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黄金が黄金であり、英雄が英雄である世界。ST

 宝条雷那の声がする。


「ってかさギルドガーディアンって友好的なNPCだろ。ステータス見れるんじゃねぇの?」


 死の宣告にも似た彼女の言葉。


 あの生意気娘は何を思うだろう。今までえらそうな事言ってた男のレベルが自分よりはるか下の1だと知った時。

 あの冷静娘は何を思うだろう。たっかい金だして雇ったNPCがかっすみたいなレベルだと知った時。


 そして麗しの姫君は何を思うだろう。目の前にいる男が、口だけ野郎のチンカスだと知った時。



 一瞬の間があった。

 静寂があった。

 それを破ったのは宝条雷那。彼女はげらげらと笑い出し言う。


「何だこいつ、レベル1じゃねぇか!! 随分とえらそうにしてた癖にレベル1って!! だっせぇ!! レベル1って!!」


 腹を抱えて笑ってくれるならまだ良かった。

 残りの二人は困ったような、悲しんでるような、何とも言えない顔でこちらを見ている。

 ポム嬢がちょっと泣きそうな声になりながら言う。


「お金いっぱい使ったのに……、がっかり……」


 がっかりはこっちじゃあああああああああああい。

 泣きたいのはこっちじゃあああああああああああああああい。


「おい、さっきはよくもえらそうな口聞いてくれたな。へっぽこNPC」


 宝条との間に完全に上下関係が生まれてしまった。


「あ、いえ」

「何か言いたい事はねぇのかよ」

「いや、その、やっぱ雇って頂くには第一印象が大切かなと。強い男をアピールしてみたかった、みたいな?」


 なんとか言い訳を試みるが効果はなく。


「みたいな?じゃねぇよ!! えらそうな癖に雑魚って、第一印象最悪だよお前、クビだクビ」


 そんな!! 姫岸さんと離れ離れになるなんて嫌だわ!!


「……でも、レベル以外はわからないみたいだし、レベル1でもすっごく強いのかも!!」


――なんですと!!


 姫岸里利奈のこの発言……、どうやらギルドガーディアンは友好的NPCではあるが細かいステータスは素では見れない仕様になっているらしい。

 これを利用しない手はない!!


「えぇ、レベル1だぞ、こいつ。ステータスが良くても知れてるだろ」


 宝条は冷めた発言を飛ばしているが、当たっていた。

 俺のステータスはレベル1にしては多少高めだと言うだけで、正直レベル1相当のゴミみたいな弱さである。彼女達三人を満足させるようなステータスではない。

 追求がすすめば逃げ切れぬ……。


「でもギルド専用の特別NPC……、今回のバージョンアップの目玉要素だし、きっとレベル1でも強いはず……」


 初心者冒険者のなけなしの金をかき集めて雇ったNPCになんとか期待を残したいポム嬢の人情、クビまで崖っぷちの俺だがまだチャンスはある!!


「そういうもんかねぇ。けどレベル1ってばれた時のこいつ、典型的な雑魚の反応だったぞ」


 ぐぬぬ。忌々しい女宝条雷那め。


「まぁ、本人に聞いてみればわかる事だな。おい、へっぽこ野郎、お前のステータス、HPとか諸々の数値教えろよ」


 馬鹿正直に答えたら、この女は俺を解雇しようとするに違いない。クビにならずともこいつとの格付けが完全に済んでしまう可能性大だ。

 なんとかして阻止せねば……。


「ステータス? いったいお前達は何の事を言っているのだ……」


 寒々しい空気が場に漂う。


「おい、ポム。このゲームのNPCってステータスって概念は理解してるはずだよな?」

「うん……。プレイヤーに配慮して、そういうのはちゃんとイロモの世界観に取り込んでるから……」

「つまりこいつはわざとしらを切ってるって事だよな」

「うん……」


 二人の冷めた視線が痛く突き刺さる。


「俺は一流の戦士だ。無闇やたらにそんなもの教えるわけにはいかないな」


 苦しいがなんとか誤魔化せないか試みる。


「いや無闇やたらも何も、あたしらあんたの雇い主だろ。てかえらそうな喋りに戻ってんなこいつ」

「強気に戻ってる……」

「めんどくせぇ。ポム、たしかこの間『ルベラ』覚えたろ。自分で話す気ないって言うんだしこいつのステータスそれでちゃっちゃと調べちまおうぜ」


 『ルベラ』は敵モンスターなど通常ではステータスが見れない相手を調べる為の魔法。

 この魔法がどんな相手に、どれだけ有効になるかは術の使い手に依存する面もあるが、今調べようとしているのは友好的なNPC、本来魔法なしでステータスが見れるはずの相手。

