福引イベント
用意されていたゲームの大半はボールを投げたり、蹴ったりと知力よりも運動能力が要求されるものだった。
前世のリアル世界では、俺はどちらかと言えば運動音痴に分類される人間だったが、このイロモ世界でというならば話は異なる。
この世界ではステータスとプレイヤースキルが物を言うのだ!!
いや、俺は今NPCだからノンプレイヤースキルか……?
とにかく下手を打たなきゃ、こんな簡単なゲームいい成績を残せるはず……。
そして実際、ゲームに参加した俺はワンミス、ツーミス程度のかなりの好成績を残す事に成功する。
成績に応じてゲット出来る福引券の数は変わるわけで、俺はかなりの数の福引券を獲得することが出来た。
「すごいです!!」
「おお、やるなぁ~」
「すごい……」
うら若き乙女達の称賛の声が聞こえる。
――我ながら素晴らしい働きだった!! 俺ってなんて有能なNPCなんだろうか!!
「さすがだにゃ。オグちゃんはやっぱり頼れる副団長だにゃ!!」
まぁ称賛されてるのはおいらじゃなくてオグさんなんだけどね……。
オグさんはワンミスどころか、ミスなし。
パーフェクトを連発。
そんな彼の活躍おかげで、俺の活躍はすっかり霞んでしまった。
「みんな~、俺もこんだけ福引券ゲットしたよ!!」
と、とりあえず俺の戦果を娘っ子達にアピールしてみるが。
「へぇ、意外にやるな」
「私は六枚だけでした」
「私は五枚……」
「アイルは十五枚ゲットだにゃ!!」
オグさんの活躍の時のようにはいかない反応。
――うぅ、彼さえこの場にいなければもっとわぁわぁきゃっきゃと騒がれていたかもしれないのに……。
だがオグさん相手では恨む事も憎む事もできはしない。
前世であれだけお世話になってた方ですからね。
ボクとしても複雑な胸中ってやつですよ。
だがしかし、だがしかし。
いくらパーフェクト連発しようがゲットできた物は、しょせん福引券!!
この券は福引まわして賞品ゲットして何ぼのものですよ!!
――オグさん……。悪いが最後に笑うのは俺だぜ!!
全部のゲームをこなし終えた俺達は券を手に、ウキウキわくわく気分で福引台の前へと移動する。
そしてこれから福引をまわしていくわけだが……、ここで考えもなしに福引機へと飛びつくのは三流の福引ニストだ。
何台か用意されてる福引機。
皆が同時にまわし始めてしまっては盛り上がりに欠けるというもの。
ここはひとり一人順番にまわしていくのがセオリー。
であるならば、この福引、誰がどういう順番で引くかは非常に重要になるだろう。
「それじゃあ福引券の枚数少ない人からまわしていこうよ。最後はオグさんにド~ンとやってもらおう。その方が盛り上がりそうだし」
俺の何気ない提案に皆も異論がないようであった。
「それでいいんじゃねぇの?」
「わかった……」
「にゃははは、OKだにゃ!!」
――くっくっく、かかりおったな!!
この福引まわし、パーフェクトを連発して桁違いの枚数の券を獲得したオグさんが良いアイテムを引くことは、正直なところ、もはや避けられぬ事態と見るべきだろう。
彼の後では多少の良品をゲットしたところで盛り上がりはしまい。
そうなればさっきの二の舞だ。
獲得した枚数的には俺だっていくらかいいアイテムをゲットできるはず……。
ならば、オグさんの直前、そこがベストポジション。
アイルや宝条の奴も枚数的に良品を引く可能性は高いが、それはそれで適度に盛り上がり、皆の俺への期待感が高まるというもの。
そこで満を持して豪華賞品をゲット出来れば、そりゃもうえらいこっちゃですよ!!
――ふふふ、完璧だ……。
何の裏もないように思えてあの発言は、実はめちゃくちゃせこい計算のうえでの発言だったのだ!!
