ以上べらべら会話されていても迷惑なだけなのは当然だろう。

 ここは素直に従うしかない。


 しかし、これほどの有名人がポム嬢のお兄さんだったなんて……。

 ポム嬢の俺に対する好感度、ますます大切になってきますなぁ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



◇◇◇シラハ◇◇◇

レベル17:聖騎士:人間

MAXHP236:MAXSP59:MAXMP36:トノ神

赤7:青3:緑4:黒-2:白5


力:110

知力:78

頑強:105

俊敏:95

器用:95

魔力:78

精神力:100


◇スキル◇

ヒールLv3

キュアLv3

炎槍舞


などその他いろいろ


◇装備◇

スタイル1:『巨人殺しの聖槍』『ゴドラフの大いなる鎧』『カンタコラルの大盾+2』

スタイル2:『祝福された鋼の剣+3』『テラロスの服+3』『バックラー+3』

『ロザルフの守護石』『聖騎士の証』


などその他いろいろ


シラハはコソカナの街など慣れ親しんだ比較的安全な場所にいる時はスタイル2の軽装備で行動する。

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