 俺のステータスがレベル3の彼女の魔法で丸裸にされてしまう可能性は十分にある。


「仲間を疑うのは感心せぬなぁ」

「誰が仲間だ。いいからポム調べちまえ」

「うん……」


――きゃあああああ、やめてぇみないでぇぇぇ、ポムさんのえっち!!


「母なる海の力を以て万物の原像を映せ、ルベラ!!」


 詠唱するポム嬢の周囲が青白く光り、魔法が発動する。


「どう?」


 宝条がポム嬢にルベラの魔法、その診断結果を尋ねる。


「微妙……」


 悲しく短い返答が周囲にこだまする。

 微妙ですか。僕も同感ですよポム嬢。確かにPCのレベル1と比べれば悪くない数字なんです僕のステータス。でも……。


「具体的には?」

「基本ステータスが全部50以上あるけど……、一番いい数値でも56……」


 力、知力、頑強、俊敏、器用、魔力、精神力。

 これらの基本ステータスは種族や職業、それと多少のランダム要素によって初期値が変わってくるが、一番いい数値で56というのは、決して驚くような高数値ではない。


「確かに微妙だな。肝心のHPとかは?」

「15……、SPは5、MPは5」

「うわぁ、ほんとちょっと強いレベル1程度だな」


 レベル4のライナはもうMAXHPが40もある。

 レベル3のポムは21。

 レベル2のリリナは14。


 つまりHPだけで比べてみても、高い料金払って雇ったレベル1のNPC戦士イージス君はレベル2の僧侶よりは1だけHP高いけど、レベル3の魔術師相手には負けてる期待はずれ君だというのがよくわかってしまう。


「という診断結果が出ましたが、へっぽこ丸さん、何か一言どうぞ」

「ポテンシャルはあると思うので……、今後に期待して頂ければと……」


 見下す宝条に精一杯の返答をする俺。


 現時点のステータスががっかりな値であっても、前世じゃレベル10越えキャラクターを操っていたのだ。

 娘っ子三人ぐらいあっと言わせられるぐらいの活躍はしてみせる!!

 お時間を少々頂ければですけど……。


「今までのお前の態度のどこを見て期待すれば良いんだよ。はい、クビ決定ね。さいならへっぽこ丸さん」


 宝条からの戦力外通告。

 このままこの悪女の横暴を看過してしまえば、愛しの姫岸さんと本当に離れ離れになってしまう。

 それだけは絶対嫌だ。

 こうなってしまっては手段を選んでいられない。

 この女はともかく他の二人、特に姫岸さんにまで悪印象を与え兼ねない『この手』だけは使いたくなかったのだが、止むを得まい。


「いいんですか?」

「はっ?」

「本当に俺をクビにしちゃって良いんですか?」

「当たり前だろ。なんで鬱陶しい雑魚連れて冒険しなきゃならねぇんだよ」

「……返しませんよ」

「何が?」

「支払った料金、俺をクビにしたところで返ってきませんから……」

「なっ!! ふざんなよ!! 何でつかえもしない雑魚キャラに大金払わないといけないんだよ!!」

「だってもう払ったでしょ。料金」

「だからそれを返せって言ってんの」

「だから無理なんですって、返さないって言うか、返せないんですよ。あれは俺に払う金じゃなくて、俺を紹介する為の、ここに呼ぶの為の料金ですから」

「ふざけんな!! そんなの詐欺じゃねぇか!! いくら払ったと思ってんだ。レベル1の雑魚に出す料金じゃなかったぞ!!」

「そんな事俺に言われたって……」


 イロモ登場以前のMMORPGではゲーム内の富が増え続け、ふざけた桁の金銭が簡単に行き交いするようになってしまう物が多かった。

 それはゲームであるから魔物を倒した報酬はしっかり出さねば飽きられてしまうなど、商売上の配慮の結果が起こしてしまうもので、中には初心者であるのに上級者から金やアイテムを易々と恵んでもらい金銭に不自由する事なくゲームを進めるような連中も存在した。