「それじゃあ……、回す……」
我が深謀の策によって先陣を切る事になったのは獲得福引券五枚のポム嬢。
皆が見守る中、福引機をくるくると回し、ころころと玉を出す。
その記念すべき一回目の結果は……。
「白……」
玉の色を確認し、福引機の傍に置かれてる等級表をちら見する。
それによれば……。
「白はハズレ、残念賞……」
白玉でもポーションなどの安い消耗品が貰えるらしいが、もちろんそんな物では喜べやしない。
狙うはもっと上の等級。
彼女は二回、三回、四回と福引機をまわしていく。
だが……。
ハズレ。
ハズレ。
ハズレ。
一回目と合わせて四連続の白玉。
ハズレ四連発。
「うおっ、意外に渋いのか? これ」
などと呟く宝条に 係りの人が言う。
「五等の赤玉ぐらいなら結構でるはずなんですけどねぇ」
「私、くじ運ないのかも……」
「まぁまぁ、次は色付きのがでるって」
「うん……」
そして最後の一回をぐるぐるとまわすポム嬢。
ここまでハズレ続きの彼女だったが、最後にくじの女神は微笑むのだろうか!?
ころころと福引機から出てくる玉。
その色は……。
黄色!!
「おおっ!!」
それを見て、一同歓声をあげる。
そして出てきた玉の色と等級表を確認しながら宝条が言う。
「黄色って事は、三等だ!!」
最後の最後で三等を引いてくるとは……。
やりおるな、ポム嬢!!
などと俺が感心していると。
「おめでとうございます。それではこちらの箱からお好きなくじをお引きください」
ポム嬢の出した玉の色を見て、『三等』と書かれた穴の空いた箱を係りの人が持ってくる。
箱の中にあるくじを引いて、そこ書かれた番号に合わせたアイテムをくれるシステムらしい。
「くじを引いて、さらにくじを引く……。くじ尽くし……」
「にゃははは。でもポムチャ、次はある意味全部当たりみたいなものにゃ。気楽に引いたらいいのにゃ!!」
「うん……」
『ポムチャ』はポムちゃんが変形したあだ名らしい。
アイルのセンスは相変わらずだなぁ。
「じゃあ、これ……」
ポム嬢が箱の中からくじを一枚引き、そこに書かれていた番号を見る。
「十二番……」
「はい、十二番ですね。ではこちらの……、『ウィスプ召喚の秘伝書』をどうぞ」
「おお、三等で呪文の秘伝書がもらえるのか!!」
「にゃははは、これはいろいろと期待できるのにゃ!!」
係りの人が持ってきたアイテムにテンションをあげる俺とアイル。
「これってそんなに良い物なのか?」
「そりゃそうだよ。秘伝書系のアイテムは……」
いまいちこのアイテムのすごさがわかっていない宝条に俺は秘伝書系アイテムの有用さと貴重さを説明する。
秘伝書は使用するだけで、書かれているスキルが習得できるという貴重なアイテムだ。
イロモは基本的にスキルの習得は、例外をのぞけばレベルアップ時に一つ選べるだけであり、レベル20までと考えられてるこのゲームで、通常一人当たりが習得出来るスキルの限度はせいぜい二十プラスいくらかの程度。
魔法スキルだけでも百以上の種類が存在し、まだ発見されていないスキルすらあると考えられているイロモにおいて、秘伝書を使い無償でスキルが習得出来れば、このゲームをプレイするうえで大きな有利となる。
当然、秘伝書の需要は高いのだが、下位スキルの秘伝書すら結構なレアアイレムで市場に出回る機会は限られており、一端の中級者程度ではなかなか手の出せない額で取引されているぐらいであった。
高位のスキルの秘伝書になれば、そりゃもう桁違いの値段でつくし、そもそもが入手した人間が自分や仲間内で使用するのを優先する為、まず市場に出回らない。
「よかったねポム」
「うん……」
