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宝来祭

 本日も晴天なり。


 コソカナの街は快晴の空の下、いつも以上に賑わっていた。

 それもそのはず、なんと今日は三ヶ月に一度の大規模フリーマーケット『宝来祭』が開催される日だったのだ。


 プレイヤー達が日夜の冒険で集めに集めた様々なアイテム。

 不要になった中古品から、イロモプレイヤー達が垂涎する激レアアイテムまで。

 それが市場に並ぶとなれば、賑わうなと言う方が無理というもの。


 宝来祭目当てに、コソカナには、この街を拠点に活動しているプレイヤーのみならず、遥か遠方よりわざわざ街を訪れにきた者達の姿もあった。


「にゃにゃにゃ。あれがコソカナにゃ!!」


 猫の亜人の種族『ケイマン』の娘が、街を指差しながら大声を上げると、彼女の隣りに並び立つ一回りも大きな男が無言で頷く。

 二人は隣国カナイより、宝来祭を目的にコソカナの街へとやって来たプレイヤーだった。


「ここから先はもう戦場にゃ!! ライバル達を押し退けて、買って、買って、買いまくるにゃ!!」


 猫娘の爆買い宣言に少々慌てながら彼女の肩をぽんぽんと叩く大男。


「にゃ? 大丈夫にゃ、わかってるにゃ。例の資金は別枠にゃ」


 彼女の言葉に安心したのか、大男はホッと胸をなでおろす。


「オグちゃんは大船に乗ったつもりで見ているといいにゃ!! ここはギルド一お買い物上手なアイルに任せるにゃ!!」


 自信満々に猫娘のアイルがそう言うと、大男は再び無言で頷いた。


 おしゃべりな猫娘と無口な大男。


 一見、気の合いそうもない二人ではあるが、実は大の親友同士。

 そして、彼女らは同じギルドに所属する戦友でもあった。


 所属するギルドの名は『無明に宿る赤き黄金の月団』。


 煉城聖我がカナイ国にて設立したプレイヤーギルドである。


「絶対に例のブツを手に入れるにゃ!! 我らが団長のためにもがんばるにゃ!!」


 空は晴れてるが、嵐の予感!!



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 コソカナの街は忙しなく、あっちだ、こっちだと行き交う人々の姿で溢れている。

 宝来祭は特定の箇所を会場にするのではなく、なんと街全体を会場としており、あちらこちらの軒先でプレイヤーやNPC達がお店を開いていた。


 どこにどんな店があり、どんなアイテムが並んでいるのか。

 ちょっとした冒険、宝探し感覚でプレイヤー達はこのイベントを楽しんでいた。


「しっかりついてこいよ。迷子になるなよ田舎者」


 いつかどこかで聞いたような台詞を口にする宝条と。


「もうまたライナったら、そんな言い方……。大丈夫ですかイージスさん?」


 俺の方を見て心配気にする姫岸さん。


「やっぱり私達も少しぐらいお持ちします」


 何を持とうというのか。

 それは彼女らが宝来祭で買い集めたアイテムの数々。


 はやい話、俺は彼女らの荷物持ちをしていたのだ。


「いや、大丈夫!! これぐらい平気、平気!!」


 大荷物を抱えながら俺は口ではそう言ったものの、内心ちょっぴり複雑であった。


 不肖イージス、淑女のためならばフェミニストになるのもやぶさかではないが、宝条みたいな面だけ一丁前の野卑な女の為に使う紳士ポイントは存在せぬ!!

 愛しの姫岸さんとポム嬢の分ならば喜んで荷物持ちをしようぞ、だが何故、宝条の分まで俺が持たねばならぬのだ!!


 そんな不満を抱いている俺に。


「頑張れ……」


 ほとんど無表情なまま応援してくれるポム嬢。


――頑張りますとも!!


 えっちらほっちらと、三人娘と共に、格安アイテム探し求めながら街中を歩きまわっていると、一際大きな人だかりに遭遇する。


「おお、すごい人だ。何の人だかりだろう?」


 俺が人だかりを見ながらそう言うと。


「ああ、競売会場だろ、ここ。出品されるのはほとんどレアアイテムばっかだし、あたしらには関係ねぇよ」


 と、宝条が言った。


 なるほどレアアイテムの競売か。

 レアアイテムの競売となれば、金を持った参加者のみならず、日頃なかなかお目にかかれないレアアイテムを一目見ようと、見物人も大勢集まってくるものだ。

 どうりでこの場所に、人だかりが出来るわけだ。


――ふっふっふ、俺も前世ではセリ上手のセイガちゃんと……、別に言われてなかったな!!


