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異変

「ちくしょう何が起こった」

「敵の新手か?」

「くそっ、どうなってんだ」


 トウタ達は突然の事態に狼狽していた。

 敵の攻撃かとしばらくは警戒していたものの、自分達に誰かが攻撃を加えてくる気配はない。


「おい!! ウボ!! 大丈夫か!!」


 瀕死のNPCに止めを刺しに近付いた仲間の心配をする彼らではあったが、立ち込める粉塵のせいで様子がわからない。


「おい!! 聞こえてねぇのか!! ウボ!!」


 返事はない。


「ちっ、おい。ナガノ、お前ちょっと見てこい」

「あっ? なんで俺が?」

「いいからいってこいよ」

「ったく、自分でいけよな」


 そう言いながらもナガノと呼ばれたPKはトウタの指示に従い、粉塵の中、PKウボがいた方へと足を動かす。


「うげぇ、まじで何も見えねぇぜ」


 数歩先の視界すらもままならぬ中、やがて彼は粉塵の中に見慣れた背格好の影を発見する。


「おい、ウボ。返事ぐらいしろよな!!」


 そう言って仲間の影の肩を掴むようにして叩くが、ナガノはその異様な感覚にぎょっとした。


「えっ……」


 目の前で影がぼろぼろと崩れ落ちていく。

 そして彼の足元には黒々とした灰が散らばっていた。


「うわあああ!?」


 予想外の出来事に驚き腰を抜かすナガノ。


「何だよ……、これ……」


 黒い灰の山が何なのか、彼には皆目見当がつかない。

 しばし唖然とそれを眺めた後に、本来の目的を思い出し、尻をついたまま彼は仲間の名を再び呼び始める。


「おい、ウボ。ウボってば」


 それでもやはり返事はない。

 部屋に舞う粉塵が変わらずゆらゆらと蠢いているだけだ。


 蠢く。


 何故だろう。

 粉塵のそれを改めて認識した時、彼はぞっとした。

 胸の内に言い表しようのない不安が生まれ、同時に黒い灰の山を掴んだ時の感覚が手のうちによみがえる。


 気味が悪い。

 ただ、ただ気味が悪い。


 それは本能的な恐怖となって自身の内に湧きあがり、広がっていく。


 ここにいるのはよくない。何だかよくないぞ。

 そんな漠然とした感覚にとらわれ、彼は急いでトウタ達がいる方へとひきかえした。


「ウボは?」


 粉塵の中から一人で戻ってきたナガノを見てトウタが問う。


「い、いや、いなかった……」

「いなかった?」


 ナガノの返答に怪訝な顔を浮かべるトウタ。


 ウボがもしも死亡していたのならゲームのシステム上、その場には死体が残るはずだ。

『いない』という返答から、死体を見つけたわけでもないのだろう。

 そうするとどこかに移動したのだろうか、だが広い大部屋ではあるが所詮は部屋の中、いくら視界が利かないとは言っても遭難するわけもあるまい。


「本当に探してきたのかよ。まさか見当違いの場所探したんじゃないだろうな」


 視界が利かぬのだ、可能性は十分とありえる。


「ちゃんと探したぜ、たぶん……」

「たぶんってお前なぁ……、ん?」


 ナガノが顔を青くしている事にトウタは気付く。