俺の説明を聞きながら、姫岸さんとポム嬢も喜んでいた。
しかしこんな貴重で有用なアイテムが三等とは……。
二等、一等の玉が出た時にはいったいどんなレアアイテムが貰えるのやら……。
いやがうえにも、期待が高まるってもんですよ。
「よし、次は私の番だね」
ポム嬢の次に福引機をまわすのは券を六枚獲得している姫岸さん。
彼女のくじ運や如何に……。
「結構よかったのかな……」
六回まわした後、喜んで良いのかどうなのか、ちょっぴり戸惑うマスターリリナ。
彼女が出した玉の色はハズレの白玉が一回。五等の赤玉が三回。四等の青玉が二回。
四等までだと貰えるアイテムも決して珍しい物ではなかったけれども、冒険に役立つ消耗品なんかはいくらあっても困るような物じゃない。
出費も抑えられるし、必要ない物は売れば多少の資金になる。
ポム嬢と違い三等の黄玉はでなかったけど六回まわして白一回ってのは上出来だろう。
「次はアイルだにゃ!! 絶対一等のゴールデンボールを出してみせるのにゃ!! 皆期待しておくのにゃ!!」
ゴールデンボール……。
その響きにすごくしょうもない事を言いそうになったが、セクハラになるのでやめておこう。
「はいはい。期待せずに見ててやるよ」
「期待しろだにゃ!!」
「わかったから、はやく回せ」
宝条とアイルのもはやお約束とも言えそうなやり取りを経て、福引機が回される。
気合の入った猫娘が出す最初の玉は……。
白色。ハズレ玉。
「まだまだ勝負は始まったばかりにゃ!! ここからだにゃ!!」
だが回せど、回せど、ゴールデンボールは出てこない。
まぁ十四回まわした程度で出る方が驚きだけどね。
三等であれだけのレアアイテムだったのだ。一等ともなればそりゃとんでもないレアアイテムが出てくるはず……。
当然確率も相応にしぼってるだろう。
一等を出すチャンスがあるのはオグさんぐらいだろうなぁ。
彼でも正直出せる気はしないが……。
結局最後の一回となる十五回目までに、アイルが出した玉の色は白が七回赤が五回青が二回。
大口叩いたわりにはなかなか悲惨な結果だ……。
一等どころかポム嬢が出した三等すら出せぬとは……。
「ま、まだにゃ。まだアイルは戦えるにゃ」
本人にとってもだいぶショックな結果だったらしい。
あからさまに気落ちしながら、それでも最後の一回にかけてアイルは福引機をまわす。
出てきた玉の色は……。
「白だにゃ……。がくり……」
擬音語を口にしながら彼女は力尽きた。
南無南無。
「よぉし、次はあたしだな」
見事に討ち死にした猫娘に代わって宝条が福引機の前につく。
彼女が獲得した福引券は計二十一枚。
これだけあれば三等の一つぐらい出せるはず……。
「じゃんじゃん回していくからな」
一個一個確かめるようにではなく、豪快にまわしていく宝条。
白、赤、青と次から次へと玉が飛び出していく。
――さすが野蛮娘。風情に欠ける回し方だこと。
「ちっ、こんだけ回して三等止まりか」
結局宝条が二十一回まわして出した玉は、白が十一回、赤が五回、青が三回、黄が二回。
三等でもあのランクのレアアイテムが貰えるわけだし、上々の結果だろう。
特に爆死した猫人間と比べれば……。
「まぁどっかの猫娘よりはマシな結果だったしよしとするかな」
「うう、アイルは駄目猫にゃ……。世界一ダメなケイマンだにゃ……」
「いや、たかが福引で、そんなマジで落ち込まれても困るんだけど」
「アイル、私もほとんどハズレだった……」
「でもポムチャは三等引いてるのにゃ」
「私も四等までしか出ませんでした」
「リリナ嬢は六回しかまわしてないのにゃ。しかも白玉は一個だけにゃ……」
すっかり元気のなくなったアイルを皆が慰めようとするが効果なし。
