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自己紹介

 宝来祭では『金の男祭り像が当たっちゃうよ大会』以外にもいろいろとイベントが行われている。

 皆、時間にはまだ余裕があるという事で宝条とアイルの和解によって遺恨を水に流した俺達(遺恨と呼ぶべきようなモノでもなかったけど……)は、そのまま一緒に他の催し物をのぞいていく事になった。


 そして一緒に行動するにあたって、まずは互いの自己紹介をあらためて行う。


「アイルだにゃ。見ての通り愛くるしいケイマンだにゃ。職業は戦う僧侶だにゃ」


 己の紹介を済ますと猫娘は続いて無口な大男に代わって、彼の紹介を始める。


「それとこっちはジャイクのオグちゃんだにゃ。アイル達のギルドの頼れる副団長で職業はウォリアーだにゃ」

「こんな無口なのが頼れる副団長ってお前らのギルド、大丈夫なのか?」


 アイルの紹介に宝条がからかうように言った。


「なにを言うにゃ!! オグちゃんほど魔物との戦闘で頼りになる戦士は他にいないのにゃ!!」

「まぁ確かに強そうではあるけどよ……」


 種族ジャイクという見た目の厳つさもさることながら、オグさんの実力はかなりのものであった。

 レベルは10止まり、装備品に関しても俺や他のギルドメンバーに優先して冒険でゲットしたレアアイテムを譲っていた為、そこまで突出して良い装備が揃っているわけでもない。

 それなのに、戦士としてのプレイヤースキルが半端なく高く、当時レベル11以上で英雄レベル、装備品も気合入りまくってた団長の俺よりも戦闘で活躍する事もあるぐらいの上手さだった。