「なんだお前、顔色悪いぞ」

「ああ、それが……、あいつがいるはずの場所に黒い灰の山みたいなのが残ってて、それがまた何て言うか気味悪くてよ」

「はぁ?」


 ナガノの言いたい事がトウタ達にはわからない。

 黒い灰があるってだけで何がそんなに気味悪いのか……。


 ナガノの方もあの意味不明な気味悪さを二人に理解して貰うのは無理だと悟り、話を変える。


「とにかく、ゲーム内じゃ無理だ。リアルで直接連絡いれた方が早いぜ」


 ナガノの提案に面倒そうにトウタが言う。


「しゃあねぇな、ちょっくら電話してくるか」

「ああ」


 イロモ世界から離れ、現実世界で直接ウボと連絡を取ろうとトウタがログアウトを試みる。

 だが、どうも様子がおかしい。


「あれ」

「どうした」


 途惑いを隠せぬ表情のトウタ。


「なんだこれ……、ログアウト出来ねぇぞ」

「は? ログアウト出来ない!?」


 トウタの言葉に、信じられないといった表情で魔術師のPKタナヤスが言った。


「ああ」

「嘘だろ……」


 ナガノが顔色を余計に悪くする。


「そんな嘘ついてどうすんだよ。お前達もやってみろ」

「あれ、まじだ。おいおい、どうなってんだよ。装置がイカれたか!?」


 装置とは『IROMO・SAGA』を遊ぶために使用している『ゲート』の事だ。

 タナヤスはその故障を疑っていた。


「ゲートの故障なら三人同時ってのはおかしいだろ」


 トウタが冷静に指摘する。


「んじゃゲームサーバーの方がイカれたわけか。勘弁してくれよ」


 手で顔を覆いながらタナヤスはそう言ったものの、その口調にはさほど焦りはない。


「サーバートラブルって……、大丈夫なのかよ……」


 ナガノが不安げに二人に尋ねるが。


「んな事、俺らに言われてもな」

「まぁ、運営がすぐになんとかしてくれるっしょ」


 二人はずいぶんと呑気な様子だった。


 元来の性格の差もあるのだろうが、あの黒い灰を見た時に感じた言い表し難い不安がナガノの内には燻り続けており、それはこの異常事態に対する態度の差にも繋がっていたのだ。


「なんとかしてくれるってそんな……」

「なにびびってんだよ」


 事態を深刻にとらえていない二人は不安げなナガノをからかうように笑う。

 そしてトウタが、まるでこの事態すらも楽しんでいるかのように、くだらない事を言い出した。


「しかしあれだよな。このログアウト出来ないって状況、漫画とかアニメによくあるデスゲームぽくね」

「それ、俺も思った」


 タナヤスが同意する。


 彼らが言っているのはVRMMORPGを舞台にした一部の小説、漫画、アニメ、映画などの娯楽作品の事である。

 大抵その手の作品では、プレイヤー達が何らかの事情でゲーム世界から出られなくなり、ゲーム世界で暮らすはめになる。

 さらには物語に緊張感をもたせる為『ゲーム世界での死』=『現実世界での死』となるなど過激な設定が用意され、ゲームから脱出するにはゲーム世界に存在する巨悪を倒したり、世界の謎を解き明かしたり、伝説のアイテムを手に入れたりする必要があったりと、大きな目的をクリアしなければならなかったりする。