そうして彼女がいじけてる間に、宝条はアイテム交換用の三等くじを引く。
「十一番と三十五番だな」
「それではこちらの『プクプクの秘伝書』と『ロロの兵靴』をどうぞ。おめでとうございます」
「また秘伝書か。しかもこれも魔術師用の魔法だな。あたしが貰ってもしょうがないし、ポムにやるよ」
「うん……」
『プクプク』は一定時間水中での呼吸ができるようになる魔法だ。
街の近場で活動している内は、使う機会はまずないのだが、まぁ覚えておいて損になるわけでもない。
宝条は秘伝書をポム嬢に手渡す。
そして手元に残った靴をしげしげと見つめながら彼女は言う。
「こっちの靴は何だろ。ロロってあたしがこのキャラ作る時に信仰で選んだ神様なんだよな。関係あんのかな」
「ああ、それ近接攻撃にボーナスが付く靴だよ」
俺がそう教えてやると宝条は喜んだ。
「おお!! んじゃあたしにぴったりの装備じゃん!! さっそく装備するか!!」
彼女はルンルン気分でロロの兵靴を装備すると、剣の素振りをして言う。
「何かいい感じかも。攻撃力上がったって感じがする!!」
自分のキャラクターに合ったレア装備をゲットして満足気な宝条。
彼女の次に福引機の前につくのは……、俺だ。
ついにまわってきた俺の出番。
真実を伏せるその贖罪として、ここで必ず姫岸さんを喜ばすようなアイテムをゲットしてみせなくては……。
獲得した福引券は三十枚もある。
これまでの経過からしてもこれだけあれば、一度は三等以上を引く事は出来るはずだ。
約一名爆死した猫人間もいたが、あれはよっぽどの不運。
そうそう同じ事など起こるまいてよ。
福引機をまわす前に俺は姫岸さんに力強く宣言する。
「マスター、俺やりますよ。必ずマスターが喜ぶような激レアアイテムをゲットしてみせます」
「えっ、あ、はい。頑張ってくださいイージスさん」
――みんな見ていろよ……。うおおおおお、我が渾身の福引まわしを!!
気合十分でまわしてコロコロと出てきた玉の色は……。
「白……」
「白だな」
「白だにゃ」
ハズレ玉を見つめる娘っ子達に俺は言う。
「まぁね。まだ一回目だから。まだ二十九回もあるからね」
ふふふ、焦らない焦らない。
まだまだ余裕の心持ちで俺は福引機まわしていく。
しかし……。
「赤だにゃ」
「白……」
「青だな」
「白……」
「赤だにゃ」
「白……」
「青だな」
「白……」
出てくる玉は四等以下ばかり。
俺の惨敗っぷりを見て嬉しそうに猫娘は言う。
「にゃははは。アイルと一緒にゃ。くじ運なし仲間にゃ」
――馬鹿な……。二十九枚も消費して四等止まりだと……。あの野蛮娘の宝条すら二十一回まわして三等を二回も出しているというのに。この一流福引ニストの俺が四等止まりだというのか!?
否!!
まだ可能性は死んでいない。
残りの福引券一枚に全てを賭けるのだ!!
「まだだ。まだイージスは戦えるんだ」
「どっかで聞いた台詞だな」
宝条につっこまれながら俺は最後の一回に全身全霊を込める。
――三等以上がきますように。三等以上がきますように。三等以上がきますように。
くじの神に祈りを捧げながら福引機を回す俺。
そうして出てきた玉の色は……。
銀色。
光を反射する銀の玉。
大逆転の二等賞。
「にゃあああ!!」
「すごい……」
「うおっ、まじかこいつ。銀玉だしやがった」
「すごいです!! イージスさん!! 二等ですよ!!」
アイルもポム嬢も宝条も姫岸さんも驚くこの結果。
オグさんは……相変わらず無言だけど、表情から読み取るに驚いてくれてるな、うん。
――ふっふっふ。これだよ、これ。この反応。こういうのを待っていたのよ!!
