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世の中いろんな人がいる

 結局、賞品である金の男祭り像はそれまでにポイントを一番稼いでいたトマトさんなる方の手に渡り、イベントは終了。

 宝条もアイルも獲得ポイント0のまま最下位という結果に。


「くそ、こんなの納得いかねぇ」

「アイルだって納得いかないのにゃ!!」

「そもそもお前が被ってこなきゃ、あたしはぶっちぎりで1位取れてたんだよ!!」

「それはこっちの台詞だにゃ!!」


 クイズイベントを終えて会場の外へと出てからも、不満気な二人はぶつぶつと文句を言い、互いを非難し合う。

 そんな醜き言い争いする二人を姫岸さんやオグさんがなだめる中……。


「あ、君達ちょっと」


 クイズの勝者であるトマトさんが金の男祭り像を手に声を掛けてきた。


「にゃにゃにゃ。これ見よがしに像を手に……、アイル達に自慢しにきたのかにゃ!!」


 威嚇する猫娘に苦笑いを浮かべながらトマトさんは彼女の言葉を否定する。


「違うよ。この金の男祭り像を君達に譲ろうかと思ってさ」

「にゃんですと!! にゃ、にゃ、にゃぜアイル達にせっかくゲットしたお宝をくれるのにゃ!!」


 驚くアイルにトマトさんは事情を説明する。

 彼曰く、クイズイベントには副賞の賞金を目当てに参加しただけで、金の男祭り像はそのついでに貰った物にすぎないらしい。

 だからイベント中、熱心に像を欲しがってたアイルや宝条にタダで譲ってくれるつもりなんだそうだ。


――なんていい人なんだ……。


「とりあえず渡しておくから、どっちが貰うかは君達で話し合うなり何なりして決めちゃってよ」


 親切な男トマトさんはそう言って金の男祭り像をアイルに手渡すと、どこかしらへとクールに去っていった。

 念願の像を手にした猫娘は今度は宝条を威嚇しながら言う。


「何でも来いだにゃ!! これはアイルが絶対貰うにゃ!! どんな勝負でも絶対アイルが勝つにゃ!!」

「言ってくれるじゃねぇか猫娘。うだうだと揉めるのは性に合わねぇ」


――さっきまで会場で揉めに揉めまくっていた女の台詞とは思えませんな……。


「一発勝負のじゃんけんでどうよ」


 意外に可愛らしい決め方だった。


 宝条の事だからてっきり決闘するとか言い出すのかと……。

 でもそうなったらレベル差、装備差でまず間違いなくアイルが勝つだろうな。

 あいつ何だかんだでレベル10あるし、装備も結構イイの持ってるんだよなぁ。


「わかったにゃ!! でも後悔するなにゃ!! これでもアイルは『じゃんけん女王のアイルちゃん』とギルドの皆に呼ばれているぐらいのジャンケニストだにゃ!!」


――いや、初耳ですけど……。そもそもジャンケニストって何なの……。


 じゃんけん勝負にどこから来るのかわからない謎の自信をみなぎらせるアイルに対して宝条もやる気まんまんだ。


「それはこっちの台詞だ!! 負けた後でやっぱりなしは無しだからな!!」

「勝負だにゃ!!」


 そして勝負手を出す前に、両手を組み捻らせその中を覗き込むアイル。


――そういやいたなぁ、じゃんけんの前に変なポーズとる奴……。


「見える、見えるにゃ!! 貴様の手が今、はっきりと見えたにゃ!! 『ライナ、やぶれたり!!』だにゃ!!」


「ふっ、動揺させようたってそんな手、あたしには通じないね」

「ふっふっふ、アイルには本当に貴様の手が見えてるのにゃ」

