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半裸のおっさんをめぐる乙女達の戦い

『金の男祭り像が当たっちゃうよ大会』は十人を一組として、その中で誰が一番ポイントを稼げるかで競うクイズ番組のようなイベントだった。

 姫岸さん達は三人共一緒の組にされており、チーム戦でなく個人戦のイベントなのに、それはどうなのという運営の雑っぷりだったが、まぁユーザー主催の緩いイベントなので問題ないのだろう。


 十人の出場者が各々の指定された席へと着席し、司会進行役の男が見物人達に向かって言う。


「それでは出題をしていく前に、今回の出場者である皆様に意気込みのほどを語ってもらいましょう!!」


 そして、出場者達がてきとうに意気込みを語る中、一人、滅茶苦茶気合が入ってる奴がいた。


「絶対絶対、賞品をゲットするにゃ!! 金の男祭り像を必ず故郷の皆のもとへ届けてみせるにゃ!!」


 この特徴的な喋り方、他にそういるものではない。

 前世で俺が設立したギルドに所属する猫娘アイルだ。

 彼女もこのイベント参加していたのだ。


――そういや、あいつオークションに予算のほとんど突っ込だとか言ってたな。


 競売会場での会話を思い出しながら、猫娘を見物席から眺める俺。


――あいつらの土産に男祭り像を渡すつもりなんだろうが、かわいそうに……。


 せっかく隣国のイベントまで出張ったお土産が、『男祭り像』って……。

 他のギルドメンバー達の顔を思い浮かべながら、彼らに同情する俺だった。


 参加者達が意気込みを語り終えると、進行役の男がこれから始めるゲームの内容について説明を始める。


 最初のゲームは『かぶっちゃ駄目よ』ゲームというもので、運営側が出すお題に沿って、参加者達が用意されたフリップボードに好きに回答していき、それが被っていなかったら1ポイント、被っていたら0ポイントという内容らしい。

 一聞しただけでは、好きに書けるなら被るなんて、そうある事ではないように思えるのだが、もちろんそこは運営側もわかっている。

 被る確率をぐんと上げる仕掛けが、ちゃんと用意されているのだ。


 それは……。


「では、第一ゲーム『かぶっちゃ駄目よ』スタートです。第一問!! 5秒以内に……、好きな色をひらがな二文字でお書きください!!」


 と、回答に無理矢理制限を加えるのだ。


 変に捻った答えを出そうにも、極端に短い制限時間の事もあり、それはなかなか難しい。

 必然的に、ほとんどの参加者達が思い浮かべるのは無難なものばかりになってしまう。


 今回の問題で言えば、あかやあお、くろ、しろといったメジャーな色に当然回答は集中する。


 出場者は十人もいるわけで、当然の如く、被る回答が続出する。


「時間です。それでは皆さんの回答を見てきましょう!!」


 男の言葉に従い、参加者達はフリップボードを立て見せる。

 そこに書かれていた文字は……。


『そほ』、『しろ』、『あお』、『くろ』、『くろ』、『あか』、『あお』、『あか』、『しろ』、『そほ』。


――見事に被りまくってんなぁ。


 と、いう反応をする前に、つい見慣れぬ文字に目がいく。


――『そほ』!?


 なんだ、『そほ』って。

 しかも、被ってんじゃねぇか!!


