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巨顔像の遺跡

 俺達は敵モンスターとの遭遇に警戒しながら、モルド渓谷をさらに奥へと進んだ。

 そうして進んでいった先で俺達は神秘的で異様な光景を目にする。


 大きな樹木に囲まれたあけ地に、いくつも転がっている苔に覆われた巨顔の像。

 その多くは胴体部がない頭だけの像であり、それぞれが思い思いの方角をじっとにらみ続けていた。


 間違いない。一目でわかる。

 ここが目的地である『巨顔像の遺跡』だ。


「おお、ここが巨顔像の遺跡か」


 前世含めて初めて訪れたこの地の不思議な景色に、ちょっとした感動を覚える俺。

 それは他のみんなも同じらしく。


「すごいです」

「すごい……、でもちょっと不気味……」

「でっけぇ頭がいっぱい転がってるな」

「にゃはは、大迫力だにゃ!!」


 感嘆の声をあげていた。


 まるで観光地にでもきたかのように騒ぐ俺達にレティリアさんは言う。


「ほら、はしゃいでばっかいないで作業を進めるわよ」


 いまのところ、この場にモンスターの姿は見当たらなかったが、湧いてくる可能性はゼロじゃなくあまりゆっくりはしていられない。

 リザードマン達との乱戦で多くのアイテムを消費し、余力があるわけではない俺達は宝の回収を急ぐ必要があったのだ。


「とりあえず数字の確認をしておきましょう」


 レティリアさんの言う数字とは宝の地図に『Ⅶ.XI.XIV』と記されていたモノの事で、それが像に刻まれた番号を表しているのだと、出発前にみんなで推理していた。

 その推理が正しいことを確かめる為、転がる像の一体を徹底的に調べ上げる俺達。

 苔に覆われた部位もしっかりはらって、番号が刻まれていないか探し回る。

 だが……。


「う~ん、見つからないなぁ」

「ほんとに番号なんて書いてあんのか?」

「ないにゃあ」


 誰も像に刻まれた数字なんて見つけることができなかった。


「この像にないだけで他のにはついてるのかも」

「そもそも根本的にあたしらの推理が間違ってたんじゃないのか?」

「見落としてるだけかもしれないにゃ、もう一度よく探すにゃ」


 巨顔の像を前にああでもない、こうでもないと話し合っていると、ポム嬢が像の一部を指差しぼそりと呟く。


「これが数字の意味なのかも……」


 みんなの視線が彼女が指差す先に集まる。


「模様?」

「ああそれ、染みかなんかの汚れだと思ってた」

「ポムチャ、これがどうかしたのかにゃ?」


 いまいち理解の足りない俺達にポム嬢は言う。


「星のマーク……、これが地図の数字を表してるのかも……」


 言われてみれば、手のひらほどのサイズの星型マークにみえなくもない。


「もしかしてこいつが像に何個あるか調べろってことか?」


 宝条の問いかけにポム嬢は頷く。


「たぶん……。この像は星のマーク一つだからⅠの像なのかも……」


 少々自信なさげな返答だったが、全く見当ハズレの考えとも言い切れない。


「他に手がかりもないし、とりあえずその線で別の像も調べてみましょ」


 レティリアさんの決断を経て、俺達はポム嬢の推理に従い他の像を調べ始める。

 そうして一つ目の像と同じくこびりついた苔を払いのけて探し回った結果、二つ目の像では星のマーク二つを発見することが出来た。


「おお、あったあった星のマークだ、二つ並んでる」


 発見者である俺の報告にみんな顔をほころばせる。


「まじか、じゃあポムの推理が正しかったってことか、さすがだな!!」

「ポムチャは天才にゃ!!」


 大袈裟に褒める宝条とアイルにポム嬢は照れ気味だった。


 星のマークを無事発見した俺達は念には念をということで、他にも星のマークがないかを探し回る。