 と、くだらない事を考えていると宝条の怒声が飛んでくる。


「おい、ぼけっと突っ立ってないで、次いくぞ、次!!」

「イエス、サー!!」


 そうしてそれから、三人娘のお買い物ツアーに付き添い続ける事しばらく……。


「ず、随分……お買いになられましたね、お嬢さん方」


 買い物資金が底をつきる頃には、俺が抱える荷物は大変な量となっていた。

 そんな様子を、手ぶらで眺めながら宝条が言う。


「こういう機会でもないと、買い溜めなんて出来ないしな」


 宝来祭は『祭』とつくだけあって、単なる市場ではなく、お祭りイベントでもあるのだ。

 お店を開いている者達の中にはがめつく儲けようとする者達だけでなく、イベントを盛り上げようと、相場以下の値段で販売を行っているプレイヤーも大勢いた。


 中には、初心者、中級者プレイヤーの支援として、『レベル○○以下のプレイヤーには赤字覚悟の特別価格販売!!』なんてしている者もいたし、名を売るのを兼ねてギルドとして組織的に初心者支援のお店を開いているところもあったりする。


 日頃金欠気味な初心者プレイヤー達にとって、この宝来祭は必要な消耗品などを買い溜め出来る数少ないチャンスであったのだ。


 ナナムのメンバーも少ない報酬をこつこつ貯めて作ったお買い物資金を使って、そういったアイテムを買いに買いまくっていた。


「さてと、ちょっと時間余ったけどどうする?」


 宝条が今後の行動について、他の皆に尋ねる。


 金は使い切ったものの、宝来祭のイベントが終わるにはまだ時間がある。

 せっかくの三ヶ月に一度のイベントだし、存分に満喫せねば……。


 女性陣にはこれといった案があるわけではないようで、う~んと唸っているばかり。


 しからば、ここは俺が意見の一つや二つ、出してみてもいいだろう。


 俺にはやりたい事があった。

 買い物中も気になって気になって仕方がなかった事があった。


 それはレアアイテムが数多く出品されるというあの競売の事だ。


 前世ではイロモにハマりまくっていた人間だ。レアアイテムと聞いて気にならないはずがない。

 たとえ参加する資金がないとしても、目の保養にはなるはず。


 荷物持ちをしたご褒美として、それぐらいあってもいいじゃない!!


「ちょっと競売会場のぞいていきませんかい?」


 という俺の提案に、宝条は渋い顔をする。


「そんなとこよってどうするんだよ。あたしらもうすっからかんなのに」

「見てるだけでも結構楽しめると思うんだけど」

「ええ……。他人がレアアイテム手に入れる様見せられてもなぁ」

「そうじゃなくて、出品されてる珍しいアイテムをさ。ウィンドウショッピングみたいなノリで」

「ウィンドウショッピングねぇ」


 説得虚しく、宝条の反応は鈍いままだった。

 しかし、姫岸さんとポム嬢は俺の気持ちを汲んでくれるらしく。


「私はいいと思うな。楽しそう」

「私もいいと思う……、荷物持ちしてもらってるだし、それぐらい……」


 と、言ってくれた。

 宝条も他にやりたい事があるわけではない。


「う~ん。まぁ、いいか」


 結局、皆で競売会場によってみる事に決定する。

 そして一度ナナムのギルドハウスへと戻り、買い込んだ荷物を置くと、俺達は急ぎ競売会場へと向かった。


「おお、すげぇ盛り上がってる!!」


 俺達が到着すると、会場には最初見かけた頃よりもさらに大勢の人間が集まり、熱気に包まれていた。


「15万!! 18万でました!! ……20万!! 21万!! 他、いませんか!?」


 舞台上の男が傍らに商品となるアイテムを置きながら、右に左に指を差しながら威勢の良い声を上げる。


「22!!」

「22.5!!」


 参加者であるプレイヤー達も舞台下から、次々と手を上げ、声を上げて、出品されたアイテムを落札しようと競り合う。


「25!!」

「25万、……他、他ありませんか!? おめでとうございます!! オルフスの盾、25万ゴールドでこちらのタケゾウさん、落札確定です!!」


 進行役の男がそう告げると、競り落とした男が一際高く拳を天に掲げ、吼えた。

 大金をつぎ込んでまで手にしようとしたアイテムだ、その嬉しさもひとしおだろう。


 そして、落札が決まると舞台袖から次のアイテムが運び込まれてくる。


 すると会場が沸き、その反応を見た進行役の男がにこやかに笑みを浮かべ競りのスタート金額を告げる。


「15!!」

「16!!」

「21!!」


 万単位の金額が次から次へと飛び交い、垂涎のレアアイテム達が競り落とされていく。


 ロードックの剣に、金甲虫、星鉱石、マルダールの秘薬。

 どれもこれもなかなかお目にかかれないレアアイテムばかり。


――羨ましい……、羨ましい!!