 しかしイロモは違う。

 プレイヤー皆が金持ちになれるほど富が溢れかえるような状況にはなっていないのだ。

 他のMMORPGと違い報酬関係がシビアに設定されていても、剣を振り魔法を操り、汗をかき、痛みを感じ、匂い、味わい、見る事の出来るイロモ世界という唯一無二の体験、それ自体がプレイヤーを惹き付け決して放さない。


『黄金が黄金であり、英雄が英雄である世界』。


 イロモは他のMMORPGでは再現出来なかった世界を構築していた。


 当然初心者である彼女達が次のギルドガーディアンを気安く雇えるほどの資金を持ってるはずもないだろう。

 パトロン……、金銭的な支援者がいれば別だろうが、このイロモの世界でそれを見つける事は簡単ではない。


 俺は粘り強く交渉した。

 貧乏初心者プレイヤーの弱点を突き、人情を利用し、己のやる気を訴え、浅ましくしがみつこうとした。

 姫岸さんのギルド『ナナム』に。彼女の傍に居続ける為に。


 それでも宝条雷那は頑なに俺をクビにしようとし続けた。

 が、俺のこの熱い思いが通じたのか、やがて残り二人が雇用について前向きになってくれる。


 愛しのリリナ様は醜くクビを嫌がり続ける俺に対する同情半分で。


「成長したらすごく強くなるのかも!!」


 と言い。

 眼鏡娘のポム嬢は自分の買い物が失敗であったと思いたくない気持ち半分で、彼女に同意し、雇用に賛同する。


 宝条がこれ以上嫌がろうと、次のギルドガーディアンを雇う資金がないという事実を前に、この二人の考えを変える事は不可能。

 二対一、多数決の結果によって、俺のクビはギリギリのところでつながったのだった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



◇◇◇イージス◇◇◇

レベル1:ギルドガーディアン:人間

MAXHP15:MAXSP15:MAXMP5:信仰なし

資質:赤0:青0:緑0:黒0:白0


力:56

知力:50

頑強:56

俊敏:50

器用:50

魔力:52

精神力:56


◇装備◇

『因果の剣』『戦士の鎧』


◇◇◇リリナ◇◇◇

レベル2:僧侶:人間

MAXHP14:MAXSP0:MAXMP20:ププ神

赤0:青0:緑0:黒-5:白5


力:35

知力:58

頑強:35

俊敏:35

器用:50

魔力:58

精神力:58


◇スキル◇

ヒールLv1:基本的な回復魔法

キュアLv1:基本的な状態異常を回復

聖なる力:アンデット系に特殊ダメージ


◇装備◇

『見習い僧侶の白杖+1』『クルル族のローブ+2』『精神力の指輪』『魔力のネックレス』


◇◇◇ライナ◇◇◇

レベル4:ウォリアー:人間

MAXHP40:MAXSP10:MAXMP0:ロロ神

赤1:青1:緑0:黒1:白-1


力:60

知力:39

頑強:52

俊敏:50

器用:52

魔力:35

精神力:35


◇スキル◇

必殺の一撃

開錠・罠解除Lv1


◇装備◇

『鉄の剣+2』『戦士の鎧+1』『バックラー+2』『猟師の指輪』『盗賊のお守り』


◇◇◇ポム◇◇◇

レベル3:青魔術師:人間

MAXHP21:MAXSP0:MAXMP20:信仰なし

赤1:青5:緑1:黒1:白-5


力:35

知力:60

頑強:35

俊敏:35

器用:50

魔力:56

精神力:56


◇スキル◇

イファ:炎の攻撃魔法

イアス:氷の攻撃魔法

トイトイ:冷たい粘着性の魔法の糸放つ

ルベラ:対象のステータスを調べる。アイテムの鑑定


◇装備◇

『魔術師の杖』『魔術の帽子+2』『魔術師のローブ+1』『よく見える眼鏡』

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