 だが見つけることはできなかった。


「結局この像にあったのはイージスが見つけた星二つか。ってことはこれがⅡの像ってことだよな」

「そういうことにゃ!! この調子でじゃんじゃん他の像も調べ上げて『Ⅶ』『XI』『XIV』の像をみつけてしまうのにゃ!!」


 二つ目の像の調査結果に気をよくして、意気揚々と三つ目の像の調査に取りかかる。

 この時の俺達はポム嬢の推理が正しいのだと、確信めいたものすら抱いていたのだが……。


「なんだこれ……」


 第三の像で見つかったモノに、俺達は戸惑った。


「星のマークが二個と……、三角形?」


 まさかの三角マーク発見である。


「どういうことだ。星の数が像の数字を表してるんじゃなかったのかよ」

「きっと星のマークが消えかかって三角になっちゃったのにゃ」

「いやいや、どう見ても消えかかってるとかじゃなくて綺麗な三角マークだろ、これ」


 宝条とアイルのやりとりにポム嬢が申し訳なさそうに言う。


「ごめん私の考え間違ってたみたい……」

「いや、別にポムが謝るこたぁねぇよ」

「そうにゃ!! ポムチャは何も悪くないにゃ!!」 

「けどポムの推理が違ってたとなると謎解きは振り出しか……。どうすんだこれ、とりあえず他の像も調べてみるか?」

「そうするしかないかにゃあ……」


 みんなが頭を悩ませる中、ふと俺にはこの図形の謎が解けたような気がした。

 ぼんやりと浮かんだ一つの仮説を俺は呟く。


「頂点の数……」

「頂点の数?」


 聞き返す宝条に俺は己の考えを説明する。


「いや、なんとなく思ったんだけど図形の頂点の数の和が像の数字を表してるのかなと思って」

「頂点の数の和って……」

「うん、これなら星マークの5が二個で10と三角が3だから合わせて13」

「いや、角をなす二つの直線が交わる点が頂点だから星マーク一個の頂点の数は10だろ。全部合わせたら23だ」


 俺の語りに、めちゃくちゃ冷静に真顔でつっこむ宝条。


――恥ずかしいぃぃぃ!! キリっと推理してたのにめちゃ初歩的なとこでツッコミを入れられてしまうなんて……。


 そういや宝条って性格は野蛮だけど勉強は俺より全然出来たんだよなぁ。

 死にたい……。


「23じゃここにある像の数超えちまってるだろ」


 遺跡の像は全部で二十体。

 23という数字ではその数と合わない。


「あ、うん……。じゃあ頂点の数じゃなくて出っ張り部分の点の数だけとか……」

「それでも『Ⅲ』の像は三角マークでいいとして、『Ⅰ』の像や『Ⅱ』像はどうすんだよ」


 点や線のマークがあるのか。

 曲線で作られた図形にちょっぴり突起があるマークなのか。


 宝条につっこまれるほど俺は自分の仮説に自信がもてなくなってくる。

 だがレティリアさんは宝条と違った考えらしい。


「けど案外イージスくんの推理はいい線いってるのかも。像に刻まれたマークとここにある像の数が一致するなんて私達の勝手な思い込みでもあるわけだし……、とりあえず全部の像のマークを調べてまわりましょ」


 像のマークの意味が1から始まり最大値20なんてのは俺達の思い込みにすぎない。

 もしかしたら最小値が3で最大が100なんてこともあるかもしれない。


 俺達はレティリアさんの指示に従い残りの像のマーク探しを続行した。

 そして全部の像を調べ終えた後、俺達は再び謎解きにとりかかる。


 それぞれの像に刻まれたマークを描いた紙と地図に書かれた『Ⅶ』、『XI』、『XIV』の数字を見比べながら宝条が言う。


「『四角マーク1個と三角マーク1個が刻まれた像』、『星が1個と三角が2個刻まれた像』、『星が2個、四角が1個の像』、イージスの推理によるとこいつらが怪しいって事になるけど……」