 無論、目的を達成するには相応に大きな力が必要であり、物語の主人公がただの凡人プレイヤーというわけにはいかない。


 ある時はPCの職業、ある時はPCの種族、ある時はPCの装備品。そしてある時は才能そのもの。

 形は様々であれど特別な力、他のプレイヤーにはない力が主人公には与えられるという点では共通していた。


 そして、皆から噂され、わーきゃあー言われる存在として、物語を突き進んでいくのだ。


 VRMMORPGで遊んでいる人間の内、少なくない数の者達が大小差はあれど、そんな物語の主人公達に憧れているものだった。

 それは彼ら、トウタ達とて同じなようで。


「あちゃあ、俺ら選ばれちゃったわけ。やべぇわ、チート能力与えられて無双しちゃうわぁ。かわいいヒロインと出会ってラブラブになっちまうわぁ」

「ぎゃははは。いいね、俺も彼女欲しいわぁ」


 物語の登場人物、それも主人公にでもなったつもりで冗談を飛ばしていた。


 そんな馬鹿話を繰り広げている彼らは気付きもしなかった。


 周囲の粉塵に紛れ、ゆっくりと近付いて来る者の存在に。

 粉塵の中より伸びてくる手の存在に。


 彼らは気付きもしないのだ。

 手に握られた剣が仲間の一人、ナガノを背後から貫く、その時まで。


「馬鹿、ヒロインは主人公が独り占めって決まってんだよ。お前にはおこぼれなしだ」

「はぁ? どっちが主人公向きかつったら絶対俺っしょ。トウタが主人公の漫画とか売れねぇよ」

「タナヤス君、魔術師キャラが主人公とかニッチすぎでしょう」

「いやいや、いいじゃん。魔術師が主人公でも、全然いけるよ。女魔術師が主人公のラノベとか超売れてたじゃん」

「いやいや、王道はやっぱ剣を扱う戦士系だろ。なっ、ナガノ」


 話題をふり、ナガノの方へと視線を動かすトウタとタナヤス。


 彼らは自身の目を疑った。


 二人が目にしたのは、胸から剣身を生やした哀れなPK仲間の姿だったのだ。

 痛ましく、複雑な表情でトウタ達を見つめ、ナガノは何かを訴えかけようとしている。


「た、す、け、て……」


 かすれてしまいほとんど聞こえないような弱々しい声。

 絞りだすように発せられたその言葉が、PKナガノの最後の言葉となった。


 剣で貫かれた体からは瞬く間に生気が失われ、黒々とした色へと変化していく。

 そしてまるで泥人形のようにその肉体は崩れ落ち、黒い灰の塊へと化してしまった。


「ひぃぃぃぃぃ!!」


 さきほどまでの馬鹿話の余裕はどこへやら。

 タナヤスがなんとも情けない悲鳴をあげる。


 異様な光景に恐怖したのは彼だけではない。

 悲鳴こそあげないもののトウタも顔を引きつらせている。


 剣で貫かれると死体も残さずに黒い灰と化す。

 こんな死に方見た事も聞いた事もない。


 他のゲームに比べて謎の多いゲームではあるが、これもプレイヤー達にあまり知られていないアイテムや技の効果だとでも言うのか……。


 粉塵に紛れナガノを殺した奴はまだそこにいる。

 未知の技、未知のアイテムを持つ者がそこに……。


「なにもんだ、てめぇ!!」


 恐怖を押し殺しながらトウタが叫ぶ。

 だが剣を手にした者からの返事はなく、かわりに一際強い風が大部屋に起こった。


「くそっ、またかよ!!」


 前の嵐のような風は部屋に粉塵を巻き上げ、視界を奪ったが、今度は逆に風は粉塵を消し飛ばしていく。

 そうして部屋が一望出来るようになると、トウタは目を丸くし、一点に釘付けとなった。


 そこにはボロボロになった壁や天井、柱よりも、目立って異質な存在がたたずんでいたのだ。


「お前……、イージスなのか?」


 髪は白く染まり、瞳は青く色づいている。

 形は同じでも、髪の色、瞳の色が変わるだけで人の印象というのはこうも違うものなのか……。


 いいや、それだけではないだろう。


 彼の周囲はまるでそこだけ温度というものを殺してしまったかのように、空気が死んでいた。

 尋常ならざる何かが彼から溢れ、この場を支配している。


 イージス。


 このゲーム世界によくいるただのNPC。