 俺を含め、見物人のうち少なくない数がそう思ったに違いない。


 とっさには思いつきそうも無い、そもそもそんな色名知らないという人もいるだろうという『そほ』チョイス。

 回答者である宝条はよほど自信があるらしく、他者の答えを確認する事もなく自信有り気な顔を浮かべている。


 しかしそれも束の間の事。


「いやぁ、残念。皆さん見事にかぶっております。という事で、ポイントは0点で、横一線のまま!!」


 進行役の男がそう告げると、宝条は驚き、彼に噛み付く。


「ちょっと待てよ!! 嘘だろ!! あたし超自信あったんだけど」


 手元の『そほ』と書かれたフリップボードを揺らしながらアピールする彼女に、アイルも続く。


「そうにゃ!! アイルも自信ありまくりにゃ!!」


 同じく手元にあるフリップボードを揺らしながら同調する猫娘に顔をしかめる宝条。

 どうやら彼女は気付いたらしい。 


「ええ、ライナさん、アイルさん。お二人の回答が見事に被っております。いやぁ、なかなか渋い回答でしたんですが、残念!!」


 男の言葉に、女二人が顔を見合わせる。


「なっ、なかなかやるじゃねぇか……」

「お主もにゃ……」


 捻って出した答えが見事丸被った二人の女。

 これが悲劇?の始まりだった。


「それでは第二問!! 5秒以内に……、好きな果物をカタカナ三文字でお書きください!!」


 男が二問目を出題する。

 色の次は果物。これまた被りそうな出題である。


「5、4、3、2、1……」


 残り時間をカウントする男に急かされるように、出場者達は慌てて回答をフリップボードに記していく。


「はい、時間です!! それでは見ていきましょう、皆さん回答の方をお見せください」


 指示に従いボードを立てる回答者達の表情は様々であった。

 作業的に無表情に立てる者もいれば、自信なさげに苦笑いを浮かべる人もいる。そして、自信満々の顔を浮かべる人……。


 また、宝条だ。

 彼女の回答は『ユカン』。

 よくもまぁ、そんな回答がとっさに思いつけるものだな、と感心するが、悲しいかな。


――その回答もかぶっちょります、宝条殿……。


「今回はポイント獲得者がいます!!」


 進行役の男の言葉ににんまりと笑みを浮かべる宝条。


――ピエロだよ、あの女、とんだピエロだよ……!!