「三つの像にお宝がそれぞれ眠ってるのかにゃ?」


 アイルの予想をレティリアさんは即座に否定する。


「一枚の地図で見つかる宝箱はひとつだけのはずよ」


 俺達と違いルル・ルクルス時代に何度もレベル5の宝探しを経験している彼女の言うことだ、恐らくそれは正しいのだろう。

 彼女の経験から外れて、今回だけ特別三つも宝箱があるなんてことは考えられない。


「じゃあ二つはダミーで当たりは一個だけかにゃ?」

「そうじゃなくてまだ解かなくちゃいけない謎があるんだと思う……」


 ポム嬢の言葉にうんざりした表情を浮かべる宝条。


「また謎解きか。そもそもイージスの推理が正しいと決まったわけじゃねぇし、……これほんとに見つけられるのかよ」

「ここまで苦労してやってきてお宝なしは嫌なのにゃあ~」


 思いのほか苦労する謎解き作業に俺達の間には悲観的なムードが漂い始める。


「愚痴を言ってても仕方がないわ。イージスくんの推理に該当する像をあらためて調べなおしてみましょう」


 レティリアさんの指示に従い該当する三つの像を皆でよく調べなおしてみるが……。


「だあぁぁ!! わっかんねぇ!!」


 答えらしきモノを結局見つけられず、お手上げとばかりに宝条が叫んだ。

 そして解けない謎にアイルが半ばヤケになって俺達に訴える。


「いつまでも像を調べまわってるだけじゃラチがあかないのにゃ!! お宝を発見するためには、やっぱり掘って掘って掘りまくるしかないのにゃ!!」

「掘るつってもどこ掘ればいいんだよ。像のまわりに限ったってこれだけでかい像だ、一箇所掘り出すにも相当大変だぞ」

「深さもわからないから半端に掘れば、当たりポイントを見逃して泥沼なんてことを考えられるからなぁ」


 猫娘の無茶な提案に宝条と俺が渋い顔を作っていると……。


「『どこを掘る』……、あっ、もしかしたら!!」


 姫岸さんが何かに気づいたらしい。


「あのちょっと待っててください」


 そう言って彼女はみんなのもとを離れ、何かを確かめにいく。

 俺達も遅れてその後を追った。


 姫岸さんが向かった先、それは怪しいと睨んでいた三体の像達。

 その実物を見比べて彼女は呟く。


「やっぱり……」

「何がやっぱりなんだ?」


 宝条が尋ねると彼女は笑顔で答えた。


「同じなの」

「同じ?」

「三つの像は同じところを見ているの!!」


――な、なんだってぇぇぇ!!


 慌てて皆で像の視線の先を確認する。

 すると確かに三体の像は顔向きこそ違えど瞳は同じ方向を見つめていた。

 念のため他の像も調べてみるが、やはり該当の三体だけが同じ方向を見つめているようだった。

 偶然の一致なんてことはありえなさそうだ。


 宝条とアイルが笑顔で言う。


「マジで姫の言うとおりだな!! ってことは像が見てる先を掘り進めば……!!」

「お宝がゲットできるのにゃ!!」


 思いのほか手こずった謎解き作業だったが、俺と姫岸さん、それにポム嬢とのナイスな頭脳的連携によって無事解決。

 掘り出すポイントがわかってしまえば、やる事はただ一つだ。


「埋まってる場所さえわかればこっちのものなのにゃ!! あとは掘って掘って掘りまくるのにゃ!!」

「おお~!!」


 謎の答えに辿り着いた俺達は一同シャベルを手にし三像が見つめるポイントを掘って掘って掘り進む。

 そして胸ほどの高さまで掘ったところでその時は訪れた。


――カン!!