 そんな感じで見物人として一人盛り上がる俺とは対照的に、三人娘の反応はひどく冷めていた。

 宝条が言う。


「う~ん、ちょっとは珍しい物が見れるかと期待してたけど、なんか見た事あるアイテムばっかだな」

「そうだね」


 それに同意する姫岸さん。


――えっ、姫岸さんまで!? どういう事よ!!


「初心者に毛が生えた程度の俺達には縁遠い物ばかりだと思うんですが……、皆、見た事あるの?」


 と、俺が混乱しながら彼女達に尋ねるとポム嬢が答えてくれた。


「前のギルドの倉庫にたくさんあった……」


 ポム嬢の言葉に姫岸さん達も頷いている。


 前のギルド、すなわち彼女達が以前所属していたギルド『ルル・ルクルス』である。


 なるほど、そりゃ見た事あるわけだ。

 競売会に出品されるような程度のレアアイテムじゃ倉庫に腐るほどあるってか!!

 トップランクのギルドは一味も二味も違いますなぁ!!


――きぃぃぃ!! 羨ましい!!


 心でハンカチをくわえながら、嫉妬の炎の燃やしていると、会場がこの日一番の盛り上がりを見せ沸いた。


「さぁ、ついにきました今日の目玉、『アリオンの腕輪』です!!」


 進行役が告げたそのアイテムの名に、俺は思わず身を乗り出し、舞台上を見やる。


――ぬぬっ!! アリオンの腕輪ですと!!


 見れば、舞台の上には美しい装飾が施され、青い宝石がはめ込まれた腕輪が登場していた。


 アリオンの腕輪だ。


 この腕輪はレア装備の一つであり、前世でイロモを遊んでいた時、俺がどうしても欲しかったアイテムだ。腕輪購入の為の資金も頑張って貯めて用意していたほどである。

 だが、普段からなかなか市場に出回らないせいもあって、ついには入手出来ずじまいに終わってしまっていた。

 それが……。

 あれほど欲し、ついに手に入れる事が出来なかったアイテムが、今、俺の目の前にある。


――欲しい、欲しい!!


 しかし、もう生まれ変わった今はただの貧乏NPCにすぎない。

 品はあれど金はあらず、地獄のような苦悶に苛まれ、俺は呻いた。


「あの腕輪は見た事ないな。そんなにすごいのか? あれ」


 物欲しそうに腕輪を見つめる俺に宝条が言った。


「そりゃあもう」


 いまいちレアアイテムの価値を理解しきれていない娘っ子達に、俺はアリオンの腕輪について、簡単に説明してみせる。


 腕輪の効果は使用時に、一時的に俊敏のステータスを大幅に上昇させるというもので、効果発動中は驚くほど機敏に動けるようになる。

 力や頑強や魔力などのステータスは一切上昇しないし、効果が切れると全ステータスの一時的な大幅ダウンというデメリットまである。

 しかし、この腕輪の効果の虜となるプレイヤーは少なくない。


 何故なら、速度上昇によって一時的に戦闘が有利になる云々以上に、尋常ならざる高速移動を可能とする肉体を持つ事、その未知の体験自体にプレイヤー達ははまってしまうのだという。


 気分はまるでニンジャ!!


 なんとも羨ましい話ではないか。

 俺にとって速い=カッコイイであり、俺はサムライよりニンジャが好きなのだ!!