「ああ、そうかい。んじゃさっさと決着つけよう」

「よぉし、勝負だにゃ!!」


 そしてじゃんけん勝負が始まろうというこの瞬間、宝条がアイルに言う。


「あっ、そうだ猫娘。勝負の前に言っておきたい事があるんだけど、あたしはチョキを出す」

「にゃ、にゃにぃ!!」


 出す手を宣言するなんてよくある駆け引きの一つだが、まさに勝負が始まろうという瞬間だっただけに効果は抜群だった。

 いきなりの宝条のチョキ宣言に面食らうアイル。

 その動揺がおさまる前に、宝条は掛け声を入れようとする。


「それじゃ……」

「まっ、待つにゃ!!」


 慌てる猫娘のその言を宝条が聞いてくれるはずもなく……。


「待ったはなしだ!! じゃんけんほいっ!!」


 有無を言わさぬ宝条の態度に圧され、ついついアイルの方も手を出してしまう。

 猫娘がとっさに出した手はグーだった。

 対して宝条の手は……。


「口ほどにもねぇ。あたしの勝ちだな」


 堂々と指が開かれたパー。

 じゃんけん勝負は宝条の勝ちだった。


「チョキを出すって言ってたのに、お前は嘘つきだにゃ……。こんなの卑怯だにゃ」


 勝負に負けて、がっくりと肩を落とす敗者に宝条は言う。


「そんなの作戦に決まってんだろ。手を出したんだ、やり直しは通用しないからな」

「うぅ、まさかじゃんけん勝負でアイルが負けるとは……、無念だにゃ」

「まぁそう気を落とすなって、相手が悪かったってこった。あたしのじゃんけん必勝法はそうそう破れるもんじゃないし」


「必勝法なんて言うほど、たいしたものでもなかったような……」


 鼻高々に語る宝条に俺が尋ねると彼女は呆れたように言う。


「おいおい、まさかイージス、お前、あたしがただチョキを宣言して猫娘を騙しただけとか思ってないだろうな」

「えっ、そういう事じゃないの?」

「ちっちっち、甘いね。これだから素人は。グーやパーでなくチョキを宣言する理由がちゃんとあるのだよ、イージス君わかるかな?」


 騙して他の手を出すだけなんだから、宣言する手はどれでも一緒のように思えるが……。

 宝条曰く、チョキじゃないといけない理由があるらしい。


「う、う~ん」


 答えられず唸るだけの俺を見て、彼女は上から目線で言葉を続ける。


「しゃあないなぁ。あたしが編み出したこの偉大なじゃんけん必勝法の種明かしを、日頃考え無しの運任せでじゃんけんをしているチミ達にしてあげようじゃないか」

「ああ、うん」


 内心、別に知りたくもなんともないが、宝条本人がめちゃくちゃ説明したがってる顔をしてるので、好きに語らせる事にする。


「まずじゃんけんってのはさ。基本的に手を出す前にグーの形を作るだろ? チョキやパーを出すってのはグーから手を変えるエネルギーが必要になるんだよ。だから緊張や何やで手に力が入ってると、それだけでもグーを出しがちになっちまうもんなんだ」


 まぁ言われてみれば、そんな気もする……。


「そのうえあたしはチョキを宣言する事によって猫娘に自然とグーを強く意識させたからな。そりゃグーを握る手にも力が入るってもんだよ。だけど注意しなきゃいけないのは宣言から手を出すまでの時間だ。ここで無駄に間を置いちまったら全てが台無し。当然他の手にも意識がいっちゃうからな。他の手を強く意識されちまったら運任せの勝負と変わらねぇ。あくまでとっさの宣言で思考がフリーズしかかってる瞬間に勝負してしまうんだよ」