 シャベルの先が硬い何かを叩く音。

 期待に胸を高鳴らせ、慎重に土を払いのけるとそこから顔を出した物体。

 それは色のついた金属。宝箱の装飾部だった。


「お宝だあああ!!」


 トップギルドが血眼でかき集めるレベル5の地図の財宝。

 その財宝が眠る宝箱を、俺達はついに発見した。


「にゃははは、お宝とご対面する重大な任は地図の持ち主であるこのアイルにまかせるにゃ!!」


 掘り出した宝箱を前にして気持ちがはやるのを抑えらない猫娘。

 そんな彼女に俺は言う。


「まずは罠を調べて、鍵も開けないと。……ライナ、よろしく」

「おう」


 メンバーの中で開錠・罠解除のスキルを持っているのは宝条のPCライナだけ。

 しかもそれはあくまでサブスキル程度に取得しているもので、スキルレベルは低く、高難度の鍵や罠には通用しない。


「どう? 開けられそう?」


 宝箱の錠を調べる宝条に問うと彼女は眉間にしわを寄せながら答える。


「う~ん罠はないっぽいけど……、しっかりロックかかってんなぁ。まぁでも、ちょっと時間はかかると思うけど、何とか開けられるかな」


 もしも目の前の宝箱の錠に宝条の開錠スキルが通用しないなら、レティリアさんが事前に持ってきてくれていたレアアイテム『魔法の鍵』を使わねばならなかった。

 魔法の鍵は消耗品であり、無償で手伝ってもらっている彼女にそんな物まで使わせるのは気が引ける。

 宝条のスキルで鍵を開けられるのなら、それに越したことはない。


 俺達はしばらくの間、ガチャガチャと鍵開けに勤しむ宝条の姿を見守った。

 そして……。


「よし、いけた」


 ついに開錠に成功する宝条。


「ほら開いたぞ」


 己の役目を無事果たした彼女はその場を立ち退き、見守っていた猫娘へと譲る。


「まかせるにゃ!!」


 宝条に代わり宝箱の前に立ったアイル。

 彼女は意気揚々とその蓋に手をかけ持ち上げようとするが……。


「うにゃあああ……、重いのにゃ……」


 どうやら宝箱の蓋はかなりの重量があるらしく彼女一人の力では開けられそうにもなかった。


 見かねたオグさんがアイルの傍らに立ち、蓋を開けるのを手伝おうとする。

 むろん彼一人だけに手伝わせるわけにはいかない。

 オグさんに続いて俺も宝箱の蓋へと手をかける。


「最後は友情パワーできめるにゃ!!」

「ほんとお前って調子いい奴だな」


 調子のいいことばっかり言ってる猫娘に呆れながら、宝条も手を貸す。

 そしてみんなで力を合わせて、重い宝箱の蓋を押し上げた。


「うぉりゃああ!!」


 軋みながらぱっかりと大きな口を開く宝箱。

 その中を確認すると同時に俺達は言葉を失った。


「何だ、コレ……」

「空っぽだにゃ……」


 ようやく見つけた宝箱。その中身はなんと空っぽ。

 金貨一枚と入っていない。


「なんでだにゃ……、ここまでのアイル達の苦労は何だったのにゃあ」


 寒々しい宝箱の底をのぞきながら嘆く猫娘。

 落胆しているのは彼女だけではない、宝条とポム嬢もそれは同じ。


「あんだけ手こずって成果なしかよ」

「仕方がない……」


「そう簡単に当たりの地図は引けないってことね。これも一つのいい経験よ」


 レティリアさんの言葉に姫岸さんも同意する。


「そうですね。結果は残念でしたけど、皆でわいわいと冒険できて、私はすごく楽しかったですよ」

「まぁ、そういうことにしとくか」

「アイルは納得いかないにゃあああ」


 前向きに捉えようが、不満たらたらだろうが結果を変えることはできない。

 いつまでも空の宝箱を前に突っ立っているわけにもいかず、彼女達は帰路につこうとその場を離れようとする。

 だが……、俺は違った。

 宝箱の前からひとり動けずにいた。


「おい、イージス。なにぼさっとしてんだよ」


 問いかける宝条に俺は言う。


「ああ、いや、ちょっと気になることがあって」


 そう俺はさっきからずっと違和感を覚えていた。

 はっきりとはしないが、なんというか……。


――なんかこの宝箱おかしくね!?