 オイラもニンジャになりたいでござるよ、ニンニン。


 などと、ナナムのメンバー達にアイテムの説明をしながら、内心、口惜しさを募らせていると……。


「それでは参りましょう、こちらアリオンの腕輪、50万ゴールドからとなります!!」


 舞台上の男が大声を発し、競売がスタートした。


――50万からのスタートか……。俺が前世で探し回ってた頃よりも、さらに相場が上がってんだなぁ。


 それだけ人気のあるアイテムという事だ。


「100!!」


 初っ端だった。

 参加者の中から、桁の違う金額が飛び出したのだ。


 一瞬会場は、しんと静まり返った。


 当然だろう、いくら人気があるレアアイテムだとはいえ、相場の二倍近い金額がいきなり入札されたのだ。

 会場中の視線が自然と声の主の方へと向けられる。

 その人物は猫の亜人『ケイマン』の女だった。


「……100!! いきなり100万がでました!!」


 舞台上の男が興奮気味に叫ぶ。


「他ありませんか!? ないなら、100万でいきなり落札確定となりますが」


 既に相場の倍の状態だ。

 なかなか他の競売参加者達からは声があがってこない。


 このまま100万で落札確定かと思われたその時。


「……101!!」


 苦しそうに手を上げる男が一人いた。

 会場から『おお』という声があがる。


 その次の瞬間。


「110だにゃ!!」


 猫娘はためらいもなく金額を吊り上げる。


「111!!」


 対抗する男だが、間髪をいれずに猫娘はさらに金額を吊り上げる。


「120だにゃ!!」

「……121」


 アリオンの腕輪の競売勝負は、この二人に絞られていた。

 レアとは言っても所詮は一アイテムにすぎない、他の参加者達にはもう手が出せるような金額ではなかったのだ。


「150だにゃ!!」


 一気に値が吊り上がり、相場の三倍近くに入札金額が達する。


「……151!!」


 それでも男はなんとか食いつこうするが……。


「ええい、もってけドロボー200だにゃ!!」


 その猫娘の声に、がっくりとライバルの男は肩を落とす。

 勝負がついた瞬間だった。


――世の中、いるとこにはいるもんですな。金持ちって奴が!!


 などと思いながら、俺は二人の激しい入札合戦を眺めていたのだが、その途中で、落札者である猫娘に何だか見覚えがある事に気付いていた。


――あの猫娘の風貌、どこかで見たような……。それににゃっにゃ、にゃっにゃっとどこかで聞いたような喋り方……。


 競売に不参加の見物人である俺達の位置からでは、距離がありすぎて参加者達のステータスが見れない。

 猫娘のネームを確認しようにも出来なかった。

 しかし……。


「おめでとうございます!! アリオンの腕輪、200万ゴールドで……」


 落札者の名を舞台上の進行役の男が教えてくれた。


「アイルさん、落札確定です!!」


――アイル……、アイルぅぅ!!


 アイルという名に聞き覚えがあった。

 覚えがありすぎるほどに、ありまくった。


 猫の亜人ケイマンのアイル。


 前世で俺がイロモを遊んでいた時に作ったギルド『無明に宿る赤き黄金の月団』。

 そこに所属していた数少ない団員の内の一人が、他ならぬ彼女である。


 同じ種族に、同じ名、同じ口調。


 そんな人物が他にいるとも思えないが……。


 何故カナイで活動しているはずの彼女がこの街に!?

 こんな所で何してはりますの?


 いやいや、そんな事よりも……。


――200万もぽんとだせるほどお金持ちでしたっけ貴方、そんな大金いったいどうしたの!?


 見知った顔との予想外の再会に、俺は混乱していた。


 アイルが舞台上でお金と引き換えに、アリオンの腕輪を受け取り、こちらの方へとやってくる。

 そして彼女は見物席に向かって腕輪をかざし、手を振り出す。


「にゃははは、ゲットだにゃ!! 苦節三十五年、匠の業が光る逸品をついにゲットしたにゃ!!」


――苦節三十五年って、イロモがサービススタートしてからでも、そんなに経ってないでしょ……。


 満面の笑みでよくわからない冗談を飛ばす猫娘を眺めていると、見物人の中から、大男がのしりと動き、姿を見せた。


 筋肉質な巨体に、オークのような厳しい顔。

 オークとジャイアントの血を引く亜人の種族『ジャイク』。


 見るからに強そうなムキムキマッチョマンである。


――あ、あれは……オグさん!! 彼まで来ていたのか!!