 強敵との戦いにおいて、いったい幾度のピンチを彼に救われた事か……。


 無口ながらもメンバー達からの人望も厚い頼れる男。

 それがオグさんなのである。


「倒した魔物は数知れず。普段は優しく穏和な人柄にゃれど、一度剣を手に取り戦い出せば、その強さは鬼神のごとくだにゃ!!」


 オグさんの偉大さをこれでもかと語るアイル。

 そんな猫娘の言葉にちょっぴり大袈裟だなと思いながらも頷き同意する俺とは違い、宝条はどうにも信じられないというような表情を浮かべている。


「へぇ、鬼神ねぇ」

「にゃにゃ、その目は信じてないのにゃ。オグちゃんはほんとにすごいんだにゃ!!」

「ああ、もうわかったよ。とりあえず、そっちの自己紹介が終わったなら次はこっちの番だな」


 そう言って自己紹介を始める宝条。


「あたしはライナ。レベル5のウォリアーで種族は言うまでもなく人間だ」

「にゃははは、レベル5とは、まだまだヒヨッコのペーペーだにゃ。アイル達はレベル10だにゃ」

「うるせぇなぁ、すぐに追いつくっての」


 笑う猫娘に強気で反論する宝条だったが、そんな彼女にポム嬢がツッコミを入れる。


「でもライナのレベル最近全然上げれてない……」

「うっ、それはだな……。たまにはそういう時もあるってもんだ」


 ここ最近宝条のPCライナのレベル上昇は停滞気味。

 相変わらずレベル5のままで、なかなか6に上げられずにいた。

 そして手こずる間にポム嬢の方が先にレベル6になってしまい、追い抜かれてしまう結果に。


 まぁ現実世界の方がいろいろ忙しかったようで、単純にプレイ時間が他のメンバーよりも少なかったってこともあるんだけどね。


「にゃははは、お困りなら先輩冒険者としてアイル達がいろいろとアドバイスしてやってもいいにゃ」


 先輩面するアイル。

 えらそうな態度の猫娘に宝条が素直にアドバイスを乞うはずもない。


「いらねぇよ、大きなお世話だ。ったく……、ほら二人もさっさと自己紹介済ましちまえよ」

「あ、うん」


 宝条に促がされ姫岸さんが自己紹介を始める。


「レベル5の僧侶リリナです」


 例の誘拐事件以来、彼女のレベルはライナに追いつくまでに上昇していた。

 ここまでの急激な成長には当然、前世で上級者プレイヤーでもあった俺の最大限のサポートの効果も大きいが、それ以上に何より、本人の努力がある。

 友達の足手まといにはなるまいと、現実世界で暇を見つけてはイロモにログインし、熱心にレベル上げに勤しんだ甲斐があっての成果だった。


「いちおう私達のギルド『ナナム』のギルドマスターを任されています」

「レベル5のお嬢さんがギルドマスターとはかわいい新米ギルドさんだにゃ。困った事があったらアイル達を頼るといいにゃ。兄貴分として助けてやるにゃ」

「はい。ギルドガーディアンであるイージスさんを合わせても四人しかいない小さなギルドですが、よろしくお願いしますね、アイルさん、オグさん」


 先輩面する猫娘にも姫岸さんは大人の対応だった。

 そして我がマスターに続くは、ポム嬢の無愛想で非常に簡単な挨拶。


「レベル6の魔術師ポム……、よろしく……」


 う~ん、彼女らしい。


 三人娘の自己紹介が終わったら、最後は俺の番。

 超高性能AIで動くNPCとしてバシッとかましてやりますよ。


「えっと、さっきマスターが言ってたようにナナムのギルドガーディアンをやってるイージスっていうもんです。レベルは7。よろしくね」


 前世での話とはいっても、既によく知ってる人間にあらためて自己紹介するのは何か変な感じがする。


「にゃははは、アイル達のギルドガーディアンもレベル7にゃ。おそろいだにゃ。よろしくにゃ」


 俺の普通な挨拶に当然ながら普通の反応のアイル。

 実は前世では団長のセイガとして君達ときゃっきゃうふふと遊んでた仲だとは気付きもしない。

 オグさんもこちらに向けてぺこりとお辞儀するだけで特に反応なし。


 ちょっと寂しい気もするが、まぁこればっかりはどうしようもない。

 まさかNPCに生まれ変わってるなどと思うまいてよ。


 そんな感じで互いの自己紹介タイムは終了。


「んじゃ、てきとうに行ってないとこ巡っていくか」


 俺達は宝条の言葉に従い、さっさと皆で移動を開始。

 もちろん道中は彼女達のおしゃべりタイムでもある。

 女三人よれば姦しいとはよく言ったもんだね。


「そういや、アレ。二人が競売場でゲットしてた腕輪だっけ。あの装備どっちが使うんだ? すげぇ大金払ってたみたいだけど」


 移動中、宝条の発した何気ない質問にアイルとオグさんは互いの顔を見合わせた。


 二人があれだけの高額で競り落としたレアアイテム。しかもそれは前世で俺がイロモを遊んでいた時にめちゃ欲しかった物。

 誰が使うつもりなのか、俺としても多少なりと気になるところだった。


「見られていたのかにゃ。ふっふっふ、実はここだけの話、これはアイル達用の物ではないのにゃ」


 猫娘が『アリオンの腕輪』を手にとりながら言う。


「なんだそりゃ、誰かに頼まれて競りに参加してたって事か?」

「う~ん。まぁ、そんなとこだにゃ」

「パシリをやらされてたわけか」

「パシリとは失礼にゃ。仕方がないのにゃ。ここだけの話教えてやるのにゃ」


 ここだけの話が多いね。


「これはギルドの皆で資金を出し合ってプレゼント用に買った物なのにゃ」

「プレゼント用?」

「そうだにゃ。聞いて驚け、物の怪にゃ!! このアリオンの腕輪は我らが団長へと贈る為のアイテムなのだにゃ!!」


――な、なんだってぇ!!


 まさか団長である俺の為に『無明に宿る赤き黄金の月団』の皆がそこまでしてくれるなんて……。

 お前達みたいなギルドメンバーに恵まれて、俺は何て幸せ者なんだ!!