「気になること? 空の宝箱の何が気になるってんだよ」

「はっきりとはしないんだけど、この宝箱何か変というか、違和感があるというか……」

「だから何が変なんだよ」


――それがはっきりとわかったら、おいどんも苦労しませんばい。


「どうしたの?」


 姫岸さんも俺達の様子が気になって戻ってきたらしい。


「イージスのやつが気になることがあんだってさ」

「気になること? 何が気になるんですか、イージスさん」

「それを考え中というか、なんというか……」


――はっきりとわからないから困ってるんですよ、マイマスター。


「どうしたのにゃ」

「イージスさんが気になることがあるって……」

「気になること……、まさか、宝箱にも何か仕掛けがあるのかにゃ!? みんな~、大変だにゃ、イージスがお宝の謎をまた解くそうだにゃ!!」


――こら、猫娘!! 俺そんなこと一言も言ってねぇだろ!! 伝言ゲームばりの変化球放ちやがって……。


 アイルの言葉にレティリアさんやポム嬢、オグさんと全員が再び空の宝箱の前に集合する。

 当然彼女らの注目は俺に集まってるわけで……。


――やべぇ、これだけ注目集めて、今さら単なる気のせいかもなんて言えないぞ。この違和感の正体をなんとしてもつかまなければ……。


 何だ、いったい何がそんなにおかしいんだ。

 宝箱の蓋が開いた時から感じるこの違和感はいったい何なんだ。


 そうだ、『宝箱の蓋が開いた時から』なのだ。閉まっている時はまだ違和感はなかった。


 だとすれば『中』、宝箱の中が変なのだ。

 何が変なんだろう……。


 空っぽの宝箱をじっと見つめる俺。

 必死に頭を働かせ、違和感の正体をさぐる。


 そして、ふとやってくる会心のひらめき。


「あっ……、底だ」

「そこ?」

「底だよ、底。ほら、宝箱の底の深さと大きさが合ってないんだよ!!」


 俺がずっと感じていた違和感の正体。

 それは宝箱の大きさに対して収納スペースがずいぶんと狭いことだった。

 その原因となっていたのは、宝箱の底が不自然に高い位置にあること。


「たしかに言われてみれば……。けどそれが何だってんだよ」


 俺が何を言いたいのか、宝条にはまだわからないらしい。

 他のみんなもそうらしく浮かべる表情は冴えない。


 俺は宝箱の底に触れながら彼女達に説明する。


「これだけ底の位置が高いと、その分下にスペースが余ってるってことさ」

「もしかしてイージスくん、二重底だって言いたいの?」

「そう、それですよ、レティリアさん!!」

「でも二重底の宝箱なんて今まで一度も見たことないわよ」


 長くイロモを遊んできたレティリアさんはもちろんのこと、俺だって二重底の宝箱なんて聞いたことも見たこともない。


 経験則から外れる仕掛けの存在。その可能性に惑う者達にポム嬢が言う。


「バージョンアップで追加されたのかも……」

「二重底かそうでないかなんて、確かめてみればわかることにゃ!!」


 場の雰囲気が一気に変わる。

 ただの空の宝箱だと思っていた物が、実は財宝を秘めた宝箱かもしれないのだ。

 否が応にも期待が高まるってものだ。


 俺達はすぐに手分けして宝箱を調べなおす。

 だが内側にも外側にも底を取り外せそうな仕掛けはなかった。


 となれば、やる事はひとつ。


「底を打ち壊すしかないな」


 俺は剣の切っ先を宝箱の底へと向けた。


「大丈夫かよ。二重底だったら、そのまま下のお宝までぶっ壊れちまうんじゃ」

「そうならないように端の方を打ち壊すよ」


 不安げに見守る宝条にそう言って俺は宝箱の底を剣で強く打ち抜く。


――バキッ!!


 手応えあり。


 木製の底が割れて剣の切っ先が奥深くへと沈む。

 そこに空洞がある証拠だ。


「よしいけた。やっぱ結構な空間があるみたいだな」

「ということはお宝がありそうってことだにゃ!!」

「こいつを外して見ればわかるよ」


 俺は割れた木片を取り除き、蓋となっている底の部分を取り外す。

 そうして隠されていた空間が白日のもとにさらされ、俺達はそれを目撃する。


「これが……、お宝なのか?」


 目にしたものに困惑した表情を浮かべる宝条。

 彼女だけではない。

 似たような表情をこの場にいる全員が浮かべていたことだろう。


 俺達の目の前にあったのは金貨の山でもなければ、強そうな武器や防具でもない。

 一冊の古そうな本だった。

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