「おめでとうございます。それではこちらの二等くじをお引きください」
初の二等、銀玉の出現にみんなのテンションが言わずもがな急上昇する中、係りの人がアイテム交換用のくじを持ってくる。
そう、しょせんはまだ玉を出しただけ。
大切なのはここ。ここが肝心。
いくらレアアイテムといえど戦士や魔術師用の装備を当てたところで姫岸さんにプレゼントは出来ない。
最悪戦士用なら自分で使えばいいのだが、それでは何のあがないにもなりはしない。
今は自分の為よりもマスターリリナの為に福引アイテムをゲットするのだ。
「マスター、俺やりますよ。必ずマスターが喜ぶような激レアアイテムをゲットしてみせます」
「えっ、あ、はい。頑張ってくださいイージスさん」
「お前それ、福引まわし始める時も同じ事言ってただろ」
見覚えありまくりのやりとりを宝条につっこまれながら、俺は第二のくじに挑む。
――姫岸さんが使えるアイテムがきますように。姫岸さんが使えるアイテムがきますように。姫岸さんが使えるアイテムがきますように。
念じながら手にしたくじ番号は……。
「五番です」
「はい。ではこちらの……、『聖花の髪飾り』をどうぞ」
――『聖花の髪飾り』か……。
俺は引き当てたアイテムを受け取りながら、微妙な表情を作った。
悪くない。
いやむしろ、福引で貰えるアイテムとしてはかなりいいぐらいの結果なのだ。
髪飾りというだけあって可愛らしい見た目をしており、女の子向け、姫岸さんにぴったりの物ですらある。
ただ一点、この装備品の効果を考えなければだが……。
誰がこのアイテムを装備すべきか。
そんな議論が起きれば、姫岸さんが対象から外れてしまう可能性は低くない。
――装備の相性なんて知ったことか!! 俺は姫岸さんにこのレア装備を受け取って欲しいのだ。ここは下手に時間をかけるべきではない。もったいぶらず最速で彼女にプレゼントする!!
「マスター約束通り、これをどうぞ」
「えっ、でもこれ、すごく良いアイテムなんじゃ? いいんですか?」
「もちろんです。最初からそのつもりでしたから」
「でも……」
謙虚な人らしくレアアイテムをただで譲り受けるのは気が引けるご様子。
そんな姫岸さんに宝条とポム嬢が言う。
「素直に貰っとけって、男のこいつがこんな可愛らしい髪飾り貰っても仕方がないだろ」
「姫が付けたらすごく似合うと思う……」
――ナイスだ、二人とも!!
親友達の助言もあり、俺の狙い通り姫岸さんが聖花の髪飾りを受け取る流れになる。
だが……。
その流れをぶった切る者が約一名。
「ちょっと待つにゃ。その装備品、譲るつもりなら、リリナ嬢より他の人の方が装備の効果に合ってると思うにゃ」
後輩プレイヤーとそれに付き従うNPCに対して、したり顔で助言する猫娘。
本人に悪気は無く、純粋な親切心からの発言なのだろうが、それは俺にとって厄介なモノ以外の何ものでもなかった。
「そうなんですか?」
「へぇ、どんな性能なんだコレ」
耳を貸す姫岸さん達にアイルは意気揚々と『聖花の髪飾り』の性能について語りだす。
『聖花の髪飾り』は装備者の魔法耐性と被回復力を増加させる装備品で、その性能から考えると、魔法攻撃に弱くなりがちでダメージを受ける頻度が高く、回復する機会の多い戦士タイプのキャラクターにこそ相応しい装備だといえる。
つまりは後方支援を主な役割とする姫岸さんではなく……。
「リリナ嬢が装備するより、ライナの方がいいと思うにゃ!!」
――アイル……、き、貴様、何てことを……。