 そのうちの一人にすぎなかったはずの少年が、もはや別人のように変貌していた。


「ありえねぇ、なんで……」


 ありえない事だらけだった。

 目の前のNPCはついさきほどまで瀕死であった何の力もない少年だったはずだ。

 それがナガノを、そして恐らくはウボをも殺した、いとも簡単に、あっけなく。

 殺して、黒い灰の塊に変えてしまったのだ。

 手にした不思議な剣を使って……。


 この変貌は剣のおかげなのか。そもそもそんな剣を何故レベル5程度の雇われNPCが持っているのか……。


 わからない。

 整理のつくような事ではない。


 このNPCの変貌も、ゲームからログアウト出来ない異常事態も……。


『ログアウト出来ない』。


 その事実に改めて気付かされたトウタの脳裏に再び浮かぶもう一つの言葉。


『デスゲーム』。


 いや、まさか……。

 漫画やアニメじゃあるまいし、そんな事ありえない。

 その奇怪な現象が、自分の身に本当に起こることなど千に一つ、万に一つとしてありえないのだ。


『ありえない』。


 だが、そのありえない事がこうも連続して起こっている。

 その揺ぎ無い事実が、何度と無く行われる否定の思考を繰り返し侵し、恐怖で塗りつぶしていく。


 ウボは、ナガノは本当に死んでしまったのではないか。

 ゲームのシステムとしてなどではなく、真の死。


 その思いがまるで茨のようにからまり放れない。


 イージスが動く。

 ゆっくりと、トウタ達を見据えながらゆっくりと。

 一歩ずつ、一歩ずつ。


 まるでそれは冷たい『死』、そのものが近付いてくるかのようである。


 動けない。


 恐怖がトウタの思考を、肉体をもこの場に縛り付けていた。


 死をまとう少年が近付く度に、恐怖は高まり、縛りはより強くなる。

 そして恐怖が極限に至った時、二人のPKは違った行動に出た。


「やばいって、絶対やばいって!!」


 最初に動いたのは魔術師のPKタナヤスだった。

 彼がとった行動は逃走。

 やばいやばいと繰り返し口にし、タナヤスは無我夢中で逃げ出す。


「おい!!」


 トウタが悲鳴にも近い声をあげ、タナヤスを呼び止めるが、そんなものに耳を貸すはずもない。

 何の工夫もなく、獣が逃げるが如く、部屋の出入り口へと魔術師は一直線に駆けていく。


 そして彼が扉を開けた瞬間だった。


 剣が魔術師の心臓を貫いたのだ。


「はっ?」


 トウタは崩れ落ち物言わぬ黒い灰と化していく仲間の姿を見ながら唖然とした。

 いるはずのない者がそこにいたからだ。


 魔術師が扉を開けた先から姿を見せた者、それはイージスだった。


「なんで奴があっちから……」


 慌ててさっきまでイージスがいた場所へと視線を戻すトウタだが、そこには既に彼の姿は無い。


「どういうからくりだよ……」


 タナヤスを追って後ろから斬りつけたというならわかる。

 だが、あの少年は閉まっていた扉の先からいきなり現れたのだ。

 まるでワープしたかのように移動して……。


「ワープ……」


 ゲートという移動魔法が存在するのだ。瞬間移動するような技が他にあってもおかしくはない。

 だが彼はわずかレベル5のNPC。

 そんな高等な術を……。しかも魔術師ではなく戦士キャラで……。


 トウタにとって状況は悪化の一途をたどっている。

 わけのわからぬ異常事態に巻き込まれ、わけのわからぬままに仲間達が殺されていく。


 何か無いのか。

 この異常事態を、窮地を脱する方法が何か……。


 必死で思考するトウタはようやく彼らのボス、クレイブの事を思い出す。

 すぐにでもクレイブにこの事を知らせねばならないだろう。

 もはや自分の手に負える状況ではない。

 むしろ、報告するのが遅すぎるくらいだ。


 トウタは急いでクレイブとの念話を試みた。


「くそっ!! なんでだ、なんで……」


 だが上手くいかない。

 クレイブからの反応がないのだ。


 考えられる原因としてはシラハにタイマンで負けてしまったというのが一番シンプルな答えだが、果たして本当にそうなのだろうか。