 な~んてね。


 死んでからそれなりの時間経ってるからなぁ。

 その間、当然セイガとしてログインなど出来るわけもなく、一度たりとも顔見せすらしていない。

 ギルドマスターの地位は誰かしら他のメンバーに交代しているだろう。

 もしかしたらこのアリオンの腕輪も新団長の就任祝いってやつなのかも。


 しかし、オグさんが副団長のままっていう事はいったい誰が二代目の団長になってるんだ……、気になるな。

 アイルでもないわけだし、となるとあの頃いたメンバーは他に三人だけ。

 あいつらの内の誰かが今のギルドマスターって事なんだろうけど……、う~ん、あいつらがねぇ。

 どうもピンとこないな。


 それとも俺がいなくなってから新しい人が加入してその人が選ばれたとか。

 新人がギルドマスターってそんなのありかよって気もしないでもないが、まぁ所詮小さなギルドだしな。

 ありえるといえばありえる。


 と、いろいろ考えてみたところではっきりとした答えが出るわけもなし。

 そんな事をするよりも本人達の口から聞いてみるのが手っ取り早いってことで……。


「高価なレアアイテムを隣国の街にまで買いに来てプレゼントだなんて、その団長さん、人望あるなぁ。どんな人なの?」


 と、探りを入れてみる。


「う~ん、ちょっと変わってるにゃ」


 考え込むような仕草を見せながら言うアイル。

 彼女もだいぶ変わってる方だと思うんだが……。


「変人ってことか?」


 宝条も気になったのだろう、俺より先に踏み込んで猫娘に尋ねていく。


「う~ん、まぁそうかもだにゃ」


 変人かぁ。

 新入りだった場合は別にして、俺の知ってる三人でいうと全員変わったところがあるといえばあるような……。

 これだけの情報じゃ何とも言えないな。


「あとはスケベだにゃ。かわいい女の子がいるとすぐエロイ目で見るのにゃ」


 これも三人共に言える事だな……。

 いや、世界中の男に言える事かもしれん。


「変人でスケベって。ただの変態のくそ野郎じゃねぇか」


 宝条のもっともなツッコミに猫娘はケラケラと笑う。


「にゃははは。でも良いところもちゃんとあるのにゃ」

「ほんとかよ」

「ホントだにゃ。ただの変態野郎じゃないからこそ団員だけでなく、アイル達が活動してるラーベンの街の皆にも好かれていたのにゃ」


『無明に宿る赤き黄金の月団』が拠点としている街ラーベンは、このコソカナとは比べ物にならないほどの田舎街だ。

 街で見かけるPCが顔見知りなんてことはざらにあるぐらいで、そんな彼らとはギルドとしてそれなりに上手く付き合えていたと思う。

 でも街の皆に好かれてるってのは言い過ぎなような。

 いくら田舎街だといってもほとんど付き合いのない人間だっているし、性格的に合わないって奴らもいる。

 誰からも好かれているだなんて、そんな奴うちのギルドにいたかなぁ。

 オグさんすらあの無口っぷりのせいで人望あったのは狭い範囲の人間だし……。


 アイルが大袈裟に言ってるのか、それともやっぱ新しい人なのかな。


「街の皆ねぇ……」


 宝条も彼女の言を訝しんでいるようだった。

 だが猫娘はそんな事を気にする素振りはまるで見せずに話を続ける。


「ラーベンの街のセイガといえばちょっとした有名人なのにゃ」


――俺かよ!!


 猫娘の口から不意に飛び出てきた答えにびっくり。


 まぁ可能性としてはゼロじゃなかったんだけど、まさか全然ログインしていない前世の俺のPCをギルドマスターのままにしておくとはずいぶん義理堅い話だ。

 しかも欲しがってたレアアイテムまで皆で金出しあって買ってくれているなんて……。きっとまたログインしてくる事を信じて、復帰祝いに用意してくれたんだろう。


 思ってた以上にお前達、いい奴だったんだな!!


 などと俺が喜んでいるのと同時に、宝条が言う。


「セイガっって……、お前らのところの団長ってセイガってやつなのか?」


――まぁ当然反応するよね、そこの部分には。


 宝条だけでなく姫岸さんやポム嬢も何も言わないが、やっぱりびっくりしているようであった。

 リアルで付き合いのなかったポム嬢まで反応しているのは、二人からその名を聞くことがあったからだろう。


「そうだけど、どうかしたかにゃ?」


 三人の反応を不思議がるアイル。

 そんな猫娘に宝条は言う。


「いや、ちょっと知り合いの名前と同じだったから……。まぁ名前が同じってだけだろうけどな。あいつがイロモやってるはずがねぇし」

「にゃははは、そうかにゃ。世界中で遊ばれてるゲームだからにゃ、名前の一つや二つ被ることもあるのにゃ」


 二人とも彼女らが口にするセイガなる人物が、同一のものだとは思っていないらしい。

 それ自体はまぁいいんだが、宝条の言葉はちょっとひっかかる。

『あいつがイロモやってるはずがねぇし』ってどういうことだ。

 姫岸さんだって俺がイロモにはまってたのは知ってたわけだし、宝条がその事を知らないはずないと思うんだが……。


――う~ん……。そうか!!