正しい。
アイルの言う事は論理的に正しい。
当然、場の流れはそっちの方向へと傾く。
「じゃあ私じゃなくてライナに……、それで大丈夫ですか?」
そう言って宝条と一緒にこっちを見る姫岸さん。
このレア装備を引き当てたのは俺だ。彼女達だけで勝手に決めるわけにはいかないから、一応の確認を取っているわけだ。
ここで素直に頷くのがスマートな男の対応というものだろう。
でも俺は言いたい。
大丈夫じゃないです、と。
だってこれは愛しの姫岸さんの為に当てた物であって、決して宝条なんかに譲る為の物ではないのだから……。
「イージスさん?」
即答しかねている俺に、まるで返答を迫るように、姫岸さんが無垢な瞳で見つめてくる。
――や、やめて。そんな目で見ないでぇぇぇ。
邪な下心を抱く俺と違い、彼女は悪気無く、それが皆の為になると思って言っているのだ。
アイルにしたってそうである。
別に俺にいじわるしたくてあんな助言をしたわけではない。
俺達の事を思って、親切心からアドバイスしたにすぎないのだ。
誰も悪意などありはしない。
人の持つ思いやりの心がこの場に存在するだけ。
けれども、人が持つその善なる心が俺を追い詰めのだ、この『聖花の髪飾り』をライナに譲れと。
――人の優しさがこんなにも恐ろしいモノだったなんて!!
正直この空気の中、無理に姫岸さんに渡そうとしたところで、彼女は戸惑うだけだろう。
「えっ、あ、う、うん……、じゃあ、どうぞ」
結局俺は観念して聖花の髪飾りを宝条に譲る事にする。
――さようなら髪飾りちゃん。
心で涙を流しながら俺は髪飾りを宝条に手渡す。
受け取った娘は、渋い顔でそれを眺めながら一言。
「う~ん。やっぱコレは姫が貰っとけよ」
――えっ!?
驚く俺達に宝条は言う。
「あたし、こういうの趣味じゃないしさ」
アイテムの効果云々はおいて、どうやら単純にその見た目がお気にめさないらしい。
その言葉を聞いてアイルは笑いながら言う。
「にゃははは。たしかに見た目で言えば、がさつなライナよりもおしとやかなリリナ嬢のが似合ってるにゃ」
「がさつで悪かったな、駄目猫」
「駄目猫言うなにゃ!!」
「さっき自分で言ってたろ」
「アイルがアイルを駄目猫言うのはよくても、ライナが言うのは駄目なのにゃ!!」
「めんどくせぇなぁ。まぁ、とにかく僧侶が装備してもマイナスになるわけじゃないんだし、多少相性悪くてもこいつは姫が貰っとけよ。こういうの結構好きだろ?」
「うん、そうだけど……」
ころころと所有権が変わる状況に困り顔の姫岸さん。
そんな彼女の背、わたくしイージスが押しましょう。
「俺としても装備の相性優先されるより、ちゃんとこの髪飾りの事気に入ってくれる人に貰って欲しいかな」
「それじゃあ……」
俺の言葉に姫岸さんは決心し、宝条から聖花の髪飾りを受け取る。
そしてさっそくそれを装備してみせた。
「どうですか?」
「おお、似合う、似合う」
「かわいい……」
「梅にうぐいす、リリナ嬢に聖花の髪飾りだにゃ!!」
髪飾りを身につけたPCリリナの姿にきゃっきゃっと娘っ子達が騒ぐ中、俺はただ紳士に頷く。
――めちゃくちゃ可愛すぎるぅぅぅぅ。
と、内心テンションMAXになりながら……。
そんな感じで皆から褒められて照れる姫岸さん。
その恥じらいがまた品があって大変よろしいどす。
――よかった……。ほんとうによかった……。宝条ちゃん、花の髪飾りが苦手ながさつな女の子でいてくれてありがとう!!