 もしクレイブがもう負けてしまったというならシラハ達がこちらに駆けつけてくるはず……。

 だがその気配はない。

 移動に時間がかかっているだけか、それとも別の原因で念話が上手く機能しなくなってるだけなのか。


 いずれにしろ結局、助けが期待出来ないという点では同じ。

 トウタは自力でこの状況を脱するしか道はない。


「ずいぶんと顔付きが違うじゃないか。さっきまで俺を笑顔でいたぶってた奴とは思えないな」


 冷たい口調でそう言い放ちながらトウタへ距離を詰めていくイージス。


「くっ……」

「そんな顔するなよ、まるで俺が悪い事でもしてるみたいだろ……、どうした、笑えよ、トウタ。それとも俺がそんなに怖いのか?」


 完全に形勢は逆転していた。

 いや、本当にそうなのか。


 考えてみれば、ナガノもタナヤスも不意をつかれてやられただけ……。

 まともに戦っていたわけではない。

 ウボだってあの粉塵の中、まともにやりあったわけではないだろう。


 そうだ。目の前にいたのはさっきまで散々にボコっていた雑魚NPCのはずなのだ。

 自分独りの力でもやれるはず。やれないはずがない。

 やるしかないのだ。


「……誰がてめぇなんか。てめぇなんか恐かねぇ!! 野郎、ぶっ殺してやらぁ!!」


 覚悟を決めたというより、ある意味自暴自棄に似た逃避。

 勝てるはず、そう無理矢理自分に言い聞かしトウタはイージスに襲い掛かった。


――ブオンッ!!


 大雑把で大振りな一撃だった。

 そんな攻撃が当たるはずもなく、間合いを見切り、一歩分後退するだけで軽々とそれを避けてしまうイージス。


 だがそれでよかった。

 これは己の内に巣くう恐怖を振り払おうとする一撃。

 当たるかどうかはトウタにとって二の次だった。


 彼はそこから連撃へと繋ぐ。

 反撃を恐れてはならない。

 ためらう事なく、一歩、さらに一歩と踏み込んでいきながら、トウタはイージスに向かって剣を振りぬいていく。


「てめぇ……」


 しかし、無我夢中で放ったその攻撃も、イージスは剣で受ける事すらせず、全て体の動きだけで避けきってしまう。

 明らかに舐めているとしか思えない対応。


「馬鹿にしやがって……」


 ムキになり、さらに荒々しく攻撃を繰り出していくトウタ。

 しかしやはりその攻撃も空を切るばかりで、一向に当たる気配がない。


「調子に乗ってんじゃねぇぞおおおおおお!!」


 怒りに任せるまま、さらに深く、もはや捨て身に近いほどの距離に踏み込み、斬りかかろうとするトウタ。


「がはっ!!」


 だが、剣が振り下ろされるより早く、イージスの足が彼の腹を身につけている鎧ごと蹴り抜いた。


 人の体がいとも簡単に吹き飛ぶ。

 まるでボールを蹴り飛ばしたかのような速度で部屋の壁へと叩きつけられるトウタ。


 そのまま彼は立ち上がれず、ただ苦痛に悶える事しか出来ない。


――痛てぇ……、ありえねぇ……。


 骨がイカれた。

 全身を砕かれてしまったかのような感覚。

 あれほどの速度で壁に叩きつけられたのだ。当然の痛みだ。

 ただしそれが、彼が日々を暮らす現実の世界であるならばの話だが……。


 トウタにとってここはゲームの世界。

 安全が考慮され、痛みにセーブがかかってるはずの遊びの世界だったはずなのだ。

 これまで何度となく戦ってきた。

 剣で斬られようが、矢が刺さろうが、火で焼かれようが、所詮はお遊びで済む程度の苦痛だったはずだ。

 それが今はどうだ。

 激痛にのたうちまわる事すら出来ず、うずくまり、弱々しく唸る事で精一杯。


 内臓が潰され、骨がイカれ、まともに声すら上げられずにいる。


――何だよこれ……、なんで……。


 自然と涙が目に浮かんでくる。

 痛みのせいだけではない。彼は思った。

 何故自分がこんな目に合わねばならないのか。

 ゲームで遊んでいただけのはずの自分が、何故、これほどの苦痛に悶えないといけないのか。


 彼は思った。


――こんなの理不尽じゃねぇか。

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