 長々と己のじゃんけん勝負論を語る宝条。

 そんな彼女に俺は。


「へぇ……」


 と、てきとうに相槌を打っておくが、正直どうでもいいなぁと思いながら聞いていた。

 むしろ感心したのは宝条のじゃんけん勝負論などではなく、普段は考えなしの感情的に生きてるように見える人間でも、こんな事には無駄に頭使ってんだなという点であった。


 そんなちょっとひねくれた感心を抱く俺とは違ってアイルは宝条の話に素直に驚いていた。


「にゃあああ、にゃんて奥が深い戦法だにゃ。それに比べてアイルの必勝の法のポーズ作戦なんて浅瀬も浅瀬、園児レベルの戦法だったにゃ……」

「そう落ち込むなよ。あたしの戦法がすごすぎるだけだ。何せこの戦法を生み出すのに四年と三ヶ月の歳月を費やしたからな」


――な、なんて無駄な歳月の費やし方なんだ!! 前世じゃ俺もたいがいな暇人だったが、宝条さん、あんたも負けてねぇよ……。


「うぅ、完敗だにゃ。まさか四年と三ヶ月もじゃんけんについて考えてる暇人がこの世にいるなんて、アイルの考えは甘かったにゃ……」

「まぁ世の中上には上がいるってこった」


――いやぁ、半分馬鹿にされてないか君。


「じゃ、勝負はあたしの勝ちって事でこいつは貰ってく」


 そう言ってアイルから金の男祭り像を奪い取る宝条。

 競売での予算オーバーのせいで買い物資金を喪失してしまった猫娘にとって、それはギルド仲間への唯一の土産品を失った事を意味する。


「無念だにゃ……。故郷でこの像を待つ人たちにアイルは何て言えばいいのにゃ……」、


――たぶん誰もこんな半裸のおっさんの像のことは待っていないと思う。


 俺にはどうしても金の男祭り像の魅力が理解出来なかったのだが、像を失った当人は意気消沈し膝を折って座り込む有り様だった。

 それを必死に慰めるオグさんの姿も痛ましい。


――こうなったのも競売にアホな金のつぎ込み方したアイルの自業自得なんだけど……、なんだかかわいそうだな。


 かつてのギルド仲間である哀れな猫娘の姿に同情したのは俺だけじゃないらしく、姫岸さんやポム嬢も像をアイル達に譲るよう宝条を説得し出す。


「ライナ、彼女達わざわざ遠くからお祭りに来てたみたいだしその像譲ってあげたらどうかな? きっといい思い出になると思うの」

「え~、そんな事言ったってよ」

「男祭り像はこの街の特産品……、私達にはまた次の機会があるかも……」

「私もそう思う。どうしても必要な物ってわけでもないんでしょ?」

「う~ん」


 最初は渋っていた強情娘も親友からの説得には弱いらしく、最終的には像をアイル達に譲ることを彼女は承諾する。


「ちっ、仕方ねぇなぁ。あんまりにもお前が哀れだから、ライナ様が恵んでやるよ」


 悪態をつきながら宝条は金の男祭り像をアイルに返す。

 そんな彼女の態度を。


「もうライナったらそんな言い方……」


 と、姫岸さんが注意するが。

 悪態をつかれた当人たる猫娘は別に気にしてないようで像を素直に受け取り、ニコニコと喜んでいた。


「お前……、思ったよりいい奴だにゃ!!」


 この単純さがアイルの良いところでもあり欠点でもある。

 今回の場合はこれ以上変にこじれずに済みそうで助かるが……。


「アイルはお前達の事をなんだか誤解していたみたいだにゃ。友達になれそうな気がしてきたにゃ」

「だって」


 そう言って宝条の方を見る姫岸さん。


「だってって言われてもなぁ」


 まごつく友にポム嬢もアドバイスを送る。


「仲直りの握手……」

「にゃははは、ナイスな提案だにゃ。友情の握手でこれまでの事は水に流すのにゃ」


 ノリノリで手を差し出すアイル。

 そんな猫娘の様子に宝条の方もいろいろと馬鹿らしくなったのか、素直に応じる。


「ああ、もう。はいはい、何でもいいよ」


 皆が見守る中、握手を交わす二人。

 何だかんだで丸く収まりそうでよかった、よかった。

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