「リンゴと回答してくれたリリナさん、ブドウと回答してくれたオグさん お見事!! 1ポイントずつ獲得です!!」


 必至に捻り出した自信の一手で再び轟沈する宝条を尻目に、何の捻りもなく回答した二人がポイントを獲得するこの無常。

 当然、宝条が黙っているはずもなく。


「ちょっと待て!!」


 声を荒げ、見苦しく自身の回答をアピールする。


「『ユカン』ですか……、なかなかとっさには思いつかない渋い回答ですね!!」

「だろ。絶対かぶってないだろ、これ!!」

「いえ、かぶってます」

「いや、かぶるわけねぇって」

「かぶってます」

「誰と」

「あちらの方と……」


 男が指し示す先にいたのは猫娘アイルだった。


「また、てめぇか!!」

「にゃあああ、にゃんでにゃ!! にゃんでアイルの回答を真似するんだにゃっ!!」


 捻った回答がかぶっていたのはアイルだって同じ。

 彼女からすれば、自身の回答を宝条に二連続で潰されたようなもの。


 それは宝条も同じなわけで……。


「真似してるのはてめぇだろ猫女!! ふざけんなよ、てめぇ!!」


 醜い言い争いに発展する。


「まぁまぁ、偶然ですって、偶然!! こんな序盤で真似したところで両者損するだけなんですから!!」


 女の争いに慌てて仲裁に入る司会。

 彼の言う通り、逃げ切りを図る終盤で追走者の答えを真似て潰すならともかく、こんな序盤で他者の回答を盗み見て真似したところで両者損するだけだ。


「ちっ、確かにそうだけどさ……」

「それもそうだにゃ」


 司会の仲裁が功を奏し、不満気ではあるが一時矛を収める宝条とアイルだったが、残念ながらその状態も長くは続かなかった。


 第三問、第四問、そして第五問と問題が続いていき他の回答者達が着々とポイントを獲得していく中、例の二人はポイント0のまま。


 意地になって捻った回答を連発する宝条とアイルであったが、それが裏目に出続けてしまい、互いに見事に被りまくっていたのである。


 それはもう、こいつらわざとやってるだろと言いたくなるレベルである。


「やっぱてめぇわざとやってるだろ!!」

「それはこっちの台詞だにゃ!!」


 当然二人の言い争いは再開され、聞くに堪えない罵声が飛び交う。

 そんな中でも、どうにかゲームは進められていったのだが……。


 終盤戦、ついに醜き争いに見かねた司会がとんでもない事を言い出すのであった。

 それは……。


「ええ、熱戦が続いておりますが時間もだいぶおしてますので、次の問題を最終問題にして金の男祭り像獲得者を決定したいと思います!!」


 最初に第一ゲームとか言ってたのはどこへやら……。

 これ以上のトラブルが起こる前に切り上げたいのだなと、進行役の言葉を聞いて思う俺。


 むろん、現状のポイント差で勝ち目のなくなった者達は不満顔だ。

 とくに勝ちにこだわりまくってた宝条とアイルの二人は不満爆発といった感じでブーブー文句を言っている。


 傍から見てる人間達からしたら君達二人のせいで、こんな事態になってるんだと思うんですが……。


 だが、イベント運営の人間も鬼ではない。

 宝条やアイル、その他勝ち目のなくなった参加者達の不満を抑える画期的すぎる術を考えついていたのだ。


「最後は特別ボーナスクイズ!! なんと正解者の方全員に金の男祭り像をプレゼント!! もちろん従来通り一位の方にはさらにもう一個ついてきます!!」


 画期的というより投げやりだな、こりゃ。


 今までの一連のポイント勝負は何だったのだろうかという疑問は置いておいて、ふんどし姿のおっさんの像を二個も貰ってもなぁと、俺は思うのだが……。


 当の参加者である宝条とアイルは最終問題に正解する気満々といったご様子。


「よぉし、絶対正解してやる!!」

「絶対正解するにゃ!!」


 どうして彼女達はそこまでしてアレが欲しいのだろうか。

 だってただの半裸のおっさんの像なんだよ、アレ。


 そんな俺の途惑いは他所に、乙女達の最後の戦いが始まる!!


「今回は被りを気にする必要はありません!! 自信を持って正解をバーンと答えちゃってください!!」


 つまり普通のクイズ形式だね。


「それでは最終問題です!! 今回のイベントの賞品となっているこの金の男祭り像ですが、なんと!! ふんどし部分を触ると喋ります!!」


 進行役が金の男祭り像を手にしながら、運命の最終問題を出題する。

 そういやそんな機能があるとか参加呼び掛けの時に言ってたような……。


「いったい何と喋るでしょう!!」


――いや、知らねぇよ……。


 と、口から出そうになった言葉を寸前のところで飲み込む俺。

 考えてみれば、この『鉢巻まいたふんどし一丁の厳ついおっさんが和太鼓たたいてる』姿の像はコソカナの特産品。

 地元の人間ならわかる問題なのかもしれない。


 などと思って参加者の様子を見守ろうとしたのだが……。


「いや、知らねぇよ、そんな事」


――宝条さん普通にツッコンではる!!


 どうやらコソカナっ子にもわからない問題らしい。

 宝条以外の参加者も同様に解答がわからないようで、渋い顔を作ってらっしゃる。


 そんな彼らの様子に出題者は言う。


「難しい事を考える必要はありません。素直に想像してみてください。この輝く黄金像が言ってもおかしくない事を。そうすればおのずと答えが思い浮かんでくるはずです!!」


 そのヒントにどうやら皆ピンとくるものがあったようで、参加者達の顔付きが変わる。


――おお、やっぱりコソカナっ子にはわかる問題だったのか!?


 参加者達は互いの顔を見合わせコクリと頷き、一斉に回答を書き上げていく。

 どうやら思いついた回答は皆同じらしい。


 出題者のヒントを頼りに導きだした彼ら、彼女らの答えとは……。


「では皆さん書けたようなので、一斉にお見せください。どうぞ!!」


 司会に促がされフリップボードを立てる参加者達。

 そこに書かれていたのはシンプルな一言。


『ソイヤっ!!』。


――こ、これはぁぁ!!