 少しばかり頭を捻らすとすぐにその違和感の答えに気がついた。


 アイル達はセイガの現状については一言も語っていない。

 そのため、宝条はまだ『無明に宿る赤き黄金の月団』のギルドマスターが普通にログインして今も活動していると思っているのだ。

 そりゃそうだろう。

 まさかもうログインしてこない人間の為にレアアイレムを用意するなど、普通は思いもしないことだ。

 俺だってびっくりしたもの。


 つまり宝条の『あいつがイロモやってるはずがねぇし』って言葉は『死んだ人間がイロモやってるはずがない』って事だったのだ。


 ここは彼女の勘違いを訂正させて、同じセイガだって事をはっきりさせておくか。

 姫岸さんはそもそも前世の俺について少しでも知りたくてこのイロモを遊び始めたと言っていた。

 だったら、アイル達を通じて話をいろいろと聞けるのは彼女にとって多少の慰めにはなるんじゃないか。


――いや、ちょっと待てよ。本当にそれでいいのか?


 さっきアイルは団長であるPCセイガをスケベな変人呼ばわりしていた。

 たしかに思い返してみれば、PCセイガの恥ずかしい話、失敗談は一つや二つでは済まないほどある。


 もしも姫岸さんがそれらを知ってしまったら、いったいどういう風に思うだろうか。

 あの夜の話を聞く限り、彼女は前世の俺をだいぶ美化していた部分もあるようだったからなぁ。


 幻滅し、百年の恋も冷めるって展開もありえるんじゃないのか!?


 それはそれでいつまでも想いを引きずるよりは健全なのかもしれないが、でもそれはあんまりな話じゃないか。

 憧れの人との恋の終わりがただ幻滅されて終わりだ、なんて。

 よくある話かもしれないけどさぁ、当事者にはなりたくないよ、おいら。


 でも自己保身の為に真実に蓋をするような卑怯な真似をしていいのか。

 それこそ彼女に対する裏切りではないのだろうか。


――むむむ。


 娘っ子達の会話を聞きながら、苦悶する俺は決断する。


――よし、やっぱり黙っておこう。


 そしてその決断と共に、自己の行為を正当化する素晴らしい詩が俺の脳内に思い浮かんでくる。



 あこがれのひとにみえをはったっていいじゃない だってにんげんだもの い~じす。



――あっ今はNPCだった。


 苦渋の決断の末、彼女達の勘違いはそのままにして歩いていると。


「おっ、おもしろそうなのやってんじゃん!! あれ参加していこう」


 宝条が広場に見えた横断幕を指差しながら言う。


 どうやらここではボールを使った的当てなど、簡単なゲームをいろいろとこなすと、各ゲームの成績に応じて豪華賞品が当たる福引券がもらえるとのこと。

 参加費も無料らしくちょうどいい暇潰しになるに違いなかった。


「にゃはは、この手のゲームはオグちゃんの得意分野にゃ!! 豪華賞品を根こそぎいただくのにゃ!!」

「姫もポムもいいよな?」


 宝条が確認を取ると二人はこくりと頷く。


「よし参加決定、受付はどこだぁ?」


――俺の意見は聞いてくれないんですね……。まっ、いいけどね、おいらNPCだし。


 などとちょっぴりスネながら受付へと向かう途中、姫岸さんの様子がちょっと気になる。

 どうもさっきから元気がないというか、うわの空といった感じであるのだ。


――やっぱりあの話、気になっているんだろうなぁ。


 別人の事だとは思っていても、セイガの名前が出てきて何か思うところがあるのだろう。


 だけど俺には言えなかった。

 アイル達の言うスケベな変態野郎のセイガは君の想い人と同一人物なんだよ、なんてそんな事を。


――こ、心が痛い……。


 真実を黙っていることのせめてもの償いだ。

 福引券いっぱいゲットして豪華賞品を獲得しまくるぞ!!

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