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 まるで虫のようだ。


 男の有り様は、幼き頃の情景を連想させた。

 聖我として生きた少年時代、同年の子供達が平然と行っていた残酷な遊び。


 蟻の足を千切り、巣を破壊し、蜻蛉の羽をもぎ取る。


 当時は『ずいぶんと酷い事をするもんだな』と、満面の笑みを浮かべる彼らの気持ちなど理解出来なかったものだが……。


 自分の今の行いは、あの日の彼らと同じようなモノなのだろうか。


 いや、違う。

 これはもっと無関心で、無感情なもの。


 ああ、そうだ。


 俺にとって目の前で悶える男の存在は、部屋の隅に溜まった埃のような物なのだ。

 それは邪魔と言うにも不足する存在で、ただただゴミ箱へ捨てれば少しだけ心が落ち着く、それだけの事。


 それだけの事なのだ。


「……待っ、……待って」


 剣を手に近付いてきた俺に対し、痛みを堪えながら、なんとか喋ろうとするトウタ。


「……悪かった、俺が……、悪かったよ……。……今までの事は謝る。……ただで許してくれとは言わない、だから……」


 必死に赦しを乞うその態度に、かつて自分の両親を殺した者達の事を思い出す。


 大袈裟に泣いて謝る者、言い訳しながら謝る者、開きなおる者。

 加害者本人達だけでなく、その弁護士、その家族まで出てくる始末。


 加害者の家庭事情を、将来性を考慮しろ。

 普段はとてもいい人なんです。


 謝罪だ、金だ、反省しているだ、家族の事がどうだと。

 次々に並べられていく御託。


 裁判の時にまで、だから懲役何年だ。だから慰謝料が幾らだと。

 罪に理由が付き、罰の重さが変化する。


 全部が全部ずれている。

 何一つ心が晴れやしない。


 それでもそれを受け入れる事しか出来なかった自分。


 何をあれほど苛立っていたのだろう。何をあれほど苦しんでいたのだろう。何をあれほど迷っていたのだろう。


 今ならもっとシンプルに答えが出せるのに……。


「謝罪も贖罪もいらない」


 咎人に望む事は一つだけ。


「消えろ」


 俺は手にした剣を容赦なく振り下ろした。


――待って、待ってくれ!!


 熱も無く、音も無く、それは広がっていく。

 斬られた箇所から血が吹き出るかわりに、トウタの体は黒く変色し灰となり崩れていくのだ。


――ああ、体が、俺の体が!!


 そこに痛みも無ければ同時に、温もりも、冷たさもありはしなかった。

 ただひたすらに、確実に『黒』が彼の体を侵食していく。


――なんだよ、なんなんだよ!!


 あれほど感じていた、全身が砕けてしまったかのような激痛すらも消えていく。


――違う……、嫌だ……。


 だがしかし、それは彼にとって喜びや安心を与えてくれるものではなかった。

 むしろそれは不安であり、恐怖であり、絶望であったのだ。


――嫌だ、嫌だ!!


 まるで止まってしまったかのように、彼にとってその時間はゆっくりと流れていく。

 ひたすらに『己が消えていく』その感覚のみを味わい続けて……。


――死にたくない、死にたくない!!、


 そして、永遠に続くかのように感じられたこの瞬間こそがまさしく、PKトウタにとって最初で最後の『死の実感』であった。

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