 ジャイクのオグさんはギルド『無明に宿る赤き黄金の月団』で、俺が初めて勧誘に成功した記念すべきギルドメンバーであり、そのまま副団長として活躍してもらった頼れるナイスガイなのだ。

 厳しい外見とは裏腹に、心優しい男で、彼とは様々な冒険で危険を共にし、涙なしには語れぬ熱き漢の友情を育んだものだ。


――うぅ、オグさん、お元気そうでなによりです……。


 遠目から一方的な再会を俺が喜んでいると、アイルとオグさんの会話が聞こえてくる。


「にゃっ? 予算オーバーしてる? 皆の分のアイテム買えなくなった? 気にするなにゃ、気にするなにゃ。にゃははは」


 どうやら資金のほとんどを費やしてアリオンの腕輪を落札した為、他の買い物に支障が出ているようだ。


 アイルはかなり大雑把な性格してるからなぁ……。

 その癖、こういうイベントじゃすげぇはりきるからね、彼女。


――相変わらずオグさんも彼女に振り回されて大変だなぁ。


 懐かしの二人のやりとりを、ちょっぴりおセンチになりながら見ていると。


「なんだありゃ、男の方は一言も喋ってねぇのに、会話してやがる。どうなってんだ?」


 と、宝条が言った。


 実際、さっきからオグさんは一言も発しておらず、何も事情を知らぬ人間が傍から見れば、二人の会話はアイルが一方的に喋っているようにしか見えないだろう。


――ふっふっふ、宝条よ、貴様もまだまだよのぉ。


 だが俺は違う。俺は彼の事をよく知っている。

 これには止むに止まれぬ深い事情がある事を知っている。


 それは……、オグさんが非常に照れ屋さんという事だ!!


 外見に似合わず、ベリーベリーシャイなオグさんは『こんにちは』の一言を発する事が出来ないほどで、普段からすごい無口なお人なのである!!


 というか俺は、オグさんと出会ってから、彼が一言でも喋った所を見た事がない。


 それほどの、筋金入りの無口マンなのである。


 その為、彼との会話には特別な技術が必要とされていた。

 厳しい顔の表情、その動きから、彼が何を伝えようとしているかを素早く理解しなくてはならないのだ。


 俺も最初は苦労したものだ。

 いったい彼が今何を考え、何を伝えようとしているのか、ペットの犬や猫の気持ちを理解しようとする飼い主達が如く、日々修練を積み重ね、いつしか、ついに彼と八割方会話が出来るようになっていた。


 えっ、残り二割はどうするかって?

 まぁ、犬や猫と違って相手が人間だからね、いざとなれば筆談ですよ。


 ちなみにアイルは『オグさん会話検定』の達人クラスであり、わずかな表情の変化も見逃さず、百パーセントでの意思疎通を可能としている猛者である。

 それもあってかアイルとオグさんは非常に仲がよかった。


 そんな仲良し二人組みは、アリオンの腕輪を競り落とすと、他の競売品には興味がないらしく、さっさと他へと移動してしまう。

 旧友達との再会に、色々と思うところはあるものの、今の体では声を掛けるわけにもいかず、ただ去り行く彼女らの後姿を見送るしか俺には出来なかった。


――う~ん。う~~ん。


 二人が去ってしまってからも、しばらくの間、俺は姫岸さん達と共に競売を見学していたのだが、どうにも落ち着かない。

 アイルとオグさんの事が気になって気になって、競売見学を楽しむどころではなくなっていたのだ。

 まぁ、気に掛けたところで、何か出来るわけではないのだが……。


 でも、あの二人の事が、やっぱり気になるなぁ~。


 と、俺が内心考えていると。


「そろそろ飽きてきたな。競売見物はもうこのへんで切り上げていいんじゃ? 他行こう、他。いろいろやってるみたいだしさ」


 宝条が背伸びしながらそんな事を言い出す。


 彼女の言葉に、姫岸さんを含め、女子達の視線が自然とこちらへと向けられる。

 もともと競売見物を率先してやりたがったのは俺一人、姫岸さんもポム嬢もそんな俺の気持ちを汲んでくれたにすぎないのだ。


「ああ、うん。俺も満足したからもういいよ」


 アイル達との再会に、俺の気持ちは既に別方向へと向いてしまっている。

 彼女達が他に行きたい所があるというなら、反対する理由はない。


「んじゃ、東広場でなんかやってるみたいだから、そっち行ってみよう」


 宝条の提案を全員が了承し、一同競売会場を離れ、コソカナの街の東広場へと向かい歩き出す。

 そうて辿り着いた東広場では彼女の言葉通り、ある催し物が開かれていた。


 その催し物とは。


『金の男祭り像が当たっちゃうよ大会』である。


 なんだそれ……。

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