 その時、イージスに電流走る。


――たしかに和太鼓叩いてるおっさんが言いそうな事といえば、これしかないかもしれない!!


 などと感心をする俺の眼前には、綺麗に『ソイヤっ!!』の文字が並んでいる。

 姫岸さんまで『ソイヤッ!!』の厳しい字面を並べてるのはちょっと複雑な気分になるが、ここは気にしないようにしよう。


 とにもかくにも回答は出揃った。

 その出揃った回答を見て満足気に出題者が笑みを浮かべて言う。


「いやぁ、素晴らしい。皆さんの心が一つになった瞬間でもありますね。それでは解答の方はこの金の男祭り像に実演してもらいましょう。せっかくですからライナさん、参加者の皆さんを代表してこの像のふんどし部分、触っちゃってください!!」

「ふっ、あんた粋なことしてくれるじゃねぇか」


 正解を確信し、司会の男から笑顔で像を受け取る宝条。


「じゃあ、いくぞ……」


 彼女はその手を像のふんどし部分へと伸ばしていく。


 そして、いろいろトラブルもあったがこれはもう大団円間違い無しという空気が会場を覆う中、像が発した一言とは……。


――『俺、朝はパンよりお米派なんだ』。


「知るかボケェ!!」


 まさかの解答に、手にした像を進行役の顔面へと投げつける宝条。

 乱暴娘のこの暴挙を目にしても、俺には彼女を責める事は出来なかった。


 だってその気持ち、よくわかるから……。

 俺も同じ事思ったもん。


「こんなもんわかるわけねぇだろ!!」


 もっともな理由で怒る宝条に司会は言う。


「そんな事ないですよ!! 源三さんのこの顔見て下さいよ。どう見てもこれは、朝に米食ってる男の顔ですよ!!」


――た、たしかに、ふんどし姿で和太鼓叩くおっさんが朝はパン派だったらちょっとショックかもしれん……。というかあの像、源三って名前がついてるんだね。


 などと妙な納得をする俺とは違い宝条の猛抗議は続く。


「いや朝に何食ってようが知らねぇよ!! そもそもふんどし触って朝ごはんトークし始めるってのが予想外すぎるわ!!」


 イベント運営の人間を除いてそんな事を予想できる人物がいるとするなら、それは源三さん本人ぐらいであろう。


「しかも掛け声つきの像とか言ってたが、こんなもん掛け声でも何でもねぇだろ!!」


 参加する時に運営の人たちがそんな事言ってましたね。

 たしかにあれは掛け声といえるようなものではないが……。


 抗議する宝条に司会の男は涼しげに言う。


「あっ、掛け声機能は別についてるんですよ」


――な、なんて無駄に多機能な像なんだ……。


「はっ?」

「だから掛け声機能は別についてるんですよ」

「嘘じゃねぇだろうな」


 とっさの嘘を疑う娘に男は像を再び手渡して言う。


「嘘じゃないですよ。像のお尻の部分をちょっと強く押して見て下さい」

「はっ? 尻?」

「ええ、ふんどしの部分はお喋り機能。お尻の部分は掛け声機能のスイッチとなっているんです」


 男の言葉に束の間沈黙し、手にした像を見つめる宝条。

 やがて彼女は自身の指先をゆっくりと像のお尻部分に近づけていく。


 そしてその指先が像のお尻部分に触れた瞬間、金の男祭り像は咆哮する。


――『ソイヤっ!!』。


「ねっ?」

「『ねっ?』じゃねぇ!! こっち問題に出せやぁぁぁ!!」


 完全にブチ切れた宝条さん。

 再び像を男の顔面に投げつけ、斬りかからんとする彼女を運営の人達が慌てて止めに入る。

 そして姫岸さんとポム嬢が平謝りするなか彼女は無理矢理会場から排除されてしまう事に。


 その様子を一部始終眺めながら俺は思うのだ。


 ひどい惨状だな、と。

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